社会人・恋人編<94>

「曽茅野さん!」

喧騒に紛れてぼくの声が届かないのか、曽茅野氏はそのまま歩いて行き───






─Up to you !Ⅱ─<第94話>






「曽茅野さん!」

追い付いて肩に手を置くと、曽茅野氏は振り返り、ぼくの顔を見るなり驚きの表情を浮かべた。

「藤原くん・・・、どうしてここに・・」

「どうしてもお話したいことがありまして。少し、お時間をいただいてもよろしいですか?」

曽茅野氏の視線が腕時計に落ち

「まだチェックインを済ませていないのですよ。バタバタするのは性に合わないので早めにやっておきたいのでですが」

「もちろん、その後で構いません」

「・・・分かりました。少し待ってて下さい」

曽茅野氏の姿の見えるところに立ち、ふと、瑠璃さんにメールを入れておこうかと思い立つ。

瑠璃さんは、もう出社してきただろうか。

画面を開き、だけど、何て打とうかと考え手が止まってしまった。

これからの曽茅野氏との話次第だし、瑠璃さんへの連絡はそれからでもいいだろう。

「お待たせ致しました」

カウンターは混んでいなかったようで、すぐに曽茅野氏は戻ってきた。

「立ち話と言うのも何ですから、あちらに・・・」

曽茅野氏が指し示した先には、喫茶店がある。

席の8割方は埋まっており、入り口近くのガラス越しに出発ロビーが見渡せる場所に通された。

「さて」

オーダーを済ませ、一礼をしたウエイターが去って行くと、曽茅野氏はテーブルの上で手を合わせた。

「話とはなんでしょうか」

穏やかな口調とは逆に目は鋭い。

「時間も限られてますので単刀直入にお聞きします」

「それはありがたいですね」

曽茅野氏は微笑みを浮かべている。

「渋谷でのデートクラブの件、あなたが仕組んだことだと突き止めています」

「はて、突き止めたとは・・」

「言葉の通りです。突き止めたんです」

「・・・」

「ネット関係に、異様に強い人間がいましてね。あなたがご自分の携帯から、瑠璃さんになりすまして登録をしたことが分かったんですよ」

「・・・」

「IPアドレスと呼ばれる足跡が残っていました」

「・・・」

「藤原春日、───ぼくの兄貴とのメールのやり取りに残ったIPアドレスと同じものでした」

「・・・」

「動画のアップも、瑠璃さんの盗撮も、あなたの仕業だ。・・・そうですね?」

真っ直ぐにぼくを見たままの曽茅野氏の表情は少しも動かない。

「権野を脅してパスワードを入手していたあなたは、かなり前からぼくの動向を探っていたんだ。それは瑠璃さんが東京支店にやってくる、ずっと前からだ」

そう。

ぼくはずっと、動画のアップのターゲットは瑠璃さんだと思っていた。

だけど、そうじゃないと考えれば、また違った見方も出来る。

阿矢さんの存在、ぼくが女性関係でトラブルを起こしたと言う噂、ぼくのシンガポール出張。

「あなたは広報の阿矢さんに関することで、ぼくに恨みを抱いている。その認識で間違いはないですね?」

初めて───

初めて曽茅野氏に顔に動きがあった。

だけどそれも一瞬で

「はい」

あっさりと頷き

「だとしたら、それが何だと言うのですか」

「・・・」

今度はぼくが黙り込む番だった。






…To be continued…


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社会人・恋人編<93>

「羽田の国際線ターミナルまで」

やってきたタクシーをつかまえそう告げると、取りあえず後部座席に身体を沈め───






─Up to you !Ⅱ─<第93話>






動画のアップも、瑠璃さんの隠し撮りも、長いことその目的が判らなかった。

だけど、曽茅野氏と春日の兄貴が連絡を取り合っていたこと、会社には2種類の個人情報データがあり、そのパスワードが違うことが分かった今、スルスルと紐解けてきたものがある。

曽茅野氏の狙い。

それは、ズバリ、ぼくだったんだ。

そして、恐らくその理由は───

「水無瀬、曽茅野氏はいつシンガポールに帰るか聞いてるか?」

シンガポールに戻る前に曽茅野氏と会って話を・・・

「今日よ」

「え?」

「羽田発の昼の便で帰るそうよ。朝一で秘書室に来て、鷹男チーフにそんなこと言ってたわ。何人かに挨拶してから行くって言ってたけど、もう出たんじゃないかしら」

「昼のどの便か分かるか?」

「確かJALって言ってたような気がするけど・・・、ちょ、ちょっと、藤原くん、どこ行くのよ」

「悪い、半休でも全休でも適当に付けておいてくれ」

スーツの上着を手に取ると、上司に適当な理由を告げ、そのまま部屋を飛び出した。

じれじれしながらエレベーターを待っていると

「ねぇ、まさか、羽田に行くの?」

水無瀬が後を追っかけてきた。

「うん」

「・・・ひょっとして一連のことはやっぱり彼の仕業だったってこと?何か証拠でも掴んだの?」

声を潜めて聞かれ

「・・・」

微妙な質問だったため返答を避けると、水無瀬は深く突っ込んでは来なかった。

「追い掛けたところで上手く会えるかどうか分からないわよ。シンガポール着くの待って電話で話した方が確実なんじゃない?」

「いや、直接、話したい」

あの曽茅野氏のことだ。

面と向かって話したって手強そうなのに、電話越しなんかで話したら、それこそ上手くかわされてしまうに違いない。

ランプとチャイムが鳴り、エレベーターが止まった。

乗り込むと、さすがに水無瀬は乗り込んでは来ず、ドアが閉まると同時に、もの言いたげな水無瀬の顔も消えた。

「羽田の国際線ターミナルまで」

やってきたタクシーをつかまえそう告げると、取りあえず後部座席に身体を沈める。

窓から外の景色を眺めながら、ぼくは今まで起きた出来事をもう一度、反芻してみた。

かねてよりぼくに何らかの恨みを抱き、ぼくの行動を監視していた曽茅野氏は、ぼくが京都に帰省することを兄貴に知らせ、そうして後を付けさせ、あの動画を取らせた。

瑠璃さんの隠し撮りは、きっと権野辺りに言い付けて撮らせたのかも知れない。

ぼくを恨んだ動機。

それは、きっと阿矢さんだ。

あの阿矢さんを見つめていた曽茅野氏のただならぬ気配を考えれば、きっと2人には何かある。

だけど、詳しい理由は分からない。

その理由は本人に直接聞くしかない。

動画のアップに隠し撮り、そして極めつけはホテルへの連れ込み───

相当な恨みがぼくになければここまでのことをするわけがない。

ぼくに非があることだったら素直に詫びるし、もし何か誤解があるのだったら晴らしたい。

でないと、こう言うことがこの先も続いてしまいそうな予感がある。

特徴のあるデザインの国際線ターミナルの建物が見えてきて、タクシーはやがて止まった。

腕時計に目を落とすと、針は10時15分を指している。

取りあえず出発ロビーのある3階に向かった。

平日の午前と言えども、出張に向かうサラリーマンの姿が多く、この中から曽茅野氏を探すのは困難に思われた次の瞬間───

一瞬、少し前を曽茅野氏の横顔が動いた。

───いた!

「曽茅野さん!」

ぼくは駆け寄った。







…To be continued…


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社会人・恋人編<92>

定時の20分前に席に付く。

政文の足の捻挫の具合が気にならないと言ったらウソになるけど、小萩が付き添ってくれているのだから心配ないだろう。

まったくあいつもいい加減、ドジなんだから。

尾行してた相手に病院に連れて行ってもらうなんて、論外だよ。

まぁ、いずれこのことは政文にきっちりと・・・

と思っていることろに、携帯にメールの着信があり───






─Up to you !Ⅱ─<第92話>






メールは瑠璃さんからで、急いで開くと

【少し遅れます】

それだけ書かれていた。

小萩に政文を任せたら、すぐに出社すると言っていたのに、何かあったのだろうか・・・

【どうした、何かあったのか】

慌てて打ち返してみたものの、それ以降返信がなく、ヤキモキしつつも、それでも仕事は待ってくれないので取り掛かっていると

「あら?瑠璃は?」

上から声が落ちてきて、顔を上げると水無瀬が立っていた。

「少し遅れるって連絡があった」

「あらそう」

そう言って少し考える風だった水無瀬は

「・・・ねぇ、藤原くん、瑠璃が来たら総務に来るように伝えてくれない?」

「いいけど。・・・何か急ぎの用なら聞いておくけど」

そう聞くと、水無瀬はぐっと声のトーンを落とし

「あの子、昨日も遅刻してきたでしょ。2日連続遅刻はマズいから、いっそ半休扱いにした方がいいわ。本来なら半休は事前の申告が必要だけど、私の方で勤怠管理をいじって上手くやっておくわ。それには瑠璃の社員カードが必要だから、瑠璃が出社してからじゃないと無理なのよ」

「わかった。伝えておく」

確かにうちの会社の体質なのか分からないけど、下手に遅刻扱いにするくらいなら有休を使って半休にした方が査定に響かないと言うのが定説になっている。

そしてどう言うわけだが、これまた古い体質なのかも知れないけど、有休を取る時にも、その理由を申告しなければいけないのだ。

もちろん、適当なことを書く人もいるし、だけど、例えば冠婚葬祭とか実家に帰るとかの予定はやっぱり正直に書く人の方が多く───

と、そこまで考えて、ふと閃くものがあった。

「水無瀬。半休や全休を取るための理由って、総務の方で管理してるのか?」

「してるわよ。大きな声じゃ言えないけど、人事考課に反映されるもの」

「それってどんな管理方法なのか?」

「どんなって言われても・・・」

そこまで言い、更に声を潜めると

「ほら、この間、権野さんが見てたのがそれよ」

「え。権野が見てたのは住所とか履歴書の個人情報じゃなかったのか?」

「正確には、それも、よ。住所も履歴書も載ってるし、他には勤怠も人事評価も有休消化率も、果ては休んだ理由までも全部載ってるのよ。人事考課に直結する情報ばかりでトップシークレットよ。だから厳重にパスワードが掛かってるって言ったじゃない」

「・・・」

「唯一、電話番号だけは別で管理しているけどね」

「え」

「いくらね、これだけネットが普及しても、やっぱり電話連絡先って必要なのよ。何かの時には直に話すのが一番早いし、だから、社員の電話番号だけは別口で管理してるのよ」

「と言う事はパスワードも違う?」

「当然」

「・・・」

ぼくは目まぐるしく頭を回転させた。

ぼくはここ最近だけで、三度、実家に帰省している。

一回目は仁菜子さんとのお見合いの場を勝手に設けられた時、つまりは瑠璃さんと鴨川でばったりと会った時のことだ。

その次は、瑠璃さんと横浜をドライブ中、いい雰囲気だったところにふいに携帯がなり、祖母が危篤だと知り、慌てて新幹線に飛び乗った時。

そして三回目はついこの間、由良の東京旅行の身の潔白を晴らすための時。

一回目と二回目は、どちらも週末の土日を使っての帰省で、二回目は平日だったので、翌日、京都から会社に電話を掛けて、休む理由を伝えている。

つまり、ぼくの勤怠表に<京都に帰省>と書き込まれていたと言う事だ。

そして、瑠璃さんの「世紀の大告白」も、何あろう、この帰省の時なのだ。

あの場面を、ああもタイミング良く撮影することが出来たのは、ぼくが京都に帰省することを知り、ぼくの後を付けていたんじゃないだろうか。

「・・・」

そうか、そう言うことだったのか。

鷹男チーフの知っているパスワードは、電話番号のみが記載されているだけのもので、曽茅野氏は、そのもっと前からトップシークレットの方のパスワードを知っていたに違いない。

そうして、ぼくの行動をチェックしていたんだ・・・。






…To be continued…


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『二次小説作家さんに捧ぐ』ブログへの投稿のご案内

瑞月です。

いつもご訪問いただきありがとうございます。

すでにお気づきの方もいらっしゃるかも知れませんが、少し前から『二次小説作家さんに捧ぐ』と言うブログをリンクにお迎えしています。

こちらのブログはブログ名が示すように二次小説作家のために、管理人のwith you..さまが立ち上げられたブログです。

with you..さまは二次小説ブログにしばしば見られる中傷コメント、中傷行為を撲滅したいと言うお考えの持ち主で、私も強く賛同しています。

私は以前、ある人から執拗な中傷行為を受けたことがあり、また今年の6月にもありました。

私のことを「被害者を装った悪質な加害者」と言い、「こういった手の込んだ悪質な中傷行為もある、という一例として、記事として取り上げて頂けないだろうか」と言う要望を、『二次小説作家さんに捧ぐ』の管理人さんに出したのです。

この場で、それにまつわる詳細を述べることは今は控えますが、長きに渡る悪質な中傷行為に、私はある決意をしました。

『二次小説作家さんに捧ぐ』さんでは二次小説を募集しているのですが、自分の体験した中傷被害を「二次小説」と言う形で公表していくことにしました。

『二次小説作家さんに捧ぐ』さんが二次小説を募集するに至った経緯を簡単に説明しますと、まず、こちらのブログはブログ村の「二次小説カテゴリ」に登録して参加していたのですが、通報により他のカテゴリに移動させられてしまいました。

管理人さんは、二次作家のためのブロぐなのだから二次小説カテゴリにいたいと思われ、それならば二次小説を掲載したらいいのではないか、と思われたのでした。

私はこちらのブログが開設後、程なくしてその存在を知り、ずっと応援しており、Crescentの名で早い段階から二次小説を投稿しています。

前置きが長くなってしまいましたが、今、私が連載している二次小説は、静香ちゃんが二次作家を目指すと言う設定で、静香ちゃんの身の上に起きる出来事は、私の実体験を元にしています。

今、9話まで進んでいます。

ジャパネスクとは全く関係のない話ですが、私は強い思いを持って書き進めています。

ぜひ、読んでいただければと思います。

「二次小説作家さんに捧ぐ」

カテゴリにある「虹の彼方に<静香、二次作家への道>」がそれです。

また「コメント・中傷コメント等」のカテゴリの記事もご一読下さい。

コメント欄まで読んでいただけたら、上記で述べた「今年の6月にあった出来事」の一端がわかると思います。

説明が駆け足になってしまいましたが、私がここで説明するよりも、捧ぐブログさんを見ていただいた方が早いと思います。

お読みになられ、ご質問、ご意見等ある時は、コメント欄よりお寄せ下さい。

非公開コメントの場合、返信を付けるにあたり、多くの方に私の発言を誤解ない形で伝えるため、一部公開、または引用する場合もございます。



ジャパネスクの創作活動とは別に、私は自分の受けた中傷行為を発信して行きます。
中傷行為を「なかったこと」には出来ません。
中傷コメントなどなくなり、皆が安心して楽しめる二次創作の場がくることを願っています。
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***短編*** 秋は夕暮れ<社会人編・高彬 ver.> ***

『なんて素敵にジャパネスク〜二次小説』






注)このお話は一話完結です。社会人編設定の2人です。
               
        






***短編*** 秋は夕暮れ<社会人編・高彬 ver.> ***







ピンポン、ピンポン、ピンポン───

連打されるインターフォンの呼び出し音に、のろのろと玄関に向かう。

ゆっくりと歩いてるのに、それだけで頭がガンガンする。

鍵を外しドアを押し開けようとすると、それよりも早くに向こうからドアが開き、そこには仁王立ちした瑠璃さんが立っていた。

「もうっ」

ぼくの顔を見るなり、怒気を含んだ声音でそう言い放ち、ずんずんと玄関に入ってくると、靴を履いたまま

「どうなの、熱は」

ぼくの額に手の平を当てる。

「・・・まだ、だいぶあるじゃない。ほら、早く横になって。何、ふらふら起き出してるのよ」

「それは、瑠璃さんがチャイムを鳴らしたから・・」

「・・・」

ジロリと睨まれ、首をすくめる。

先に寝室に入っていった瑠璃さんは

「うわっ、お酒くさ・・・」

窓を開け、手早く簡単なベッドメイキングをすると

「さぁ、寝て」

ベッドを指し示した。

「・・うん」

言われるがままにベッドに入ると、瑠璃さんが布団を掛けてくれた。

開け放たれた窓から入ってくる、ひんやりとした秋の風が火照った身体に心地良く、目を閉じひとつ大きな息を吐く。

キッチンの方でガサゴソと音がしていたと思ったら、少しすると瑠璃さんがお盆を手に戻ってきた。

「ほら、飲んで」

アルカリイオン水と、どういうわけだか湯気の立つ湯呑みがある。

中には梅干しが入っていて

「ほうじ茶と梅干。二日酔いと風邪には最強に効くんだから」

とのことだった。

上体を起こし、まずはアルカイオン水を飲み、ゆっくりとほうじ茶を口に運ぶ。

「上手い」

「でしょ?」

ベッドに腰掛けて、半身を捻ってぼくと向かい合っていた瑠璃さんは得意げに眉を上げて見せた。

「それにしても、びっくりしたわよ。何度、携帯に掛けても出ないんだもん。何かあったんじゃないかと心配しちゃったじゃない」

「うん、悪い・・」

「どうしてそんなに飲んだのよ。そんなにお酒強くないくせに」

「京都の友だちが仕事で上京してきて、飲もうって連絡があってさ。で、そいつに付き合って二軒目、三軒目と行ってるうちに、つい、さ。そいつが酒豪だったことを忘れてて」

「まぁ、久しぶりに会えばそうなることも分からなくもないけど。でも、その後、エアコン付けっ放しで寝て、ご丁寧に風邪までひくことないじゃない」

「うん・・、タクシーで家帰ったことまでは覚えてるんだけど、それから先のことは覚えてないんだよ。朝、起きたらリビングの中が冷え切っててさ。着替えもせず、ソファで寝てたんだよ」

「・・・」

「頭は痛いし、ぞくぞくするし、取りあえず着替えてベッドに潜り込んでさ。携帯をリビングに置きっぱなしにしてたから、着信があったことも気が付かなくて」

家の電話が鳴り続いて、ようやく瑠璃さんがぼくに何度も電話を掛けていたことに気が付いたのだ。

電話口である程度の事情を知った瑠璃さんは

「すぐ行くから」

と言い、本当にすぐにやってきた。

ほうじ茶を飲み終え、再び横になったぼくを見下ろしながら

「まったく・・」

しっかりしてるようで抜けてるんだから・・・

などと瑠璃さんはブツブツと言い

「どうする?病院行く?土曜日だから、診察は午前中だけのことろが多いと思うけど、探せば診てくれることろもあるかも知れないわよ」

「いや、大丈夫だよ、病院に行くほどじゃない気がする。さっき、クスリ飲んだし。このままにしてたら治りそうだ。ところで、今って何時?」

「・・4時半を回ったことろよ」

手を伸ばし、サイドテーブルに置かれたデジタル時計を確認すると、瑠璃さんは窓を閉めるために立ち上がった。

「少し、寝なさいよ」

「・・うん」

さっき飲んだクスリが効いてきたのか、ウトウトと眠たくなってくる。

瑠璃さんの手の平が額に触れる感覚を最後に意識が薄れ、次に目が覚めた時には、部屋中がオレンジ色に染まっていた。

瑠璃さんは変わらすベッドに腰掛けていて、逆光でどこを見ているかは判らず、だけど、すぐに

「どう?」

そう聞いてきたところを見ると、もしかしたらずっとぼくの顔を見ていたのかも知れない。

「うん、さっきよりだいぶ楽になった気がする」

「そう、良かった。まだ寝られるなら、寝たらいいわ」」

「瑠璃さんはどうするの?」

「あたし?あたしは少ししたら帰るわ。明日、朝早くから用があるのよ」

「・・・うん。わかった」

頷きながら、また、すぅっと眠りに入って行く。

次に目が覚めた時、更に部屋はオレンジ色が濃くなっていて、やっぱり瑠璃さんは同じ場所に座っていた。

「・・あぁ、瑠璃さん。まだ、いたんだ・・」

「・・そうね、何だか帰れなくて・・」

どこか困ったような口調で言い、それきり黙っている。

目を瞑って開けるたびごとに部屋のオレンジ色は濃くなっていき、しまいには瑠璃さんのシルエットしか見えなくなった。

多分、次に目を開けた時も、瑠璃さんはいてくれるんだろうな───

そうして目を覚ましたぼくに向かい

「どう?」

と心配そうに聞いてくるに違いないのだ。

口は悪いけど、誰よりも優しい人だから。

次に目が覚めたら、瑠璃さんに

「愛してる」

とでも言って見ようか。

病人の戯言に紛らわせて、たまにはキザなセリフを言ってみるのも悪くないかも知れない。

少しばかり人を感傷的にする秋と言うのは───

悪くない季節だと、思う。






~Fin~




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