社会人・恋人編<73>

「ぼくだけこんな格好ですみません・・」

政文が首をすくめながら言い、何のことかと思ったら、ぼくも守弥もスーツ姿なのだった。

その中で政文だけはシャツにGパンで、確かに政文だけカジュアルと言えばカジュアルなのだけど、でも、わざわざ京都から来るのにスーツを着てくる守弥の方がおかしいのだ。

「いいさ、別に。ぼくだって仕事帰りのまま着替えなかっただけなんだから。それにわざわざスーツを着てくる守弥がおかしいんだよ」

そう言うと、守弥は薄っすらと笑い───





─Up to you !Ⅱ─<第72話>






「若君直々のご用命は私の本業ですからね、スーツと決めているのです」

「・・・」

「先日のプリンも、若君の御ために買うのだからとスーツを着て並びました」

「・・・」

「並んでる最中、犬に後ろ足で砂を掛けられましたが」

「・・・」

「でも、クリーニングに出したので・・」

「わかった、もういい。・・・さっそくだけど、本題に入る。実は・・」

「お待ちください、若君」

守弥はシっと人差し指を口の前に立てると、カバンを開け中から何やら黒い小型の機械を取りだした。

スイッチを入れ、立ち上がり部屋中を歩き回っている。

(盗聴器ですかね?)

目が合った政文の口が動き、ぼくも頷いた。

やがて席に戻ってきた守弥は

「大丈夫です。安心してお話ください」

「守弥さん、よくそんなの持ってきましたね」

政文は感嘆とも驚愕とも取れる声を上げた。

「若君の急のお召とあれば、何かしらの緊急事態に違いありませんからね。これくらいの準備は当然です」

澄ました顔で言う守弥に、内心、舌を巻く。

何だかんだ言って、すごい奴だよな、やっぱり・・・

「若君。お話と言うのは」

「うん」

ぼくが話す体勢を作ると、守弥も政文も身を乗り出してきた。

まずはことのあらましを伝える。

政文はもちろんのこと、守弥にとっても初耳なことも多く、2人は真剣な顔で聞いている。

大江がホテルに連れ込まれそうになったところでは、政文は「えっ」と声を上げ、守弥はわずかだったけど片眉を上げた。

「・・以上が起きた出来事だ。・・守弥」

「はい」

「あの動画をアップしたのが瑠璃さんだと言う疑いは晴らして欲しいんだ。まずはそこから始めたい」

「・・・はい。今の話を伺った限りではそのようですね。ただ、動画、写真、ホテルの連れ込みが同一人物の仕業であるならば、ですが」

「そうだな」

ひとつの可能性としてそれは認めないわけにはいかないだろう。

「若君。私に頼みたいこととは?」

「うん、それなんだが・・」

ぼくは慎重に口を開いた。

「春日の兄貴を少し見張ってて欲しいんだ」

「春日さま?」

守弥の眉が跳ね上がる。

「はっきりしないんだが、ひょっとしたら今回の一連のことに兄貴が絡んでいると言う可能性もあるんだ」

「・・・あ!あの電話・・」

「そうだ。曽茅野氏と兄貴がこのタイミングで連絡を取り合っていると言うのが、偶然にしては出来すぎている」

「確かにおっしゃる通りですね。会社に若君を良く思ってない一派がいると言うお話と、春日どのがずっと若君を邪険にしている事実も、これまた不思議と繋がっています。こちらも偶然としては出来すぎていますね」

「ただ、問題はそもそもの目的が分からないということなんだ。ぼくなのか、瑠璃さんなのか、はたまた全く違うことなのか・・」

3人とも黙り込み、リビングにはしばらく沈黙が流れ、沈黙を破ったのは守弥だった。

「思ったのですが・・・」

「何だ、言ってみろよ」

「そのデートクラブの方から当たってみるのもいいかも知れません」

「当たるってどうやって。もうその時の男とは連絡が取れないんだぞ」

「日時、待ち合わせ場所、美女と蛮獣コース、3万と言う値段。ネットからの申し込みをして決済をしてるなら、必ずどこかにデータログが残っているはずです」

「それはそうですけど、守弥さん。でも、その男を例え探し出したって・・」

「探すのはそっちの男の方ではありません」

「なるほど、そうか。デートが成立したと言う事は、その条件でデートに登録した女性がいるということか」

「おっしゃる通りです、若君。瑠璃さまがそこに登録していないのであれば、代わりに誰かが登録したと言うことです。そこがわかれば・・・」

「そんなことが分かるんですか?」

政文が身を乗りだし、ぼくも同感だった。

「私のハッキングスキルをもってすれば、国家機密だって盗めます」

口の端を上げ、不敵に笑うと

「その件はお任せください。ぜひやらせて下さい」

やけにきっぱり言う。

やっぱり妹の大江が危ない目にあったとなると、兄としては心中穏やかじゃないのだろうな、と、密かに守弥の兄妹愛に感動していると

「春日さまは前々から若君に辛く当たるので、一度、こらしめてやろうと思っていたのです。いい機会ですから徹底的に洗い出し、鼻を明かしてやりましょう」

フン、と鼻で笑い、鼻を明かしたことでも想像しているのか、ニヤニヤと笑っている。

「・・・わかった。だけど、あまりおかしいことはするなよ」

一抹の不安を感じなくはなかったけど、デートクラブから当たると言うのは良い考えで、ぼくは頷いた。

「政文、おまえは瑠璃さんを見張りながら、周辺の人物に注意してくれ。隠し撮りをしてるってことは、常に近くにいる可能性がある」

「わかりました」

「ぼくは社内を少し探ってみる」

3人で頷き合い、とりあえず今日のところは休むことにした。

ソファで眠ると言う2人をリビングに残し、寝室に向かいポケットから携帯を取りだす。

11時半を回っている。

瑠璃さん、もう寝てるかな。

コール5回で出なかったら切ろうと決めて番号を押してると、その途中で急に着信画面に切り替わり───

水無瀬からの電話だった。





…To be continued…


社会人編を楽しみにして下さっている方、ありがとうございます。

古典シリーズと同時並行で更新していく予定です。

話しの流れで、どっちかに更新が集中してしまうこともあるかも知れませんが、どちらも完結させますので、お付き合いいただければと思います。


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社会人・恋人編<72>

『あ、若君・・・』

携帯越しに、いかにも寝起きと言うぼんやりとした声が聞こえてきた。

「寝てたのか?悪かったな」

『はい。あ、いえ・・。どうしましたか?』

「政文、おまえにちょっと頼みがあるんだ。明日、こっちに来れないかな」

そう言うと、携帯の向こうの政文はしばらく黙り込み───






─Up to you !Ⅱ─<第72話>






「行きます!行きます!すぐに行きます!」

思わず携帯を耳から離すくらいの大声だった。

「明日と言わず今からでも!」

「いや、明日でいいんだ。昨日、東京から戻ったばかりで悪いけど・・・」

「いやぁ、若君。東京は良い所ですねぇ。さすが花の都ですよ」

「それはパリだろ」

「じゃ、ぼく明日、東京に行きますんで。若君の会社でいいですか?・・・あ?だめ?じゃあ、マンションのエントランスで待ってます」

言いたいことだけ言うと、政文はさっさと電話を切ってしまった。

「・・・」

政文が小萩を気に入ったと言うことは瑠璃さんから聞いていたから、東京に来るように言えばきっと二つ返事だろうな、とは思ってはいたけれど、まさかここまで反応が良いとは思わなかった。

あいつも判りやすい奴だな。

翌日は仕事を定時に切り上げ、まだ残って行くと言う瑠璃さんを半ば強引に一緒に退社させた。

「家まで送って行くから」

「何よ、急に」

「別に。理由はないけど。何となくね」

「ふぅん」

疑わしそうな目を向けられたけど、適当に話を逸らし瑠璃さんとマンションの下で別れた。

瑠璃さんの姿がマンションの中に消えていくのを確認して踵を返す。

来た道をとって返し自分のマンションに着くと、エントランスの脇のベンチに人待ち顔の政文が座っていた。

「あ、若君!」

ぼくの顔を見ると立ち上がり駆け寄ってくる。

「もう。待ちましたよー」

「悪かったな。いつからいたんだ?」

「2時からです」

「2時?!ってことは5時間近くもここにいたのか?そんなに早く来なくても・・・」

「いやぁ、一刻でも早く東京に来たくて」

「・・・」

へらへらと笑う政文を促し、玄関を開け中に入って行くと、後ろから

「ご免下さい・・・」

と政文が小声で言いながら入って来たので、何となく笑ってしまう。

「若君の部屋なんて、なんかドキドキしますねぇ。2人っきりだからって襲わないで下さいよ」

「馬鹿か、おまえ。・・・適当に座っててくれ」

「はい」

着替えに行こうとしたところで、政文がソファに腰を下ろしかけるのが横目に入り

「そこはダメだ」

慌てて引き返して制止した。

そこは瑠璃さんがいつも座る場所だからダメだ。

「こっちに座ってくれ」

「はぁ・・」

着替えは止めて、向かい合って座る。

「おまえに頼みと言うのは、瑠璃さんを見張って欲しいんだ」

単刀直入に言うと、政文はポカンとした顔になった。

「藤原瑠璃さま、ですか?」

守弥からならともかく、ぼくからこんなことを言われて戸惑っているのがありありだった。

「ぼく、この間、瑠璃さまに、もう見張るなって言われたばかりなんです」

「・・・」

「それと引き換えに、ある女性の情報を教えてもらっちゃてるし・・」

「小萩だろ。瑠璃さんから聞いてる」

「・・・」

「瑠璃さんも、おまえを褒めてたぞ。見る目があるって」

「はい!・・・だから、その瑠璃さまとの約束を破るのは・・・」

「瑠璃さんを見張ると言っても、目的は瑠璃さんを守って欲しいんだ」

「守る?」

「うん、そうだ。今、ぼくと瑠璃さんはある謎を追っているんだよ」

「瑠璃さまもそうおっしゃっていました」

「思ってたよりタチの悪い相手かも知れないんだ。だから危険なことがないか、瑠璃さんを見てて欲しいんだ。ぼくもずっと一緒にいられるわけじゃないし。見張ると言うよりはボディガードだ。瑠璃さんにはバレないように」

政文に瑠璃さんのボディガードを頼む。

昨日、瑠璃さんから話を聞いた時から考えていたことだった。

この件から手を引けと言ったって、あの瑠璃さんがすんなりと言う事を聞くとは思えない。

だったら一応、一緒に捜査を進めつつ、瑠璃さんの身の安全を確保した方がいい。

ボディガードを付けると言えば、やれ「女の沽券」だの「武士魂」だのを持ち出して、とやかく反発してこないとも限らず、それならば瑠璃さんには内緒で見張りを付ける───

これがぼくの考えだった。

「・・はぁ。ですが・・」

煮え切らない様子の政文に

「おまえも知ってるだろ?小萩は瑠璃さんの古くからの世話係りだぞ。もし瑠璃さんの身に何かあった時、それを助けたのがおまえだと知ったら、さぞおまえを見直すだろうな。お礼と称して食事に誘ったり・・」

「見張り、やります」

間髪入れずに政文は言い、あっさりと話しがまとまった。

飲み物でも入れようと立ち上がると

「そういえばですね、若君」

政文が笑いを含んだ声で話しかけてきた。

「春日さまに、彼女でも出来たみたいですよ」

「兄貴に?」

「はい。昨日、春日さまがいらしてて」

「ぼくも顔は合わせたよ」

「それで、ぼく、廊下で春日さまにすれ違ったんです。そしたらちょうど春日さまの携帯が鳴って、春日さまが携帯を床に落としたんです。ぼくが拾おうとしたら、春日さまがものすごい勢いでぼくの手を払いのけて・・・」

政文はニヤニヤ笑うと

「あれ、絶対、彼女ですよ。あんなに慌てて」

「どうしてそれだけで彼女とわかるんだよ」

「だって、女の人の名前でしたもん。ナントカみや、とかって。」

「ふーん」

兄貴の彼女の名前なんか聞いても興味もないし・・・

みや?

───ナントカみや?

「政文、どんな字だったか覚えてるか?」

「覚えてますよ。少し変わった字でしたから。苗字までばっちり」

差しだした紙に政文がさらさらと書きつけた名前は。

───「曽茅野美弥」だった。

「・・・」

兄貴と曽茅野美弥が連絡を取っている。

何か匂うな・・・

「・・若君?若君?どうされました?」

「いや、どうもしない。政文、おまえ、お手柄かも知れないぞ」

「は、はぁ・・」

政文を前にぼくは腕を組み、考えた。

まさかと思うけど、この件に兄貴も絡んでいるのだとしたら───

携帯を手に取り、電話を掛ける。

コール2回で繋がった。

「いかがなさいましたか、若君」

「おまえに頼みたいことがある」

「若君のご用命とあれば何なりと」

「すぐにこっちに来てくれ」

すぐに電話は切られ、3時間後には守弥はリビングのソファに座っていた。






…To be continued…


昨日、「社会人編<71>」に拍手の方からコメント下さったKさま。

初めまして。社会人編をお楽しみいただきありがとうございます。
「婚約編」「新婚編」など、社会人編のシリーズ化。楽しそうですね。

何となくですが、社会人編の受けは今一つなのかな?と思う時があるので、社会人編が好きだと言っていただけるのは嬉しいです。
社会人(現代)編は、設定に制約がないので妄想パラダイスなんです。

スーツ姿の高彬、バイクに乗る高彬、サングラスかけてる高彬、腕時計を外す高彬、お風呂上がりの髪の濡れた高彬、ペットボトルの水をグッと飲みほす高彬、電車の中で両手で吊革を持ちながら座る瑠璃の顔を覗き込む高彬・・・
またお付き合いいただければ嬉しいです。


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教師編<運動会編>

拍手SSとして書いていた「教師編」の続編です。今回は記事としてあげます。




「瑠璃×高彬<教師編>**運動会** 」




良く晴れた───と言うには、晴れ過ぎたくらいの土曜日。

今日は全校挙げての運動会である。

5月だと言うのに、予報では最高気温は30度になると言っており、なるほどまだ8時前なのに、真夏のような陽射しが照り付けている。

職員室の自分の席で、そろそろ教室に向かおうと準備をしていると、ガラッとドアが開き、見ると瑠璃さんだった。

運動会と言う事で、上下ともスポーツウエアを来ており、髪は少し高い位置で結わっている。

胸に抱えるように封筒を持っていて、歩くたび、髪が左右に揺れるのが・・・・可愛い・・・。

「・・・先生。藤原先生?」

ハッと気が付いたら瑠璃さんが立っていて、ぼくの目の前で手を振っている。

「あ、あぁ・・、瑠璃先生・・・」

「大丈夫ですか?何だかぼぉっとして。もしかして熱中症?」

「いや、まさか。ちょ、ちょっと考え事してただけだから」

まさか瑠璃さんに見惚れていたとも言えず適当にごまかすと、瑠璃さんはさして疑うこともなく

「そう、ならいいけど」

と頷いた。

「そろそろ教室行かないと」

「そうね」

瑠璃さんとはクラスが隣同士なので、連れ立って職員室を後にする。

階段を上がり3階に4年生の教室がある。

「今日、持ってきたわよ」

「え、何を」

階段の踊り場で瑠璃さんに小声で言われ、思わず聞き返してしまった。

何か、瑠璃さんにお願いしてたものなんてあったかな。

「お弁当」

「・・・あ」

思い出した。

数週間前の学校帰り、テストの丸付けですっかり遅くなってしまい、瑠璃さんと夕飯を食べて帰ったことがあった。

誘ったのはぼくだし、ぼくが払おうとしたら瑠璃さんは自分も払うと言い張り、それでぼくは

「じゃあ、運動会の日にお弁当作ってよ」

と言ったのだ。

食事中に「運動会の日は給食がないからお弁当作らなきゃいけない」と言うような会話をしたせいもあった。

ぼくとしては、瑠璃さんに奢る口実みたいなもんで、本当に弁当を作ってもらおうと思ってたわけじゃないんだけど・・・

でも、そうか、本当に作ってきてくれたのか。

「もしかして、何か持って来てた?」

ぼくが返事しないのを何と思ったのか、瑠璃さんが心配そうに顔を覗き込んできた。

「いや、何も用意はないよ、店屋物でも取ろうと思ってたから」

慌てて言うと

「良かった」

瑠璃さんはホッとしたように笑い、髪を揺らしながら教室に入っていった。

瑠璃さんが教室に入ったのを見届けて、ぼくも教室に入る。

普段から落ち着きのない子どもたちは、運動会と言う事もありさらに浮き足立っているように見える。

「皆、席に付け。朝のホームルームの時間だぞ」

手を叩きながら促すと

「あ~、藤原先生、何か良いことあったでしょ?」

クラスのリーダー格の女子、梶原が声を張り上げた。

「え?」

「だって何だか、顔がニヤけてるもーん。藤原先生、顔に出過ぎ!」

クラス中がドッと笑い

(この声が隣に聞こえてないといいな)

と願わずにはいられなかった。

しかし、この勘の良さ、4年生と言えども女は女なんだな。末恐ろしい・・・

5.6年有志からなる吹奏楽部の高らかなファンファーレで幕を開けた運動会は大盛り上がりだった。

砂ぼこりを物ともしない子どもたちの白熱した競技が続き、午前の最後の種目はPTA主催の『借りもの競争』だ。

紅白のタスキを掛けた保護者と教師が出場し、点数は加算されないけど、毎年かなりの盛り上がりを見せ、運動会の名物種目となっている。

今年はぼくも出ることになっていて、スタートラインに並んだ。

ホイッスルの合図で走り出し、地面に置かれた紙を拾い上げる。

書かれていた<指令>の言葉を見て───

「・・・・」

少し考えて、瑠璃さんの姿を探した。

瑠璃さんはどこだ、どこにいる。

キョロキョロと見回していると───いた!

クラスの応援席に子どもたちと座り、ポンポンを片手に持って声を出している。

「瑠璃先生!瑠璃先生!来て!」

ダッシュで応援席に近づき手招きをした。

「へ?あたし?」

きょとんとする瑠璃さんの手を取り、そのまま走りだすと、割れんばかりの拍手と歓声とヤジが響き渡った。

手を繋いだままゴールテープを切ると、すかさず放送係りの梶原がやってきて、ぼくの手にあった紙を取りあげる。

「1位は4年の藤原先生でした~」

梶原は紙をわざとらしく読む仕草をすると

「借り物競争の<指令>は・・・」

ニヤッとぼくの方を見て

「好きな人、です!」

さっきよりも大きな歓声と笑い声、ヒューヒューと言う囃し立てる声が響き渡り───

ぼくは慌ててマイクを取りあげた。

くっそー、梶原のやつ。

まったくの嘘を言いやがって。

すかさず訂正をする。

「<好きな人>なんて書かれてない!<可愛い人>と書かれていたんだ!」

一瞬、シンと水を打ったように静まり返った後、大歓声が沸き起こった。

梶原は身体を二つに折って笑いだし、瑠璃さんはと言うと、ゆでだこみたいに真っ赤な顔をして口をパクパクさせている。

運動会は、学校史に残るほどの大盛況のうちに終わり、だけどぼくは、しばらく瑠璃さんに口を利いてもらえないと言う憂き目にあうことになった。

そのぼくがどうやって瑠璃さんの恋人の座を射止めたかは───

その話はまた別の機会に譲ろうと思う。




~fin~


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古典シリーズ*リスト

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カテゴリ「古典シリーズ」の下に置いておきますので順番にまとめて読むときなどにお使いください。


今は昔。<新釈・竹取物語>1

今は昔。<新釈・竹取物語>2

今は昔。<新釈・竹取物語>3

今は昔。<新釈・竹取物語>4

今は昔。<新釈・竹取物語>5

今は昔。<新釈・竹取物語>6

今は昔。<新釈・竹取物語>7

今は昔。<新釈・竹取物語>8

今は昔。<新釈・竹取物語>9

今は昔。<新釈・竹取物語>10

今は昔。<新釈・竹取物語>11

今は昔。<新釈・竹取物語>12

今は昔。<新釈・竹取物語>13

今は昔。<新釈・竹取物語>14

今は昔。<新釈・竹取物語>15

今は昔。<新釈・竹取物語>16

今は昔。<新釈・竹取物語>17

今は昔。<新釈・竹取物語>18

今は昔。<新釈・竹取物語>19

今は昔。<新釈・竹取物語>最終話

***

《続》今は昔。<新釈・竹取物語>1

《続》今は昔。<新釈・竹取物語>2

《続》今は昔。<新釈・竹取物語>3

《続》今は昔。<新釈・竹取物語>4

《続》今は昔。<新釈・竹取物語>5

《続》今は昔。<新釈・竹取物語>6

《続》今は昔。<新釈・竹取物語>7

《続》今は昔。<新釈・竹取物語>8



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***古典シリーズ*** 《続》今は昔。<新釈・竹取物語>1

『なんて素敵にジャパネスク〜二次小説』






注)原作の設定を大きく逸脱した部分を含むお話です。閲覧は自己責任でお願いいたします。
               
        






***古典シリーズ*** 《続》今は昔。<新釈・竹取物語>1 ***






薄らと開いた目に飛び込んできた見慣れぬ天井に、一瞬(ここはどこだろう・・・)とぼんやりした頭で考える。

鳥の囀りと同時に、すぐに吉野の山荘であったことを思い出したぼくは、隣を見て、慌てて飛び起きた。

瑠璃さんがいない。

部屋には強くなった陽射しが入り込んできており、どうやら、あの後、すっかり眠り込んでしまったらしい。

あの後、と言うのは、明け方、二度目に瑠璃さんに手を出してしまった後、と言うことなんだけど。

邸内に人の気配はあるのだけど、ウロウロと出て行くのも失礼だし、さてどうしたものか・・と思っていると、衣擦れの音がして瑠璃さんが現れた。

すっかり着替えを済ませている。

「あ、起きたのね、高彬。・・・何よ、変な顔して」

夜具のそばに座りながら言い、ぼくの顔を訝しそうに覗き込んできた。

「いや、目が覚めたら瑠璃さんがいなかったから、てっきり本当に狐に化かされたんじゃないかと思ってたんだ」

「ひどい」

瑠璃さんは唇を尖らせ、目を細めてぼくを睨みつける振りをして───

そうして2人で吹きだしてしまう。

「すっかり寝過ごしてしまって面目ないよ」

「ううん、疲れてたのよ、きっと。京から休まずに吉野入りしたんだもの」

「うん」

「小萩がね、朝餉の用意が出きたから持ってくるって。着替えられる?」

「うん」

瑠璃さんに手伝ってもらいながら、簡単に着替えを済ませると、ほどなくして小萩を先頭に数人の女房らが部屋にぞろぞろと入って来た。

皆、手に高杯を掲げ持っている。

ぼくと瑠璃さんの前に置き、その中に見慣れない杯を見つけて、ぼくと瑠璃さんは顔を見合わせた。

銀の杯の上に、丸い餅がある。

「小萩、これは・・」

「三日夜の餅でございます」

瑠璃さんの問いに小萩は顔を上げないままに言い

「ほんの気持ちばかりの真似事ですが・・、急いでご用意いたしました」

さらに頭を下げた。

「小萩・・・」

呟く瑠璃さんの顔が見る見る真っ赤になっていき、それを見ているぼくも、身体中がかぁっと熱くなる思いがする。

良く見ると、平伏している小萩も耳が赤いようで、この分だときっと顔も赤いに違いない。

小萩たちが退がって行った部屋で、ぼくたちはしばらく銀杯を前に黙り込み

「小萩にはバレてたのねぇ・・」

しみじみと瑠璃さんが言い

「・・うん」

ぼくも頷いた。

「三日夜の餅は、三日通った後の正式な露顕で食べるものなのに・・・」

「うん・・」

「小萩ったら本当に気が早いんだから、イヤになっちゃう」

「・・うん」

言ってる内容とは裏腹に、瑠璃さんの口調は湿りがちで、少し涙ぐんでいるようにも見える。

「せっかくだからいただこうよ。ぼくはどうしたらいいんだっけ?」

「三つを食べるのよ。一口で」

「そうか」

ぼくは銀杯から小さな餅を指で摘むと、口に放り込み三つを平らげた。

その間、瑠璃さんは真面目な顔でじっとぼくの顔を見ていた。

「瑠璃さんはどうするの?何個食べるの?瑠璃さんも三つ?」

「ううん、女の人は何個でもいいの。一個でも二個でも」

「じゃあ全部、どうぞ」

「そんなに食べないわよ。やぁねぇ、人を食いしん坊みたいに言って」

また瑠璃さんは頬を膨らませ、でも、すぐに真面目な顔に戻ると、餅に手を伸ばした。

小さな桜色の指先が餅を摘み、そのまま口に運ぶ。

真面目な顔で咀嚼していた瑠璃さんの口元が一瞬、歪んだと思ったら、ぽろりと涙が頬を伝った。

思わず流れた涙を、恥じるように瑠璃さんはごしごしと手で涙を拭き

「美味しい」

真っ赤な目で笑う。

「うん」

ぼくも笑って頷き返しながら、瑠璃さんを抱き寄せる。

抱きしめずにはいられなかった。





<続>


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***短編*** 蝶よ花よ、と。 ***

『なんて素敵にジャパネスク〜二次小説』




注)このお話は一話完結です。


『らぶらぶ万歳サークル』さまに出品した作品の再録です。
今回のお題は「蝶」でした。

<おまけの話>下にあります。
          
           





***短編*** 蝶よ花よ、と。 ***








「と言うわけで、瑠璃さん、くれぐれも・・」

「大丈夫よ、この瑠璃に任せなさいって」

後宮へと向かう牛車の中、瑠璃さんは元気いっぱいに自分の胸を叩いて見せた。

胸を叩かれて見たところで不安は払拭されず、それどころか増すばかり、いや、有り体に言って不安しかない。

「・・・・」

ぼくはもう何度目かも知れないため息を吐いた。

姉上、つまりは承香殿女御さまの呼び出しで瑠璃さんを後宮に連れて行く最中なのだけど、これはもうパターン化してると言っていいほどのお決まりコースなのだ。

遊び好きの姉上が瑠璃さんを呼び寄せ、それに瑠璃さんがホイホイと乗る───

そうして毎回毎回ぼくは反対し、そうすると、これまた毎回毎回、姉上は

「そんなに心配なら、高彬、あなたも見張り役として同行して来たらいいではありませんか」

と仰られ、こうして牛車で三条邸に向かえに行く・・・

とまぁ、大体、いつもこういうパターンを辿ることになるのだ。

久しぶりに着飾った瑠璃さんは「重い、苦しい」と言いつつも満更でもなさそうで、機嫌よく牛車に揺られている。

「瑠璃さん、とにかく、もし話すことになったとしても適当にはぐらかすんだよ。決して本当のことをペラペラと喋ったりしないようにね」

「分かってるわよぅ」

とうとう瑠璃さんは頬を膨らませてしまい、ぼくは慌てて口をつぐんだ。

何も怒らせようとか、ましてや喧嘩をしようと思っているわけじゃない。

ただ何と言うか、今回は目的が目的なだけに、ぼくもついつい繰り返し口うるさいことを言ってしまうのだ。

今回の目的───

なんて言うと仰々しいけれど、今回、姉上が瑠璃さんを呼んだ理由は

「春ですし、女同士で楽しい時間を過ごしましょう」

とのことで、姉上は瑠璃さんの他にも妹の由良や気心の知れた女官たちを呼び集めていると言う。

そこで何をするかと言うと、まずは賽の目を振って「お題」を決め、くじで当たった人はそのお題について打ち明け話をしていく・・・

と言うことをするらしいのだ。

本当かどうか知らないけど、宮廷の女房たちの間で流行っている遊びらしい。

もちろん「お題」が「昨日、食べたものは?」や「好きな動物は?」なんてことになるわけはなく、まぁ、要は恋愛絡みの話になる、と、つまりはそう言うことらしい。

一体、それのどこが「楽しい時間」を過ごすことになるのかさっぱりわからないけれど、女の人同士、えらく盛り上げるらしいのである。

しかも、通常だったら「当たった人」が話して行くところを、今回は当たった人以外は全員話して行く、と言うローカルルールを姉上は作ったらしいのだ。

と言う事は、5人いたら4人は話すと言う事で、これはもう話すも同然、と思っていた方がいいと言うわけだ。

姉上や由良、後宮の女官たちの前で、瑠璃さんがぼくとの恋のあれこれを話すだなんて、想像するだに怖ろしい・・というものである。

何が「楽しい時間」を過ごしましょう、だ。

ホラーじゃないか。

何度も来ている勝手知ったる後宮、と言う感じで、瑠璃さんが渡殿を歩く姿はすっかりサマになっており、ぼくの胸中は複雑である。

「お待ちしておりましたわ、瑠璃姫」

部屋に入って行くと、姉上以下、由良も女官たちも勢揃いしていた。

その数ざっと十数人・・・

この中で瑠璃さんが恋の暴露話をするのかと思うと、陽光溢れる春だと言うのに、寒さで身震いがしてくる。

姉上は瑠璃さんを部屋の中央に招き入れ、ぼくは邪魔者と言う事で、部屋の隅も隅、廂の端っこに追いやられてしまった。

さすが姉弟となると遠慮という物がない。

「さて、さっそくですが始めましょうか」

姉上がそう言うと、控えていた女房たちは心得顔で格子を下ろし、妻戸を閉め始めた。

なんだなんだ、と思っていたら、姉上は手元にあった小さな籠の蓋を開け───

次の瞬間、一匹の蝶が飛び立った。

ポカンと口を開けてるのはぼくだけで、どうやら皆にはとうに分かっていた段取りらしく、にこやかに蝶を目で追っている。

「蝶が留まった人が『当たり』だなんて、さすがはお姉さまですわ」

由良が尊敬のまなざしを姉上に向け、ここにきてようやくぼくにも理解が出来た。

つまりは今、由良が言った通り、蝶が留まった人が当たり、───話さなくても良い人、と言うことなのだろう。

「雅ですわぁ」

「本当、春にぴったり・・」

女官たちがため息混じりに感嘆の声をあげ、恋の暴露話をする時点で「雅」とは掛け離れてると思うんだけど、ここでそれを口にする勇気はさすがになかった。

多分、総攻撃を喰らって終わりだ。

姉上が賽を振りお題が決まる。

最初のお題は「初めての接吻」で───

クラクラと眩暈がしそうになる。

ここで瑠璃さんがぼくとの接吻のことを話すと言うのか?シチュエーションとやらを?

知らぬが仏とは良く言ったもので、今回ばかりは同行してきたことを悔やんでしまった。

部屋の中をヒラヒラと蝶が舞い飛び

(どうか瑠璃さんに留まってくれ!)

と心の底から念じてしまう。

瑠璃さんに悪い虫が付かないようにと願ったことはあったけど、まさか、虫──蝶が留まってくれと願う日がくるとは思いもしなかった。

蝶はやがて羽を休める場を定めたようで・・・

ぼくの願いが通じたのか、蝶は瑠璃さんの頭に留まった。

歓声が上がり、瑠璃さんも笑っている。

暴露話が一巡し、次のお題のために姉上が賽を振り、次のお題は「言われて一番嬉しかった言葉は?」に決まり、そうして蝶は籠から飛び立ち───

またしても瑠璃さんに留まった。

その後も百発百中で蝶は瑠璃さんに留まり、瑠璃さんは暴露話を披露することなく後宮を後にすることになった。

「本当に良かったよ、瑠璃さん。どうしてだか蝶が瑠璃さんを好いてくれて」

帰りの牛車の中、安堵のため息を漏らすと、瑠璃さんはクスクスと笑い出した。

「やぁねぇ、蝶に好かれてるなんてことがあるわけないじゃない」

「でも、毎回、蝶は瑠璃さんに留まったじゃないか」

「あれは蝶が留まるように、花の蜜を頭に付けていったのよ」

「え」

「だってイヤじゃない。いろいろ話すなんて・・」

瑠璃さんは小さく唇を尖らせると

「高彬はそれでいいの?皆に話して」

恨ずるような目をぼくに向けてきた。

「イヤだよ、そんなのは2人だけの・・・その、秘め事と言うか・・・さ」

「・・・そうでしょ?うん、・・そうよね・・」

小さな声でぶつぶつと呟き、薄っすらと頬を赤らめている。

「・・・」

うん、そうだよな。

瑠璃さんはそんな話を得々と皆の前で話すような人じゃない。

口が悪くてはねっ返りなようでいて、ここぞと言うところはしっかりと恥ずかしがり屋な女の子なのだ。

正装し頬を赤らめている瑠璃さんは、陳腐な言い回しだけど、どこからどう見ても可憐な一輪の花のようで───

そうして、これまた陳腐な言い回しだけど、ぼくは花の回りを飛び回る蝶のように身体を寄せて行くと、瑠璃さんが付けたと言う蜜の匂いを嗅ぐ振りをして、すばやく額に接吻をしたのだった。






<終>






<おまけの話>





カタンと音がして牛車が止まった。

どうやら三条邸に着いたみたいで、あたしは高彬の肩を押して身体を引きはがした。

「え、何・・」

「何って。着いたのよ、三条邸に」

「あぁ、そうか・・・、もう着いたのか・・」

ぼんやりしたように言う高彬をあたしは軽く睨み付けてやった。

高彬ったら牛車の中で、ずっと接吻してるんだもの。

牛車が止まったことにも気が付かないくらい集中してるってどうなのよ・・

少し開きかけた合わせを、急いで整える。

簾の向こうでは出迎えの女房たちの声がしているし、まさか急に簾を上げられるってことはないだろうけど、それでもドキドキしてしまう。

「お帰りなさいませ、少将さま、姫さま」

車から降りたあたしたちに向かって女房らが口々に言い、高彬は軽く頭を下げて合図なんかしている。

その姿はどこからどう見ても輝ける立派な貴公子で、ついさっきまで妻の唇をついばんでいた人とは思えない。

渡殿を歩きもうじき部屋に着くと言う直前、前を行く高彬がふいに振り返った。

何かを言いかけ、はっとしたように表情を止めると、そのまま瞬きをしないでゆっくりと近づいてきた。

どこか一点を凝視してるんだけど、あたしの目を見てるわけじゃなく、もう少し上の方。

「瑠璃さん、動かないで」

小声で鋭く言い、足音を立てないようにどこか緊張したようにそろそろと歩きながら、片手を前に差しだしている。

「え、何よ、何・・・」

高彬の様子が変で、あたしはあたしで瞬きをしないで高彬を凝視していると、急に鼻がムズムズしてきて

「くしゅんっ」

とくしゃみが出てしまった。

「あーあ」

その途端、高彬の身体から緊張が解け、さらに上の方に目が泳いだ。

「今のくしゃみのせいで蝶が飛んで行っちゃったよ」

「蝶?」

「とまってたんだ、瑠璃さんのここに」

あたしが蜜を付けていた辺りを指さし

「瑠璃さんが変なところで、くしゃみなんかするから」

横目で見ながら文句を言う。

「仕方ないじゃない、くしゃみなんだもの、我慢なんか出来ないわよ」

「まぁ、確かにね」

言い合いながら部屋に入り、それぞれの定位置に座った。

「それにしても今日は緊張したな」

「緊張?どうして?座ってただけじゃない」

「瑠璃さんに順番が当たって、何か言われんじゃないかとヒヤヒヤしたよ」

心底ヒヤヒヤしたような顔で胸を押さえながら言うので、吹きだしてしまう。

「大丈夫よ。例え当たったって本当のことなんか言う気なかったもの」

「そうか」

安心したように頷いて白湯を一口飲み

「ところでさ、瑠璃さん」

「なぁに」

「瑠璃さんが、ぼくに言われて一番嬉しかった言葉ってなんだったの?」

「・・・」

「まぁ、初めての接吻は、ぼくも当事者だから聞かなくてもわかるけど、言われて嬉しかった言葉って言うのは何なのか、興味あるなぁ」

「・・・」

「教えてよ」

「うーん、どうしよっかなぁ・・」

あたしは難しい顔を作って腕を組み、考える振りをした。

ま、教える気はないんだけどね。

「これはあたしだけの秘密にしておきたいのよねぇ」

勿体ぶって言うと、高彬はさらに身を乗り出してきた。

「後学のためにもさ、瑠璃さんを喜ばせたって言うぼくの言葉を教えてよ」

「・・ふふふ」

高彬の熱心さに思わず忍び笑いが漏れ、口元を袖口で押さえていると

「あ、瑠璃さん。動かないで」

さっきと同じように高彬がするどく言い、やっぱり同じ辺りを凝視している。

「え?何?蝶々?とまってるの?」

頷くと、高彬はゆっくりと一点を凝視しながら近づいてきて、今度こそは捕獲に協力しようと身動きせずに息さえ潜めていると

「捕まえた」

あたしは高彬に抱きしめられていた。

「へ?・・え・・、蝶は?」

「・・・」

「もしかして、あたしを捕まえたの?」

「そういう事」

ポカンとするあたしににっこりと笑い、すかさず唇を合わせてくる。

優しく、まるで花の蜜を吸うみたいな接吻───

これじゃあ、あたしが花で、高彬が蝶ね。

花びらを数えるみたいにお衣裳を脱がされながら、あたしは高彬に気付かれないように心の中だけでひっそりと笑った。

言われて嬉しかった言葉、もしかしたら今日も聞けるかも知れないわ・・・

あたしが一番、嬉しかった言葉。

それは、閨の中で高彬があたしを呼ぶ、あの声。

切なげで、少し掠れてて───

閨の中でしか聞けない高彬の声。高彬の言葉。

そんなこと、高彬にだって言えるわけないわよね・・・

花びらになったあたしは目を閉じて、蜜を吸う蝶に身体を委ねたのだった。





<おしまい>


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