社会人・恋人編<36>
鷹男の名前が表示された画面をじっと見る。
出るべきか出らざるべきか。
考えることしばし───
あたしはエイっと通話ボタンを押した。
─Up to you !Ⅱ─side R <第36話>
「はい」
なるべく事務的に聞こえるように出ると、果たして鷹男は
「硬い声だな、瑠璃ちゃん。何かあったのか?」
あたしの声のトーンを正しく見抜いてきた。
何かあったも何も、あなたの<ご発言>が気に喰わないのよ──
そう思いつつ
「別に何もないわよ」
無難な返事をする。
こう言っちゃ何だけど、敵か味方か判らない相手に手の内を明かすわけにはいかないからね。
「第2回ミーティング、明日どうだ?」
「・・・」
「社内でもいいし、社外でもいい。俺としては社外が希望だけどね」
「明日は予定があるから無理よ。ところで──」
ぴしゃりと断ってから、いったん言葉を切り
「鷹男は今どこにいるの?」
慎重に聞いてみると
「家だよ」
間髪入れずに言葉が戻ってきた。
「とか言って、綺麗な女の人がお酒注いでくれる店にいたりして」
「瑠璃ちゃんが俺のこと気にしてくれるなんて嬉しいね」
「・・・」
「今日は仕事終わったらまっすぐ帰宅したよ」
「どこにも寄らずに?誰にも会わずに?」
「そうだよ。・・・何だよ、やけに突っ込んだ質問してくるな。これって少しは期待していいってことなのか?」
「さぁ、どうかしらね」
あっかんべーをしながら答えておいて
「じゃあ切るわ」
躊躇なく終了ボタンを押す。
鷹男が何か言う声が聞こえた気がしたけど、構うもんですか。
オートロックの扉を開けながら、鷹男をグレーゾーン人物にカテゴリ分けする。
誰にも会わなかったなんて、取り敢えずそこひとつ取ってみても嘘付いてるものね。
まぁ、それだけですぐに敵とは決められないけど。
部屋に入り上着を脱ぎ、ソファに腰を下ろしたところで、またしても携帯の着信音がした。
画面を見ると融からで、通話ボタンを押すと
「あ、姉さん?」
弾んだ声が聞こえてきた。
「もう家に着いたの?」
「うん、少し前にさ。あのさ」
「何よ」
「由良ちゃんって可愛いよねぇ」
「・・・」
あたしは電話口の融に聞こえないようにため息をついた。
融がどんな顔してるか、見なくたって判るわ。
この子も惚れっぽいからねぇ・・
遡れば幼稚園の頃、担任の先生と結婚すると宣言したことから始まる、融の一目惚れ遍歴は数知れず。
まぁ、どれも成就したことなんかないんだけどね。
「まぁ、確かに由良ちゃんは可愛いわね。ところで東京観光はしたの?」
「うん、少しだけどね。由良ちゃんさ、もう、どこに行っても喜んでくれるんだ。それで京都駅で別れる時にさ、『また色々案内してくださいね』なんて言われちゃってさ。年下の女の子に頼られるのっていい気分だよねぇ」
その言葉で、そう言えば今まで融が一目惚れした相手は、歴代全員が年上だったことを思いだす。
「・・・取りあえず、泊めてもらったんだから高彬にお礼の電話くらいしておきなさいよね」
姉らしい助言をすると
「うん、そうだね!由良ちゃんの好きな食べ物とかも聞いておかなくっちゃ。じゃあ、姉さんまたね」
そそくさと電話を切られてしまった。
「・・・・・」
姉として融の恋が成就することを願うばかりってとこかしらね。
複雑なお家事情があるみたいだし、色々、大変な相手だとは思うけど・・・
「・・・・」
ま、それはあたしも同じことが言えるんだけどさ。
*******
翌朝、いつものカフェに行くと、先に来ていた高彬は本を読んでいた。
ページの進み具合から、昨晩、かなり夜更かしして読んだに違いなく、高彬は楽しくて充実した時間を過ごしたんだろうな、と思えた。
その時間を提供したのが仁菜子さんだと言う事に、やっぱり何となーくだけど胸がチクチクする。
高彬はあたしが入ってきたことに気が付かないみたいで「コホン」なんて咳払いをしてみたら(あ)と言う感じでようやく顔を上げた。
あたしと高彬の間のテーブルにはカップルが座っていて、携帯でお互いを撮りあったりしている。
「・・・・」
そういえば。
あたし、高彬に写真を撮られたことがないかも。
写真を撮り合うって、カップルの定番なんじゃないの?
隣のカップルはお互いの写真を見せ合って笑ったり、あげくには隣に並んでツーショットでカメラに収まったりしてる。
「・・・・」
あたしもああ言うのやりたい!
必死に高彬に目配せを送り続けていると、ようやく目が合った。
隣のカップルを見て、そうして自分の携帯を指さして、写真撮られるみたいにニコっと笑って見せると、高彬は怪訝そうな顔で首を傾げている。
もう!
このジェスチャーでわかりなさいよね!
ほんと、高彬ってどっか鈍いんだから。
…To be continued…
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出るべきか出らざるべきか。
考えることしばし───
あたしはエイっと通話ボタンを押した。
─Up to you !Ⅱ─side R <第36話>
「はい」
なるべく事務的に聞こえるように出ると、果たして鷹男は
「硬い声だな、瑠璃ちゃん。何かあったのか?」
あたしの声のトーンを正しく見抜いてきた。
何かあったも何も、あなたの<ご発言>が気に喰わないのよ──
そう思いつつ
「別に何もないわよ」
無難な返事をする。
こう言っちゃ何だけど、敵か味方か判らない相手に手の内を明かすわけにはいかないからね。
「第2回ミーティング、明日どうだ?」
「・・・」
「社内でもいいし、社外でもいい。俺としては社外が希望だけどね」
「明日は予定があるから無理よ。ところで──」
ぴしゃりと断ってから、いったん言葉を切り
「鷹男は今どこにいるの?」
慎重に聞いてみると
「家だよ」
間髪入れずに言葉が戻ってきた。
「とか言って、綺麗な女の人がお酒注いでくれる店にいたりして」
「瑠璃ちゃんが俺のこと気にしてくれるなんて嬉しいね」
「・・・」
「今日は仕事終わったらまっすぐ帰宅したよ」
「どこにも寄らずに?誰にも会わずに?」
「そうだよ。・・・何だよ、やけに突っ込んだ質問してくるな。これって少しは期待していいってことなのか?」
「さぁ、どうかしらね」
あっかんべーをしながら答えておいて
「じゃあ切るわ」
躊躇なく終了ボタンを押す。
鷹男が何か言う声が聞こえた気がしたけど、構うもんですか。
オートロックの扉を開けながら、鷹男をグレーゾーン人物にカテゴリ分けする。
誰にも会わなかったなんて、取り敢えずそこひとつ取ってみても嘘付いてるものね。
まぁ、それだけですぐに敵とは決められないけど。
部屋に入り上着を脱ぎ、ソファに腰を下ろしたところで、またしても携帯の着信音がした。
画面を見ると融からで、通話ボタンを押すと
「あ、姉さん?」
弾んだ声が聞こえてきた。
「もう家に着いたの?」
「うん、少し前にさ。あのさ」
「何よ」
「由良ちゃんって可愛いよねぇ」
「・・・」
あたしは電話口の融に聞こえないようにため息をついた。
融がどんな顔してるか、見なくたって判るわ。
この子も惚れっぽいからねぇ・・
遡れば幼稚園の頃、担任の先生と結婚すると宣言したことから始まる、融の一目惚れ遍歴は数知れず。
まぁ、どれも成就したことなんかないんだけどね。
「まぁ、確かに由良ちゃんは可愛いわね。ところで東京観光はしたの?」
「うん、少しだけどね。由良ちゃんさ、もう、どこに行っても喜んでくれるんだ。それで京都駅で別れる時にさ、『また色々案内してくださいね』なんて言われちゃってさ。年下の女の子に頼られるのっていい気分だよねぇ」
その言葉で、そう言えば今まで融が一目惚れした相手は、歴代全員が年上だったことを思いだす。
「・・・取りあえず、泊めてもらったんだから高彬にお礼の電話くらいしておきなさいよね」
姉らしい助言をすると
「うん、そうだね!由良ちゃんの好きな食べ物とかも聞いておかなくっちゃ。じゃあ、姉さんまたね」
そそくさと電話を切られてしまった。
「・・・・・」
姉として融の恋が成就することを願うばかりってとこかしらね。
複雑なお家事情があるみたいだし、色々、大変な相手だとは思うけど・・・
「・・・・」
ま、それはあたしも同じことが言えるんだけどさ。
*******
翌朝、いつものカフェに行くと、先に来ていた高彬は本を読んでいた。
ページの進み具合から、昨晩、かなり夜更かしして読んだに違いなく、高彬は楽しくて充実した時間を過ごしたんだろうな、と思えた。
その時間を提供したのが仁菜子さんだと言う事に、やっぱり何となーくだけど胸がチクチクする。
高彬はあたしが入ってきたことに気が付かないみたいで「コホン」なんて咳払いをしてみたら(あ)と言う感じでようやく顔を上げた。
あたしと高彬の間のテーブルにはカップルが座っていて、携帯でお互いを撮りあったりしている。
「・・・・」
そういえば。
あたし、高彬に写真を撮られたことがないかも。
写真を撮り合うって、カップルの定番なんじゃないの?
隣のカップルはお互いの写真を見せ合って笑ったり、あげくには隣に並んでツーショットでカメラに収まったりしてる。
「・・・・」
あたしもああ言うのやりたい!
必死に高彬に目配せを送り続けていると、ようやく目が合った。
隣のカップルを見て、そうして自分の携帯を指さして、写真撮られるみたいにニコっと笑って見せると、高彬は怪訝そうな顔で首を傾げている。
もう!
このジェスチャーでわかりなさいよね!
ほんと、高彬ってどっか鈍いんだから。
…To be continued…
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