***新婚編***第十話 煌姫の相談***

『なんて素敵にジャパネスク〜二次小説*新婚編』




         


***新婚編***第十話 煌姫の相談***










「姫さま、煌姫さまがお会いしたいということでございますが・・・」

「ふぅん・・・煌姫が。わざわざ聞いてくるなんて珍しいわね」

煌姫とは、権少将に夜這いをかけられそうになったのを助けてもらったときから急速に親しくなり、今では先触れもなしに気軽に行き来をする仲になっていたので、こんな風に女房を介して確認をとってくるなんて、珍しいことだった。

「いいわよ。暇だし、お通しして・・・あぁ、やっぱりあたしが行くわ」

どうせ長雨で退屈してたんだし、煌姫の部屋に出向くのはいい気分転換になるわ。

あたしは立ち上がると、さっさと簀子縁に出て渡殿を歩き出した。

いくつかの角を曲がり、やがて東北の対屋の煌姫の部屋についた。

「煌姫、いい?」

ひょっこりと部屋の中に入っていくと

「まぁ、瑠璃姫。こんなに早く、おいでくださるとは。あなたって本当に行動的と言うか、軽はずみな方ですのねぇ」

誉めてるんだかけなしてるんだかわからない煌姫の言葉が返ってきた。

ま、もう、なれたけどね、この人のこういうのには。

本音勝負で美辞麗句を言わないあたり、似たもの同士ってことよね。

そこが付き合いやすいところでもあるわけよ。

「あたしに何か話があるんですって?」

言いながら、煌姫の前に座って改めて煌姫を見ると、ほんのりと桃色の肌といい、重たげな豊かな黒髪といい、ほんと美人だわ、この姫。

ひとえに零落した宮家の姫ってことで、都の公達どもの興味を引かなかったんだろうけど、もしも、煌姫が兵部卿宮の二の姫みたいに、家の財力がしっかりしていたら、さぞかし公達たちの噂になっていたんだろうと思うわ。

煌姫の身の不運というか、そもそも結婚を出世の道具として、少しでも財力があり宮廷でも後押ししてくれそうな家柄の姫と結婚を、と考える輩が多いのが情けないのよ。

恋や結婚を、そんな風に出世に結び付けて考えるなんて卑しい考え方だわ。

恋って、結婚って、もっともっと素敵なもののはずよ。

さきほどの高彬からの手紙を思い返しながら、こもごも考えていると

「ねぇ、瑠璃姫。あなた、つい先ほど、都や宮廷でちょっとした話題になりましたでしょ?」

煌姫がつややかな声で切り出してきた。

「話題って・・・もしかして、あたしが懐妊したとか、そのこと?」

憮然と言うと、未婚の煌姫にはさすがに恥ずかしいのか、ぽぅと頬を染めたりして、そんな姿もなかなか艶っぽい。

いくら結婚してるとは言え、懐妊したとかそういう話題は、そりゃあたしにだって恥ずかしい話題だけど、でも、それよりもこの件に関しては腹正しさが先にくるのよね。

もう、高彬のアホったれ!変な早とちりしちゃってさ。

「えぇ・・・そのことなのですわ。ときに瑠璃姫、あたくし付きの女房の若狭のことはご存知でいらして?」

「えぇ、知ってるわ」

煌姫を三条邸に預かるとき、煌姫たっての希望で、乳母の外記と、その娘の若狭も一緒に引き取ったのである。

「その若狭がどうかしたの?まさか懐妊でもしたの」

「いいえ、そうではありませんわ。実は、若狭の知り合いの女房仲間がお仕えしている姫君のことなのです。姫君と言うか、北の方なのですけど。その北の方が、その・・・・結婚して何年たっても・・・つまり・・・なかなか御ややが・・・そのう・・・授からなくて・・・」

「ふぅん、そうなの・・。それで?」

「それで、その姫君はたいそうお悩みなのですって。ひそかに加持祈祷もさせたり、お寺に詣でたりもしたそうなのですけど、ご利益もないそうですわ」

「ひそかにって・・・女の身でおひとりで?」

「えぇ、夫である殿方にも相談できずに、おひとりで抱え込んでいるらしいのですわ」

「まぁ」

あたしは息を呑んでしまった。なんだかおいたわしい話だわ。

現代の決まりごとのひとつに、結婚して、もし御ややを授からなかったら、夫は妻に一方的に離縁を言い渡してもよいというものがある。

最初にそれを知ったとき、あたしは怒髪、天を突いたわよ。

御ややを授かるも授からないも時の運で、それは誰のせいでもないはずだし、ましてや女の人が一方的に責められることではないはずよ。

まったく今どきの男どもは、女を、結婚を、なんだと思っているのさ。

高彬は今はまだ、御ややを積極的には欲しがってはいないけど、もし、将来、御ややが授からなかったとして、何か文句でも言ってきたら、さっさとこっちから離縁してやるわ。

「それで、その女房はいまだに瑠璃姫は懐妊しているものと思い込んでいるみたいで、どうして結婚後すぐに授かったのかを、そのぉ・・・」

「何かコツでもあったら知りたい、と、そういうわけ?」

ズバリ言うと、煌姫は一瞬、顔を赤らめながらも、深く頷いた。

あたしの懐妊騒動は情報があれこれ錯綜してたし、いまだにあたしが懐妊したと思ってる人がいてもおかしくはないわけなんだけど・・・。

確かに巷には懐妊に関する、いろんな信仰と言うか言い伝えがあることはあるの。

どこそこの水を飲むと御ややを授かるとか、どこそこの湯治がいいとか。

その女房は主人である姫君のために、何かよい情報がないかと思って、若狭のツテを頼ってあたしに聞きたいというわけなのね。

女房たちのネットワークってほんとすごくて、その情報量といい伝達される速さといい、日がな一日部屋に閉じこもってる貴人なんかより、なんぼか上なんだから。

高彬の母君がいろいろ高彬に吹き込んでるらしいってことだって、大江→小萩ルートであたしの耳に入ってきたことだしね。

それはともかく、その悩んでいる姫の力になれるものならなってあげたいけど・・・。

「コツっていってもねぇ・・・あれは高彬の勘違いで懐妊してなかったわけだし・・・」

ついつい歯切れが悪くなってしまう。

同じ女として、その姫君の立場を思うと同情してしまうわ。

「で、その姫君は、御ややができないことをダシに離婚でも迫られてるの?だとしたら、その夫ってとんでないやつじゃないのさ」

「いえ、そういうわけではないそうですけど」

「ふぅん・・・。ならいいけど。ところで、その姫君はなんというお方なの?」

名前を聞いたところで、どこの姫かなんかわからないだろうけど。

「確か・・・」

煌姫はふと考え込む顔をしたかと思うと

「絢姫・・・・そう、絢姫さまと言うのでしたわ。帥の宮という宮さまとご結婚されて、二条あたりにお住まいだとか」

「宮さまねぇ」

「お優しい婿君さまだそうですわよ」

あたしは身分や家柄なんて元から気にしていないから、宮家って聞いてもなんとも思わないんだけど、落ちぶれているとはいえ、自分が宮家の煌姫は、ただもう宮さまってだけで好印象を持っているみたいだった。

いくらお優しいからって、妻をひとりで悩ませているようではだめよ。

「コツなんて伝授できないけど、なんならその帥の宮って方に一言二言、言ってやろうかしら。御ややができないことで妻を悩ませてうようじゃ男として失格よ、ってさ」

息巻くと、煌姫は慌てたように

「いえ、瑠璃姫。このお話はあくまでも内密な話なのですわ。その女房は絢姫にだって言ってはないそうですから。ですから、そんな波風を立てるようなことはおよしになって」

と取りなしてきた。

あたしは肩をすくめた。

「じゃあ、あたしができることってないわね。絢姫も心を強く持って、悩みがあるのなら夫にでもなんでも相談しなきゃ。言わなきゃ気づいてもらえないわよ。男なんて、すぐにいい気になるんだから」

高彬だって、そうよ。

すきあらば「もう一回・・」なんて、すぐに言い出してさ。

まぁ、ちょっと意味が違うけど。ふふふ。

いけない、つい頬が緩んでしまうわ。

「皆が皆、あなたのように勇ましい姫なわけではありませんからね。あたくしは、おひとりでお悩みになっている、なよやかな絢姫さまのお心がよーくわかりますわ」

よっく言うわよ、二階厨子を投げつけたくせにさ。

あたしなんかよりよっぽど勇ましいくせして、「なよやか」が聞いて呆れるわよ。

「それにしても・・・・女って窮屈で生き辛いものですのねぇ・・・」

己が人生を省みて思うところがあるのか、やけに煌姫がしみじみと言い、確かに現代では女は思うにならないことが多く、あたしも思わず大きく頷いたのだった。





<第十一話に続く>



〜あとがき〜

こんにちは、瑞月です。

煌姫は大好きなキャラなので、久々に登場してもらって楽しかったです。

絢姫、帥の宮の名前も出てきて、ほんの少しだけ物語が動き出します。(と言っても、事件とか陰謀ではないので、期待はしないでください・・・)

のんびりの更新になるときもありますが、ごゆるりとお付き合いいただければと思います。

次回は高彬の番外編を予定しています。

読んでいただきありがとうございました。


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コメントの投稿

Secre

こんにちは~

瑞月さん、こんにちはv

煌姫ってほんといい味出してますよね♪
煌姫を書いていると、なんかワクワクしちゃうんですよね(笑)

絢姫もご出演しそうで、すごくワクワクしています。
帥の宮もかなりの遊び人のようですが、どうなるのでしょうか?

次の更新は番外編ということで、こちらも楽しみにしてますね♪

Unknown

逞しくて素敵な姫ですよね
私も大好きです

>アルシュさん

こんにちは!
氷室先生の書く、煌姫の主役の話、読んでみたかったですよねぇ♪
ある意味、瑠璃よりぶっとんだ姫かも(笑)

>kaoruさん

kaoruさんも煌姫がお好きなんですね。
人妻編では、主役の瑠璃がかすむほどの活躍をみせてくれましたね。
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