『雨上がれば』<著・茜さま>

「緋色の雑記帖」の茜さまに、ブログ開設6周年のお祝いに素敵なお話を頂戴いたしました。

タイトルは『雨上がれば』です。

スクロールしてどうぞお楽しみくださいませ。




   


『雨上がれば』                                                        

<著・茜さま>







朝から降り続く雨は強く打ち付けるようなことも弱い霧雨になることもなく一定の速度で天から降りてくる。

緑のいっそう濃くなった庭に降り注がれる雨を脇息に凭れながらぼんやりと眺めながら思う。

高彬は今ごろどうしてるかしら?

「・・・」

忌み月の雨が降り続く昼日中に夫を思って庭を眺めてるあたし────

ああっまさに人妻って感じよね!

そんな状況に一人酔いしれてると簀子縁から衣擦れの音が近付いてきた。

小萩と・・・早苗かしら?

やって来たのは思った通りの二人で小萩の後ろに早苗がついて来ている。

小萩は文箱、早苗は絹を乗せた箱を手にしていて

「高彬さまよりお文と絹が参りました」

「そう。あの人も昔より随分と気が利くようになったわよね。長雨で退屈してるだろうからと贈ってくれたのかしら」

「ええ、きっとそうでございましょう。さあ姫さまご覧くださいませ」

あたしの前に文箱と絹を置くと早苗は奥の仕事があるからと下がって行った。

まずは文から手に取ると薄様の紙にいつものみみずののたくったような文字だけどふわりと香る高彬の香りに自然と顔が綻ぶ。

『瑠璃さん、ご機嫌はどう?ここ最近雨の日が続いて退屈していませんか?ぼくは出仕もなく自邸にいる日は雨を眺め瑠璃さんのことを考えています。忌み月が早くあければいいのに。瑠璃さんに似合いそうな絹を見つけたので贈ります』

高彬も雨を見てあたしのことを思ってくれてたのね。

文の内容ににんまりしながら絹を手に取った。

「まあ、薄衣だわ」

「左様でございますわね」

織りも染めも最上級品って感じで素晴らしい物だけど────

あのウブだとばかり思っていた高彬が薄衣を贈って来るなんて・・・

結婚してまだ間もないけれど男も結婚すると変わるのかしら?

なんか気恥ずかしいけど嬉しい────

文をまた手に取りもう一度読み返すと口元にあててクフフと笑う。

「?」

視線を感じて顔を上げると小萩が苦笑しながら

「姫さま、お返事は・・・」

「あっ、そ、そうね用意してちょうだい」

やあねー結婚してからというもの気が緩んじゃって。でもいいじゃない新婚なんだし。

小萩が文を書く用意をしてくれてる間また庭に目を向ける。

忌み月があけるまでもう少しか・・・

早く逢いたいな────



***



「高彬さまがいらっしゃいました」

小萩が告げるとさやさやと指貫の衣ずれの音もやさしく簀子縁に高彬が現れた。

「久しぶり、瑠璃さん」

ニッコリと微笑む高彬はすっきりとした夏直衣姿でなかなかの公達ぶりだ。

「うん、久しぶり」

几帳のかげから扇を開いて顔を覗かせる。

「どうかしたの?」

普段几帳を隔てての対面なんて滅多にないから不思議に思われてるみたいね。

でもせっかくだし久しぶりだしあたしも女だし・・・

その、少しでも意識されたいじゃない────

なのに『どうかしたの?』なんてまったく情緒ってものがないんだから。

まあ、普段のあたしの行いがそう言わせてるんだろうけど。

「どうもしてないわ。この間は絹をありがとう、嬉しかったわ」

女らしくしおらしい声を出すと

「喜んでもらえてぼくも嬉しいよ。染めも鮮やかできっと瑠璃さんに似合うと思ったから」

そっかー、あたしのことを思ってなんてますます嬉しいじゃない。

「それでね、今日着てみたんだけど・・・」

高彬はそれならと几帳を押し退けると一瞬にして顔を真っ赤にした。

「ど、どうかな?」

忌み月があけて高彬が訪れたときにはこの薄衣を着て迎えようと思っていたんだけど予想以上の反応にあたしまで照れてしまった。

「・・・・」

高彬は赤い顔をしたままビックリしているみたいで何も言ってくれない。

声も出ないってことかしら?

「?・・・高彬?」

「えっ!あ、ああ。うん、凄く綺麗だ」

あたふたとこたえる。

「そう、良かった。素敵な薄衣をありがとう」

ニッコリ笑うと

「あの、瑠璃さん・・・その薄衣ぼくからだった?」

「え?どういうこと?」

高彬は顎に拳をあてながら話した。

「確かにぼくは絹を贈ったけど薄衣じゃなかったと思うんだ。でもその薄衣も見覚えがあって。隣に積んであったものでこの絹も素晴らしいけどその・・・薄衣は気恥ずかしくて。大江に頼んだけど間違ったのかな?」

小首を傾げてうーんと考えている。

なんだそうだったのかなんて思っているとまたしても高彬は目の下をうっすら赤くして

「でもこの薄衣で良かったかもしれないな。とっても似合ってるよ」

「へへっ」

やっぱり褒められるのは嬉しくて頬が緩む。

気がつくとすぐ側に高彬がいて手を取られた。

「逢えない間ぼくのこと考えてたって本当?」

そういえば文にそんなこと書いてたような気が・・・

覗き込むように見られてカァッと頬が熱くなる。

「た、高彬こそ文に・・・」

「うん、瑠璃さんは今何してるかなぁとか逢いたいなぁって思ってたよ」

はっきり言われると照れるわね。

でも────

「あたしも。早く忌み月が終わればいいのにって思ってた」

高彬を見上げて笑顔になるとあれよあれよというまに顔が近づいてそっと口付けされた。

唇が離れるとお互い目混ぜあってフフっと笑う。

あたしたちまだまだ新婚だからすぐに甘い雰囲気になるけどこれからもずっとこうして仲良くしていきたいな。

その夜逢えなかった時間を埋めるように二人はとっても仲良くなったのでありました。



*****



ふと目を覚ますと辺りはまだ薄暗くて夜が明けるまでまだ時間がありそうだ。

屋根に雨が打つ音がしている。

いつの間にか寝ていたんだな・・・

雨音を聞きながら軽く息をつくと横で寝ている瑠璃さんに目を向けた。

うつぶせになり向こうを向いているけどぐっすり眠っているのが規則正しい寝息と上下する背中でわかる。

忌み月で逢えない日が続いたこともあって久しぶりに触れた瑠璃さんの肌にすぐさま夢中になってしまった。

ちょっと、いや、かなり疲れさせてしまったみたいだな。

そっと髪を撫で衾代わりにしていた薄衣をかけ直すと衣が黒髪に映えて美しい。

それにしても違う絹が届くなんてぼくが手配したとき間違ったのかな?それとも大江のヤツわざと・・・?いや、考えるのは止めよう。

結果瑠璃さんに似合ってたんだし喜んでくれたのだから。

隣で眠る瑠璃さんを見てふと思い出す。

几帳をずらし目に飛び込んできた瑠璃さんの姿を見て一瞬息をするのを忘れそうだった。

女の人って衣装だけでガラリと変わるんだな。

久しぶりに見た瑠璃さんは綺麗でその上色っぽくて・・・人妻の雰囲気を漂わせていてドキドキしてしまった。

瑠璃さんは結婚して変わったと思う。

物腰とか雰囲気とかいろいろと柔らかくなった気がする。

昔の瑠璃さんは・・・乱暴な姫だっなぁ。ハキハキとものを言って口より先に手が出てお転婆で早とちりなところもあって。

でも優しくて心があったかくて他人のことで一生懸命になって────

ぼくはそんな瑠璃さんが好きでそばにいるぼくを見てほしかった。

念願叶ってからも長かったな。

こうしてやっと結婚できたというのに相も変わらずスヤスヤと眠る瑠璃さんは向こうを向いたままだ。

こっちを向かないかな・・・

無理矢理こちらを向かせたら起きてしまうかもしれないしぼくのせいで疲れさせたと思うとそれも可哀想で出来ない。

結婚してからもこっちを向いて欲しいと思うなんて・・・

苦笑しながらもちょっぴり寂しくてそっと頭に唇を落とした。

「ん・・・」

瑠璃さんが寝返りをうってこちらに向いた。

起こしてしまったかな?

顔を覗き込むと目は閉じられたまま唇が動いた。

「高彬ぁ」

「な、何?」

「・・・もう無理・・・」

「えっ?」

じっと見ているとスースーとまた寝息をたてて眠ってしまった。

寝言?もう無理って・・・

あっ!

カアッと顔が熱くなってきた。

先程瑠璃さんを抱いているときにも聞いた言葉だ。

久しぶりということもあってその、普段より執拗に求めた瑠璃さんから零れ出た・・・

まさか───!?

「もう・・・食べられない・・・」

食べられない?

「!」

吹き出しそうになるのを起こさないようにと堪えながら笑う。

どんな夢みてるんだよ!

まったく瑠璃さんらしいや。

自分の勘違いも可笑しくて小声でクスクスと笑っていたらいつの間にか雨音がしなくなっていた。

ぼくたちはまだまだ新婚だから夜が明けると早々に帰らなければならない。

もう少し時間がある・・・それまで可愛い寝顔を見ていようかな。

明日晴れてたら瑠璃さんと一緒に出掛けるのもいいな。

忌み月が終わってまた瑠璃さんに堂々と逢いに来れると思ったら心が弾んで寝ている瑠璃さんの手にそっと自分の手を重ねた。




【おしまい】




~後書き~


瑞月さん、ブログ開設6周年おめでとうございます!!

ほぼ毎日更新(ほんと凄いです)されるお話いつも楽しませていただいております。

そんな瑞月さんに感謝の気持ちも込めましてお祝いにお話を書かせていただきました。

また薄衣ネタになってしまいましたが(汗)楽しんでいただけたら嬉しいです。

胸キュンやラブポカ、ときには吹いてしまったり平安編だったり現代編だったりと多彩なお話が満載の瑞月さんの素敵なブログをこれからも楽しみにそして応援しています(^-^)/




************


茜さん、この度は素敵なお話をありがとうございます。

瑠璃に「もう無理」とまで言わせた高彬の手腕にドキドキが止まりません。

一体、その時間に何が起こっていたのでしょうか・・・?!

そして大江。ファインプレーですね。きっと小萩とグルですよ。

2人の間では、頻繁に文がやり取りされていたに違いありません。

「どうです?高彬さまのご様子は?」「顔を赤くなさっていらっしゃいますわ。うふふ」なんて感じで。

一体、瑠璃はどんな夢をみていたのでしょうね。

寝言を言う瑠璃を、きっと高彬はすごく優しい顔で見ていたんだと思います。

新婚ホヤホヤの2人は本当に可愛いです。

茜さん、本当にありがとうございました。


瑞月




(←お礼画像&SS付きです)

コメントの投稿

Secre

茜さま

茜さん、こんにちは。

> 私も7周年、8周年、10周年、20周年と「おめでとうございます」と言わせていただきたいです(^^)
> どうぞ体に気を付けてご自愛下さいね。

ありがとうございます!

> 大江はウブな若君のためにいい仕事しました。高彬が薄衣を手にしているのを見たのかも…自邸でも油断なりませんね高彬。あ、小萩もいるから三条邸でもですね(笑)

女房のネットワークを侮ってはいけませんね(笑)

> 現代編の瑠璃ちゃんが可愛くて可愛くて大好きで(瑞月さんにはもうしつこいと言われそうですが)黒ビキニで登場のときにはニヤニヤ…いえ感動していました。また登場なのですね~楽しみです♪

この先は黒ビキニネタに突入です。
高彬には試練の時かも知れません。

> 瑞月さんこの度はお世話になりましたm(__)m今後ともどうぞよろしくお願いいたします。

こちらこそこれからもよろしくお願いいたします。

瑞月さん、こんばんは~

私も7周年、8周年、10周年、20周年と「おめでとうございます」と言わせていただきたいです(^^)

どうぞ体に気を付けてご自愛下さいね。


大江はウブな若君のためにいい仕事しました。高彬が薄衣を手にしているのを見たのかも…自邸でも油断なりませんね高彬。あ、小萩もいるから三条邸でもですね(笑)

プラスのお話も楽しませていただいております。

現代編の瑠璃ちゃんが可愛くて可愛くて大好きで(瑞月さんにはもうしつこいと言われそうですが)黒ビキニで登場のときにはニヤニヤ…いえ感動していました。また登場なのですね~楽しみです♪


nenicaさま、あさぎさま、読んで下さりありがとうございました。楽しんでいただけたようで嬉しいです(^^)

瑞月さんこの度はお世話になりましたm(__)m今後ともどうぞよろしくお願いいたします。

あさぎさま

あさぎさん、こんにちは。

今日はこちらは守弥日和です(笑)

> 10年以上は軽く経ってそうな位に、高彬密度の高い、たくさんの作品を届けていただいて、本当にありがとうございます!

確かに言われて見たら、生まれた時からブログをやっているような気がしてきました!

> これからも皆さんと一緒に、妄想力に磨きをかけていきたいものですね。

本当にそうですよ。
切磋琢磨ですよね。妄想力を無限に広げて行きましょう。

> どうぞご無理のないように、また7周年・8周年・・・とお祝いさせてさせて頂けたら嬉しいです!

7年、8年と言わず、70周年、80周年を目指そうかと思っています(笑)
ギネスに載りたいもんですよねぇ。
「100歳を超えても毎日ブログを更新してるおばあちゃん」って項目で!(笑)

> そして、茜さんからの素敵なお祝いも、楽しく読ませて頂きました~。

素敵でしたよね~。
薄衣って、シースルーってことですもんね!
もうそれだけでニヤニヤしてしまいます。

祝☆6周年!

瑞月さん、こんばんは~。
ブログ開設6周年、おめでとうございます!

6年というと長い期間ではありますが、毎日のようにお話を楽しませていただいているので、むしろまだ6年しか経ってない?という感すらしています。
10年以上は軽く経ってそうな位に、高彬密度の高い、たくさんの作品を届けていただいて、本当にありがとうございます!

これからも皆さんと一緒に、妄想力に磨きをかけていきたいものですね。
どうぞご無理のないように、また7周年・8周年・・・とお祝いさせてさせて頂けたら嬉しいです!

そして、茜さんからの素敵なお祝いも、楽しく読ませて頂きました~。
新婚ホヤホヤで「薄衣」を贈る高彬、いきなりオトナな殿方に変身!?と思っておりましたら、そうですよね、そんな訳ないですよね(笑)
控えめでシャイな所が、いかにも高彬らしいです。

大江や小萩が絡んでいる可能性、大いにあり得ますねぇ。
結果よければすべてよし!二人が仲良くなれれば、なんでもオーケーなんであります!
薄衣に寝言にと、思わぬところで瑠璃さんに振り回される高彬が、とってもかわいかったです~。

nenicaさま

茜さんの作品、素敵でしたよね。
茜さんに、nenicaさんからコメントをいただいたこをお伝えしておきますね。

No title

茜さんの作品、楽しませていただきました。
私、密かに茜さんのブログの更新も楽しみにしているんですよ。
まだコメントしたことは無いですが、いつも楽しみに読ませていただいています。
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Author:瑞月
瑞月(みずき)です。

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