*** 筒井筒のお約束をもう一度 <again and again -1/3->

『なんて素敵にジャパネスク〜二次小説』

 

※このお話は初夜編(完結済み)のパラレルです。3話完結。
                        







***  筒井筒のお約束をもう一度<again and again -1/3-> ***  







春はすぐそこまで───

あたしが吉野に来た3日前に比べても、日に日に空気は緩み、目に見えて桜の蕾が綻び始めている。

薄い水色の空には刷毛で描いたような雲が流れ、山際はぼぅっと霞みかかっている。

長く寒い冬が終わり雪解けが進むと、吉野にはいっぺんに春がやってくる。

山荘の簀子縁に立ち、あたしは(うーん)と両手を伸ばし、早春の爽やかな空気を胸いっぱいに吸い込んだ。

───7年ぶりの吉野。

幼い頃、お祖母さまとここで過ごしたあたしは、吉野君と言う男の子と出会いプロポーズをされた。

なのに、どういう運命の巡りあわせか、吉野君は流行り病で死んでしまった。

母上もお祖母さまも相次いで亡くなり、京に戻ったあたしは泣いてばかりで・・・

そんな時、高彬が一生懸命なぐさめてくれて、あたしたちは結婚のお約束をした。

あたしが約束を忘れてしまうと言うハプニングはあったけど、高彬はずっと覚えててくれて、そうして来月───卯月の望月(満月)の日にいよいよ結婚の運びとなったのだけど、あたしはふいに吉野に行きたくなってしまったのである。

何がしたいとか、そういうはっきりした目的はなくて、ただ、結婚前に幼い日を過ごした思い出の地に来てみたかった。

吉野君があんまりふいに死んでしまったから、何て言うか自分の中で現実味がなくて、だからはっきりと胸に刻み付けたかったのかも知れない。

心の中で思い出の吉野君にサヨナラをして、そうして、高彬との結婚を迎えたい───

うん、そんな感じなのよ。

結婚を控えて、多少、センチメンタルに浸っちゃってるって言うのもあるし。

高彬は気持ち良く吉野に送り出してくれたし、数日、ここで過ごして、あたしはまた高彬の待つ京に戻るの。

「小萩、ちょっと散歩してくるわね」

部屋の隅でお衣裳の手入れをしていた小萩に声を掛ける。

「まぁ、姫さま、お一人で大丈夫でいらっしゃいますの?」

「大丈夫よ。この辺りは庭みたいなもんだもの。少し散歩してすぐに戻るわ」

小萩に手伝ってもらい、小袿をはしょって壺装束の格好になり外に出る。

小柴垣を抜けてだらだらとした下りの山道を歩いて少し行くと、ふいに景色が開け、広い空間が広がった。

一面の野原。

草が生い茂り、野の花が咲き競い、吹く風は優しくて、空はどこまでも澄んだ水色をしている。

ここであたしは、毎日のように吉野君と遊んだのよ。

懐かしいなぁ・・

もっともっと広い場所のように見えていたのは、きっとあたしが小さかったからに違いないわ。

小枝を拾い、野原の中を気の向くままに歩いていると

「・・さま~」

風に乗り、途切れ途切れの声が聞こえた気がして、立ち止まり耳を澄ませる。

「・・めさま~」

「・・・るり・・ひ・・さま~」

どうやら複数の人が、あたしの名前を呼びながらこっちに近づいてくるみたいだった。

やがて人の姿が現れ、どうやら小萩のようで

「ここよ~」

あたしは大きく手を振った。

小走りに近づいてきた小萩は、あたしの前に来ると胸に手を当て大きく息を整えると

「姫さま、すぐに山荘にお戻りくださいませ」

「なぜよ。まだ来たばかりだし、陽も高いわ」

「たった今、京より早馬が到着致しました」

「京から?」

「はい」

小萩はごくり、と唾を飲み込むと

「姫さま、心を落ち着かせてお聞きくださいませ」

「何よ」

「少将さまが行幸のお供の最中に落馬されたとの由・・・」

「落馬?!高彬が?!」

ギョッとして持っていた小枝を取り落とす。

「・・・はい」

「で、怪我はどうなの?高彬は大丈夫なの?!」

「上手く受け身を取られたとかで、お身体の方はさしたる怪我もなかったようなのでございますが・・」

「何よ・・・、その言い方、何かあるの?!」

歯切れ悪い小萩の口吻に不安ばかりが募ってくる。

「怪我はなかったんでしょ?ならいいじゃない。他に何かあるって言うの?受け身を取れたのなら・・」

「それが、落ちた時に頭を強くぶつけてしまったらしく、それが原因で記憶を失くしてしまったと言う事でございまして・・・」

「・・・・」

ガクガクと足の方から震えが上がってくる。

嘘でしょう?

そんな───

高彬が記憶を失ってしまっただなんて!







~<again and again -2/3->へ続く~


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ベリーさま

ベリーさん、こんにちは。

> このシチュもありですよね!
> どうなっちゃうんだろう
> 記憶を取り戻すための瑠璃の作戦はいかに?!

3話完結ですので、お付き合いくださいませ~。

> さ、楓の間を覗きに行こう〜!!笑

楓の間でお待ちしております!

このシチュもありですよね!
どうなっちゃうんだろう
記憶を取り戻すための瑠璃の作戦はいかに?!

さ、楓の間を覗きに行こう〜!!笑
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