***新婚編***第二話 新妻の心得***
『なんて素敵にジャパネスク〜二次小説*新婚編』
***新婚編***第二話 新妻の心得***
少しすると渡殿のあたりが騒がしくなり、やがて高彬があらわれた。
小萩が用意した席に座ると、こほんと咳払いなんかしている。
ふと見ると、顔がうっすらと赤い。
変な勘違いをして、さすがに恥ずかしいのかもしれない。
「えぇ・・っと」
もぞもぞと足を組み替えたりしながら、言葉を探しているみたい。
あたしが扇を鳴らすと、女房たちは皆、音もなくするすると下がっていった。
「瑠璃さん」
ふたりきりになると、高彬はずりずりと近づいてきて、あたしの手をとった。
もちろん、あたしはすばやく、ふり払ってやった。
「なによ」
「怒ってる?」
「当たり前でしょ!あ、あたしはね、懐妊したと思われたのよ。あんたの勘違いのせいで!恥ずかしいったら、もう!父さまには色気がないって説教されるしで、さんざんだったんだから」
「頼むよ、瑠璃さん。そう懐妊懐妊と、大声で怒鳴らないで。ぼくの言うことも聞いて」
「聞くわよ。言いなさいよ」
「瑠璃さんとぼくは結婚して、かれこれ半年になる。それで妻が気持ち悪そうにしていたら、そりゃあ、懐妊を疑うよ。まさか団喜の食べすぎだなんて、普通、思わないだろ」
父さまが言ったことと同じようなことを言う。
「うん、まぁ・・」
それはそうかも知れないけど。
「だろ?それにぼくたちは、たくさんやって・・・あ、いや・・・・」
思わず言ってしまったようで、真っ赤になって黙り込んでいる。
あたしもかぁ〜っと赤くなってしまった。
結婚以来、高彬は本当に頻繁に三条邸に通ってきてくれて、女房たちにもからかわれるくらいなのだ。
新婚だから、来れば当然のように、そういう流れになるわけで、確かに御ややが・・・その、いつ出来てもおかしくない状況と言われればその通りなのよ。
「なによ、高彬。あんた、早く御ややが・・・欲しいの」
まともに目を合わせられなくて、下を向いたままぼそぼそと言うと
「そんなことはないよ」
やけにきっぱりと言う。
「もちろん、御ややが出来れば嬉しいけどさ、でも、せっかく天下晴れて瑠璃さんと夫婦になれたわけだし、ぼくとしてはもう少し、ふたりで楽しみたいというか、その、ゆっくりと・・・イロイロと、さ・・・」
そう言うなり、ぽぅと頬を赤らめた。
赤くなるくらいなら、言わなきゃいいのに。馬鹿。
とは言え、あたしも恥ずかしくって顔をあげられないのよね。
そういうあたしの様子を見透かしたかのように
「瑠璃さんだって・・・・少しは・・・そうなんじゃないの」
と、ぼそぼそと呟いた。
「な、な、なによ。それ」
真っ赤になって言うと
「さあね」
高彬は肩をすくめてみせた。
「いやな、高彬ね」
あたしはそっぽを向いた。
高彬が言いたいことはわかってる。
結婚したとき、あたしは初夜のなんたるか、契りのなんたるかを知らなくて、色々びっくりすることの連続だった。(高彬もびっくりしたみたいだったけど)
それでも、なんとか無事、結婚することが出来たわけなんだけど、まぁその痛いことといったらなかった。
世の中の人はみんな、こんなことしてるのか!と、変に感心してしまったくらいよ。
結婚したらいつもこんな痛いことするのか、参ったなー、なんて思っちゃったんだけど、でも、回を重ねるごとに痛みがなくなって、あたしは心底ほっとしたもんだった。
痛みはなくなったとは言え、あたしはそのものズバリよりも、高彬と衾にくるまっていろんな話をしたり、高彬に髪をなぜられながら眠って、それで目が覚めてもそのまま高彬の腕の中にいたりすることの方が嬉しかったくらいだった。
でも、高彬はやっぱり殿方だからそういうわけではないらしく、きっちりとコトを成し遂げないとだめみたいで、あたしとしてはどこか付き合いでやってる部分もあって、でも、高彬が満足して嬉しそうだし、まぁいっか、なんて気分だった。
それが、結婚してどれくらいたった頃か忘れたけど、痛みではなくて・・・その・・・違った感覚が出てきたのよ。
なんというか、触れられていると、その・・・・気持ちがいいというか、その・・・痒いところに手が届くというか・・・・さ。
それが、ある日のこと、決定的なことがあった。
いつものようにアレコレをしていたんだけど、ふと気がついたら、高彬がたてる音とは別に、もうひとつの音がしていて、それは、あたしの声だったのだ。
最初にそれに気がついたのは高彬だった。
一瞬、動きをとめ、それから、いくつかの確かめるような動きをした。
そうしたら、それはやっぱりあたしの声で、しかもそれは高彬の動きによってもたらされていることは明らかで、それも意識して出しているわけではなく、しらずに喉の奥からこみあげてくるような声で・・・。
高彬は何かを確信したように動きはじめて、そうこうするうちに、少しだけなじみのある、あの感覚が急激に強まってきて、しかも声はますますあたしの意思とは関係なくもれてしまい、あたしは自分がどうにかなってしまったのかと怖くなってしまった。
「・・・いや・・・高彬・・・やめて・・」
なんとかとぎれとぎれに言ってみたんだけど、高彬はやめてくれずに、それどころか、あたしを抱え込むようにしてもっと動きを早めてきた。
「・・・・!」
あたしは何も考えられなくなってしまい、ただただ必死に高彬にしがみつき、気がついたらすべてが通り過ぎていた。
高彬はあたしを抱きしめたまま息を整えると、もの言いたげな目でじっと見てきたんだけど、あたしは、はしたない声をあげてしまったことがとにかく恥ずかしく、高彬と目を合わせることもできなくて、高彬の下から逃げ出すと単をたぐりよせ、目まで引き上げた。
「瑠璃さん」
高彬がそっと単をのけようとする。
「・・・・・」
あたしはもっと、単を引き上げた。
「瑠璃さん、顔を見せてよ」
「・・・・」
単に顔をうずめたまま、あたしは首を横にふった。
「瑠璃さん、今・・・」
高彬が言葉を切った。
「瑠璃さん、今、あの・・・」
また言葉を切った。
「・・・な、なによ。言いたいことがあるならはっきり言ってよ」
単に顔をうずめたままそう言うと、少しの間があいてから、高彬が思い切ったように口を開く気配がした。
「瑠璃さん、今、いっ・・・・」
「やっぱり言わないで!」
両手で高彬の口をふさぐと、高彬はその隙を見逃さずに、あたしの手を取ると、すばやく単をのけて顔をのぞきこんできた。
「やっと顔が見えた」
にっこり笑うと、真っ赤な顔のあたしを抱き寄せた。
何度も何度も抱きしめ、髪をなぜながら、瑠璃さん、瑠璃さんと繰り返す。
あんまり繰り返すので
「なによ。人の名前、繰り返して」
つっけんどんに言ってやると、高彬はあたしの耳元に顔をうずめて、深く息を吸い込むと
「・・ほんとに可愛いな・・・瑠璃さんは」
くぐもった声で、嬉しそうに呟いた・・・。
その日から、高彬はそれまで以上に三条邸にやってくるようになった。
何と言うか・・・その・・・あたしも結婚を機に、いっぱし恋のことをわかった気でいたんだけど、でも、まだまだ恋って奥が深いんだなぁーなんて気分だった。
ああいう瞬間って、恋する人同士でしか作り出せない瞬間なのよ。
家族や腹心の女房と過ごす楽しい時間とも違う、特別な瞬間。
たくさんの言葉を費やすよりも、肌を通して伝わってくる思い。
なんだかあたしも気がついたら、高彬の訪れを今まで以上に心待ちにしていたりしたし、しみじみと高彬が結婚相手でよかったなーなんて思ったりしてさ。
だから、恋のヨロコビを知ったばかりの十八歳の新妻としては、御ややはもう少し先でしばらくはふたりで・・・っていうことに異論はないんだけど。
だけど
「瑠璃さんだって少しはそうなんじゃないの」
なんて言われて、ハイ、その通りです、なんて女の身で言えるわけないじゃないの。
相変わらずの朴念仁なんだから。
真っ赤な顔のまま、そっぽをむいていると、高彬がふと手を伸ばしてあたしの頭をそっと引き寄せると、額をくっつけてきた。
「瑠璃さん」
「・・・・」
「もう少し、ふたりで・・・過ごそうよ」
囁くように言う。
至近距離でそんなこと言うなんて、ずるいわ、高彬・・・・。
<第三話に続く>
〜あとがき〜
こんにちは!瑞月です。
あんなに痛がっていた瑠璃に「恋のヨロコビ」を知ってもらえたなんて、さすがは何事においても勉強熱心、研究熱心な高彬。
イロイロ頑張ったみたいですね(笑)
読んでいただきましてありがとうございました。
皆様のお住まいの地域は、台風はいかがですか?
被害にあわれた方々に、心よりお見舞い申し上げます。
まだまだ猛威をふるっているようです。
こちらにはこれから近づいてきます。
皆様、充分、お気をつけくださいね。
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***新婚編***第二話 新妻の心得***
少しすると渡殿のあたりが騒がしくなり、やがて高彬があらわれた。
小萩が用意した席に座ると、こほんと咳払いなんかしている。
ふと見ると、顔がうっすらと赤い。
変な勘違いをして、さすがに恥ずかしいのかもしれない。
「えぇ・・っと」
もぞもぞと足を組み替えたりしながら、言葉を探しているみたい。
あたしが扇を鳴らすと、女房たちは皆、音もなくするすると下がっていった。
「瑠璃さん」
ふたりきりになると、高彬はずりずりと近づいてきて、あたしの手をとった。
もちろん、あたしはすばやく、ふり払ってやった。
「なによ」
「怒ってる?」
「当たり前でしょ!あ、あたしはね、懐妊したと思われたのよ。あんたの勘違いのせいで!恥ずかしいったら、もう!父さまには色気がないって説教されるしで、さんざんだったんだから」
「頼むよ、瑠璃さん。そう懐妊懐妊と、大声で怒鳴らないで。ぼくの言うことも聞いて」
「聞くわよ。言いなさいよ」
「瑠璃さんとぼくは結婚して、かれこれ半年になる。それで妻が気持ち悪そうにしていたら、そりゃあ、懐妊を疑うよ。まさか団喜の食べすぎだなんて、普通、思わないだろ」
父さまが言ったことと同じようなことを言う。
「うん、まぁ・・」
それはそうかも知れないけど。
「だろ?それにぼくたちは、たくさんやって・・・あ、いや・・・・」
思わず言ってしまったようで、真っ赤になって黙り込んでいる。
あたしもかぁ〜っと赤くなってしまった。
結婚以来、高彬は本当に頻繁に三条邸に通ってきてくれて、女房たちにもからかわれるくらいなのだ。
新婚だから、来れば当然のように、そういう流れになるわけで、確かに御ややが・・・その、いつ出来てもおかしくない状況と言われればその通りなのよ。
「なによ、高彬。あんた、早く御ややが・・・欲しいの」
まともに目を合わせられなくて、下を向いたままぼそぼそと言うと
「そんなことはないよ」
やけにきっぱりと言う。
「もちろん、御ややが出来れば嬉しいけどさ、でも、せっかく天下晴れて瑠璃さんと夫婦になれたわけだし、ぼくとしてはもう少し、ふたりで楽しみたいというか、その、ゆっくりと・・・イロイロと、さ・・・」
そう言うなり、ぽぅと頬を赤らめた。
赤くなるくらいなら、言わなきゃいいのに。馬鹿。
とは言え、あたしも恥ずかしくって顔をあげられないのよね。
そういうあたしの様子を見透かしたかのように
「瑠璃さんだって・・・・少しは・・・そうなんじゃないの」
と、ぼそぼそと呟いた。
「な、な、なによ。それ」
真っ赤になって言うと
「さあね」
高彬は肩をすくめてみせた。
「いやな、高彬ね」
あたしはそっぽを向いた。
高彬が言いたいことはわかってる。
結婚したとき、あたしは初夜のなんたるか、契りのなんたるかを知らなくて、色々びっくりすることの連続だった。(高彬もびっくりしたみたいだったけど)
それでも、なんとか無事、結婚することが出来たわけなんだけど、まぁその痛いことといったらなかった。
世の中の人はみんな、こんなことしてるのか!と、変に感心してしまったくらいよ。
結婚したらいつもこんな痛いことするのか、参ったなー、なんて思っちゃったんだけど、でも、回を重ねるごとに痛みがなくなって、あたしは心底ほっとしたもんだった。
痛みはなくなったとは言え、あたしはそのものズバリよりも、高彬と衾にくるまっていろんな話をしたり、高彬に髪をなぜられながら眠って、それで目が覚めてもそのまま高彬の腕の中にいたりすることの方が嬉しかったくらいだった。
でも、高彬はやっぱり殿方だからそういうわけではないらしく、きっちりとコトを成し遂げないとだめみたいで、あたしとしてはどこか付き合いでやってる部分もあって、でも、高彬が満足して嬉しそうだし、まぁいっか、なんて気分だった。
それが、結婚してどれくらいたった頃か忘れたけど、痛みではなくて・・・その・・・違った感覚が出てきたのよ。
なんというか、触れられていると、その・・・・気持ちがいいというか、その・・・痒いところに手が届くというか・・・・さ。
それが、ある日のこと、決定的なことがあった。
いつものようにアレコレをしていたんだけど、ふと気がついたら、高彬がたてる音とは別に、もうひとつの音がしていて、それは、あたしの声だったのだ。
最初にそれに気がついたのは高彬だった。
一瞬、動きをとめ、それから、いくつかの確かめるような動きをした。
そうしたら、それはやっぱりあたしの声で、しかもそれは高彬の動きによってもたらされていることは明らかで、それも意識して出しているわけではなく、しらずに喉の奥からこみあげてくるような声で・・・。
高彬は何かを確信したように動きはじめて、そうこうするうちに、少しだけなじみのある、あの感覚が急激に強まってきて、しかも声はますますあたしの意思とは関係なくもれてしまい、あたしは自分がどうにかなってしまったのかと怖くなってしまった。
「・・・いや・・・高彬・・・やめて・・」
なんとかとぎれとぎれに言ってみたんだけど、高彬はやめてくれずに、それどころか、あたしを抱え込むようにしてもっと動きを早めてきた。
「・・・・!」
あたしは何も考えられなくなってしまい、ただただ必死に高彬にしがみつき、気がついたらすべてが通り過ぎていた。
高彬はあたしを抱きしめたまま息を整えると、もの言いたげな目でじっと見てきたんだけど、あたしは、はしたない声をあげてしまったことがとにかく恥ずかしく、高彬と目を合わせることもできなくて、高彬の下から逃げ出すと単をたぐりよせ、目まで引き上げた。
「瑠璃さん」
高彬がそっと単をのけようとする。
「・・・・・」
あたしはもっと、単を引き上げた。
「瑠璃さん、顔を見せてよ」
「・・・・」
単に顔をうずめたまま、あたしは首を横にふった。
「瑠璃さん、今・・・」
高彬が言葉を切った。
「瑠璃さん、今、あの・・・」
また言葉を切った。
「・・・な、なによ。言いたいことがあるならはっきり言ってよ」
単に顔をうずめたままそう言うと、少しの間があいてから、高彬が思い切ったように口を開く気配がした。
「瑠璃さん、今、いっ・・・・」
「やっぱり言わないで!」
両手で高彬の口をふさぐと、高彬はその隙を見逃さずに、あたしの手を取ると、すばやく単をのけて顔をのぞきこんできた。
「やっと顔が見えた」
にっこり笑うと、真っ赤な顔のあたしを抱き寄せた。
何度も何度も抱きしめ、髪をなぜながら、瑠璃さん、瑠璃さんと繰り返す。
あんまり繰り返すので
「なによ。人の名前、繰り返して」
つっけんどんに言ってやると、高彬はあたしの耳元に顔をうずめて、深く息を吸い込むと
「・・ほんとに可愛いな・・・瑠璃さんは」
くぐもった声で、嬉しそうに呟いた・・・。
その日から、高彬はそれまで以上に三条邸にやってくるようになった。
何と言うか・・・その・・・あたしも結婚を機に、いっぱし恋のことをわかった気でいたんだけど、でも、まだまだ恋って奥が深いんだなぁーなんて気分だった。
ああいう瞬間って、恋する人同士でしか作り出せない瞬間なのよ。
家族や腹心の女房と過ごす楽しい時間とも違う、特別な瞬間。
たくさんの言葉を費やすよりも、肌を通して伝わってくる思い。
なんだかあたしも気がついたら、高彬の訪れを今まで以上に心待ちにしていたりしたし、しみじみと高彬が結婚相手でよかったなーなんて思ったりしてさ。
だから、恋のヨロコビを知ったばかりの十八歳の新妻としては、御ややはもう少し先でしばらくはふたりで・・・っていうことに異論はないんだけど。
だけど
「瑠璃さんだって少しはそうなんじゃないの」
なんて言われて、ハイ、その通りです、なんて女の身で言えるわけないじゃないの。
相変わらずの朴念仁なんだから。
真っ赤な顔のまま、そっぽをむいていると、高彬がふと手を伸ばしてあたしの頭をそっと引き寄せると、額をくっつけてきた。
「瑠璃さん」
「・・・・」
「もう少し、ふたりで・・・過ごそうよ」
囁くように言う。
至近距離でそんなこと言うなんて、ずるいわ、高彬・・・・。
<第三話に続く>
〜あとがき〜
こんにちは!瑞月です。
あんなに痛がっていた瑠璃に「恋のヨロコビ」を知ってもらえたなんて、さすがは何事においても勉強熱心、研究熱心な高彬。
イロイロ頑張ったみたいですね(笑)
読んでいただきましてありがとうございました。
皆様のお住まいの地域は、台風はいかがですか?
被害にあわれた方々に、心よりお見舞い申し上げます。
まだまだ猛威をふるっているようです。
こちらにはこれから近づいてきます。
皆様、充分、お気をつけくださいね。

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