***番外編*** 高彬のジャパネスク・テンプテーション <前編> ***

『なんて素敵にジャパネスク〜二次小説*番外編』











***番外編*** 高彬のジャパネスク・テンプテーション <前編>***






『高彬、あたしは元気です。

高彬こそ、風邪などひいていませんか。

この雨で庭にも降りられないし、毎日、退屈しています。

小萩は、そんなに暇なら筝の琴の練習をしろと言ってくるの。

まるで誰かさんみたいね。

将来、高彬と住むのは楽しみだけど、お願いだからあまり叱らないでね。

お忍びもたまには許してほしいの。7

高彬と一緒ならいいでしょう?

お仕事、がんばってね。   瑠璃 』






今さっき、届いたばかりの瑠璃さんからの文を、ぼくは何度も読み返した。

この雨で瑠璃さんは、かなり退屈しているらしい。

雨の打ちつける庭を眺めながら、小萩相手にふくっれつらをしている瑠璃さんの顔が浮かんでくるようで、なんとも微苦笑を誘われる。

『高彬と住むのは楽しみだけど、お願いだからあまり叱らないでね』か・・・。

ぼくに釘を刺し、さらにはちゃっかりとお忍びの約束まで取り付けてくるんだから、やっぱり瑠璃さんにはかなわない。

一緒に暮らすようになったら、ぼくも相当、気を引き締めていかないと、瑠璃さんを甘やかしてしまいそうだな・・・。

「高彬さま、もうじき、北の方さまがこちらにご機嫌伺いに参るとのことですわ」

「母上が?」

瑠璃さんとの生活を思い描いて楽しい気分でいたところに、突然、大江に声をかけられて、ぼくは憮然と返事をした。

「はい、小半刻ほどしたら、参りますとのことでした」

「大江、なんか適当な理由をつけて断ってくれよ。頭痛がするとか、なんとかいってさ」

脇息に寄りかかりながら言うと

「いけませんわ、高彬さま。そのようなことを申されたら、また『三条邸での生活が身体に障ったのではないか』などと言われてしまいますわ」

・・・それもそうだ。

体調不良などを訴えたら、すべて結婚生活や瑠璃さんのせいにされて、ネチネチと嫌味を言われるに決まっているんだ。

ぼくはしぶしぶと脇息から身体を起こした。

「どうして母上は、いつまでたっても瑠璃さんとの結婚を認めてくれないんだろうな」

母上を迎えるために、部屋を整えている大江に声をかけると、ふと手をとめて

「それはやはり、高彬さまがお可愛いいのでございましょう」

にこっと笑いながら言う。

ぼくは首をすくめた。

「可愛いっていっても、ぼくだってもう十七で、結婚するのには充分な年齢なんだけどな」

「それに、北の方さまは、瑠璃姫さまをきっと誤解なさっておいでなのだと思いますわ。世間の評判どおりの変わった姫さまとしか見ていらっしゃらないのですもの」

大江はじれったそうに言った。

大江は瑠璃さんと直接会って、話もしているから、はっきりと瑠璃さんの理解者というかファンで、この右大臣家で、ぼくらの結婚を手放しに喜んでくれているのは、大江と乳母の按察使なのだ。

守弥は前ほどあからさまな反対の姿はとらないまでも、やっぱり言葉の端々には快く思っていないことを匂わせるし・・・。

なんだか、いまだに前途多難なんだよなぁ。






           
          *************************************************






「高彬さん、失礼しますわ」

やがて、ざわざわと人の渡ってくる気配がして、母上が部屋に現われた。

ぼくは我知らず、居住まいを正した。

ここからは迂闊なことは言えない。

「ほんとうによく降る雨ですわね」

母上はそう言いながら、ぼくの前に座った。

童の頃ならともかく、この歳になると母親と面と向かって話をするというのは妙に気まずいものだし、ましてや、どうせ最後は瑠璃さんとの結婚の愚痴になるのがわかっているだけに、気まずさを通り越して、いっそうっとおしい。

母上は、荘園から送られた布の染めの出来がどうの、承香殿女御のお里帰りが少ないのがどうの・・・と長々と話したかと思うと

「高彬さんは、心ここにあらずでいらっしゃいますのね。さきほどから、全然、この母の話を聞いていらっしゃらないではないですか」

ふいに攻撃をしかけてきた。

「い、いえ、そんなことは。きちんと、聞いております」

ぼくは慌てて、背を伸ばした。

「高彬さんは昔はこんな風ではありませんでしたわ。母の話を、それはそれは熱心に聞いていたものです。それが結婚をした途端、母をないがしろにするようになって・・・・ほんとうに哀しゅうございますわ」

母上に気づかれないように小さなため息をつく。やっぱりでたな、と言う感じだ。

童の頃と、今を比べられても困るし、第一、そもそも布の染めにしても、姉上のお里帰りにしても、ぼくにとっては大して興味のある話題ではないのだ。

それは結婚前からそうだったのだが、母上はすべてを「結婚したことによりぼくが変わった」と決め付けている。

母上は心なし、膝を進めた。

「高彬さん、前にも申しましたが、今一度、申し上げますわ。名のある貴族の公達が、妻ひとりということはございませんわ。権大納言、源実伴どのからは何度も、高彬さんを三の姫の婿君としてぜひお迎えしたいという、内々の打診をいただいておりますのよ。ぜひお考えなさいませ」

「母上。ですから、ぼくはもう結婚をする気はありませんて」

扇を弄びながらうんざりして言うと、母上は大げさにため息をついて見せた。

だけど、ため息をつきたいのはぼくのほうだ。

結婚するというのは、童の頃に一緒に野摘みに行くのとはわけが違う。

夫婦として、つまりは男と女の契りを持つということだ。

ぼくが瑠璃さん以外の女性を妻に持つ気がないということは、つまりは・・・そういうことなのだ。

ぼくは瑠璃さん以外の女性に魅力を感じないし、契りたいとも思わない。

さすがに母親にあからさまにそういうことは言えないし、でも、母上だって結婚しているのだし、どうしてわかってくださらないのだろう。

確かに現代では何人もの妻を持つことが認められているし、そういう中ではぼくは相当の変わり者といえるのだと思う。

だけど、こればかりはしょうがないではないか。

母上の話はまだまだ終わりそうになく、ぼくは扇に隠れて大きなため息をついた。







          **************************************





今日は宿直の日だ。

普段はあまり嬉しくない宿直も、忌み月で瑠璃さんのところにいけるわけじゃないし、かといってうちに帰れば母上の愚痴を聞かされるしで、こんな日の宿直は大歓迎というものだ。

近衛府の詰め所から宿直の部屋に向かおうとすると、女官がやってきて

「右近少将さまに申し上げます。主上が清涼殿でお呼びでございますわ」

伝言を伝えにきた。

「今上が?」

この時間、通常、政務は終わっているし何事だろう・・・と胸騒ぎを感じつつ、急ぎ、清涼殿に参り侍ると

「来たか、高彬。待っていたぞ」

今上のお声がかかった。

ぼくの心配をよそに、今上のお声は晴れやかで、何か問題やお悩みがあるようには感じられない。

「実はな、高彬。今日はおまえにちょっとした相談があるのだ」

「は」

ぼくごときにご相談とは・・・

「いや、そう堅くなるな。相談があるのはわたしではない」

「は・・・」

「こちらの女房が、おまえにぜひ相談したいことがあると申してな。相談に乗ってやってくれないか」

そのお声が合図だったかのように、几帳の陰からひとりの女房が現われた。

「式部どの・・・・」

現われた女房は式部と名乗るぼくも良く見知っている女房で、確かぼくよりも少し年上で、女官としての歴もそれなりにある中堅所だ。

その女官がぼくに相談とは、いったい何だろう。

わけがわからずにいると、今上はいつの間にか退出されていて、部屋には式部とぼくのふたりきりになっていた。

「少将さま、こんな風にふたりきりになれる機会を待っておりましたのよ」

式部がついと近寄りながら言う。

「はぁ・・いや、あの、わたしに相談とは・・・」

「えぇ、ちょっとしたご相談事がありますの。ここではなんですので、わたくしの局にお越しくださいませ」

「い、いえ、あの、わたしは今日は宿直でして・・・」

「そんなにお時間は取らせませんわ」

そういうと、ぼくの手を取るようにして立ち上がり、さっさと局へと連れて行かれてしまった。

式部が後ろ手に引き戸を閉めると、当然ながらそう広くない女房部屋には、ぼくと式部のふたりきりとなる。

それまで式部のペースだったぼくは、突然、我に返った。

「式部どの、このような場でふたりきりでいるのは、あらぬ噂の元となります。わたしはともかく、女の身のあなたに不名誉な噂が立てられるのは、あまり歓迎できることではありませんね。相談ならば他で聞きましょう」

「わたくし・・・好きな人がおりますの」

ぼくの話を聞いているのかいないのか、式部は突然、話し出した。

恋の相談か・・・。ぼくの最も苦手とする内容ではないか。

「ですから、他の場所で・・・」

「でも、その方はもう結婚されているのですわ」

ぼくの話など、てんで聞く気がないらしい。

「そうですか・・・あなたはまだ若くて美しいし、まだまだこれから他の殿方との出会いもありましょう」

「いいえ、わたくし、その方でないといやなのですわ」

「困りましたね」

半分、やけくそで答える。

「その方は幼き頃からひとりの姫を思い続け、ついにご結婚されたのですわ。それはそれは誠実なお方ですのよ」

「・・・・・」

「その方は主上の覚えもめでたい有能な武官で、わたくしずっとお慕い申し上げておりましたの」

つ、つまり、それは・・・

「少将さまっ・・・」

式部が突然、抱きついてきた。

「うわっ!し、式部どの・・」

反射的に両手を上げたぼくは、情けないことにうろたえてしまった。

「少将さま・・・」

式部はぼくの目をじっと見たまま、無理やりぼくの手をとると、そしてそのままその手を、あろうことか自分の胸元へとあてがった。

式部の目は妖しく光り、少し開かれた唇に塗られた紅が、灯台の明かりをうけてぬらりと輝いている。

そういえば、いつだったか、噂を聞いたことがある・・・式部どのは好色もので、あちらこちらの公達を渡り歩いていると・・・・

式部がふと笑ったかと思うと、ぼくの手を自分の単の合わせに滑り込ませた。

「し、式部どの!」

とっさに手を引き抜いたぼくを見て、式部は艶な笑みを口元に浮かべ

「少将さま、夜は長うございますわ。どうか、この式部に情けをかけてやってくださいませ」

再びぼくの手を取り、両手で包み込むと、ぼくの指先に唇を押し付けてきた。




                     <後編に続く>

〜あとがき〜

こんにちは、瑞月です。

高彬はきっと後宮で人気があったのではないかなぁ〜と思います。

近衛の少将と言ったら、花形ポストですからね。

内裏の女房は、現代に置き換えたら一流企業のOLさん。

その中でも、後宮で帝や女御に仕えている女房は、今で言う秘書みたいな立場だったのだと思います。

別にその人自体はえらくはないけど、えらい人とつながっているから、なんとなく皆が一目置いてしまう、とかそんな感じだったのではないでしょうか。

サラリーマン(公達)たちと、たくさんの恋模様があったと思います。

真面目な職場結婚もあったでしょうし、アバンチュールもあったのでしょう。

現代に置き換えて考えると、千年も前のことが、なんだかものすごく身近に感じてしまいます。

遊び人あり、堅物あり、お調子者あり・・・喜怒哀楽のある、みんな、同じ人間なんだよな〜という感じで。

読んでいただきありがとうございました。

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Secre

Unknown

瑠璃さんの文、可愛いですねv
こんな文をもらったら、高彬も甘やかすしかないですよね~(爆)
鷹男ったら、こんなやる気満々の女官と引き合わせるってヒドイ(笑)
でも、高彬のうろたえぶり楽しいで~す♪

Unknown

はじめまして。中学高校時代から20年ぶりくらいにジャパネスクと再会して、またもや高彬に熱をあげています。
私がコバルト文庫にはまっていた時も一番惚れ込んだキャラクターは高彬でした。結局20年経とうが好みや感性って変わらないんですね。
そして二次小説の存在を知り、ここ何日か端月さんの高彬に、アイロンをあてていてもウットリし鍋を洗っていてもウットリしています。おかげ様でここのとこ晩御飯も手抜きですよ~。
それはそうと、人妻編の10巻に出てくる鳶丸は二条堀川邸にちゃんと帰れたんですかね?
瑠璃に「鳶丸はここにいて」と言われてから登場してきてない気がするのですが。
慈光寺が炎上して瑠璃を探しに行き、火事に巻き込まれていないか結構心配なんです。キリッとした男前だけに。

端月さんの高彬、これからも毎日会いにきますね!

ではでは、長々と失礼いたしました。

>薫香さん

そうですよね、鷹男、ひどい(笑)

>こんなやる気満々の女官

これ、笑いました。
やる気まんまんって・・・(笑)そのまんまじゃないじゃないですか~!

>こゆきさん

はじめまして!コメントありがとうございます。
こゆきさんも高彬派なんですね♪
お仲間が増えて嬉しいです。

確かに原作を読むと「あの人は今頃・・・?」と思う人がいて、それがまた妄想の元になったりするんですよね。

アイロンはくれぐれも火傷にご注意なさってくださいな(笑)
また、ぜひ遊びに来てくださいね。

Unknown

原作では高彬はモテないような書き方をされてますが宮中ではモテたと思うんですよね(‘o‘)ノ
高彬自体が瑠璃一筋だったので気がつかなかっただけなんだと思うf^_^;

ところで前から思ってたのですが端月さんは高彬に対してドSですねo(`▽´)o
初夜をお預けにしたり、鷹男を使ってからかったり、今回みたいに女性を使って困惑させたり(^w^)

少しはお手柔らかにしてあげて下さい(笑)

>まこさん

>端月さんは高彬に対してドSですね

そう言われればそうですね(笑)
でも、愛ゆえ、ですよ~、愛ゆえ。

それに順風満帆で、困ってもいず、振り回されてもいない高彬なんて、らしくないじゃないですか。

でも、ほら、瑠璃と結婚できたんだし、ちゃんといい思いもさせてるってことで・・(笑)
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