***短編*** <続>三条、夏の陣~後編~ ***

『なんて素敵にジャパネスク〜二次小説』






注)このお話は、ただ今開催中の「らぶらぶ万歳サークル・夏の競作大会」に提出した「三条、夏の陣」の続編です。
               
        






***短編*** <続>三条、夏の陣~後編~ ***







2日経っても、高彬の訪れはなかった。

訪れどころか文ひとつ届かない。

「もし、今夜もいらっしゃらなかったら、もう10日ですわ。10日もお通いがないなんて・・・」

今にも泣き出しそうな声で小萩に言われ、あたしは持っていた扇で脇息を一つ叩くと、「えいっ」と勢いを付けて立ち上がった。

立ち上がった反動で脇息が倒れる。

「ひ、姫さま、何をなさるおつもりですか?!」

言いながら小萩は几帳をひしと掴み、どうやら、逆上したあたしが几帳を蹴飛ばすとでも思ったらしい。

「決めた!こうなったら、行くわ!」

「は?行くってどちらへ・・・」

「そして着るわ!」

「は?着るって何を・・・」

状況が分からず、重ねて質問をしてくる小萩を無視して、あたしは部屋の隅に置いてあった桐の衣裳盆に近づいた。

中には先日のままに、シャリ感のある藍色の単が綺麗に折りたたまれて入っている。

むんずと片手で掴み、少し考えて袂にしまいこんだ。

薄いものだから、いくらでも小さくなるのである。

「小萩、車の準備をお願い」

「え?!車とおっしゃりますと、まさか、姫さま、今からお出かけなさるおつもりでは・・」

「その、まさかのまさかよ」

「そんな姫さま!外はもう暗うございますわ」

小萩は悲鳴のような声を上げた。

「明日、明るくなってからお出かけ遊ばされたらよろしいではありませんか。何もこんな時刻から・・・。一体、どちらへ・・」

「白梅院にいざ乗り込まん!よ」

「白梅院って、乗り込まんって・・・、まさか、右大臣邸へ・・?」

「そうよ」

「姫さま、そんな・・・」

「嘆いてても何も始まらないものね」

「・・・」

「行ってくるわ」

「姫さまぁ・・」

いつまでも小萩が車の手配をしに行く気配がないので、あたしは直接、車宿りに行くことにした。

行けば誰かいるだろうから、そしたら脅してでも車を出させればいいわ。

気の弱い長行でもいてくれたら好都合なんだけどな、なんて思いながら渡殿を歩き、車宿りに着く。

何人かの使用人の姿が見え

「ひ、姫さま」

あたしの顔を見ると、ビクッと震え上がった。

やぁねぇ、人を物の怪みたいに。

その中に長行の姿があり、あたしはにっこりと笑いながら近づいて行った。

「悪いんだけどね、長行。今から、右大臣邸に行ってもらえない?」

「・・・それは無理な相談だな」

ふいに後ろから笑いを含んだ声が聞こえ、振り返ると高彬が立っていた。

「たっ・・・、高彬・・・!どうして、こんな所に・・・」

「どうしてって、別にいてもおかしくないだろう」

高彬はまだ牛が繋がれたままの車を指差し、言われて見てみたら、高彬の常用車だった。

「・・・」

「さ、瑠璃さん、部屋に戻ろうか。・・・時に長行」

あたしの背を押し、歩きかけた高彬は、思い出したように長行を振り返った。

「は、はいっ」

「今後、瑠璃姫のこう言う言い付けは、きっぱりと断っていいからね」

「ですが、若殿さま。姫さまはすぐに言う事を聞かないとクビにすると・・」

「大丈夫だ。その時はぼくが雇ってやるから」

「はぁ・・」

長行はあたしの顔を上目づかいでチラチラと見ながら歯切れ悪く頷き、あたしはそのまま高彬に背中を押される格好で歩き出す。

向こううから小萩がやってくるのが見え

「あ、姫さま。白梅院にいざ乗り込まん、だなんて、そんなことはお止め下さいまし」

小萩からはあたししか見えていないのか、懇願するように言いながら近づいてくる。

「もう止めたよ。瑠璃さんは気を取り直したそうだ」

後ろからひょっこりと顔を出して高彬が言うと

「少将さま!」

小萩は飛び上らんばかりに驚いている。

「んまぁ、少将さま。お待ち申しておりましたわ・・・!ゆうに10日ぶりのお渡りで・・・」

「うん。すっかり久しぶりになってしまったね。このまま小萩は下がっていいよ」

小萩の返事も待たずに高彬は歩き出し、勝手知ったるあたしの部屋、いつもの場所に腰を下ろした。

手を取られ、あたしも前に腰を下ろすと、高彬は改めてにっこりと笑い掛けてきた。

「瑠璃さん、白梅院に来るつもりだったんだね」

「・・・」

気まずくて黙っていると

「嬉しいな」

「え」

「だって、お見舞いに来てくれようとしてたんだろ?」

「お見舞い?何よ、高彬、あんた病気してたの?」

「あれ?融から聞いてない?言付けを頼んで置いたんだけど」

「聞いてないわよ。何よ、どうしてたの?」

「まぁ、病気と言っても夏風邪だけどね」

「・・・」

高彬はちらりとあたしの顔を見ると

「実はさ、前に瑠璃さんとこ来てから、3日目でもう我慢が出来なくなったんだ。で、こうなったら潔く敗北を認めようと三条邸に向かう途中で、やけに身体が熱くて、おかしいな、こんなに我慢出来ないもんかな、なんて思ってたら、何てことはない、熱だったんだよ」

「・・・」

「瑠璃さんにうつしても悪いと思って、そのまま引き返したんだけど、結局、そこから熱が下がったり上がったりで、やっと今日から出仕したんだ」

「・・・」

「ぼくが病気と言う事を知らずに、白梅院に来ようと思ったってことは、もしかして・・・」

顔を覗き込まれ、思わず目を逸らしてしまった。

「この勝負、おあいこってことかな?」

「・・・」

うぅ、早まったわ・・・

もうちょっと、部屋で待ってたら、あたしの完全勝利で終わってたのに。

「・・・あれ?」

何かに気が付いた様に、高彬が声を上げた。

高彬の目線の先には、あたしの袂があり、いくら薄手とは言え単一着分の布だから、明らかに片方の袂と比べて不自然に膨らんでいるのだ。

「何が入ってるのさ」

あたしが押さえるより早く、高彬はあたしの袂をまさぐり、中から単を取りだしてしまった。

「・・・」

しばらく単を見ていた高彬は、ふいにニヤニヤと笑いだし

「もしかしたら、ぼくの勝ちだった?」

「な、何よ、何でそうなるのよ」

「だって、白梅院に乗り込んでまで、これを着てくれるつもりだったんだろ?」

「・・・」

図星なので、返す言葉もなくむぅと黙り込む。

しばらくの間、からかいを含んだ目で見られ、耐えきれなくなったあたしは

「いいわよ。貸しなさいよ。着るわよ」

高彬の手から単をひったくって、立ち上がると

「いいよ、瑠璃さん、着ないで」

「え」

思ってもみない言葉が返って来た。

「まぁ、座って」

あたしの手を取り座らせると

「ぼくもさ、あの後、色々考えたんだけど、そりゃ、瑠璃さんの単袴姿は見たいけど、嫌がるのを無理に着させるのも良くないし、それに何よりも、お母君のお下がりと言うのは確かに微妙かな、と思ったんだよ」

「・・・」

「だって、つまりはこれを着て、お母君がってことだろ・・?」

「それよ!」

我が意を得たりとあたしは膝を打った。

そうなのよ。

結局ね、あたしがこれを着たくない気持ちの中には、恥ずかしさの他に、気まずさとか、妙な罪悪感みたいなものが入っていたのよ。

何て言うか、本当の母さまだったらこんなことしないだろうなぁ、とか、でも、きっと母上は母上なりに、あたしのことを思ってくれてたことには違いなく、でもそこは<なさぬ仲>だから、もしかしたら母上も距離感がわからずにグイグイ押してきたりで、ああ言う突拍子もない言動の裏に、ふと母上の哀愁を感じてしまったりとかで・・・

母上に単を差しだされた時の気持ちって、色々、複雑だったってことなのよ。

それを高彬が、見たい見たい、ぜひ着てくれ、なんて言うもんだから・・・

「それでね、瑠璃さん。実は・・・」

言いながら高彬は自分の袖の中をまさぐり、中から小布の束を差し出してきた。

見ると、全部、シャリ感のある薄手の布で、色見本みたいなものらしかった。

「ぼくが瑠璃さんに単を贈ってあげるよ」

「え。・・・それを高彬の前で着ろってこと?」

「違うよ」

恐る恐る聞くと、高彬は笑って

「それはもういいから。瑠璃さんが部屋着として寛ぐ時に着たらいいよ。まだ暑い日が続くからね。ほら、手を出してごらん」

言われたままに手を出すと、その上に布を一枚ずつ当て始めた。

どうやら色も自分で選んでくれるみたいで、光の加減とか、透け具合を見ながら

「うーん、一番、瑠璃さんの肌に映える色はどれかなぁ」

なんて言いながら、一枚一枚、丹念に合わせながら見ている。

あたしの肌に映える色・・。

それがいかにも、透け感のある布を連想させて、ドキドキしてしまった。

高彬の目に、あたしの肌はどんな風に映っているのかしら?

「うん、これがいいんじゃないかな」

やがて高彬が選んだのは、東雲色と呼ばれる、朝焼けを思わせるような温かみのある色合いの布だった。

「出来上がったら、持ってくるからさ」

にっこりと言われ、あたしはコクリ、と頷いた。

高彬が色味から選んでくれたのなんか初めてで、何か、嬉しいかも・・・

「ありがと」

小さく言うと

「どういたしまして」

高彬はあたしの頭に手を置き

「ぼくの方こそ、会いに来てくれようと思ってくれてありがとう」

優しく真面目な声で言い、髪なんか撫ぜている。

「・・・」

どうしよう。

三条、夏の陣。

もしかしたら、あたしの敗北かも・・・。

単が出来上がったら、頼まれなくても、高彬の前で着てしまいそうだわ。

どうしよう・・・






<終>


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Secre

ベリーさま

ベリーさん、こんばんは。

> さすが有能策士。もうこれ、絶対にわかってやってるでしょう。ね?ね?

その疑いも捨てきれませんよね(笑)

> こんな風にされたら着てあげようかな、より、自分から着たくなっちゃいますよね、高彬のために〜!!

高彬の思うツボ?(笑)

> とりあえず母君のを使わなくてよかったのにはホッとしました!

ですよねー。
母上のお下がり着てっていうのは、ちょっと・・ねぇ・・(^-^;

非公開さま(Aさま)

Aさん、こんばんは。

私も同じです。例え、了見が猫の額のように狭いと言われようとそう思います(笑)
もちろん、私はそれを貫きますよ~。

仰っていること、とても良く分かります。共感致します。
大前提が「愛」なんですよね。
そこが欠落した行為なんてあり得ないんです。
恋愛に堅気な2人なら、尚のこと、ですよね。

着た姿、ご用意してお待ちしております(笑)

非公開さま(Kさま)

Kさん、こんばんは。

いえいえ、でも、高彬は3日目で本人的には敗北を感じていたようですし。
ほんと、こんな良い夫はいませんよね。
瑠璃、本当に良い人を捕まえましたね~。でかした!(笑)

非公開さま(Mさま)

Mさん、こんばんは。

はい、一応、着ていただく方向で進めております(笑)
確かに今回のMVPは融ですね。
本人は本当に忘れてただけだと思いますが~。

さすが有能策士。もうこれ、絶対にわかってやってるでしょう。ね?ね?
そうやって風邪引いてる間には衣も選ぶ暇があったわけですからね 本当に風邪だったのかなあ?!と疑ってしまうわ。
こんな風にされたら着てあげようかな、より、自分から着たくなっちゃいますよね、高彬のために〜!!
とりあえず母君のを使わなくてよかったのにはホッとしました!
瑠璃も今度は、母君に高彬くれた薄衣見せてあげればいいんですよ!どうだ!!!って風にねー( 性格的にはしないでしょうが)

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