***新婚編***第十四話 仲直りの夜***

『なんて素敵にジャパネスク~二次小説*新婚編』







***新婚編***第十四話 仲直りの夜 ***









「もう、誤解は解いてくれた?」

顔をのぞきこみ、ぽんぽんと手を軽く叩きながら言う。

ふうむ。

どうやら浮気はしてないみたいだし、許してやってもいいかな。

黙っていると、高彬はさらに近付き、そっと唇を合わせてきた。

いつのまにか、肩まで抱かれているではないの。

あらら・・・この展開は。

誤解も解けたことだし、あたしもやぶさかではないけれど、でも、どれだか心を乱されたかを考えると、こんなに簡単に高彬のペースに乗っちゃうのは何だかしゃくだわ。

「ちょっと待って、高彬」

身をよじると、高彬は少しだけ唇をとがらせた。

男として盛り上がっているところに水を差されたことが、心外だったらしい。

「なんだよ、瑠璃さん。まだ疑っているの」

相変わらず肩に手を回したままで言う。

「疑ってはいないわよ」

「なら、いいじゃないか」

再度、接吻をしようとする。

それをうまくかわしながら

「ただ・・・」

言いかけると

「ただ?」

間髪いれずに問い返してきた。

高彬ったら、じれじれしているんだわ。ふふふ。

あたしはわざと勿体つけたように、ゆっくりと切り出した。

「ただ・・・」

と言っても、言うことが決まってたわけじゃないので、とりあえず思い付きを言うことにした。

「ただ・・・・ものすごぉく、お腹がすいてるのよ」

「お腹?!」

高彬が頓狂な声を上げる。

「うん。だって、夕の御膳、ろくに食べてないんだもの」

「どうして」

「どうしてって・・。怒りすぎて食べ物が喉を通らなかったのよ。誰かさんのせいでね」

ツンと言ってやると、高彬はさすがに言葉に詰まっている。

それでも、話してるうちに本当にお腹がすいてくるのが、我ながらすごいところだった。

小萩を呼んで御膳を持ってこさせようかしら、などと思っていると、ふいに高彬の腕に力が加わり、そのまま押し倒されてしまった。

「ちょ、ちょっと」

慌てて体勢を変えようとしても、高彬に完全に組み敷かれた身体はびくともしない。

「だから、お腹が・・・」

「後で食べればいいさ」

「いいさって」

もう!あたしのお腹のことなのに、勝手に言ってくれちゃって!

こういう時の殿方の強引さって何なのかしら。

高彬の両手があたしの頬はさんだかと思うと、そのまま接吻をされてしまい、何とか逃れようと空いている両手で高彬を押しやろうとしたら、今度は両手を絡め取られてしまった。

指をからめながら、高彬の接吻がだんだん深いものになっていく。

存分にあたしの唇を味わうと、そのまま耳にかじるような接吻をする。

耳から首筋へ、高彬の唇が伝い、首に感じる息が熱くなり、観念してあたしは目を閉じた。

そのとき、ぐぐぅぅ~とあたしのお腹が盛大に鳴った。

高彬の動きがぴたりと止まり、やがて、あたしの首に顔をうずめたままの姿勢でくっくっく・・・と笑い始めた。

「笑わないでよ。お腹がすいてるんだもの。仕方ないでしょ」

恥ずかしくって、そう言ったのに、まだ笑っている。

そのうち、あたしもだんだん可笑しくなってきて、ふたりで抱き合ったまま笑ってしまった。

あーあ、あたしってとことん、色気よりも食い気な女なのねぇ。

高彬はむっくりと身体を起こすと

「瑠璃さん、先に何かお腹に入れたほうがいいね」

まだ可笑しそうに言う。

「だから、あたしは最初からそう言ってるでしょ。それを、後でいいって言ったのは高彬じゃない」

軽く睨むと、高彬はバツの悪そうな顔をして見せた。

女房に用意させた御膳を、あたしがかきこむように食べるの見ながら、高彬は

「瑠璃さん、そんなに慌てて食べたら身体に悪いよ」

ゆったりと脇息を引き寄せ、肩肘を付きながらのんびりと言う。

「だって、本当にお腹がすいてるんだもの」

さらに湯漬けご飯をかきこむと、高彬はやれやれというように首をすくめて笑い、ふいに手を伸ばしてあたしの頬に触れた。

「なに」

手を止めて高彬を見ると

「ご飯」

「え?」

「ご飯粒が付いてた」

指先のご飯粒をあたしに向ける。

「あ、ごめん。ありがと・・」

「どういたしまして」

なんだかその途端、急に恥ずかしくなってしまい、あたしは箸を置いた。

急に我に返ったというか、そんな感じ。

この時代、貴人たちにとって、ものを食べるという行為は恥ずかしいものと思われていて、とくに姫と呼ばれる人たちは、あまり人前で食べ物を口にしたりはしないのよ。

だから恋人同士の場合、逢瀬のときはほとんど何も食べたりなんかしないの。

食べたとしても果物を少しつまむとか、そんな程度。

お腹なんかすいたこともありませんって顔をして、お歌を読みあってるのが貴族というものなのよ。

人間、生きてりゃお腹がすくし、ご飯を食べて何が悪いって感じなんだけど、ともかくそれが今の美意識なの。

筒井筒の気安さといえばそれまでだけど、ほんと、あたしってとんでもない姫だわ。自分でいうのもなんだけどさ。

あたしの手が止まったのを、何と勘違いしたのか

「もうお腹いっぱいになったの」

高彬が待ちわびたように聞いてきた。

思えば、あんたも変な夫よねぇ。

普通の男だったら、新妻が目の前で湯漬けご飯をかきこんでたら、びっくりして腰抜かしてるところよ。

まじまじと高彬の顔を見ると、そんなあたしの視線に全く気付いていないようで、女房に御膳を下げるように目配せをしている。

懸盤を掲げ持った女房がしずしずと退がっていくと、高彬は待ちきれないように、すばやくあたしの肩を抱いた。

高彬の目には健やかな欲望があり、高彬もそれを隠そうとは思っていないみたい。

気取ったり、取り繕ったりする必要のない人と結婚できたあたしたちは、幸せ者なのかもしれないわね。

高彬の胸に顔をうずめて目を閉じると、高彬は何度も髪をなぜ、時おり引っ張ったり、指に絡めたりする。

高彬、あたし、幸せよ。浮気を疑ったりしてごめんね・・・。

高彬の大きな手があたしの髪をなぜ続けている。

こんなにも高彬が優しくて、あたしは幸せ者ね。

高彬の胸って温かい。

温かくて、幸せで、その上、お腹もいっぱいで、眠く・・・なっちゃっ・・・た・・・。

「瑠璃さん、瑠璃さん」

遠くで、大好きな高彬の声がする。

大好きな人の胸の中で眠れて、瑠璃は幸せ・・・よ。

「そりゃないよ、瑠璃さん」

そんな高彬の言葉を聞いたような気がしたけど、あたしはそのまま深い眠りに落ちていった。








   
       ***********************************************









「姫さま、姫さま。いい加減、お目覚めくださいませ」

肩をかるく揺すられて、あたしは目を覚ました。

薄目を開けると、小萩の顔がある。

「どしたの、小萩」

「どしたの、では、ございませんわ。もうこんなに日も高くなっておりますのよ。もう、お起きになりませんと」

確かに上げた格子からは、眩しいくらいの日差しが入ってきている。

昨日は、確か、高彬が来て、それで紅のことを聞いて、それで、えぇ~っとご飯を食べて・・・・

そのまま寝ちゃったんだわ。

「高彬は?」

「もう、とうの昔にお帰りになりましたわ」

「起こしてくれたら良かったのに」

身を起こしながら言うと

「高彬さまとわたくしで、何度もお声をおかけしましたわ。覚えてないのでございますか?」

小萩が呆れたように言い、小さくため息をついた。

「しまいには高彬さまは『きっと疲れているのだろう。このまま休ませてあげておくれ』と、わたくしにおっしゃって、そのままお帰りになったのですわ。本当にお優しい方ですわ」

「ふうん」

「でも、そうおっしゃる高彬さまのお顔色はいまひとつで・・・。ご病気でなければ、よろしいんですが・・・」

心底、心配そうに言う。

昨夜はやたらと幸せな気持ちで眠れたんだけど、そういや、コトに至ってなかった・・・んだっけ。

心配してくれてる小萩には悪いけど、高彬の顔色が冴えなかったのは、ずばり、そのせいよ。

だけど、いくら小萩にでも、ロコツにそう言うわけにはいかないしねぇ。

そんなことを考えていたら、ふと、几帳の垂れ衣の房に結び文があるのが、目に入った。

開いてみると、案の定、高彬からのもので



『こんなに辛い夜を過ごすなら、いっそ、鴨川に飛び込みたいくらいだよ』
 

短い言葉が走り書きされていた。

文の向こうから、高彬のため息と、からかうような口調が聞こえてくるようだわ。

「高彬さまはなんて?ご病気では、ございませんの」

なおも心配そうに呟く小萩の言葉を聞きながら、あたしはさらさらと文をしたためた。

「これを、高彬に。なるべく急いでね」

「はぁ、高彬さまに・・・。あの、もしご病気でしたら、加持・祈祷のお手配なりを・・・」

「大丈夫よ。加持・祈祷なんかより、この文を読んだほうが高彬の顔色には効くはずよ」

きっぱり言うと、小萩は首をかしげながらも、文の手配をするために部屋を出て行った。





<第十五話に続く>



~あとがき~

こんにちは、瑞月です。

お腹がいっぱいになると、眠くなってしまうのは、今も昔も同じのようですね。

高彬、可哀相に・・・。

拍手&拍手コメント、ありがとうございました。

非公開でコメントを下さった方、お名前を出してよいかわかりませんので、この場でお礼を申し上げます。

ありがとうございました。これからもよろしくお願いします。

公開コメントには、お礼のコメントを書かせていただきました。

皆さんからの感想やコメントは、とても励みになります。

いつもありがとうございます。

皆さん、氷室先生やジャパネスクが大好きな方なので、とても嬉しいです。

読んでいただき、ありがとうございました。





(←お礼画像&SS付きです)

コメントの投稿

Secre

>まこさん

まこさん、こんにちは!
いつもありがとうございます。

そうですねぇ・・確かに高彬は犬っぽいですよね。
一途で従順。呼ばれたら尻尾振って飛んできそうだし(笑)

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

お久しぶりです

こんにちは。また新作が続々と更新されているので、楽しく読んでます(^O^)
せっかく仲直りできてらぶらぶになれると思ったのにまた高彬はお預けになっちゃいましたね(-.-;)
高彬って、餌を食べたいのに待てをされている犬っぽいなあ(^。^;)

>mayumayuさん

> 「そりゃないよ、瑞月さん!」って高彬が嘆いていますよ(笑)

高彬には、良い思いだってさせてるんだから、たまには嘆いてもらいましょうよ(笑)
コメント、いつもありがとうございます。

うわ~!かわいそうな高彬!

「そりゃないよ、瑞月さん!」って高彬が嘆いていますよ(笑)
でも、きっと寝てしまった瑠璃さんの無防備な顔を愛おしそうに
眺めていたのでしょうね。
瑠璃さんの文には何て書いてあるのでしょうか。
いつもたのしい展開のお話をありがとうございます。
プロフィール

瑞月

Author:瑞月
瑞月(みずき)です。

ランキングバナー

にほんブログ村

ランキングに参加しています。
楽しんでいただけましたら
クリックで応援をお願い致します。
1日1クリック有効です。
初めにお読みください
**当ブログの簡単な説明です**
当ブログは「なんて素敵にジャパネスク」の二次小説を掲載しております。 二次小説と言う言葉を知らない方や苦手な方は閲覧ご注意ください。 また読後のクレームはお受けできません。 「ごあいさつ<最初にお読みください>」も合わせてご一読下さい。
カテゴリ
別館
乳姉妹ブログ
日記ブログ
掲示板
なんて素敵にサイト様 
最新記事
ご訪問ありがとう(H23.11.28-)
**オンラインカウンター**
現在の閲覧者数:
コメントありがとうございます
お礼SSや「他己紹介」があります。
web拍手 by FC2
** あれこれ投票所 **
お好きなジャンルをお選びください。 投票は何度でも可能です。
*** あれこれ投票所2 ***
メールフォーム(ご用の方はこちらから)

名前:
メール:
件名:
本文:

カレンダー
09 | 2017/10 | 11
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30 31 - - - -
月別アーカイブ