社会人・恋人編<70>

「瑠璃さんさ、ぼくの外泊、一体何だと思っていたのさ」

「な、何って・・・」

からかうような口調で、至近距離で顔を覗き込まれ───






─Up to you !Ⅱ─side R <第70話>






その顔を見た途端、ピンときた。

「高彬。あんた、さてはあたしが勘違いしてると分かってわざと言ってたわね?」

「いや、全然」

「嘘おっしゃい。顔がにやけてるわよ」

ぴしゃりと言ってやると、高彬は慌てて頬を引き締め、でも、堪え切れないようにまたニヤニヤしている。

「もうっ」

悔しいやら恥ずかしいやらでそっぽを向くと

「可愛いなぁ、と思ってさ」

また顔を覗き込んできた。

「うるさいわねぇ、年下のくせにナマイキだわ」

「ひとつ下くらい年下のうちに入らないね」

「入るわよ。厳然たる事実だわ。あんたは一生、あたしの歳に追い付くことはないの。いい?あんたがオギャーと産まれた時、あたしはもう二足歩行してたのよ。この差は大きいわ」

「二足歩行、ね」

「そうよ。だから敬意を払いなさいよね」

「はいはい」

「ハイは一回!」

高彬は声を出さずに笑うと

「わかった。じゃあ敬意を払っている証拠を見せるから」

なんて言いながらキスをしてきた。

(なんで敬意がキスなのよ!)

と言ったんだけど、唇を塞がれたままだったので、ふがふが言っただけになってしまい、今度こそは高彬は声を上げて笑いだした。

「何、ふがふが言ってるんだよ、瑠璃さん」

「あんたが口を塞いでるからでしょ!」

高彬は笑いながらあたしの顎に指を掛け迫って来るので

「捜査会議でしょ!」

あたしは高彬を押しとどめた。

高彬の視線がチラッと壁の時計に行き

「捜査会議は4時からだ」

見ると3時を少し回ったところだった。

「・・・」

「ね」

にっこり笑う高彬に、年上の威厳をもってにっこりと笑い返す。

「敬意の証明がたったの1時間?」

そう言ってやると、高彬が(おやおや)と言うように眉を上げた。

「言うねぇ、瑠璃さんも」

そうして続けて

「瑠璃さんがいいのなら、いくらでも」

挑戦的な口調で言い、だけど目が合って、ふっと優しい顔になった。

ゆっくりと顔が近づいてきて優しいキスをされる。

「・・・」

あーあ、ほんと、すっかり高彬のペースだわ。

何度かのついばむようなキスの後、横たえられそうになったところで、ふと我に返り、またしても高彬を押しとどめる。

「乗り心地を試すなんて言ったら張り倒すわよ」

凄んでみせると

「大丈夫。乗り心地が文句なく良いのは充分わかってるから」

にっこり笑い、覆いかぶさってきた。






…To be continued…


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社会人・恋人編<69>

「ねぇ、外泊して何してたの?」

黙り込む高彬にさらに質問を重ねると

「そんな・・、別に瑠璃さんが知ることじゃないさ。褒められたことじゃないし・・・」

高彬はふっと目を逸らし───






─Up to you !Ⅱ─side R <第69話>






褒められたことじゃない・・・

「・・・」

ごくり、と唾を飲み込む。

こ、これは、いよいよ、だわ。

あたしが想像し、怖れていた通りの展開・・・

高彬は目を逸らしたまま、ぼそぼそと話しだした。

「まぁ、今思えば、何もあんなに急ぐことなかったとは思うけどね。大人になればいくらでもチャンスはあるんだし」

「・・・」

「でも、回りはどんどん経験していくし、ぼくも興味あったし・・」

「・・・」

「そんなこと親には絶対言えないから、結局、夜中に目を盗んでやるしかないだろ?皆が寝静まった頃に家を抜け出してさ、早く済ませて帰ってこようと思いつつ、やっぱり気持ちいいから止められなくて。それで結局、気が付けば夜通しだよ。まぁ、今となっては色々、懐かしいよね。まさか大江にバレてるとは思いもしなかったけど・・」

高彬はしみじみと言い、何事かを考えるかのような顔つきで、もしかしたら、当時の「あれこれ」を思い出しているのかも知れなかった。

「高彬、それっていつも同じ人よね・・」

思わず声が震えてしまった。

やっぱり彼女いたんだ・・・

「いや、毎回、違うよ」

「えーーー!!」

違うですって?!

あまりのことに立ちあがってしまい、その反動でイスが後ろに倒れた。

「ち、ち、ち、違うって、あんた・・・」

それって、いわゆる身体だけの割り切った付き合いと言うか遊びと言うか・・・

そう言うこと?!

「色々、試してみたいじゃないか。どんなのが自分に合うかわからないし。乗り心地ってそれぞれ違うし」

さらりと何でもないことのように高彬は言い、その様子にあたしはかぁっと顔が熱くなってしまった。

「な、な、何、失礼なこと言ってるのよ!寄りによって、乗り心地だなんて!」

もっと罵ってやりたいのだけど、興奮して言葉が出てこない。

今にもひきつけを起こして失神してしまいそうだった。

乗り心地って何?!

女をなんだと思っているのよ!!

「乗り心地を試したいだなんてバカにしないでよ!た、高彬がまさかそんなこと言う人だとは思わなかったわ!」

もうもう、あたしは頭がパンク寸前だった。

「だって重要なことじゃないか、相性って」

「そ、そ、そりゃそうだけど、でも、それよりもっと大切なのは心の結びつきとかそう言うものじゃないの?」

「心の結びつき?」

高彬がびっくりしたように反復し、その言い方に更に腹が立った。

「そうよ、それをとっかえひっかえ違う人とするだなんて、そんなの・・・ふしだらだわ!」

「人?」

「あたし、高彬のこと誤解してたのかも知れない。もっと誠実な人かと思ってた」

「・・・」

少しの沈黙が流れ、何事かを考える風だった高彬が、慎重に切り出してきた。

「あのさ、瑠璃さん」

「何よ」

「何か勘違いしてない?ぼくが言ってるのはバイクのことなんだけど」

「はぁ?!」

バイク?!

バイク?

「バ・・イク?バイクって、あの、ブンブンってふかして仮面ライダーが乗るやつ?」

「そうだよ。16になると400ccまでの中免が取れるんだよ」

「・・・」

「バイクはガキん時からずっと乗ってみたくてさ。ほんと、仮面ライダーとか見て憧れるじゃないか。でも、うちの親がいいって言うわけないし、高校入って内緒で免許取ったんだ」

「・・・」

「免許取ったはいいけどさすがにバイクなんか買ったら親にバレるだろ。で、探したらレンタルバイクって言うのがあったんだよ。好きなバイクを借りられるから、夜中にこっそり乗りに行ってたんだ。一度、走り出すと気持ち良くて、つい朝まで・・、って瑠璃さん、どうしたの」

「疲れた・・」

ヨロヨロとよろめきながらソファまで歩き、思いっきり突っ伏した。

何かしら、このデジャブ感・・・。

ベッドが発注ミスだと分かった時と同じ疲れを感じるわ・・・

「大丈夫?瑠璃さん」

気が付いたら高彬もソファに来ていて、あたしの背中をトントンと叩いている。

「バイク、乗っちゃダメだった?」

ノロノロと起き上がり、黙って頭を振る。

バイクでも三輪車でも、この際、自由に乗ってちょうだい・・・

「瑠璃さんさ、ぼくの外泊、一体何だと思っていたのさ」

からかうような口調で高彬が顔を覗き込んできた。






…To be continued…


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***短編*** <続>通り雨 ***

『なんて素敵にジャパネスク〜二次小説』






注)このお話は「通り雨」の続きものです。
               
        






***短編*** <続>通り雨 ***







「瑠璃さん、じゃあ、もう行くから」

「うん・・」

朝まだ明けきらぬ寝所には、それでも格子から薄明るい光が入ってきている。

単衣姿でうつぶせのままの瑠璃さんの髪を耳に掛けてやり、そっと耳元で言うと、瑠璃さんは目を閉じたままコクンと頷いた。

「雨・・・、まだ降ってるの?」

確かに昨夜、床に就いた時には屋根に当たる雨の音がしていて、その雨音と瑠璃さんの切なげな吐息が絡まりあってぼくの耳に届いていた。

「どうかな。今は雨の音は聞こえないけど、でも、少しは降っているかも知れないね」

「雨が上がってから行けばいいのに・・」

「今日は少し早くにいかなければならないんだ」

「・・そう」

「じゃあ、行ってくるよ」

最後に額に接吻をして立ち上がり、妻戸を開けると、心得顔の小萩が控えていた。

「早くに済まないね」

「いいえ」

小萩は笑顔を浮かべ頭を横に振ると、静かに渡殿を歩き始めた。

細い糸のような雨がまだ降っている。

昨夜来の雨が花散らしの雨になってしまったのか、地面には桜の花びらが落ちており、水溜りはさながら<花びら溜り>の様相を呈している。

庭に目をやりながら歩いていたぼくは(あれ)と首を捻った。

大きな桜の木の下に、ずいぶんと小さい桜の木がある。

小さいながらもいくつか桜の花を咲かせており、それがなかったら桜の木だなんて気付かないくらいの小さくて背の低い木だった。

「あんなところに、あんなに小さな桜なんて前からあったかな」

不思議に思って前を歩く小萩に聞くと、小萩は歩を止めぼくの指さす方に顔を向けた。

しばらく目を凝らすと

「あぁ、あれは・・、いつだったか、姫さまがお植えになった桜ですわ」

「瑠璃さんが?」

「はい。まだ少将さまとご結婚なさる前ですわ。姫さまが満開の桜の枝を、水差しに入れてお部屋に飾っていたことがあったのです」

「・・・」

「花も枯れたのでお捨てになるかと思っていたら『植えて見る』と仰られて・・」

「・・・」

「数日前に庭師が灌木の剪定に入ったので、きっとそれであの桜の木が少将さまのお目に留まったのだと思いますわ。今まではここからだとちょうど隠れて見えておりませんでしたもの。あ、少将さま・・・どちらへ・・・」

「悪いが出発が遅れると、従者たちに伝えてくれないか」

「少将さま・・」

瑠璃さんの部屋へと引き返すため歩き出しながら、背中越しに小萩に言う。

妻戸を開け部屋に入って行くと、さっきと同じ格好で瑠璃さんは眠っていた。

「瑠璃さん」

耳元で囁くと

「高彬・・・、どしたの、忘れ物?」

瑠璃さんは(うぅ・・ん)と寝返りを打つと、寝ぼけ眼で言ってきた。

「桜の木」

「・・・え。桜・・?桜が忘れ物?」

「いつかの桜の枝、植えてくれてたんだね。咲いてたよ」

「・・・」

何の話をしているのかようやく分かったのか、瑠璃さんの目の焦点が段々と合ってきた。

ゆっくりと起き上がり、ぼくと向かい合うと

「庭師に聞いたら、枝を土に差しておけば根が付くこともあるって言われたの。だから、一応、植えて見たの」

「・・・」

「ずぶ濡れになって届けたくれた桜だったから、何だか捨てられなかったのよ。大切な桜なのかな、なんて思って」

「・・うん」

「それにね、今だから言うけど・・・」

いったん言葉を切ると、瑠璃さんは恥ずかしそうに笑い

「あたし、あの桜をもらった時、一瞬、ドキッとしたの。もしかしたら、これってプロポーズ?なんて思って」

「え・・」

「ほら、あたし、童の頃、菫の花をもらったでしょ、吉野君に。だから花をもらう、イコール、プロポーズって勝手にイメージが出来ちゃってたみたいなの」

「・・・・」

「でも、あんたはずぶ濡れだし、しかもぶっきらぼうに差しだすだけだし、あぁ、これは違うなってすぐに思ったけど。こんな素っ気ないプロポーズなんてあるわけないわよね、って」

「・・・結婚の約束忘れてたくせに、よく言うよ」

言い返してやると

「ほんと、そうよね」

ふふふ、と瑠璃さんは小さく笑った。

だけど、こそばゆいような気持ちになる。

何だ、あの日のぼくの気持ちはちゃんと瑠璃さんに届いていたんだ・・・

「だけど、今、高彬に言われるまで、正直、桜を植えたことなんか忘れてたわ」

「うん、ぼくもあげたこと忘れてた」

目が合って、声を出さずに、2人で笑い合う。

思ってることは、瑠璃さんもぼくもきっと同じだ。

───それはきっと今が幸せだから・・・

抱き寄せると、瑠璃さんはすっぽりとぼくの胸に収まり、そうして背中に腕を回してきた。

「気を付けて行ってきてね・・」

「雨が上がってから行くことにしたよ」

「え」

「だから、もう少し時間がある」

「・・・」

そう。

雨はいつか上がる。

雨なんて全部、通り雨だ。

願わくば、今日のこの通り雨が少しでも長く降り続いてくれることを───

ぼくはそっと瑠璃さんを横たえたのだった。






<終>


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社会人・恋人編<68>

「瑠璃さん!」

新幹線から降り立った高彬は、すぐにあたしを見つけてニコニコと笑いながら近づいてきた。

「はい、これ。由良からのお土産」

紙袋を手渡され

「ありがと」

受け取りながら高彬を見ると───







─Up to you !Ⅱ─side R <第68話>






「瑠璃さんが迎えに来てくれるなんて嬉しいな」

「・・・」

嬉しさを隠そうともしない高彬の口調に、あたしは心の中では(うーむ)と唸ってしまった。

こんな風に手放しで喜ばれちゃうと、何だか言い出しづらいわねぇ・・

何を隠そうあたしが迎えに来た目的は───

ズバリ、学生時代の外泊の理由を聞くためなのよ。

だって気になるじゃない。

<外泊>に<寝不足>に、極めつけは<疲れた顔>よ!

モテモテだったって言うし、これはもう考えられることと言ったらひとつしかないじゃない!

どうやって聞きだそうかしら。

いきなり「あんた、高校時代の外泊って何よ。何してたのよ」なんて聞くのも唐突過ぎるしねぇ・・

なんて思っていたら

「それにしても驚いたよ。大江と小萩が知り合いだったなんて。しかも昨日、瑠璃さんとこに泊まらせてもらったんだって?」

タイミング良く、高彬の方から大江の話を持ち出してくれた。

高彬にはメールで大江のことを伝えてあったのだ。

「そうなの。びっくりよねぇ」

「大江は少し前の新幹線で京都に帰ったんだろ?」

「うん」

そう。

結局、昨日、小萩を待ちがてら渋谷をブラブラし、そうしてその後、ホテルに泊まるからと遠慮する大江を半ば強引にあたしのマンションに泊まらせた。

もちろんマンションでは、小萩の初デートの話で盛り上がってしまったわけなんだけど。

小萩も満更でもなさそうだったけど、かと言って次に会う約束をしたとかそういうわけでもなさそうで、まぁ、政文の片思いの行方は、今の段階では「杳として知れず」って感じかしらね。

「どうする?これから。まだ早いからどこか行ってもいいし、ぼくのマンションに来てもらってもいいし」

チラリと意味ありげに横目で見られ、またしても(うーむ)と唸ってしまった。

どうしよう。

聞きだすなら2人きりの方がいいかしら。

でもマンション行ったら、何かうやむやなうちに高彬のペースになりそうな気もするしなぁ。

迷っていると

「そう言えば、少しばかり捜査に進展があったんだよ」

高彬が思ってもみないことを言いだした。

「え」

と言いつつ、実はあたしも高彬に報告しなきゃいけないことがあるのよねぇ。

怒るの分かってるから出来れば言いたくないんだけど、でも、話さないわけにはいかないし。

「実は・・・あたしもあるのよ」

歯切れ悪く言うと

「よし、じゃあ『捜査本部』に決まりだ。行こう、瑠璃さん」

高彬はホームを歩き出した。



*****



「えーとね、高彬。捜査会議を開く前にひとつふたつ聞きたいことがあるんだけど・・」

リビングのテーブルで向かい合い、高彬がいれてくれたカフェオレを一口飲んだところで切り出す。

「うん、何だい」

コーヒーを口に運びながら機嫌よく高彬は言い

「あのね」

「うん」

「高彬って、高校生の時、外泊ってしてた?」

「はぁ?外泊?高校の時?」

「うん」

「なんだよ、急に」

高彬は訝しそうな目付きであたしを見てきた。

「いえね、えーと、あたし、実は昨日、わけあって渋谷に行ったのよ。そしたら、これがまぁ、色んな若者がいてさ。それが驚いたことに、何だかみんな大人びて見えるのよ。それで、この子たちって外泊とかしてるのかなぁ、なんて思っちゃってさ、ははは。で、ふと、思ったのよ、高彬も高校の頃は外泊とかしてたのかなぁ、なんて」

しどろもどろに、それでも何とか聞きたいことを織り交ぜて言うと、しばらくじっとあたしを見ていた高彬は

「瑠璃さん・・」

何だか感極まったような声で呟いて、薄っすらと頬を染めた。

「・・・」

高彬ったら、何、頬を染めているのかしら・・

不思議に思っていると

「それってもしかしたら、自分の子どもはどんな風に育てたいかってこと?」

「え」

「そんな風に聞いてくるってことはさ、瑠璃さん、もしかしたら・・・」

「・・・」

「いつかので、・・・その・・・、出来た、とか?」

「ち、ち、違うわよ!って言うか、まだ分からないわよ!」

何をどう勘違いしたら、今の質問でそっちの方に頭が行くのよ!

「もうっ。そ、そんなんじゃないわよ。高彬が高校の時、ちょくちょく外泊してたって大江から聞いたのよ!こうなったらはっきり聞かせてもらうけど、外泊してどこ行ってたの?何してたのよ」

身を乗り出して詰め寄ると

「・・・」

高彬は黙り込んだ。





…To be continued…


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社会人・恋人編<67>

「高彬さまの学生時代・・・」

大江は視線を上に向け、少し考える素振りを見せると

「そりゃあ、おモテになりましたわよ」

にっこりと笑って言い───






─Up to you !Ⅱ─side R <第67話>






「やっぱり!」

思わず大声が出てしまい、慌てて口を塞ぐ。

「高彬さまご本人に、そのご自覚はなかったみたいですけどねぇ。ほら、高彬さまってそう言うことに少し鈍くていらっしゃるから」

大江はうふふ、と笑い

「学生時代と言っても私が知ってるのは高校までですけどね、バレンタインの日なんか、それこそ段ボールに入り切れないほどのチョコが届いてましたし」

「・・・段ボール・・・」

「でも高彬さまはそれほど甘党じゃありませんでしょ?だからそのチョコはずっと家に置きっぱなしになってしまって、結局、大の甘い物好きの春日さまが・・・」

「春日さま?」

「あ、高彬さまのお兄さまですわ。ご長男です」

「あぁ・・」

そういや、高彬、お兄さんが何人かいるって言ってたっけ。

「で、その春日さまが全部、お食べになってしまって、それで・・」

くくく、と大江は笑うと

「こーんなに太ってしまわれたんですわ」

「へぇ・・」

高彬は全然太ってないのに、お兄さんがすごく太ってるだなんて、何か意外な気がするわ。

体質が違うのかしら?

「顔って似てるの?」

「春日さまと高彬さまですか?」

「うん、そう」

「それが、ぜーんぜん。天と地ほども違います。あ、もちろん高彬さまが天ですわよ」

「ふぅん、じゃあ、兄弟で全然似てないのね」

「はい。私たち使用人の間では、父親が違うんじゃないかって話してるんです」

何とも過激なことを大江はニコニコと言い、そうして、ふと、何の話をしていたのか思い出したのか

「その高彬さまですけどね、文化祭や体育祭の時は、他校から女の子が詰めかけて、高彬さまのクラスの模擬店だけは大盛況だったそうですわよ。『一緒に写真撮って下さ~い』とか『サインして下さ~い』とか『握手して下さ~い』とか、捌くのに大変だったって言ってました」

「言ってた?高彬が?」

「いいえ、兄ですわ」

「・・兄?守弥ってこと?どうして守弥が学校に・・・」

「兄は『若君に何かあったら』と言う事で、学校にもほぼ同行していたのですわ」

「・・・」

「だから文化祭の時には、兄が整理券を配ったとか、配らなかったとか」

「よく学校側が守弥の同行を許可したわねぇ・・」

守弥の過保護っぷりにさすがに呆れて言うと

「もし兄を出入り禁止にでもして、それで高彬さまに何かあった時、兄が黙ってると思います?」

「・・・」

到底、思えないわね。

黙って頭を横に振ると、大江は大きく頷き返し

「学校側も兄みたいなのを敵に回すより、いっそ取り込んだ方がいいと思ったんだと思います。まぁ、それくらい高彬さまの人気はすごかったってことですわ」

「・・・」

そっかー、モテたんじゃないかとは思ってたけど、高彬、そんなにモテてたんだ・・・

うーん、想像してた以上のモテっぷりだわ。

となると、これは・・・

「でね、大江・・」

あたしはコホン、と咳払いをひとつすると

「えーとね、まぁ、高彬がモテてたのはわかったわ。それで、あのぅ、彼女と言うか、付き合ってた人っていたの?」

つまり、問題はそこなのよ。

モテていようがいまいが、あたしが一番、気になるのは高彬に彼女がいたかってことで・・・

「うーん」

大江は腕を組んで考えると

「いたかどうかはわかりません。高彬さまってそういう事、ペラペラ話す人じゃないですし」

「うん、そうよね・・」

「ただ・・」

「ただ?」

「外泊することはちょくちょくありました」

「え?!」

外泊?

「それで翌朝、帰って来た時は、それはもう寝不足そうな疲れた顔をなさっていて・・」

えーーーーー?!

寝不足で疲れてたって・・・・

そ、それって、まさか・・・。





…To be continued…


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