***新婚編***第一話 新妻の憂鬱***

『なんて素敵にジャパネスク〜二次小説*新婚編』



          




         






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***新婚編***第一話 新妻の憂鬱***






「瑠璃さん・・・」

高彬の手が、あたしの頬に触れた。

目が合い、にっこりと笑い合う。

結婚して半年、少しは慣れてきたはずなのに、いつもこの瞬間はどきどきしてしまう。

高彬の顔が近づいてきて、ゆっくりと接吻をした。

接吻をしながらも、高彬は物慣れた手つきで、指先を合わせにすべりこませようとしてくる。

ふいに恥ずかしくなり、あたしは高彬の胸に顔をうずめた。

これから始まることがわかっているのに、ううん、わかっているからこそ恥ずかしい・・・

いくら結婚したとはいえ、まだまだ乙女だもの。

高彬の胸は暖かくて、開いた小袖の胸元に耳をくっつけると、規則正しい確かな鼓動が聞こえてくる。

息を吸い込むと、やわらかいいつもの高彬の匂いがして・・・・

「・・・!」

その途端、あたしは吐き気を感じて、口元を押さえた。

「どうしたの、瑠璃さん」

びっくりした様子の高彬に何か返事をしようと、口を開きかけると、またこみ上げてきた。

あたしは立ち上がり、小走りに部屋を横切ると妻戸を開けて、簀子縁に飛び出した。

勾欄に手を付いていると、どうやら吐き気は収まったようだった。

「瑠璃さん・・・」

気が付いたら高彬が隣にたっていた。

「大丈夫?」

言いながら背中をさすってくれている。

「瑠璃さん・・・もしかして・・・・」

そういうと、そっとあたしを抱きしめてきた。

「瑠璃さん・・・」

あたしの目をじっと見つめ、そういう高彬の目は心なしか潤んでいるように見える。

「瑠璃さん・・・、とにかく部屋に入ろう。こんなところにいたら風邪をひいてしまうよ」

高彬に手をひかれ寝所に戻ると、高彬はあたしを寝かせ、そっと衾をかけてくれた。

「今日はもう休むのがいいね。具合が悪くなったらぼくを起こすんだよ」

軽く唇を合わせると、にこっと笑う。

高彬はずっと髪をなぜてくれ、あたしはいつのまにか眠りに落ちていった。

・・・・・・翌朝、ふと目を覚ますと、すっかり着替えを済ませた高彬が横にいた。

「・・・起こしてくれたら良かったのに」

起き上がろうとするあたしをやんわりと制し

「瑠璃さんはまだ横になっているといい。ぼくは今日から宿直でしばらくこちらに来れないけど・・・。とにかく無理しちゃだめだ。わかってるね」

あたしの手を取ると、言い含めるようにゆっくりと言う。

「・・・うん」

返事をすると、高彬はあたしの手をぽんぽんと優しく叩き、衣擦れの音も優しげに部屋を出て行った・・・。







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「ほんとうに、おまえには呆れましたぞ、瑠璃やっ!」

ついさっき、参内から戻ってきた父さまが御簾の向こうでまくしたてている。

「どこの世界に、団喜の食べすぎで、寝所で吐く妻がおるのじゃ!」

「だから、吐いてなんかないってばぁ・・・・」

「高彬どのはな、おまえが懐妊したかもしれぬと思ったのじゃぞ。高彬どのに失礼だと思わぬのか」

「だから、あれは高彬が勝手に思っただけで、あたしは一言も懐妊だなんて・・・」

「新妻が気持ち悪そうに口元を押さえたら、懐妊したと思うのが普通ですぞっ。それをまぁ、おまえは団喜を食べすぎたなどと・・・・思えばおまえは童の頃から食い意地がはっている姫じゃった。いつまでも、色気より食い気ばかりだと、いつか高彬どのに離縁されますぞっ、離縁っ。わかっておるのか、瑠璃やっ!」

言いたいことだけいうと、父さまはやっと部屋を出て行ってくれた。

あたしはうんざりして、脇息にもたれかかった。

高彬への怒りが、またふつふつと沸いてくる。

あの日、いざこれからコトに臨もうとしていたあたしは、急に吐き気におそわれた。

昼に団喜を食べ過ぎたからなんだけどさ。

それは珍しい団喜で、一個のつもりが二個、二個のつもりが三個と手が伸びてしまい、それで終わればよかったんだけど、申の刻になり運ばれてきた夕の御膳の湯漬け飯もぺろりと三杯もおかわりしてしまったのよ。

さすがに胸やけがしてきて、高彬が来ることはわかってたんだけど、急に仕事が入ったとかで来れなくなんないかなー、今日はこのまま寝たいんだけどなー、なんて思ってた。

だけど、そこは真面目で律儀な高彬だから、しっかり戌の刻あたりにやってきたんだ。

それで、新婚だから、自然とそういう流れになってきて、まぁ、あたしも高彬の胸の中でどきどきしたり安心したりしてさ。

そこまでは良かったのよ。

でも、その時、急にむかむかと気持ちが悪くなっちゃって。多分、たきしめていた香にやられたんじゃないかと思う。

それで、ここで吐くわけにも行かないからと、慌てて簀子縁に飛び出したんだけど。

それを、あのバカ夫が「御やや懐妊」と早とちりしてしまって、翌日、殿上の間で父さまに話したというんだよね。

ご丁寧にも右大臣家の方にも話が行ってしまい、さらには、どこからか話が漏れて、宮廷内でも知られることとなり、あっと言う間に大騒ぎになってしまったのだ。

部屋には父さまや母上が駆け込んできて、やれ加持だ、祈祷だ、安産祈願の願掛けだ・・・・と、三条邸はちょっとしたパニック状態になるし、右大臣家では、いまだにこの結婚に良い顔をしていないという高彬の母君が、ヒステリーを起こして卒倒しかけたというし、更に宮廷では「やや誕生後」の政治の動きを殿上人たちがあれやこれやと噂するしで、いや、もう、ほんと大変だったらしい。

あたしは自分の身体のことだから、団喜の食べすぎで気持ちが悪いって思っていたし、何よりも、その・・・月のものとかの関係で・・・・懐妊してるわけないってわかっていたから、まさか、あの時、高彬がそんな風に思ったなんて、思いもよらなかったのよ。

そういや、やけに潤んだような目をしていたのは、そのためだったのか。

いつもだったら、あたしの話をさえぎってでも強引にコトを始めるのに、この間はすんなりと「もう休もうか」なんて言ってたし。

ああいう時の殿方の思い込みの強さって、なんなのかしら。

どうして殿上人たちが、あたしたちの「やや誕生」で大騒ぎをするのかというと、高彬とあたしの間に御ややができると言うのは、高度に政治的な問題なんだそうな。

高彬の実家は右大臣家だしうちは内大臣家で、とりあえず家柄は良い。

そこにもし御ややが出来て、姫ややだったりしたら、身分的には申し分ないわけだから、まずは東宮妃、いずれは后がねとなる可能性も充分にあるわけで、帝との外戚関係をいかに持つかが、出世や地位に大きく関係しているのが今の政情だから、そういう角度からもあたしたちの結婚は何かと注目を集めているらしいのよ。

でも、あたしはそういうことには全く興味がないし、高彬だってそうだと思うんだけどな。

高彬の口から、早く御ややが欲しいなんて聞いたことないし。

まぁ、ともかくあたしが懐妊してるわけではないということは、はっきりと父さまに話し、高彬にも伝わったんだけど、五日たったというのに、宮廷内ではいまだに情報が錯綜しているんだって。

懐妊してると思われてるなんて、はっきり言って恥ずかしいわよぉ。

結婚してるんだから、懐妊して何が恥ずかしいって言われればそれまでだけど、でも、なんだかロコツよー。

契りましたって言ってるようなもんなんだもん・・・。

結婚前は「結婚しろ、結婚しろ」と父さまからせつかれて、結婚が決まったら決まったで「妻としての心得を身に付けよ」と回りから言われてさ、結婚したら今度は御ややのことで世間にあれこれ言われるなんて、たまったもんじゃないわ。

あたしのアイデンティティはどこにあるのか、と聞きたくなっちゃう。

こもごも思いをめぐらせていると、さわさわという衣擦れの音が聞こえ、女房があらわれ簀子縁に手をつき口上を述べた。

「姫さま、高彬さまがお見えになりました」

少しすると渡殿のあたりが騒がしくなり、やがて高彬があらわれた。





<第二話に続く>


〜あとがき〜

こんにちは!瑞月です。

というわけで、新章スタートしました。

今までのは「初夜編」と名づけました。(ロコツなネーミングだ・・・・)

新章は「新婚編」としてお送りしたいと思います。

カテゴリーを整理し、「二次小説」をさらに分けて「初夜編」「新婚編」「番外編」「短編」としましたので、少しわかりやすくなったと思います。

初夜という一大イベント(?)のあった「初夜編」にくらべ、「新婚編」はそういったイベントがない上に、陰謀や事件という難しいお話は書けませので、今まで以上にグダグダ・だらだらとした内容になってしまうと思います。

また、初夜編はかなりのハイペースで更新していましたが、新婚編はのんびりの更新になると思います。

それでも良いという方は、どうぞお付き合いくださいませ。

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読んでいただきありがとうございました。

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Secre

Unknown

のんびり、まったり楽しんでいます。(ドタバタも好きですけど)30話まで読みました。
原作の雰囲気に近いので安心して、読めますが個人的には脇役が結構好きなので、番外編もちょこちょこお願いします。

>kaoruさん

こんにちは!
30話まできたんですね。読んでいただきありがとうございます。
番外編は、守弥と高彬を書いたのですが、kaoruさんの好きな脇役は誰ですか?

Unknown

ジャパネスクに出てくる女性は、皆、それぞれ逞しくて好きです。(自分がしっかりしていないので)
男性陣は、鷹男・守弥とかが好きです。

>kaoruさん

確かにジャパネスクに出てくる女性は、皆、たくましいですよね。
氷室先生は、脇役の一人ひとりも愛情をもって丁寧に書き込んでいますよね!
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