***新婚編***第十七話 謎の<文>***

『なんて素敵にジャパネスク~二次小説*新婚編』








***新婚編***第十七話 謎の<文> ***











翌朝、ぼんやりと目が覚めて、まだ、腕枕されてることにあたしは満足のため息をもらした。

そうよ、これぞ人妻の喜び、てなもんよ。まいったか。

高彬の眠りはまだ深そうで、規則正しい寝息からもそれがわかる。

かなり日も高くなってきているようだけど、今日は休みと言っていたし、まだ起こすこともないわね。

高彬の顔を覗き込んで見る。

高彬の寝顔は、童の頃のままのようでもあるし、ものすごく変わったようにも見える。

耳、あごのライン、眉、鼻・・・普段、こんな至近距離で観察することなんてないから、ついしげしげと見ちゃう。

きれいな肌してるなー。

高彬は武官で、日頃、身体を動かしてるから、そういうのがお肌にいいのかしら。

近衛の少将といったら花形公達で、後宮での女官にはもちろん、民衆の間でも騒がれる、ちょっとしたアイドルみたいなもんよ。

そういう世に聞こえた殿方が、自分のものだと思うと、嬉しいと言うか恥ずかしいと言うか、うん、やっぱり嬉しいわよ。ふふ。

高彬がぱちっと目を開けた。

「あ、起きたの」

「起きたの、じゃないさ、瑠璃さん。顔に瑠璃さんの息がかかって、くすぐったいよ」

眠そうに目をこすりながら言う。

「もう少し、寝ていたら?」

「いや、もう起きるよ」

そう言いながらも、高彬の目は閉じていて、無意識のようにあたしを抱き寄せる。

全然、起きる気はないみたいね。

新婚当初は、夜があけるかあけないかのうちに、そうそうに帰っていた高彬も、最近では、少しずつ、この三条邸で朝餉を一緒に食べるようになってきている。

ゆったりと、小袖の上に単を羽織っただけのくつろいだ格好の高彬と朝餉なんかいただいていると、ほんと夫婦になったんだなぁ、なんてしみじみ思っちゃったりしてさ。

あたしも右近少将藤原高彬の妻として、花の色はうつりにけりな、いたづらに、かなぁ・・・、それも悪かないわねぇ。

などと人妻気分にどっぷりと浸っていたら、ぱたぱたと足音が聞こえ、それが格子の向こうで留まった。

「失礼いたします。姫さま、お目覚めでいらっしゃいますか」

小萩が遠慮がちに声をかけてきた。

「起きてるわよ、なあに」

人妻の貫録で、そのままの姿勢で鷹揚に答えると、小萩がついと膝を進めて、少し慌てたように話しだした。

「それが・・・北の方さまが、こちらにご機嫌伺いに参りたいとの仰せでして・・・」

「え、母上が?」

人妻ぶりっこも吹き飛んで、あたしはがばと起き上がった。

「高彬も来てるし、また今度にしてもらえないかしら」

「それが、高彬さまが来ているのなら、尚のこと・・・とおっしゃられて」

高彬ははや、着替えに取りかかっている。

あたしは母上の言いそうなことが予想出来て、がっくりと肩を落とした。






        ***********************************************








やがて、小半刻ほどすると、ざわざわと人の渡ってくる気配がして、母上がお付き女房を引き連れて、華やかに部屋に現れた。

きっちりと化粧した顔はてらてらと輝き、口元には笑みがあふれ、全身からは活気がみなぎっているようで、その姿を見ただけで、あたしはげんなりしてしまった。

元気な人見てげんなりするっていうのも変な話だけど、実際、そうなんだからしょうがない。

裾さばきも鮮やかに、さっさと高彬の前に座ると

「少将さま、先夜も我が邸に お通い下さいまして、瑠璃さまの母として、また、この三条邸の女主としてお礼申し上げますわ」

お通い、のところをやけに強調して言う。

朝っぱらから、よくもまぁ恥ずかしげもなく<お通い>だなんて声を張り上げて言えるわよ。

「毎日のご公務がさぞお忙しいでしょうに、少将さまはお若くて、本当にお元気でいらっしゃいますこと。瑠璃さまもお幸せですわね」

言いながら、はらりと扇を開く。

来るぞ、来るぞ、あれが来るぞ、と身構えていると

「あとは御ややの誕生を待つばかり・・・ですかしら」

ほほほ、と扇を口元にあて、この上なく上機嫌にいうではないの。

やっぱり出ましたね、という感じよ。

少し前の、あたしの<懐妊騒動>の時、一番、めざましい反応を見せたのは、何を隠そう、この母上だったのだ。

結局、あれは勘違いで、それきり騒動は終わった・・・はずだったんだけど、どうやら母上にとっては全然、終わってなかったみたいなのよ。

あたしたちの御やや、つまりは孫の誕生が楽しみになってしまったみたいで、こういっちゃなんだけど、老後の楽しみを見つけたって気分なんじゃないかと思う。見つけたというか、気付いたというか。

あれ以来、ことあるごとにやってきては、御ややのことを匂わすんでかなわない。

あたしと高彬は、まだ御ややは先でいいと思っているし、こればかりは人知の及ばない時の運もあるんだし、御やや、御ややとせっつかれても、ほんと困ってしまう。

高彬は・・と、ちらと隣を見ると、話題が話題だけに、朝廷で磨き抜かれたはずの社交術もさすがに出てこないのか、絶句したまま固まってしまっている。

無理もないわよぉ、朝っぱらから<お通い>だの<御やや>だもの。

身に覚えのある殿方としては、どんな顔してたらいいかわからないってとこなんじゃないかしら。

せっかくうるわしい夜を過ごしたあとの朝だっていうのに、なんだか急に白けてしまう。

その後も母上はハイテンションで話し続けたんだけど、あたしたちが黙り込みがちなので会話が続かず、ようやっと腰を上げる気になったようだった。

やれやれ、やっと開放される・・・と思っていると、部屋を出て行きかけたところでふと振り返り

「少将さま、瑠璃さま、これからもせいぜいお睦みあそばして」

そう言うと、衣擦れの音もいさましく退出していった。

あまりと言えばあまりの「ご発言」に、ふたりして呆然としていたんだけど、なんとなく目が合い、これまたなんとなく目をそらしてしまう。

や、やあねぇ、母上が変なこと言うから、意識しちゃうじゃない。

しばらく変な沈黙が続き

「高彬も、何か言ってくれたら良かったのに・・・」

場がもたなくて、ぼそぼそと抗議すると

「何かって・・・。まさか『はい、昨晩もお睦みあそばしました』なんて言えるわけないだろう」

「そーいうことじゃなくて」

もう、真面目な顔で何、言ってんだか。

またしても目が合い、今度はこっそりと笑い合う。

「ぼくはお若くてお元気だから、瑠璃さんは幸せ?」

ふざけた口調で高彬が言うので

「えぇ、これからもぜひ、お通いくださいましね」

母上の声色を真似て、気取って言って見せると、堪え切れずにふたりして吹きだした。








        *********************************************







朝餉をすっかり食べ終えたところで、あたしたちがのんびりと庭を眺めていると、小萩がやってきて簀子縁に手を付いた。

「姫さま、高彬さま。融さまがご機嫌伺いに参りたいとの仰せですわ」

「融が?」

なんだか、ご機嫌伺いの多い日ね。

姉が、夫とのんびりとした休日を過ごしていると言うのに、なにがご機嫌伺いだ、あのウスラ馬鹿。

断ってやっても良かったんだけど、高彬が嬉しそうな顔をしているので結局、呼ぶことにした。

ま、あたしもたまには弟の顔を見たいしね。

やがて、人の渡ってくる気配が近づき、融が部屋に入ってきた。

「やあ、高彬」

手をあげ、嬉しそうに高彬の前に座る。

ふたりは親友同士で、こうして並んでいると、確かに若い公達が談笑している姿にしか見えないんだけど、でも、融と高彬じゃ、一歩も二歩も高彬の方が先を行っているのよね。

本人の能力の差もあるけれど、でも、すでに結婚して身を固めてる高彬と、いまだに浮いた噂ひとつない融とじゃ、その点に関しても大きな開きがある。

姉として、すこぉし複雑な気がする。

融にも誰か良い人がいないかしら・・・・何か考えてあげなきゃね。

くったくなく話すふたりを見ながら、そんなことを考えていたら、早苗がやってきた。

オロオロとこちらを窺うように見てるので

「なに」

声をかけると

「あのぉ、姫さまにお文が・・・」

と、一通の文を差し出した。

何気なく受け取ろうと、手を伸ばしたあたしはハッとした。

この匂いは・・・・

例の文だわ。

内心、舌打ちをする。

もう、気が利かないんだから。

高彬のいるときに、急ぎじゃない文なんか持ってくることないのよ。

『文とかもらったことある?』

と意味ありげに聞かれたのは、つい昨晩のことだと言うのに。

高彬がこちらを見ていない事を確認して、あたしは早苗の手から文をひったくった。

部屋のすみにある二階厨子にそっと近づき、その上にある経箱の蓋をずらし文をしまう。

なんでだかわからないけど、高彬には見られちゃだめよ。

やがて、興の乗ってきたふたりは、高彬に見せたいものがあるという融の言葉に促されて、西の対に揃って行くことになった。

すっかりふたりの姿が見えなくなってから、あたしは二階厨子に近づき、文を手に取った。

まったく、どこの暇人貴族が、しつこく文なんか寄こすっていうのよ。

はらりと文をほどき、一読し、そのとたん、思考が停止してしまった。

顔色が変わっていくのが自分でもわかる。

その文には、こう書かれていたのだ。


『瑠璃姫、いつかわたしが官位を授かることができたら、お迎えに行ってもいいですか』


この言葉は・・・・・。





<第十八話に続く>



~あとがき~

こんにちは、瑞月です。

「お睦みあそばしてね」は、ジャパネスクの中でも屈指の名台詞ですよね(笑)

次回は、本編はお休みして「特別編」をお届けする予定です。

読んでいただきありがとうございました。
(←お礼画像&SS付きです)

コメントの投稿

Secre

まるさま

>お睦みあそばして、は本当に屈指の名ゼリフですよね!

本当にそうですよねぇ。
こんなこと面と向かって言われたら、瑠璃じゃなくたって絶句しちゃいますよね。
ジャパネスクは名ゼリフが多くって!

(白拍子で以前コメントさせて頂いた者です)

お睦みあそばして、は本当に屈指の名ゼリフですよね!
ジャパネスク名ゼリフランキングがあったらランクイン間違いないですね。他にはぶっちぎりの仲よ、とか、ぼくで我慢しなよ、とかですかね…?

押しの強い母上も心配性な父さまもボンクラ融も、内大臣ファミリーみんな大好きです。
プロフィール

瑞月

Author:瑞月
瑞月(みずき)です。

ランキングバナー

にほんブログ村

ランキングに参加しています。
楽しんでいただけましたら
クリックで応援をお願い致します。
1日1クリック有効です。
初めにお読みください
**当ブログの簡単な説明です**
当ブログは「なんて素敵にジャパネスク」の二次小説を掲載しております。 二次小説と言う言葉を知らない方や苦手な方は閲覧ご注意ください。 また読後のクレームはお受けできません。 「ごあいさつ<最初にお読みください>」も合わせてご一読下さい。
カテゴリ
別館
乳姉妹ブログ
日記ブログ
掲示板
なんて素敵にサイト様 
最新記事
ご訪問ありがとう(H23.11.28-)
**オンラインカウンター**
現在の閲覧者数:
コメントありがとうございます
お礼SSや「他己紹介」があります。
web拍手 by FC2
** あれこれ投票所 **
お好きなジャンルをお選びください。 投票は何度でも可能です。
*** あれこれ投票所2 ***
メールフォーム(ご用の方はこちらから)

名前:
メール:
件名:
本文:

カレンダー
06 | 2017/07 | 08
- - - - - - 1
2 3 4 5 6 7 8
9 10 11 12 13 14 15
16 17 18 19 20 21 22
23 24 25 26 27 28 29
30 31 - - - - -
月別アーカイブ