*** 筒井筒のお約束をもう一度 <again and again -2/3->

『なんて素敵にジャパネスク〜二次小説』

 

※このお話は初夜編(完結済み)のパラレルです。3話完結。
                        







***  筒井筒のお約束をもう一度<again and again -2/3-> ***  







春まだ浅いと言うのに、じっとりと背中が汗ばんでいる。

右大臣邸へと向かう牛車の中、もう何度目かわからないため息をついた。

今日ばかりは、牛車のこの緩やかな進みが恨めしいわ。

高彬が記憶を失ったと聞いたのが2日前。

取るものも取りあえず急ぎ帰京してみたら、三条邸は混乱の極み、と言う様相を呈していた。

父さまに取って高彬は大切な婿君だったし、融に至っては童の頃からの大の親友。

2人はあたしの顔を見るや否や

「瑠璃や!」

「姉さん!」

と飛びついてきた。

「高彬どのが、高彬どのが・・」

「姉さん、何か詳しいこと聞いてないの?」

口々に言われ

「吉野から今帰ってきたばかりのあたしが、何か知ってるわけないでしょう。あたしが聞きたいくらいなんだから」

「そ、そうか・・・」

父さまも融もシュンとし、どうやら2人の元にも詳細は届いていないみたいだった。

右大臣家でのあたしの評判は悪いみたいだし、そもそも結婚に難色を示していたことを思えば、詳しいことをわざわざあっちから教えてくれるなんてことはないのかも知れない。

「このまま破談にでもなったら・・」

父さまはブツブツ言い、あたしもそこが気にならないと言えばウソになるけど、でも、それよりもやっぱり高彬のことが心配だった。

記憶を失ったなんて・・・

高彬、どうしているんだろう。

「姉さん、高彬のとこに行こうよ」

「え、どうやって」

「ぼくがお見舞いに行くからさ、姉さんも牛車に同乗すればいんだよ。なんだかんだ理由を付けて庭先まで車を付けてもらうようにするから」

「融・・・」

融はすぐに先触れを出し、こうして二人で右大臣邸に向かっていると言うわけなんだけど・・・

仮にも内大臣家の子息と言う事で、融の申し出はすんなりと聞き入れられ、車は高彬の部屋の庭先に横付けされた。

「ぼくはここで待ってるよ」

姉思いの融の言葉に後押しされ、簾を巻き上げて簀子縁に下り立つと

「瑠璃姫さま・・」

大江が出迎えてくれ、そのままヒシっとあたしの腕を掴んできて、あたしたちは黙って見つめ合った。

言葉がなくても、気持ちはお互い手に取るように分かる。

「こちらへ・・・」

大江に招かれ部屋に入って行くと、部屋の中央に脇息に寄りかかるようにして高彬がいた。

「・・・・」

本当に見た目は普段通りで、入ってきたあたしを見ると姿勢をただし、でも黙ったままだった。

そうして静かな目であたしを見ている。

前に座り、しばらく沈黙が流れ、最初に口を開いたのは高彬だった。

「失礼ですが・・、お名前をお聞かせいただけないでしょうか」

「・・・・」

ぐっと奥歯を噛みしめる。

───仕方ないじゃない。みんな忘れてしまってるんだから。

分かってるんだけど、やっぱり涙が出そうになった。

慌てて目を瞬かせ涙を引っ込めると、あたしはにっこりと笑った。

「瑠璃、よ。藤原瑠璃」

「瑠璃姫・・」

「弟の融はあなたの親友で、あたしたちは童の頃からよく遊んでいたの」

「童の頃から・・」

「そう。それでね」

いったん言葉を切ると、あたしは息を吸った。

「それで・・・、あたしたち、婚約者なの」

「・・・」

じっと高彬の目を見ても大きな変化はなく、ふっと目を逸らすと

「申し訳ない。本当に何も思い出せなくて・・・」

申し訳なさそうに言葉を濁した。

「うん。そうよね・・・」

また涙が出そうになったけど、目の前の高彬を見てるうち気が変わった。

一番、辛いのは高彬なんだもん。

あたしがメソメソしてる場合じゃないわ。

にっこりと笑うとあたしは明るい口調で

「とにかく大きな怪我がなくて良かったわ。命に別状がなかっただけでめっけもんよ」

「・・・」

「きっと、そのうち記憶も戻るわ」

「・・そうだろうか・・」

「そうよ。あんまり焦っちゃだめよ。あんた・・、あなたは真面目で何でも自分で抱え込んじゃうところがあるから、辛い気持ちは誰かに聞いてもらわなきゃだめよ」

「・・・」

「たくさん食べて、良く寝て。そうすればきっと、いいことがあるわ」

「・・・」

言いながら、何だか最後の伝言みたいだわ、なんて自嘲気味に考える。

まるで、もうこれっきり、高彬と会えないみたいなことばかり言ってる・・・

「深刻な顔してたって記憶が戻るわけじゃないんだし、なるべく明るくしているのよ」

言いながら言葉が震えてきてしまい、慌てて笑顔を作った。

「あなたは回りからの信頼も篤いし、すごく良い人なの。仕事も出来るし。だから自信を持っていいわ」

「・・・」

「じゃあ、あたし、もう行くわ」

立ち上がり、部屋を出るところで立ち止まり、少し迷って振り返った。

「・・元気でね」

高彬が小さく頷いたようにも見え、あたしはそのまま妻戸を開けて外に出た。



*******



少しして、高彬が兵部卿宮家の二の姫と結婚をすると言う噂が耳に入って来た。

その話を聞いても、案外とあたしの心は静かだった。

どこかで、そういうことになるだろうな、と思っていたからかも知れない。

通い婚の現代、殿方の方にその気持ちがなければ結婚が成立するわけもなく、高彬があたしのことを忘れてることを思えば、高彬があたしのところに通ってくることなんかあるはずもなかった。

右大臣家は最初から二の姫との婚姻を希望してたんだし・・・

いくらあたしがはねっ返りとは言え、高彬を攫いに行くことは出来ないし、また、そうすることが高彬の幸せだとも思えなかった。

高彬が二の姫と結婚をすると言う夜、あたしは静かに灯台の火を見ながら過ごしていた。

考えるのは高彬のことばかりで

(わがままばかり言ってたなぁ)

とか

(高彬はいつも優しくしてくれてたっけ・・)

とか、そんなことばかりを思っていた。

でもやっぱり一番に思うのは、高彬には幸せになって欲しい、と言うことで───

カタン。

ふいに妻戸の開く音がして、同時に灯台の火が揺れた。

ハッとして顔をあげると───

高彬が立っていた。






~<again and again -3/3->へ続く~


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Secre

ベリーさま

ベリーさん、こんにちは。

> 高彬から瑠璃をとったらただの公達。。。

ちょ、ちょっと!ベリーさんたら(笑)
高彬には、二の腕があるじゃないですか!(え?そこ?)

> こうやって読むと、高彬の魅力って瑠璃にゾッコン(古!)だから倍増されるんですね!

確かに瑠璃一筋は、高彬の大きな魅力には違いありませんよね。
浮気性の高彬とかイヤですもんね~

> それにしても、記憶喪失をいいことにニノ姫との話を進めるとは、、、あいつの仕業だな!

あいつとはもしやM弥?
ふふふ、ここまで信用がないM弥、いっそ清々しいですね!(笑)
さてさて、守弥の動向はいかに??

またお付き合いくださいませ~。

非公開さま(Mさま)

Mさん、こんにちは。

高彬が記憶喪失バージョン、やっぱり妄想しましよね~。

>筋金入りの妄想族ですから

Mさん、いいネーミングが浮かびました!
『プレミアム妄想族』
いかがでしょう?
限られた妄想族にしか与えられない称号、それが『プレミアム妄想族』・・・
各方面から「いらなーい」と言われそうではありますが!
勝手ながら、Mさんに授与させていただきました。(過去形・拒否権なし・決定事項)

完結編、後ほどアップしますのでまたお付き合いくださいませ~。

木の葉さま

木の葉さん、こんにちは・

> それに引き替え、守弥とか、守弥とか、やっぱり守弥とか、

どこを切っても守弥が出てくる「金太郎飴・守弥」!
売れ残りそうですけどね(笑)

> 弱ってる人間目の前にして、ここぞとばかりにはりきって結婚話を進めたことでしょう。

守弥の動向はいかに?!
お楽しみくださいませ~。

> 顔が良くてもモテない男間違いなしです。

木の葉さんったら、そんなにきっぱりと(笑)
確かに守弥って「残念なイケメン」と陰で言われてそうな人ではあります。
瑠璃にも「あいつには声以外、取りえがないのか」とか言われてましたもんね。

木の葉さんは社会人編をお気に召して下さっているのですね~。
ありがとうございます。
そろそろ話しも佳境に入りますので、またよろしかったらお付き合いください。

高彬から瑠璃をとったらただの公達。。。
いい人止まりになってしまうのだな!(いい人でも全然いいんですけど)
こうやって読むと、高彬の魅力って瑠璃にゾッコン(古!)だから倍増されるんですね!
それにしても、記憶喪失をいいことにニノ姫との話を進めるとは、、、あいつの仕業だな!
高彬の幸せを一番に考える瑠璃姫。大人だあ!愛執をたてなかった吉野君なんて火事起こしちゃうくらい強欲の嵐でしたもんね〜
最終話、楽しみです!

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No title

恋人編の続きじゃない!
ガボーン(;O;)(←どうしても読みたい)、ってなってたのですが、
何度も読んでしまいました。
瑠璃、良い女ですね。
それに引き替え、守弥とか、守弥とか、やっぱり守弥とか、
弱ってる人間目の前にして、ここぞとばかりにはりきって結婚話を進めたことでしょう。
顔が良くてもモテない男間違いなしです。
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