***新婚編***第四話  春風の誘惑***

『なんて素敵にジャパネスク〜二次小説*新婚編』




 


***新婚編***第四話 春風の誘惑***








あー、つまらない。

あたしは脇息を倒してごろんと横になった。

本当だったら、今日は高彬に市に連れて行ってもらえる日だったのに。

あたしが足を挫いたばっかりに・・・!

階から落っこちるなんて、もうもう、あたしの馬鹿。

前に一度、高彬に市に連れて行ってもらったことがあり、それがあんまりにも楽しかったから、また高彬に頼み込んで、ようやく連れて行ってもらえることになったっていうのにさ。

高彬はあたしが外出することにあまり良い顔をしなくって(それも無理はないんだけど)、その高彬がやっと許してくれたのに。

それに今日は文句なしの晴天で、吹く風は優しく、春の陽はどこまでもうららかに我が三条邸の庭に降り注いでいる。

「姫さま、お薬を取り替えに参りましたわ」

小萩が、薬草をすり潰し、それを小布に浸したものを持ってきた。

「そんなの塗ったって治んないわよ」

そっぽを向くと

「まぁ、姫さま。内大臣さまが特別にお医師に調合させた、ありがたいお薬ですのよ。これを一日、五回塗り直せば三日で治ると・・・」

「今日、治んなきゃ意味がないのよ。三日後に治ったって、市には行けないんだもの」

むくれて言うと、小萩は困ったようにため息をついた。

その時、渡殿のあたりが騒がしくなり、人の声や足音が聞こえてきたか思ったら、女房が現われ、次いで高彬が現われた。

「高彬・・・どしたの」

突然の来訪に起き上がるのも忘れてぼんやりと言うと

「どしたの、じゃないよ。北の方ともあろう人が、童のようにそんなところで寝転がって」

言いながら、小萩が大急ぎで作った席にゆったりと座る。

口ほどには怒ってないのか、可笑しそうな目であたしを見ている。

小萩に手伝ってもらい身体を起こしながら

「市に行けなくなっちゃったんだもの。つまらないから昼寝でもしようと思ってたのよ」

今さら弁解したところで始まらないから、開き直って言うと、高彬はやれやれと肩をすくめた。

「そういう高彬こそどうしたのよ。仕事はもう終わったの」

「今日は前々から早くに上がらせて頂けるようにお願いしてあったからね。市が流れてしまったから、きっと、瑠璃さんのことだ、小萩たちを困らせているんじゃないかと思って様子を見にきたんだ」

高彬がそういうと、小萩は我が意を得たりとばかりに身を乗り出して

「ご明察ですわ、少将さま。姫さまは、朝から、やれ朝の御膳が気に入らないの、お召しになるお衣裳がお気に召さないのと、大変なへその曲げようなのですわ。今も、お御足のお薬を替えるのを嫌がって・・・」

指を折って数え上げるのを、高彬は可笑しそうに聞き、あたしに向き直って言った。

「小萩を困らせたらだめじゃないか。市には足が治ったら、また連れていってあげるから」

「だって、今日、行きたかったんだもの」

「足を挫いたのだから、仕方ないじゃないか」

「すごく楽しみにしてたのよ」

「その足じゃ見て回ることができないだろ」

「こんなにいい天気なのに・・・」

ぶつぶつ言うと、高彬はしばらく黙ってあたしを見ていたんだけど、やがて「しょうがないなぁ」と呟きながら立ち上がり、小萩に声をかけた。

「小萩、庭に降りるから準備を頼むよ」

「庭に、でございますか」

不思議そうに聞き返す小萩に

「今日は天気もいい。こちらの庭は見事な庭だからね。少しは野摘みの気分を味わえるだろう。小萩たちも来るといい。用意しなさい」

そういうと、女房たちの間から歓声があがった。






       
           ***********************************************








高彬はあたしを抱きかかえて階を降り、その後ろを裾をからげた女房たちが続いた。

広大な三条邸の庭に春の風が気持ちよく吹き渡り、さやさやと葉の揺れる音も耳に優しく、新緑が陽の光を受けてきらめいている。

女房たちの笑いさざめく声がする中、高彬はあたしを抱きかかえたまま、ゆっくりと歩いていく。

急に高彬が、腕の中のあたしをぽんぽんと弾ませるようにしたので、あたしはびっくりして高彬にしがみついてしまった。

「ちょ、ちょっと、高彬!」

慌てるあたしをよそに

「瑠璃さん、しっかりつかまってないと落ちちゃうよ」

笑いながら言い、そう言いながらもぽんぽんと放り続けた。

「あ、あたしは鞠じゃないんですからね!」

高彬の首に必死にしがみつきながら言うと、高彬は大きな笑い声をあげ、回りの女房たちも一斉に笑い、その声が三条邸の庭を通り抜けていく。

高彬は面白がって、あたしをぽんぽんと弾ませ続けている。

「もう、やめてよぉ」

「わがままなお姫さまにはこれくらいしないとね」

「こんなやり方、ずるいわ、高彬。覚えてなさいよ」

しがみつきながら言うと、高彬はくすっと笑い、女房らに気づかれないようにすばやく接吻をしてきた。

「!」

な、なによっ。

睨みつけてやったのに、高彬は知らん顔して歩いている。

もう、悔しいなぁ。最近、すっかり高彬のペースだわ。

一つ年下のガキのくせに・・・と思うものの、高彬の背も肩もはるかにあたしより大きくて、こんな風に軽々とあたしを抱いて歩けちゃうのよね・・・。

やがて、少しひらけた場所につき、高彬が大きな岩の上にそっと降ろしてくれた。

女房たちも、思い思いのところに座って、春の日を楽しんでいるみたい。

小萩が気を利かせて、団喜や煎餅を持ってきてくれていて、あたしは大喜びで手を伸ばした。

いつもと同じ団喜も、こうして外で食べると格別だわ。

もうひとつ食べようと手を伸ばしかけると

「瑠璃さん、今日は食べ過ぎないでおくれよ」

高彬が耳打ちしてきた。

今日はって・・・・

つまり、それは夜に備えてってこと・・・よ・・ね。・・・や、やぁねぇ。

「足・・・怪我してるもの。無理よ」

恥ずかしくって小声で言うと

「瑠璃さんは、足は関係ないだろ」

高彬も小声で囁いてきた。

瑠璃さんは、とか、足は、とか、そういう具体的な言い方はやめてよー。恥ずかしいじゃない。

もう!とぶつ真似をすると、高彬は器用によけて、あたしの手をつかむとそのまま引き寄せた。

逃れようともがくあたしを、高彬は可笑しそうに見ている。

ふと気付くと、遠巻きに女房らがあたしたちを見ていて、その中のひとりが

「少将さまと姫さまは、お部屋の中でもお庭でも同じですのね。まるでわたくしどもなど眼中にないようですわ」

回りの女房が一様に袖を口に当てながらくすくすと笑い、あたしと高彬は慌てて身体を離した。









           ****************************************







夜になり、部屋にふたりきりになると、なんだかあたしはそわそわしてしまった。

だって、昼に高彬があんなこと言うんだもの。意識しちゃうじゃない。

そ、そりゃ、夫婦だし、なんてったって新婚だから、これから始まることはわかっているけどさぁ。

高彬は直衣を脱ぎ、小袖の上に単を羽織っただけのくつろいだ格好になっている。

「瑠璃さん、あのさ・・・」

「ま、待って、高彬。ほら、あたし、足を怪我してるから・・・」

「足?・・・そうじゃなくて、片付けなくちゃいけない仕事があってね。書くものと文机を少し借りるよ」

・・・あ、そ。

あたしは、またてっきり・・・アノことかと・・・いえ、別にそれを待ってるってわけじゃないんだけど・・。

「瑠璃さん、何、ぶつぶつ言ってるの」

そう言ったかと思うと、くすりと笑って、ふいに近づいてきた。

「何のことだと思ったの」

「べ、別に」

そっぽを向くと

「言ってごらんよ」

ますます顔を近づけてきた。





<第五話に続く>



〜あとがき〜

こんにちは、瑞月です。

相変わらず新婚モードの高彬&瑠璃です。

原作の尼寺でのシーンにありましたが、瑠璃の「先走っての勘違い」って可愛いですよね。

読んでいただきありがとうございました。

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Secre

Re: No title

> 高彬、ずいぶん余裕が出てきたって感じですね。

そうですよね、やっぱり有能だから、コツ(?)をつかむのが上手なんだと思います。

> 2人とも これからも仲良くね♪と、エールを送りたいですね。

ありがとうございます!伝えておきます(?)

毎日、ブログをのぞかせてもらっていますよ♪
また遊びに行かせてもらいますね。

No title

こんにちは。
高彬、ずいぶん余裕が出てきたって感じですね。
瑠璃さんは、恥ずかしがり屋さんになってるし・・・。思わずかわいい(#^.^#)
19話分を一気読みしてみたいけど、少しずつ読ませてもらおうかと思います。
2人とも これからも仲良くね♪と、エールを送りたいですね。
おややは・・・いつのことだか、楽しみにしてれば、いつかだよね?(笑)

2次小説書くのって、妄想もしたりとか面白いこともあるんだろうけど、大変だろうな・・・とも思ったりもします。
妄想するだけなら、簡単だけどそれを文章にしていくって、大変な作業だとおもいます。
これからも、頑張って書いていってください。

いいですね~

初めまして。ジャパネスクの二次小説の存在を初めて知りました。うーんと昔25年くらい前?にジャパネスクと出会い、大好きなお話です。
長い間読んでいなかったので、随分忘れていましたが、こちらのお話を読んで記憶がよみがえってきました。
活発な瑠璃と、振り回されたり、今では掌の上で転がしたりする高彬のラブラブなお話が大好きです。原作では初夜とかのお話ってそんなに書かれていないので、初夜編も新婚編も本当に楽しく読ませていただきました。
これからも楽しいお話を楽しみにしております。

>あんみつさん

はじめまして。
コメントありがとうございます。

ジャパネスクは何年たっても色あせないですよね。
何度読み返しても面白いし、新しい発見があります。
また、ぜひ遊びにきてくださいね。
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瑞月

Author:瑞月
瑞月(みずき)です。

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