***番外編*** ジャパネスク・フェイバリット <前編> ***

『なんて素敵にジャパネスク〜二次小説*番外編』



        注)このお話は番外編ですので一話完結です。
           
          他のお話と合わせてお読みいただくと、よりわかりやすいと思います。
          カテゴリー「二次小説」よりお入りください。
          

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***番外編*** ジャパネスク・フェイバリット <前編>***









吹く風に秋の気配が感じられる。

わたしが即位したのが、去年の十月だったから、あれから九ヶ月もたつのか。

時が過ぎるのは早いものだ。

脇息にもたれかかり、つれづれに庭を眺めていると、音もなく女房が現われて簀子縁に控えた。

扇を鳴らすと、女房はつつと膝をすすめ

「主上に申し上げます。もうじき御前会議にてございます」

ゆるゆると口上を述べる。

少し前、政務が一段落して、やっとくつろげると思っていたものを・・・

「皆、揃っているのか」

「はい。諸大臣方、みな、お揃いでお待ちになっております」

・・・仕方があるまい、行くか。

腰を浮かしかけると、ふと、遠くで笑い声が聞こえた。

あの声は・・・・承香殿・・・か?

もともと明るく活発な姫ではあるが、ここ清涼殿まで笑い声が響いたというのは初めてだ。

何か楽しいことでもあったのだろうか。

のぞいて行くくらいの時間はあるだろう。

「承香殿に立ち寄る」

立ち上がりそういうと、女房は狼狽したようだった。

「主上、御前会議は・・・・」

「少しの間、待たせて置くように」

女房は転がるように退出していった。







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「清涼殿の方にまで、笑い声が聞こえていましたよ。何か楽しいことでもありましたか」

笑いながら女御が迎えてくれるのはいつものことだが、今日はことのほか顔色も良く、機嫌も良いようだ。

「えぇ、ちょっとばかり、楽しいことがあったのですわ、主上」

そう答える女御の声はどこか弾んでいて、ほのかに上気した頬と言い、それは昨夜の御帳台での出来事に拠るところがあるのかと一瞬思ったのだが、そればかりでもなさそうだ。

どうやら、本当に楽しいことがあったらしい。

「そうですか。その楽しいことを少しばかりわたしにも分けていただきたいですね」

女御の前に座りながら言うと、ふふっと笑いをもらし女御が答えた。

「じつは主上・・・。高彬の結婚が決まったのですわ」

・・・高彬が結婚?あの堅物がか。

「ほう。右近少将が。それは初耳ですね。今日も少将には会いましたが、ついぞそんな話はしていなかったが」

今朝、高彬を伺候させ、少し公務の話をしたのだが、あいつ、一言もそんなことを言っていなかったではないか。

クソ真面目な顔して仕事の話をしながら、その実、結婚が決まっていたとは。

わたしに報告がないとはどういうことだ。うーむ、生意気な。

「いや、あの堅物の少将が結婚とは・・・。確かに楽しい話ではありますね」

女御は高彬の姉上にあたるわけだから、さすがに女御の前で高彬のことをそう悪しざまに言うことはできまい。

しかし、高彬が結婚とは。相手はどんな姫なのだろう。

俄然、興味が湧いてくるではないか。

「で、少将のお相手の姫はどちらの姫なのですか?あの少将の心を射抜いたのであれば、それはそれは心映えも豊かなお美しい姫なのでしょう」

身を乗り出して女御に問うと

「それが主上。内大臣家の瑠璃姫さまなのですわ。東宮さまを助けて下すった姫なのです」

「東宮を。それは奇遇ですね」

つい先日、東宮が迷子になり、あわや崖から落ちそうになるという、大変な事件があったのだ、

そこを救ってくれたのが内大臣家の瑠璃姫という姫で、確かに、わたしもその名は心に留めておいたのだが・・・

だが、以前にもその名をどこかで聞いたような・・・

瑠璃姫・・・内大臣家の瑠璃姫・・・

そうだ!

わたしは膝を打った。

「思い出しましたよ。以前、内大臣が姫のことで、手に負えないじゃじゃ馬だ・・・などとお漏らしになったことがあったのです。そのじゃじゃ馬な姫を、あの高彬が手なずけて我が者にしたなど・・・うーむ、高彬も隅に置けませんね」

堅物とじゃじゃ馬か・・・

接点はどこにもなさそうだが、案外、組み合わせの妙で、そういうほうがうまく行くのかも知れぬ。

いや、しかし、あの堅物がどうやって女を口説いているのか、見てみたいものだな。

そう思ったら、今すぐ、高彬に会いたくなってきたではないか。

よし、呼ぼう。

「何よりめでたい話には違いない。本人を呼びましょう。あなたも久しぶりに弟に会いたいのではないですか」

「まぁ、主上。高彬を?」

女御にかこつけて呼ぶというのが一番、良い。

「右近少将を参らせよ」

命じると、女房はするすると音もなく下っていった。

早く来い、高彬。





           *******************************************






「お召しにより、参りました」

さわさわという衣擦れの音がして、高彬がやってきた。

表情をひきしめて簀子縁に控えているその姿は、完全なるポーカーフェイスで、その表情からは結婚の「け」の字も読み取れはしない。

これだから、高彬は抜け目がないと言うのだ。

「右近少将、なにかわたしに報告することはないのか」

まずは小手調べだ。

「は」

わたしの言ってる意味が分からないのだろう。

高彬は言葉少なに答え、そのまま何事かを考えこんでいる様子である。

「では質問を変えましょう。少将、わたしに何か隠していることはないかね」

ひとことひとことに力を込めて、いつ高彬の表情が変わるのかをじっくり見てやろう・・・と言う気で見やるのだが、まだ、当の高彬は何のことだかわかっていないように怪訝な顔をしている。

いや、本当はわかっているのにとぼけているのかも知れぬ。

「は・・・。隠し事と申されますと・・・」

「結婚すると聞き及んでいるが」

ズバリ切り出してやると、見る見る高彬の顔が赤くなった。

くっくっく・・・面白い。

「恐れ入ります」

がばとひれ伏した。

平伏されたら、顔が見えぬではないか。

「頭を上げよ。どんな姫なのだ」

「どんなと申されましても・・・。その、ごく普通の姫でございます」

相変わらず赤い顔のままで高彬が言う。

「普通の姫か。内大臣家の瑠璃姫はかなりのじゃじゃ馬な姫だと聞き及んでいるが」

「恐れ入りますっ」

またしても高彬はひれ伏した。

「いったい、少将はどんな手を使って、そんなじゃじゃ馬な姫を手なづけたのか」

そう言ってやると、高彬はうっと詰まり、顔はと言うと茹蛸のように赤くなっている。

いや、茹蛸だって、ここまで赤くはなるまい。

いつもの、冷静で有能な公達の姿はそこにはない。

本当にからかいがいのある奴だ。

「まぁ、主上。これ以上、高彬をいじめるのはおやめくださいませ。瑠璃姫さまは、大層お可愛いらしく優しい姫君ですわ。じゃじゃ馬などといっては、高彬や瑠璃姫に失礼ではありませんか」

・・・そうだった。

高彬をいじめるのについ夢中になって、承香殿の前であることを忘れていた。

しかし・・・

瑠璃姫は可愛いくて優しいのか。

さらに高彬の結婚相手と言うのであれば、ぜひにも一度、見てみたいものだ。

何とかならないものであろうか・・・・

内大臣に言って、何かの宴の折りにでも、後宮に参内させるということも出来るのだが・・・。

あれこれ思い巡らせていると、女御が笑いを含んだ声で言った。

「瑠璃姫さまは、もう高彬と結婚が決まっておりますのよ。主上がご興味を持たれるには、ちょっと遅うございましたわね」

わたしの心のうちをすっかり見透かしているらしい。

しかし、それでも、なお笑いながら対応してくれる女御の気質がわたしには大層、好ましく思える。

さすがは、権門、右大臣家で大切に育てられた姫だ。

性格に陰りがない。

それはそれとしても、瑠璃姫が気になるな・・・。

「なんだか悔しいですね。でも、まだ結婚されてるわけではないのでしょう。わたしにも少しはチャンスはあるのではないですかね」

そう言いながら、ちらりと高彬を見ると、赤かった顔が見る見る青くなり、心持ち膝を進めて

「いえ、恐れながら、すでに結婚の日取りも決まっておりまして・・・」

と、強ばった声で言ってきた。

うーむ・・・と、わたしは内心うなった。

高彬のこの様子からして、かなり惚れこんでいるようだ。

それほどの美女なのか、はたまた風にも倒れてしまうような儚げな女人なのか・・・・

見たい、見たい、ぜひ見たいものだ・・・。

扇を開いたり閉めたりしながら、思案していると、突然「ひゃあぁぁ」と言う叫び声が聞こえ、はっと声のほうを振り向くと、何かが転がり出てきた。

曲者、闖入かっ、とぎょっとして腰を浮かしかけると、部屋の隅にいたのは、女房装束に身を包んだ若い女だった。

なにゆえ、ここに女が・・・。

いや、それよりも今までどこにいたというのだ。

女は年の頃なら十六、七というところか。取り立てて美人ではないが、どこか愛嬌がある顔立ちをしている。

かなり気は強そうだが、それが生意気な感じではなくて、はつらつとして生気に溢れた感じである。

着膨れてはいるが、おそらくは小柄で華奢な身体であろう。

抱き上げるのにちょうどよい頃合と言う感じだ。

まじまじと女を見ていると、隣の女御が扇を開き、しみじみと言う声が聞こえてきた。

「瑠璃姫さまは本当に楽しい方ですのねぇ・・・」

「瑠璃姫・・・?」

では、この女が瑠璃姫だと言うのか・・・?

にわかには信じがたいが・・・・

「・・・少将・・・、あの姫はまことに瑠璃姫なのか・・・内大臣家の・・・」

つぶやくと、それまで呆然としていた高彬は我に返ったように

「恐れ入ります。面目もございませんっ」

がば、とひれ伏した。

では、まことに、この女は内大臣家の瑠璃姫なのか・・・。

見たいと思っていた姫であったが、まさか、こんなに早くに願いが叶うとは・・・。

しかし・・・こんな姫には、いまだかつて遭遇したことがないぞ・・・。

高彬の意中の人というから、どんなゆかしい姫かと思ったのだが・・・

このような姫を妻にとは、高彬も奇特な・・・




                 <後編に続く>
  
 



〜あとがき〜

こんにちは、瑞月です。

今回は、鷹男目線の番外編を書いてみました。

「早く来い、高彬」「わんわん!」

やっぱり、鷹男にとって高彬って犬並みの扱いなんですね・・・

後編は明日、アップの予定です。

読んでいただきありがとうございました。

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Secre

こんにちは♪

初コメにまいりました♪
先日はご訪問ありがとうございますv

可哀想な高彬とイジワルな鷹男に笑っちゃいました~この後、どんな横ヤリ?が飛び出すのかが、超・楽しみです(笑)
らぶらぶにも、クラクラきました!またクラクラしに参りますね~(爆)


>薫香さん

こんにちは♪
コメントありがとうございます。

ぜひぜひ、またクラクラしにきてくださいね~(笑)
わたしも薫香さんの作品見て、クラクラさせていただきますね!
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瑞月(みずき)です。

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