***短編*** <続>通り雨 ***

『なんて素敵にジャパネスク〜二次小説』






注)このお話は「通り雨」の続きものです。
               
        






***短編*** <続>通り雨 ***







「瑠璃さん、じゃあ、もう行くから」

「うん・・」

朝まだ明けきらぬ寝所には、それでも格子から薄明るい光が入ってきている。

単衣姿でうつぶせのままの瑠璃さんの髪を耳に掛けてやり、そっと耳元で言うと、瑠璃さんは目を閉じたままコクンと頷いた。

「雨・・・、まだ降ってるの?」

確かに昨夜、床に就いた時には屋根に当たる雨の音がしていて、その雨音と瑠璃さんの切なげな吐息が絡まりあってぼくの耳に届いていた。

「どうかな。今は雨の音は聞こえないけど、でも、少しは降っているかも知れないね」

「雨が上がってから行けばいいのに・・」

「今日は少し早くにいかなければならないんだ」

「・・そう」

「じゃあ、行ってくるよ」

最後に額に接吻をして立ち上がり、妻戸を開けると、心得顔の小萩が控えていた。

「早くに済まないね」

「いいえ」

小萩は笑顔を浮かべ頭を横に振ると、静かに渡殿を歩き始めた。

細い糸のような雨がまだ降っている。

昨夜来の雨が花散らしの雨になってしまったのか、地面には桜の花びらが落ちており、水溜りはさながら<花びら溜り>の様相を呈している。

庭に目をやりながら歩いていたぼくは(あれ)と首を捻った。

大きな桜の木の下に、ずいぶんと小さい桜の木がある。

小さいながらもいくつか桜の花を咲かせており、それがなかったら桜の木だなんて気付かないくらいの小さくて背の低い木だった。

「あんなところに、あんなに小さな桜なんて前からあったかな」

不思議に思って前を歩く小萩に聞くと、小萩は歩を止めぼくの指さす方に顔を向けた。

しばらく目を凝らすと

「あぁ、あれは・・、いつだったか、姫さまがお植えになった桜ですわ」

「瑠璃さんが?」

「はい。まだ少将さまとご結婚なさる前ですわ。姫さまが満開の桜の枝を、水差しに入れてお部屋に飾っていたことがあったのです」

「・・・」

「花も枯れたのでお捨てになるかと思っていたら『植えて見る』と仰られて・・」

「・・・」

「数日前に庭師が灌木の剪定に入ったので、きっとそれであの桜の木が少将さまのお目に留まったのだと思いますわ。今まではここからだとちょうど隠れて見えておりませんでしたもの。あ、少将さま・・・どちらへ・・・」

「悪いが出発が遅れると、従者たちに伝えてくれないか」

「少将さま・・」

瑠璃さんの部屋へと引き返すため歩き出しながら、背中越しに小萩に言う。

妻戸を開け部屋に入って行くと、さっきと同じ格好で瑠璃さんは眠っていた。

「瑠璃さん」

耳元で囁くと

「高彬・・・、どしたの、忘れ物?」

瑠璃さんは(うぅ・・ん)と寝返りを打つと、寝ぼけ眼で言ってきた。

「桜の木」

「・・・え。桜・・?桜が忘れ物?」

「いつかの桜の枝、植えてくれてたんだね。咲いてたよ」

「・・・」

何の話をしているのかようやく分かったのか、瑠璃さんの目の焦点が段々と合ってきた。

ゆっくりと起き上がり、ぼくと向かい合うと

「庭師に聞いたら、枝を土に差しておけば根が付くこともあるって言われたの。だから、一応、植えて見たの」

「・・・」

「ずぶ濡れになって届けたくれた桜だったから、何だか捨てられなかったのよ。大切な桜なのかな、なんて思って」

「・・うん」

「それにね、今だから言うけど・・・」

いったん言葉を切ると、瑠璃さんは恥ずかしそうに笑い

「あたし、あの桜をもらった時、一瞬、ドキッとしたの。もしかしたら、これってプロポーズ?なんて思って」

「え・・」

「ほら、あたし、童の頃、菫の花をもらったでしょ、吉野君に。だから花をもらう、イコール、プロポーズって勝手にイメージが出来ちゃってたみたいなの」

「・・・・」

「でも、あんたはずぶ濡れだし、しかもぶっきらぼうに差しだすだけだし、あぁ、これは違うなってすぐに思ったけど。こんな素っ気ないプロポーズなんてあるわけないわよね、って」

「・・・結婚の約束忘れてたくせに、よく言うよ」

言い返してやると

「ほんと、そうよね」

ふふふ、と瑠璃さんは小さく笑った。

だけど、こそばゆいような気持ちになる。

何だ、あの日のぼくの気持ちはちゃんと瑠璃さんに届いていたんだ・・・

「だけど、今、高彬に言われるまで、正直、桜を植えたことなんか忘れてたわ」

「うん、ぼくもあげたこと忘れてた」

目が合って、声を出さずに、2人で笑い合う。

思ってることは、瑠璃さんもぼくもきっと同じだ。

───それはきっと今が幸せだから・・・

抱き寄せると、瑠璃さんはすっぽりとぼくの胸に収まり、そうして背中に腕を回してきた。

「気を付けて行ってきてね・・」

「雨が上がってから行くことにしたよ」

「え」

「だから、もう少し時間がある」

「・・・」

そう。

雨はいつか上がる。

雨なんて全部、通り雨だ。

願わくば、今日のこの通り雨が少しでも長く降り続いてくれることを───

ぼくはそっと瑠璃さんを横たえたのだった。






<終>


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ベリーさま

ベリーさん、こんにちは。

> 高彬の思いはちゃんと伝わっていたんですね〜 プロポーズと思った瑠璃、間違ってなかったですよね

瑠璃は勘は良いはずですし、何かしら伝わるものはあったんじゃないかと思います。
(約束は忘れてましたけどね)

> 瑠璃さんを思って馬に乗って雨の中を濡れながら走る高彬もいいですねー!

かっこいいですよね!ザ・青春?!

高彬の思いはちゃんと伝わっていたんですね〜 プロポーズと思った瑠璃、間違ってなかったですよね
瑠璃さんを思って馬に乗って雨の中を濡れながら走る高彬もいいですねー!
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