***短編*** <続>ラブ・レター ***

『なんて素敵にジャパネスク〜二次小説』






注)このお話は、以前、藍さまのブログ移転&再開のお祝いにお贈りした「ラブ・レター」の続編です。
「ラブ・レター」は「花の宵夢アンコール」さまに掲載していただいております。
               
        






***短編*** <続>ラブ・レター ***







「あらあら、瑠璃姫。また一段とお腹が大きくなられたのではなくて?」

脇息に身体を預けながら、風に舞う桜の花びらを目で追っていると、先触れもなしにひょっこりと煌姫が現れた。

いくら居候とは言え、突然の宮姫の登場に驚いている女房を尻目に、さっさとあたしの近くに腰を下ろす。

「・・・」

慣れたけどね、煌姫のこう言う振る舞いには。

あたしは「よっこらしょ」と身体を起こした。

「いかがですの?体調の方は」

「絶好調、とまでは行かないけど、まぁ良好よ」

「もうじきですものねぇ。出てくるのは」

煌姫はそう言いながら大きくなったあたしのお腹を見て、その目は物珍しいものでも見るような好奇心に溢れている。

「やぁねぇ、出てくる、だなんて」

まるであたしのお腹の中にいるのが、物の怪や妖しみたいじゃないのさ・・・

軽く煌姫を睨んでやりながらも、でも、まぁ、煌姫の気持ちは分からなくはないのよ。

ほんと、自分で言うのも何だけど、ここまでお腹が大きくなると、もう自分の身体じゃないみたいだし、煌姫が物珍しいものを見るような目で見てくるのも良くわかる。

実際、脇息から身体を起こすのだって掛け声が必要なくらいなんだもの。

懐妊がわかってからは色んな人に

「自分一人の身体じゃないんだから」

みたいなことを何度も言われて、そしてそれは「だから身体を大切にしなさい」と言う比喩として言われる意味合いが強かったんだけど、でも、ここまでお腹が大きくなってくると、まさしく実感として

「あたし一人の身体じゃない」

と言う気がしてくる。

確かに、ここに自分じゃない誰かがいる、って感じでさ。

「小萩は、いつ戻って来ますの?」

「今日の夕方には帰るって言ってたけど」

あたしが出産した後はしばらく忙しくなるのはわかってるから、その前にと、一昨日から小萩は万里小路の親戚のところに里帰りをさせているのだ。

小萩は

「姫さまに何かあったら」

とか何とか言って最後まで渋ってたけど、小萩の叔母さんだって娘同然の小萩に会いたいだろうしね。

「あたくし、今日もとっても暇ですので、ここにいて差し上げますわ」

煌姫はツンと澄まして言い、あたしは気付かれないように笑いを漏らした。

そう言って煌姫は、昨日も一昨日も、あたしのそばに貼り付いてくれているのだ。

あたしの身を案じてくれてることは明らかなのに、はっきりそう言わないところが、煌姫が煌姫たる所以なわけなんだけどねぇ・・

「ありがとね、煌姫。心配してくれて」

ペコンと頭を下げると、さっと煌姫の顔が赤くなった。

「あ、あら、何のことですの・・」

少し動揺したものの、すぐに体勢を立て直すと

「瑠璃姫、何か勘違いをなさっているのではなくて?あたくしがね、心配しているのは次期パトロンの身ですわよ。別に瑠璃姫のことを心配してるわけでは・・・」

「はいはい。そうだったわね。お腹の子は、煌姫の次期パトロンだったわよね」

そう言ってやると、煌姫はさらに顔を赤くしながらも

「そうですわよ」

と、ツンと顎を上げて見せるので、あたしはまたして気付かれないように笑いを漏らした。

お腹の子が煌姫の次期パトロンと決められてると知った時はびっくりしたし、しかもあたしの方が煌姫より先に死ぬって言うその設定は何なのよ・・って感じで唖然としてしまったけれど。

でもねぇ、わかったのよ。

つまりはこれって、あたしがもし先に煌姫より死んだとして、その時、煌姫はあたしの子をずっと面倒見てくれるってことなんだなってことが。

もちろんあたしが死んだって、高彬も父さまもいるし、あたしの子が路頭に迷うなんてことはないし、まして零落した宮家の煌姫が「面倒見る」なんてことは出来ないんだけど、でも、人が育つって金銭的なことだけじゃないわけでしょう?

あたし亡き後、あたしのことを良く知ってる人が、あたしの子に心を掛けてくれるって言うのは、やっぱり大きいことなんじゃないかしら。

もちろん、煌姫にしてみたら、この三条邸にいられることは最大のメリットかも知れないけど、でも、この人ってどんなにセコいこと言っても、最後のところで一本筋が通ってるから、何て言うか・・・・

信用出来る───

うん、そう。信用出来るのよ。

やっぱり、そういう人がいてくれたら、あたしも安心って言うか・・・

って別にあたし、死ぬって決まったわけじゃないけど。

あたしはちらりと煌姫の横顔を盗み見た。

何だかねぇ、変な経緯で知り合いになって、それでここまで来てしまった人だけど、案外、人の縁なんてこんなもんかもしれないわよね。

切れる人とは切れるし、繋がって行く人とは繋がって行く。

人との付き合いって、複雑に絡まり合う糸みたいなもので、どこでどう繋がって続いて行くのかわからないものね。

取りあえず、今、こうしてあたしの身を案じてくれてる煌姫の気持ちに嘘はないんだろうしさ、もし煌姫との間にあるものを友情と呼んでいいのなら、それが<刹那>か<永遠>かなんてことは、後になってわかることだしね。

まぁ、少なくともあたしは煌姫を好きなわけだし、これで十分よね。

夕方になり、小萩の帰る時刻が迫ってくると、さっさと煌姫は自室に戻ってしまった。

つくづく、お礼を言われるのがイヤみたいで、その捻くれ方さえも好ましく思ってしまうから不思議よね。

「姫さま、お変わりありませんでしたか」

「ご覧の通りよ。煌姫もずっとそばにいてくれたしね」

里帰り中の小萩の話を聞き、夕餉を済ませると、女房らを下がらせた部屋で一人、あたしは文机に向かった。

今日は高彬も宿直で来ないと言うし、今日こそは書き上げておかなくちゃ。

まっさらな料紙を広げ、あたしはしばし思案した。

お文を───

産まれてくる子に、お文を書こうと思い立ったのだ。

母さまがあたしに残してくれたお文を読んだ少し後から、あたしも同じようにお文を残してあげたいなって。

それで、ずっと何を書こうか考えてるんだけど、だけど、まだ男か女かもわからないし、それにこう言っちゃなんだけど、死期を悟っていた母さまと、そうでないあたしとじゃ、おのずと書くことにも違いが出てくるって言うかさ。

でも、誰も口にはしないけど、出産で命を落とす人だっているし、産後の肥立ちが悪くてそのまま・・・って人だっている。

もちろんあたしは死ぬ気なんかないけど、こればっかりはいくらあたしがはねっ返りだと言ってもわからないものね。

だから(あー、文でも何でも書いときゃ良かった!)なんて浄土で歯ぎしりしないためにも、書いておこうかなぁ、なんて思って。

ほんと、そろそろタイムリミットだし、今日こそは書かないと。

筆に墨をしたためてみたものの、やっぱり何を書いていいかがわからず、あたしは筆を置くと目を閉じた。

産まれてくる子に伝えたいこと───

何だろう。

あたしは何を伝えたいんだろう・・・

「・・・・」

心を静かにして───

人の目とか、体裁とか、かっこつけようとか、いいお文を書こうとか、そんな気持ちを一切、拭い去った時、自然と溢れる思いがあった。

筆を取る。





母さまです。

まだあなたが産まれる前に、このお文を書いています。

あなたが男の子か女の子かも、まだわかりません。

このお文を、将来、あなたが読むのか読まないのか、それもわかりません。

もし読む時があるとしたら、母さまは死んでいるかも知れませんが、母さまは浄土で元気で過ごしていると思うので心配しないでください。

父さまと仲良くやっていますか?

父さまは、あなたを懐妊したと知った時、泣きました。

母さまは殿方があんなに泣いたのを見たのは、あれが初めてでした。

それくらい泣いたのですよ。おかしいでしょう?

父さまは、本当に嬉しかったのでしょうね。

仕事から帰ると、お腹に向かって、父さまは決まって「ただいま」と声を掛けていました。

父上になる予行練習なんだそうです。

父さまは今、どんな「父上」ですか?

口煩かったり、気難しかったりすると思いますが、父さまを嫌いにならないであげてください。

父さまは少し不器用なところがあるのです。

どうか、父さまと仲良く。

時には話し相手になってあげてください。

くじけそうになった時こそ、心を開いて回りを見てください。

あなたを応援してくれる人はたくさんいるはずです。

母さまも、いつも浄土で見守っていますよ。





筆を置き、何度も読み返す。

もし、あたしが死んだとして、今、一番に心配なのは、やっぱり高彬のことだった。

男親は、女親ほど子どもと親密になれない部分もあるだろうし、それに、高彬はそういうことを器用にこなしていける人でもないし。

女親って、子どもと男親のクッションになることがあるし、もしそれがなくなって高彬が寂しい思いをしたら、可哀想かなぁって。

子どものことより、夫のことを思うなんて、まだまだ母親になりきれてないのかしら・・・?

あたしはそっとお腹に手を当てた。

こんな母さまを許してね。

でも・・・

母さまは、本当に父さまのことが好きで、そうしてあなたが産まれるのよ。

それは素敵なことじゃないかしら?

いつか、大人になったあなたが、誰かを好きになって、そうして今の母さまの気持ちを心の底から理解してくれて───

自分の存在自体が、父さまと母さまからのラブレターなんだと気付いてくれたら───

あたしはそっとお腹を撫でた。

春の夜、ゆっくりと時間は流れていく・・・






<終>


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Secre

ベリーさま

ベリーさん、こんにちは。

> 煌姫が後見人ですね 頼もしい人です!

これ以上、頼もしい人はいないですよね!

> 高彬絶対再婚しないだろうし。

そうですよね。私もしないと思います。
回りは薦めるでしょうけどねぇ。(特に高彬母)

> 医者にもむいてると思うな、煌姫!

あ!それ、良いかもしれませんね!
ビシバシ言うけど、情に厚い医師。

藍さま

藍さん、こんにちは。

> 今だって出産は命の危険が伴う大変なことですが、医療と呼べるようなものがほぼないこの時代はいかばかりであったことか。

本当にそうですよねぇ。
まさしく命懸けの大仕事だっんだと思います。
高彬なんて、案外、心配性過ぎて「御ややはいらない」なんて言い出しそうな気もしますよね(笑)


祈祷とか弓の音、確かにうるさそうですよ。
集中出来ない!と瑠璃なら怒鳴り返したりして。

> 瑞月さんとの御縁に感謝の気持ちでいっぱいです。

私こそ藍さんとのご縁に感謝しております。
本当に不思議ですよね、人の縁と言うのは。
こんな風に縁を繋げてくれるジャパネスクと氷室先生は偉大な存在です。

こちらこそこれからもよろしくお願いいたします。

お産は命がけですよね 医学のおかげで現代は助かることもありますが、この時代はとても大変なことだったでしょうし。ううう、泣いて喜ぶ高彬。。。涙 いろんな覚悟がいったでしょうし。やはり気がかりなのは残された方。

煌姫が後見人ですね 頼もしい人です!
このラブレターが子供の為に書いたんだとしても読んで行くと瑠璃から高彬へのラブレターにもなっていて、じーんときました。高彬絶対再婚しないだろうし。
煌姫の直球なのか変化球なのかの優しさがいいですよ あたくし、瑠璃姫が好きなのですわあ〜とか言ってましたよね(^ ^)
医者にもむいてると思うな、煌姫!

No title

うううぅっ!瑞月さ~ん!!
なんて、なんて素敵なお話なんでしょー!!!
瑠璃がおややを、高彬を想う気持ちに涙が・・・。
今だって出産は命の危険が伴う大変なことですが、医療と呼べるようなものがほぼないこの時代はいかばかりであったことか。祈祷とか弓を鳴らすのも、気持ちの足しにしかならないだろうし、苦しさも増してくると「うるさい!!」と思っちゃうかも(笑) ありがたいことなんでしょうけどね・・・。
かあさまからの文も見つけたあとであるし、出産を控えてお文を書いておこうという瑠璃の気持ちがとてもよく分かりました。

改めまして『ラブ・レター』ありがとうございました。
そしてこんな素敵な続編も読むことができて本当に幸せです!
瑞月さんとの御縁に感謝の気持ちでいっぱいです。
これからもどうぞよろしくお願いします!
プロフィール

瑞月

Author:瑞月
瑞月(みずき)です。

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