***新婚編***第十一話 後宮へ***

『なんて素敵にジャパネスク〜二次小説*新婚編』




          


***新婚編***第十一話 後宮へ***








もうじき七月にはいろうかという、六月の終わりの昼下がり。

あたしは目にも鮮やかな唐衣をつけ、正装をし、高彬の到着を待っていた。

やっぱり女だなぁ。

きれいな衣裳をつけると、楽しくなってくる。

「姫さま、もうじき、少将さまがお着きになるそうですわ。ご用意遊ばされて」

うきうきした気分のあたしとは正反対に、小萩が浮かない表情で言ってきた。

「うん、もう用意は出来てるわ。・・・それよか小萩、ずいぶんと心配そうじゃない」

「それはそうですわ。姫さまが後宮に行かれるのですもの・・・色々と心配もいたしますわ」

「大丈夫よ。今回は承香殿女御さまのお誘いをいただいて、正式に伺うのだもの。前みたいに、女房のふりをして遊びに行くわけじゃないから安心してよ。こうして高彬が後宮まで送ってくれるのだし」

そうなの。

五月の終わり頃、承香殿女御さまから、またぜひ後宮に遊びにいらっしゃい、というお文をいただいて、こうして後宮に行くというわけなのよ。

女御さまも明るく楽しい方だから、またお会いできるかと思うとうきうきしてくる。

でも、それを伝えたときの高彬の反応ったらなかった。

あからさまに渋い顔をして、それでも女御じきじきのお誘いだから、無下に断ることもできないと判断したのか、しぶしぶと認めてくれたのだった。

数日前に来たときも

「いいね、瑠璃さん。とにかく後宮ではおとなしくしてるんだよ。几帳の陰から転がり出てくるなんてことはしないでおくれよ」

なんぞとくどくどと言い、よっぽど前回のことが頭に残ってるみたいで

「わかってるわよ。今回は高彬の正室として行くのだもの。あんたに恥をかかせるようなことはしないわ。まかせなさいって」

あたしが胸を叩いて見せても、まだ不安そうな顔をしていたっけ。

そうして、後宮へも送ってくれるという念の入れようで、今日、というかこれから後宮へ向かうのだ。

よっぽど信用ないのね、あたしって。

やがて、東門のあたりがざわついてきて、どうやら高彬を乗せた牛車が到着したみたいで、あたしは小萩の先導で車宿りへと向かった。

巻き上げられた簾をくぐると冠直衣姿の高彬が座っていて、なんだか少し怒ったような顔をしている。

やだわ、まだ、あたしが後宮に行くことに納得していないのかしら。

構わず、にこっと笑って隣に座ってみる。

高彬はちらりとあたしを見ただけで、まだ怖い顔をしている。

簾が下ろされた頃合を見計らって、そっと高彬の手に指をからませてみると、高彬は少し眉をあげ

「なんだよ、瑠璃さん。瑠璃さんから手をつないでくるなんて、珍しいね。後宮に行けるのが、そんなに嬉しいの」

からかうような声で言う。

「そんなんじゃないわよ。こうして高彬と車に乗るのも久しぶりだから・・・嬉しくて」

なんて言いながらも、心の中では

(それもあるけどさ)

と付け加える。

でも、高彬と一緒に牛車に乗るのが嬉しいって言うのは本当なわけだし、こういうのは嘘とは言わないわよね。

目が合い、もう一度にっこりと笑うと、高彬は諦めたようにようやく笑顔を見せた。

やがて、ゆるゆると牛車が動き出し、しばらくは黙って手をつないでいたのだけど、ふと高彬が思い出したように

「そういえば、今朝、夏から文が届いたんだ」

と話しかけてきた。

「夏から?」

「うん、結婚の報告の文だったよ。先日の宴で琵琶を演奏したろう。それのお礼が書いてあった。お礼を言ってもらえるほどのことをしたわけじゃないのにね」

「・・・・・」

どこまでものんびりと、穏やかな高彬の口調からは何も読み取ることはできないけれど、それでも夏の名を聞くと、心がちくりとするのは何故なのかしら。

別に何がいやなわけでもないのだけれど。

何となく黙り込んでいると、高彬が顔を覗き込んできて、目が合うと小さな接吻をしてきた。

「大丈夫だよ」

そう言いながら、あたしの肩を抱く。

「大丈夫って・・・・なにがよ」

心を見透かされたことが悔しくて、思いっきりむくれて言ったのに、高彬は笑っただけだった。

「瑠璃さん、何度も言うけど、今日は承香殿女御とお会いして、少ししたらすぐに退出するんだよ」

夏の文よりも、そっちの方が気になるらしく、しつこく念を押してくる。

「わかってるわ。帰りも送ってくれるんでしょ?仕事が忙しいようだったら、無理しなくてもいいのよ」

「いや、送るよ。瑠璃さんを三条邸に送り届けないと心配だからね。そのまま、今日は瑠璃さんのとこ泊まるしさ」

さらりと言ったかと思うと、ぱぱぱっと顔を赤らめた。

何、想像してんのかしら。やあねぇ。

確かに、この、夫婦として慣れてきたような、まだ慣れてないような、こういう感覚ってやっぱり恥ずかしい。こそばゆいと言うかさ。

照れ屋な高彬が赤くなるのも無理はないって気がするんだけど、でも、そのくせ寝所ではあれだけ大胆って、どういうのかしら。

殿方って不思議だわ。

ま、あたしはそういう場面での殿方っていったら、高彬しか知らないんだけど。

真面目でお堅い朴念仁で通っている高彬の、寝所での強引なしぐさとか、そういうのって、他の人はきっと想像もできないんだろうな。

ほんと、夫婦っていろんな秘密を共有するものなのねぇ・・・。

なんてことをしみじみと思っているうちに、牛車は早や大内裏に入っていった。






              *******************************************








「瑠璃姫、お久しぶりにお会いできて、本当に楽しゅうございましたわ。もうお帰りだなんて、お名残惜しいですわね」

「高彬が帰りも送ってくれるっていうんですもの。それで、もう約束した時刻になってしまったんです」

女同士いろんなお話をしたり、絵巻物を見たり、まだまだ興が乗っていたところだったので、承香殿女御さまは残念そうにおっしゃったのだけど、それはあたしも同じ気持ちだった。

「後宮は遊びにいくようなところじゃないって、そりゃあ、もううるさくて。今回は女御さまのお誘いをいただいたので、しぶしぶ許してくれたのですわ」

肩をすくめて言うと

「本当に高彬は相変わらずお堅いのですのね。高彬が夫だなんて、瑠璃姫は少し窮屈なのではなくて?」

女御さまはいたずらっぽい目線を送ってきた。

「え・・・・窮屈ってことはないですけど・・・あたしも結構好きにやってますし・・・」

もごもごと答えて、ふと人の気配に気が付いて振り向くと、いつのまに来たのか女房が控えている。

「申し上げます。これより主上がおいでになられます」

「まぁ、主上が」

少し驚いたような声で女御さまがおっしゃり

「瑠璃姫がおいでになることを、昨日、申し上げましたの。きっと、主上も瑠璃姫さまにお会いしたいのではないかしら」

可笑しそうに微笑まれた。

帝か・・・。

参ったな、帝に会ったなんて言ったら、高彬、いやがるだろうなぁ。

あたしは別に会いたいわけじゃないんだけど。

帝って、絶対、根っからの女好きよ。

新手の女に異様に興味を示す人っているのよ。

女房ら数人が、帝の訪問のための準備をあわただしく整え始め、あたしは女御さまにお願いをして御簾の中に入れさせてもらった。

ほどなくすると、ざわざわと人の気配が近づいてきて、やがて帝その人が現われた。







            ***************************************************







御簾の中から目をこらすと、どうやらご訪問なさったのは、帝ひとりではないらしくて、数人の公達も部屋の中に入ってきたようだった。

かなりの身分の公達なのか、それとも、帝のお気に入りの公達なのか、帝と同席しているというのに、打ち解けたムードが漂っている。

ひとり、部屋の端の方に控えている公達がおり、よぉく目をこらすと、それは我が夫、高彬だった。

高彬は有能な公達で、帝からの信任も厚いし、何よりも女御さまは高彬の姉上だし、そんな関係で帝から声をかけられたのかもしれない。

それでも、でしゃばらずに端に控えているのは、いかにも高彬らしかった。

「今日は瑠璃姫がおいでになっているそうですね」

穏やかに女御さまに話しかける声は、以前、聞いた通り、凛々しくて、御簾越しに見る姿はやっぱりいい男だった。

「少しでも瑠璃姫の気配なりを伺えるのはないかと、こうして来てみたのですがね」

御簾の中にいるあたしに流し目を送ってくる。

前も驚いたけど、女御さまの前で、ここまであからさまに他の女への興味を態度に出すというのがすごいわ。

「ふふふ。瑠璃姫はたいそう、恥ずかしがり屋さんなのですわ」

それを笑いながら受け流す女御さまもすごいけど。

あたしは別に恥ずかしがり屋で、帝に対面しないってわけではないんだけどね。

何しろ、高彬が・・・・・。

ちらりと高彬を見ると、帝や他の公達から顔が見られないことをいいことに、案の定、渋い顔をしている。

女御さまも高彬の顔に気が付いたのか、急に笑い出され

「主上。右近少将の顔をご覧遊ばせ。瑠璃姫と対面などさせたら、わたくしは怒られてしまいそうですわ」

その声に釣られて、皆が高彬を振り返り、高彬は見る見る顔を赤らめた。

「少将。お前は少し、瑠璃姫に執心しすぎなのではないか。もう、妻になったのだし、もう少し心を広く持ったらどうかね」

帝がからかうように言い、皆がどっと笑い声をあげた。

もう、女御さまったら。弟を笑い者にするようなこと、おっしゃらなければいいのに。

あたしも高彬のこと、堅物だの朴念仁だのさんざん笑ってはいるけど、でも高彬が他の人に笑われるのって、なんだかいやだわ。

ある者は扇を開き、ある者は脚を組み替えたりしながら、皆がひとしきり笑い、そのせいなのか急に空気が動き、あたしのいる御簾の中にもわずかな風が流れ込んできた。

その瞬間、あたしは(あっ)と声をあげそうになり、あわてて声を飲み込んだ。

嗅ぎ覚えのある匂いが鼻をついたのだ。

この匂いは・・・・いつぞやの文から、立ち上った匂いよ。

結婚後、あたしを人妻と承知した上で、届けられた文。

名前も記されておらず、しかも求愛の文。

その匂いがするということは、この中に・・・・文を寄越した人物がいる・・?!

あたしは、もう一度、目をこらし御簾越しに部屋の中を見回した。





<第十二話に続く>



〜あとがき〜

こんにちは!瑞月です。

突然ですが、瑠璃と高彬の血液型のことです。

最初に読んだ頃は、瑠璃はO型、高彬はA型だろう・・・と思っていたのですが、何度も読んでいるうちに、瑠璃はA型、高彬はO型なんじゃないかと思うようになりました。

高彬って、真面目で細かいこという堅物な割りに、案外、抜けてるところもあるし、図太いところがあるような気がするんです。

実は自信過剰なところもありますしね。

吉野君についての認識も

『本人も初恋の君だといってるし、まぁ、そういうことなんだろう。何年も前に、ほんの一時期、一緒に遊んだだけの淡い初恋の君を・・・・』

なんて言っていて、吉野君のこと「淡い初恋」と言い切っていて、どうも自分の都合のよい解釈をしているんですよね。

「淡い」かどうかなんて、瑠璃にしかわからないじゃないですか(笑)

多分、高彬は、たとえ吉野君が吉野に現われても、瑠璃が結婚するのは自分だと頭から信じていたんじゃないかと思います。

反対に瑠璃は猪突猛進のようでいて、細かいこと気にしたり、繊細だったり。

ふたりを比べたら

高彬はO型・・・・育った環境で(守弥の影響や、役人と言う職種)A型気質が身についた

瑠璃はA型・・・・同じく育った環境で(吉野育ち。乳母もおらずに姫らしい躾を受けずに育った)一見、O型風に育った

という気がします。

もちろん氷室先生が、血液型の設定をしていたかどうかは知る由もありせんが、登場人物の血液型を考えながら読んでみるのも面白いですよね。

読んでいただきありがとうございました。




(←お礼画像&SS付きです)

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