社会人・恋人編<38>
写真を手にしばらく立ち尽くしていたぼくは、取り敢えずこうしていても仕方ないと駅に向かい歩きだした。
───瑠璃さん!
この男は一体、誰なんだ。
ぼくには仁菜子さんとのこと、<先方とお取引があったのか>なんて疑っておいて、自分は何なんだよ───
─Up to you !Ⅱ─<第38話>
カッカしながら早足で歩くうち、冬の冷たい風が良かったのか、それでも段々と頭が冷えてきた。
歩調を緩め、少し冷静に考えてみる。
瑠璃さんが誰と会っていたのかはこの際、いったん保留にするとして(後で絶対に詮議してやる!)一番の問題は、誰が何の目的でこんな写真を撮ったかと言うことだ。
昨日の今日、いや、もしかしたら昨夜のうちに郵便受けに入っていたかも知れず、そのスピーディーさも気になる。
そして
『藤原瑠璃の男関係に気を付けろ』
の文言。
ぼくへの警告とも取れるし、もう少し含みがあるようにも取れる。
ぼくたちの仲を引き裂くための工作と考えるのが、一番シンプルな───
と、そこまで考えて、ふと閃くものがあった。
いつかの動画。
水無瀬が言ってたみたいに社内で噂になってる気配もないし、女子社員から瑠璃さんへ何か嫌がらせがある気配もないし、結局、そのままにしていた、あの動画。
あの動画を投稿した目的はわからないけど、普通に考えたら、いかにもこれからホテルにしけ込むと思わせるような映像を流されて困るのは女性の方だろう。
だとしたら、あの動画の投稿は瑠璃さんを標的にしたものと言う事になるし・・・
あの動画と、この写真は何か関係があるのだろうか。
たまたま、なのかも知れないし、だけど、これを偶然と片付けるにはちょっとタイミングが合いすぎている気がする。
いや、動画の投稿も、写真と怪文書の投げ入れも、そもそもが普通はされないようなことだし・・・
あれこれ考えてるうちに、いつものカフェに着いた。
瑠璃さんはまだ来ておらず、コーヒーを手に席に着くと読みかけの本を取りだす。
だけど、どんなに面白い本だろうとさすがに今は読む気になれず、コーヒーを飲みながら外を見ていると、向こうから瑠璃さんがやってくるのが見えた。
ツヤツヤとした頬を、寒さのためか少し赤く染めながら足早に歩いていて、人の気も知らないで、今日も元気いっぱいと言う感じの瑠璃さんではある。
まったく・・・。
今、ぼくがどんな写真を持ってるか知ったら驚くぞ。
昨日の仕返しに、今度はぼくが舌を出しながら「べー」とでも言ってやろうか。
店内に瑠璃さんが入ってきたところで、慌てて本を読んでる振りをする。
少しすると「コホン」「コホン」とわざとらしい咳払いが聞こえてきて、瑠璃さんが席に着いたのだとわかった。
それでも気付かない振りをしてたら、ものすごい視線を感じてしまい、耐えきれなくなって顔を上げると、瑠璃さんがしきりに目配せを送っていた。
チラッチラッと横を向いて、自分の携帯を指さして笑っっている。
はぁ?
一体、瑠璃さんは一人で何をしているんだ。
まったく、呑気なもんだよ。
朝の写真のことも忘れてポカンと見ていると、瑠璃さんは諦めたのか、静かにカフェラテを飲み始めた。
コーヒーを飲みながら、またあれこれ考えていると、瑠璃さんが席を立った。
瑠璃さんが店を出て行ったのを見届け、ぼくも席を立つ。
******
「瑠璃さん!」
後を追い隣に並ぶと、瑠璃さんは驚いたような顔になった。
一応、朝の出社だけはずらそうと示し合わせているからだ。
だけど、今日はそんなこと言っていられない。
「瑠璃さん、今日、うちにきて」
前を向きながら言うと
「え」
同じく前を向きながら瑠璃さんが不満げな声を上げた。
「昨日も寄ったし、今日は無理よ。早く帰って部屋の片付けをしたいの」
「片付けなんかいつでも出来るだろう」
「でも」
「いいから来て。大事な話があるんだから」
「無理よ、だから片づけが・・」
「いいから。これは誘いじゃなく、決定事項だ」
怖い声でぴしゃりと言い、横目でじろりと睨んでやると、瑠璃さんは唇を尖らせてきた。
それでも、ぼくの本気を汲み取ったのか
「わかったわ」
としぶしぶのように頷き、そうして
「先に行くわ」
小走りに前を行き、そのままオフィスビルに入って行った。
昨日、誰と会ってたのか、ズバリ聞いてやろう。
事と次第によってはお仕置きだな・・・
「藤原くん」
入れ違いのように声を掛けられ、振り向くと水無瀬だった。
「お邪魔かと思って遠慮してたの。何よ、仲良く出社しちゃって。もうバレてもいいの?」
「そんなんじゃないさ」
そう答えつつ、そう言えば、ぼくと瑠璃さんが付き合ってることは口外してないし、<仲を引き裂く>のが目的だとしたら、付き合ってることを知ってる人間の仕業と言うことになる、と言う事に気が付いた。
「来週、どう?」
「何が」
「何がって、合コンよ」
「あぁ」
そう言えば、そんなお願いしてたっけ・・
「ねぇ、藤原くん。合コンすること、ちゃんと彼女さんに言っておいてよね。そんなことでわたしが恨まれても困るし」
「・・・」
瑠璃さんに合コンの報告・・・
ぼくが合コンに出るなんて言ったら、瑠璃さん、何て言うだろう。
案外、お仕置きされるのはぼくの方かも知れないな・・・
…To be continued…
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───瑠璃さん!
この男は一体、誰なんだ。
ぼくには仁菜子さんとのこと、<先方とお取引があったのか>なんて疑っておいて、自分は何なんだよ───
─Up to you !Ⅱ─<第38話>
カッカしながら早足で歩くうち、冬の冷たい風が良かったのか、それでも段々と頭が冷えてきた。
歩調を緩め、少し冷静に考えてみる。
瑠璃さんが誰と会っていたのかはこの際、いったん保留にするとして(後で絶対に詮議してやる!)一番の問題は、誰が何の目的でこんな写真を撮ったかと言うことだ。
昨日の今日、いや、もしかしたら昨夜のうちに郵便受けに入っていたかも知れず、そのスピーディーさも気になる。
そして
『藤原瑠璃の男関係に気を付けろ』
の文言。
ぼくへの警告とも取れるし、もう少し含みがあるようにも取れる。
ぼくたちの仲を引き裂くための工作と考えるのが、一番シンプルな───
と、そこまで考えて、ふと閃くものがあった。
いつかの動画。
水無瀬が言ってたみたいに社内で噂になってる気配もないし、女子社員から瑠璃さんへ何か嫌がらせがある気配もないし、結局、そのままにしていた、あの動画。
あの動画を投稿した目的はわからないけど、普通に考えたら、いかにもこれからホテルにしけ込むと思わせるような映像を流されて困るのは女性の方だろう。
だとしたら、あの動画の投稿は瑠璃さんを標的にしたものと言う事になるし・・・
あの動画と、この写真は何か関係があるのだろうか。
たまたま、なのかも知れないし、だけど、これを偶然と片付けるにはちょっとタイミングが合いすぎている気がする。
いや、動画の投稿も、写真と怪文書の投げ入れも、そもそもが普通はされないようなことだし・・・
あれこれ考えてるうちに、いつものカフェに着いた。
瑠璃さんはまだ来ておらず、コーヒーを手に席に着くと読みかけの本を取りだす。
だけど、どんなに面白い本だろうとさすがに今は読む気になれず、コーヒーを飲みながら外を見ていると、向こうから瑠璃さんがやってくるのが見えた。
ツヤツヤとした頬を、寒さのためか少し赤く染めながら足早に歩いていて、人の気も知らないで、今日も元気いっぱいと言う感じの瑠璃さんではある。
まったく・・・。
今、ぼくがどんな写真を持ってるか知ったら驚くぞ。
昨日の仕返しに、今度はぼくが舌を出しながら「べー」とでも言ってやろうか。
店内に瑠璃さんが入ってきたところで、慌てて本を読んでる振りをする。
少しすると「コホン」「コホン」とわざとらしい咳払いが聞こえてきて、瑠璃さんが席に着いたのだとわかった。
それでも気付かない振りをしてたら、ものすごい視線を感じてしまい、耐えきれなくなって顔を上げると、瑠璃さんがしきりに目配せを送っていた。
チラッチラッと横を向いて、自分の携帯を指さして笑っっている。
はぁ?
一体、瑠璃さんは一人で何をしているんだ。
まったく、呑気なもんだよ。
朝の写真のことも忘れてポカンと見ていると、瑠璃さんは諦めたのか、静かにカフェラテを飲み始めた。
コーヒーを飲みながら、またあれこれ考えていると、瑠璃さんが席を立った。
瑠璃さんが店を出て行ったのを見届け、ぼくも席を立つ。
******
「瑠璃さん!」
後を追い隣に並ぶと、瑠璃さんは驚いたような顔になった。
一応、朝の出社だけはずらそうと示し合わせているからだ。
だけど、今日はそんなこと言っていられない。
「瑠璃さん、今日、うちにきて」
前を向きながら言うと
「え」
同じく前を向きながら瑠璃さんが不満げな声を上げた。
「昨日も寄ったし、今日は無理よ。早く帰って部屋の片付けをしたいの」
「片付けなんかいつでも出来るだろう」
「でも」
「いいから来て。大事な話があるんだから」
「無理よ、だから片づけが・・」
「いいから。これは誘いじゃなく、決定事項だ」
怖い声でぴしゃりと言い、横目でじろりと睨んでやると、瑠璃さんは唇を尖らせてきた。
それでも、ぼくの本気を汲み取ったのか
「わかったわ」
としぶしぶのように頷き、そうして
「先に行くわ」
小走りに前を行き、そのままオフィスビルに入って行った。
昨日、誰と会ってたのか、ズバリ聞いてやろう。
事と次第によってはお仕置きだな・・・
「藤原くん」
入れ違いのように声を掛けられ、振り向くと水無瀬だった。
「お邪魔かと思って遠慮してたの。何よ、仲良く出社しちゃって。もうバレてもいいの?」
「そんなんじゃないさ」
そう答えつつ、そう言えば、ぼくと瑠璃さんが付き合ってることは口外してないし、<仲を引き裂く>のが目的だとしたら、付き合ってることを知ってる人間の仕業と言うことになる、と言う事に気が付いた。
「来週、どう?」
「何が」
「何がって、合コンよ」
「あぁ」
そう言えば、そんなお願いしてたっけ・・
「ねぇ、藤原くん。合コンすること、ちゃんと彼女さんに言っておいてよね。そんなことでわたしが恨まれても困るし」
「・・・」
瑠璃さんに合コンの報告・・・
ぼくが合コンに出るなんて言ったら、瑠璃さん、何て言うだろう。
案外、お仕置きされるのはぼくの方かも知れないな・・・
…To be continued…
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