***新婚編***第十八話 恋文の謎***

『なんて素敵にジャパネスク~二次小説*新婚編』





このお話には「吉野君」が出てきます。
原作とは違う形で登場しますので、原作のイメージを壊したくない方はお読みになるのをお控え下さい。
 





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***新婚編***第十八話 恋文の謎 ***








すっかりふたりの姿が見えなくなってから、あたしは二階厨子に近づき、文を手に取った。

まったく、どこの暇人貴族が、しつこく文なんか寄こすっていうのよ。

はらりと文をほどき、一読し、そのとたん、思考が停止してしまった。

顔色が変わっていくのが自分でもわかる。

その文には、こう書かれていたのだ。


『瑠璃姫、いつかわたしが官位を授かることができたら、お迎えに行ってもいいですか』


この言葉は・・・・・。

何度も何度も読み返す。

「姫さま、どうなされましたの」

急に声を掛けられ、ぎょっとして振り返ると小萩が立っていた。

「お顔が真っ青ですわ。どこかお悪いのではございませんの?」

「大丈夫よ、小萩。具合が悪いわけではないから。それよか、しばらくひとりにしてくれる?」

今にもお医師の手配でもしそうな小萩にそう言うと

「ですが、姫さま・・・」

不服そうに顔をゆがめた。

「ほんと、大丈夫よ。ほら」

笑って見せると、何かを言いかけたものの少しは安心したのか、部屋を出ていった。

ひとりになったところで、ゆっくりと考える。

昔・・・・・あたしにそう言った男の子がいたのよ。

あたしはその男の子のことを吉野君と呼んでいた。

吉野で出会ったから吉野君。

高貴な人のご落胤なんだけど、母君の身分が低いとかで、京を逃れて、吉野に住む縁者のお坊さんのところに母子で身を寄せているという話だった。

吉野君はあたしの初恋の人で、幼いながらに結婚の約束までして、でも流行り病でぽっくり逝っちゃって・・・・

そうよ、吉野君はもう死んじゃったのよ。

でも、この言葉はまぎれもない吉野君に言われた言葉。

あたしと吉野君しか知らない言葉で、だとしたら、この文は吉野君からの文だという事になる。

しかも、この匂いから察するに、あの日、女御さまの部屋にいた公達だというわけで・・・

嘘よ、そんなことあるわけないじゃない。

どうかしてるわ、あたしも。こんなのいたずらに決まっている。

でも、でも。

この言葉は吉野君しか知らないはずで・・・。

待って、誰かに話したこと、なかったかしら。

落ち着いて思い出すのよ!

もし話すとしたら、融か高彬・・・あたりしか思いつかないけど。

生意気に口答えするようになってきた頃、よく吉野君を引き合いに出して、ふたりをけなしていたもの。

その時に話さなかったかしら・・・?

そうよ、そういえば話したわよ、高彬に。

何かの話から言い合いになって、その時、あたしは

「吉野君は『いつかわたしが官位を授かることができたら、お迎えに行ってもいいですか』っておっしゃったのよ。あんたにこういうことが言える?高彬と吉野君とじゃ、そもそもの人間のデキが違うのよ」

とかなんとかいって、高彬を怒らせたことがあったはず。

でも、結婚した今になって、高彬がこんないたずらするとは思えないし、そもそも高彬はこんなタチの悪いいたずらをして楽しむような人ではないわ。

それはもう、幼馴染のプライドにかけて言いきれる。

もし融が高彬の口からこの言葉を聞いたとしても、融だってこんなことする子じゃないし。

だとしたら、やっぱりこの文は吉野君本人からのものと言うことになってしまう。

でも、しつこいようだけど吉野君は死んだの・・よ。

でも・・・・あたしは吉野君の死に顔を見たわけじゃない。

流行り病だから、その日のうちに荼毘に付したという、吉野君のお母君の言葉をそっくりそのまま信じたのよ。

そのあと、あたしは京に戻ってきて・・・。

あー、頭がこんがらがってくる。

もう一度、文に目を落とす。

日に透かして見たり、匂いを嗅いでみたりしたんだけど、あの言葉以上の情報は出てこない。

まったくもうっ。

こういう意味ありげな文を寄こすんなら、もうちょっとヒントをくれなきゃ困るじゃない。

なんだか無性に腹がたってくる。

それとも、これは正真正銘、極楽浄土にいる吉野君からのお文で『お迎えに行ってもいいですか』っていうのは、あたしはもうじき死ぬってことの暗示なのかしら・・・。

いやいや、こんな考えはあたしらしくないわ。信心なんかないもの。

あの日、部屋には誰がいたと高彬は言っていたんだっけ。

帥の宮の名前が出てことで、なんだかすっかり気がそがれてしまったけれど。

確か、頭弁、左大弁、それと涼中将とか言っていたような。

だけど、それだけじゃ吉野君と結び付く道筋があるわけもなく、あたしは頭を抱え込んでしまった。







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どれくらい時間がたったのか、ふいに庭の陽が陰った。

顔を上げると、渡殿をやってくる高彬の姿が目に入ったので、あたしは慌ててしまった。

ま、まずいわ、文を隠さなきゃ。

幸い高彬は庭の木々にでも気を取られているようで、こちらを見ていない。

あたしは二階厨子に飛びつき、とりあえず元あった経箱に文を放り込んだ。

「すっかり融と話し込んでしまったよ」

申し訳なさそうに頭をかきながら、高彬が部屋に入ってきた。

「どうしたのさ、瑠璃さん、ぼんやりして。わかった。ぼくが放っておいたんで、むくれてるんだろう」

「そ、そんなんじゃないわよ」

なーにが「ぼくが放っておいたから」よ。

あたしが今、どんな文をもらったかを知ったら、高彬だってぶっとぶはずよ。

「ねぇ、高彬・・・」

「なんだい、瑠璃さん」

あたしの近くに腰を下ろしながら、高彬がゆったりと返事をする。

「・・・ううん、なんでもないわ」

話したって余計な心配させるだけだもの。

それに「文をもらったことあるの」と聞かれた昨日の今日で、この話題はまずいわ。

嘘をついたことがばれてしまう。

「そういえば、さっき、そこで小萩とすれ違ってね。瑠璃さんが顔色が悪いことを心配していたよ。具合でも悪いんじゃないかって」

「大丈夫よ。小萩は大げさなのよ」

「でも、確かにちょっと顔色が悪いように見えるけど・・・」

しげしげと見られて、思わず扇で顔を隠す。

内心の動揺を見破られてしまう。

ふいに顔を近づけてきたかと思ったら

「昨日、無理をさせてしまったかな」

そう耳元で囁やかれて、なんだか気が抜けてしまった。

世の中の夫ってほんと、平和なのね。

「高彬、昨日の話の続きなんだけど・・・」

「話?なんの?」

「その・・・、あの日、後宮に誰がいたかって話なんだけど・・・」

「あぁ、その話か。なんだい」

「えぇっと、確か頭弁、左大弁・・・・それと帥の宮と、それから・・・」

「涼中将どの」

「その中に育ちが変わってる人っていない?」

「育ちが?」

怪訝そうに聞き返す。

「少なくともあの場にいた方たちは今上に目をかけていただいているような方たちだからね。怪しげな人はいないよ」

「怪しいとかそんなんじゃないのよ。少し人とは違うような育てられ方をしたっていうか・・・。たとえば・・・その・・・・幼いときに京を離れて育った・・・とかさ。たとえばよ、たとえば」

「幼いときか・・・」

天井に目をやり、何事かを思案するようにつぶやき、やがて視線をあたしに戻した。

「幼いときに京を離れていたかどうかは存じ上げないけど、少し違ったお育ちをしたといったら、左大弁どのかな」

「左大弁・・・。どんな方なの」

「なんだよ、瑠璃さん。いったいなんだって、そんなに聞きたがるのさ」

「い、いえ、あのね。ほら・・・煌姫なのよ、煌姫」

「煌姫?」

「そう、実は煌姫がね、無聊の日々の慰めに、物語でも書こうかって思い立ったらしくてさ。それで宮廷や公達の情報を知りたがってるのよ。普通の姫なんて宮中の様子なんて知りようがないでしょう。それで、いろいろ頼まれちゃってさ。あは・・は」

高彬の目に疑惑の色が浮かんできたので、あたしは内心ひやりとしながら、早口にとっさに思いついた言い訳を口にした。

あー、夫への秘密ごとなんて作るもんじゃないわ。顔がひきつってしまう。

「へぇ、煌姫がねぇ。確かにあれだけの歌の才能がある方だから、おもしろい物語を作られるかもしれないね」

あたしの下手な言い訳にも気が付かないのか、面白そうに言う。

こういっちゃなんだけど、高彬が鈍感で助かったわ・・・。

「完成したらぼくにも読ませてもらえるのかな」

「も、もちろんよ」

高彬、ごめん。そんな物語、一生、完成しないはずよ。嘘つきな妻を許して・・・。

「で、その左大弁の生い立ちって・・・・?」

心の中で高彬に手を合わせながら、それでも、あたしは聞かずにはいられなかった。




            
<第十九話に続く>



~あとがき~

こんにちは、瑞月です。

年があけたと思ったら、もう二週間も過ぎてしまいました。

毎日、寒いですね。皆さんも風邪などひいていませんか。

前回の記事『ジャパネスクあれこれ』で書いた<あとがき>つながりなのですが、先日、1巻のあとがきを久しぶりに読んでみました。

それによると、記念すべき第一話「お約束は初めての接吻で」が世に出たのは、季刊「COBALT」の前身の「小説ジュニア」で、1981年の4月号だったそうです。

驚くことに、今年でジャパネスク生誕31年なんですね!

そして、前回、書きましたが、炎上編の8巻が出たのは21年前なので、氷室先生はジャパネスクを10年間書かれていたことになります。

瑠璃たちは10年間で2歳年をとったんですね。

仮に実際の時間が流れていたとしたら、瑠璃は今年で47才、高彬は46才。

高彬は右大臣くらいにはなっているのでしょうか。

炎上編から<その後>の瑠璃と高彬、皆さんはどのような<その後>を想像されますか?

いろいろ想像が膨らむのですが、それを書くとまた長くなってしまうので、機会があったら雑記の中で書きたいと思っています。

読んでいただいてありがとうございました。
(←お礼画像&SS付きです)

コメントの投稿

Secre

>kaoruさん

ふたりの子ども・・・・どっちの性格に似るんでしょうね。
足して2で割る、って感じにならないのが、子どものおもしろいところですしね。

No title

瑠璃姫が年を・・・などと考えてみたこともありませんが
二人によく似た子供たちなど、出てきたら楽しいですね。
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瑞月

Author:瑞月
瑞月(みずき)です。

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