<原作オマージュ>16~原作一巻より 

『なんて素敵にジャパネスク〜二次小説』




注)このお話は原作のあるシーンを高彬目線で書いていますのでネタバレとなっています。
原作未読の方はご注意ください。
今までのお話は<オマージュリスト>からどうぞ。
          
          





***<原作オマージュ>16~原作一巻より***








ぎしぎしと車輪の音をたて車が動き出すと、しばらくは車中に沈黙が流れた。

さすがの瑠璃さんも何事かを考える風に黙り込んでいる。

風の流れが変わったのか、途切れ途切れに管弦の音が聞こえてきて、おそらく宮邸はまだ宴の真っ最中なのだろう。

最初に口を開いたのは瑠璃さんだった。

「えぇ・・と、つまり、あんたは二の姫にお歌の作り方を教えてもらっていた、と。そういうわけよね」

一語一語、確認するように言い、ぼくの顔を覗き込んでくる。

「うん」

頷くと、瑠璃さんは(ふむ)と言う感じでまたしても黙り込み、そうして

「よりにもよってどうして二の姫に頼んだの?他にも歌の先生はごまんといるじゃない」

どこか疑わしそうな口ぶりで、どうやらまだ態度を決めかねている、と言った感じのようだった。

「そういう年取った方は技巧に走っていて心情的じゃないんだよ。やっぱり年の近い方に指導してもらった方がいいと思って」

「それはまぁ、わからなくもないけど・・」

瑠璃さんの態度の軟化を見て取り、この機を逃してなるものか、とここを先途と続ける。

「気丈な瑠璃さんが、歌も文ももらってないと、悔しそうに涙ぐんでいうんだから、よほど欲しいんだろうと思ってね。あの日は、まぁ、ぼくも悪かったと思い直したんだ。それで、服喪中だったけど、逆に習うなら今しかないと思って、二の姫に無理を言ってお願いしたんだよ。お悔やみでいただいた歌が、それは見事だったんだ」

「・・・・・」

「やっぱり即興でひとつやふたつ、歌を作る実力を養っておこうと思ってさ」

「・・・・・・」

ぼくの言葉を吟味するかのように瑠璃さんは考え込み、少ししてハッと顔を上げた。

「大尼君の遺言の話はどうなったのよ」

「遺言?お祖母さまは遺言を残す間もなくお亡くなりになったんだよ」

「そうなの?」

「今日だって、二の姫にご遺品を届けると言う名目でお訪ねしたんだけど、それだって嘘っぱちさ。文だけじゃどうしたって限界があるし、でも、服喪中でおいそれと外出もままならない。それで、何とかもっともらしい口実を考えたんだよ」

肩をすくめると

「んまぁ・・」

瑠璃さんの口から、感心とも感嘆とも取れる盛大なため息が漏れた。

本当に、ぼくがどれだけ瑠璃さんのため、瑠璃さんとの結婚のために心を砕いているのか、瑠璃さんにも判ってもらいたいものだよ。

「ぼくの苦労も少しはわかってほしいね」

ついついぼやきが口を付いて出る。

「そんなにまでして思い込まれる姫君は、さぞ素晴らしい方なんでしょうね、なんて言われて、何とか言い繕っていたのに、生霊さながらに邸内に現れて大騒ぎするなんて、ぼくの立場がないじゃないか」

そう言うと、瑠璃さんはぷっと吹きだした。

「ほんと、あの時のあんたの間抜け面ったらなかったわね。あははは」

「・・・・・」

何が、あはは、だよ。

じろりと睨んでやると、瑠璃さんは口をつぐみ、だけど、ぼくは本気で怒ったりは出来ないのだった。

それどころか「あはは」と聞いて、妙に安心した気持ちになっていた。

やっぱり「おほほ」より「あはは」だよな、なんて思っている。

ほんと、ぼくは瑠璃さんに甘い。

甘いと言うか、弱い。

「ぼくも意地になって、歌が上手くなるまでは瑠璃さんに文を書かないつもりでいたから、瑠璃さんも色々、不安だったのかも知れないけど・・」

喧嘩別れのままになっていたわけだしな。

「でも、ともかく喪が明けるまではおとなしくしていておくれよ。毎回、生霊さながらにあちこち出没されたんじゃ、おちおち歌も習ってられないよ」

第一、こんな夜に女の身で出歩くなんて危なっかしくて仕方がない。

いくらお忍びが得意な瑠璃さんでも、夜の京なんて危険すぎる・・・

そう思い、メッと怖い顔を作って見せると

「うん・・・」

瑠璃さんは肩を落とし俯いた。

視線を落としたそのままの恰好で車に揺られている瑠璃さんを、ぼくはじっと見つめた。

瑠璃さんの顔は恥ずかしそうでもあり、どこか穏やかそうでもある。

あんなに大騒ぎした気まずさもあるのだろうし、もしかしたら真相がわかって安心したところもあるのかも知れない。

「・・・・・」

瑠璃さんが現れて小刀を抜いた時は、それこそ腰を抜かすほど驚いたけど、でも、考えて見たら全てぼくのためなんだよな。

どうして瑠璃さんが宮邸にぼくがいると知ったかは解らないけど、とにもかくにも瑠璃さんはやって来た。

ぼくと二の姫の仲を疑って。

ぼくがふたまたを掛けていると思って。

「・・・・」

それって・・・

ふいに車のスピードが落ち、どうやら大納言邸に近づいたようだった。

物見窓を開け外を確認した瑠璃さんは

「あ、着いたみたい・・・」

なんて呟いている。

「大納言さまにばれないように、ちゃんと邸内に入れるかい?」

───怖いから、高彬も一緒に来て。

そんな言葉を期待していたのに、果たして

「大丈夫よ。いつもやってるもの」

返ってきた言葉は、何とも勇ましいものだった。

「それより、時々、こうやって夜のドライブしましょうよ。とても楽しかったわ」

瑠璃さんは屈託なく笑い、ぼくも釣られて笑い返しながら

───ほんと、ぼくは瑠璃さんに弱いよな。

なんて思っている。

弱いけど・・・・

だけど、それだけじゃないぞ。

そっと唇を合わせて離れると、まん丸い目でぼくを見上げる瑠璃さんの顔があった。

「・・・・・」

何が起きたのか判らないのか、瞬きもせずにぼくを見ている。

あの夜───

こうすれば良かったんだ。

ぼくは、好きと言う気持ちすら伝えず、手も握らず、なのに結婚することばかりを優先して・・・

そりゃあ、瑠璃さんじゃなくたって怒るよな。

「・・・ねぇねぇ、高彬」

こもごも思っていたら、甘えるような瑠璃さんの声がした。

「歌の勉強してたんでしょ?ここでひとつ、後朝の歌みたいなの、作ってよ」

「え、ここで?!」

思ってもみなかった提案にギョッとしつつ

「うん」

期待に満ち溢れた瑠璃さんの目に、断る言葉を失くす。

思案することしばし──


── 筒井筒 契りのかなふ今日なれば 逢い見し後は 絶えて惜しまん ──


そう口ずさみ、恐る恐る瑠璃さんの顔を見ると、瑠璃さんは目を閉じ、その眉間に皴を寄せている。

「・・・高彬、あんた、これからも二の姫にいろいろ教えていただいた方がいいわ」

目を開けた瑠璃さんは重々しく言い

「あたしの理想の後朝の歌には程遠いわよ。あたしの気に入る歌が出来るまで『契りのかなふ今日』は来ないんだからね」

続けて言われ、ぼくはがっくりと肩を落とした。

これだから、瑠璃さんにまだ歌を贈りたくなかったんだよ・・・

時期尚早とはこのことだ。

「会えないうちに歌才を磨いて、瑠璃さんを<あっ>と驚かせたかったんだけどなぁ・・・」

「反対に、あたしに<あっ>と驚かされちゃったってわけね」

「自分で言うなよ」

むくれて見せると、瑠璃さんは声を上げて笑い、ぼくも釣られて笑った。

「あの日、色々、言っちゃって、・・ごめんね」

ひとしきり笑った後、瑠璃さんは恥ずかしそうに目を逸らしながら呟いた。

「ううん。ぼくの方こそ、・・・ごめん」

「うん」

「うん」

えへへ、なんて照れくさそうに瑠璃さんは肩をすくめると

「えーと、もう帰るわ・・」

「・・・」

立ち上がろうとする瑠璃さんの手を取り、引き寄せる。

初めての接吻は、一度じゃなきゃダメなんてことは、ないよな・・・

軽く唇に触れ、目を合わせた後、もう一度、今度は少しだけ長めの接吻をして───

そうしてぼくは瑠璃さんをぎゅっと抱きしめたのだった。






<終>


また他のシーンを高彬目線で書くこともあるかも知れませんが、いったんはオマージュはこれで終わりにします。
お付き合いいただきありがとうございました。

オマージュ、楽しんでいただけましたらクリックで応援をお願いいたします。
↓↓



(←お礼画像&SS付きです)

コメントの投稿

Secre

非公開さま(Mさま)

Mさん、こんばんは。

オマージュ、お付き合いいただきありがとうございました。
瑠璃に甘くて弱くて、でも「それだけじゃない」高彬、お楽しみいただけたようで良かったです!
一回では済まなかったようです。だって密室ですし~。夜ですし!

ベリーさま

ベリーさま、こんばんは。

> 本当にどっちもどっちなカップルですよね

そうなんですよね(笑)色んな意味でお似合いカップルなのかも知れません。
でも、ほんと可愛いです。

> この頃はラブコメチックで、これはこれで楽しい時期だったですよね!融が鷹男に斬られるまではっ チッ

ほんと、そうなんですよ!
2話までは完ぺきラブコメでしたよね。本の帯にも確かラブコメって書いてありました。

> 原作でももうちょっとこうゆうの読みたかったです〜だから炎上編の後の番外編、本当に氷室先生には書いてて欲しかったですよねえ。。。涙

本当に。その後のあれこれ、少しでも読んでみたかったですよね…

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

本当にどっちもどっちなカップルですよね
でも、可愛かったです
この頃はラブコメチックで、これはこれで楽しい時期だったですよね!融が鷹男に斬られるまではっ チッ
原作でももうちょっとこうゆうの読みたかったです〜だから炎上編の後の番外編、本当に氷室先生には書いてて欲しかったですよねえ。。。涙
、、、陰謀抜きのジャパも楽しいですね👏
プロフィール

瑞月

Author:瑞月
瑞月(みずき)です。

ランキングバナー

にほんブログ村

ランキングに参加しています。
楽しんでいただけましたら
クリックで応援をお願い致します。
1日1クリック有効です。
初めにお読みください
**当ブログの簡単な説明です**
当ブログは「なんて素敵にジャパネスク」の二次小説を掲載しております。 二次小説と言う言葉を知らない方や苦手な方は閲覧ご注意ください。 また読後のクレームはお受けできません。 「ごあいさつ<最初にお読みください>」も合わせてご一読下さい。
カテゴリ
別館
乳姉妹ブログ
日記ブログ
掲示板
なんて素敵にサイト様 
最新記事
ご訪問ありがとう(H23.11.28-)
**オンラインカウンター**
現在の閲覧者数:
コメントありがとうございます
お礼SSや「他己紹介」があります。
web拍手 by FC2
** あれこれ投票所 **
お好きなジャンルをお選びください。 投票は何度でも可能です。
*** あれこれ投票所2 ***
メールフォーム(ご用の方はこちらから)

名前:
メール:
件名:
本文:

カレンダー
10 | 2017/11 | 12
- - - 1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 - -
月別アーカイブ