社会人・恋人編<29>

「こっちこっち!」

融が上ずった声で手招きをし、あたしは心の中で盛大にため息をついてしまった。

だって明らかに変なテンションなんだもの。

そりゃあ由良ちゃんの前で舞い上がってるのは分かるけど、もうちょっと落ち着けないものかしら・・?






─Up to you !Ⅱ─side R <第29話>






「久しぶりね、由良ちゃん」

「はい、瑠璃さま」

席に着きながら由良ちゃんに笑い掛けると、人懐っこい笑顔が返ってきて、やっぱりいい子だわぁ、と再確認する。

野生の勘って言うのかしら、ホント、向かい合った時に感じるインスピレーションって結構、当たるもんなんだから。

どこかで美味しいものを食べようと地上に出て、高彬が知っていると言うフレンチの店に入る。

東京駅からほど近い、品格とフランクさを併せ持った、なかなかに雰囲気の良い一軒家のお店で

(ふぅん、高彬、こんな店知ってるんだ)

なんて思ってしまう。

恋人として嬉しいような悲しいような、複雑な気持ちだわ。

あたしより東京生活が長いんだから、おしゃれな店のひとつやふたつ知っててもおかしくないんだけど、一体、誰と来たことやら・・・

「どうしたの?瑠璃さん。ぼぅっとして。何にするか決まった?」

ふいに高彬に声を掛けられて、慌ててメニュー表に目を落とす。

結局、皆でシェフおまかせのコース料理を頼み、次々と運ばれてくる料理に舌鼓を打ちつつおしゃべりを楽しんだ。

鷹男と食べた三ツ星だか四つ星だかのレストランより、よっぽど美味しい気がする。

融は由良ちゃんと上京が一緒だったことを<運命的>だとか<ドラマみたい>なんて言葉を使って強調してたけど、当の由良ちゃんの反応は今ひとつ───

と言うか全く心に響いてないみたいて

(こりゃ前途多難だわ)

と思っていると、向かいに座る高彬と目が合った。

どうやら高彬も同じことを考えてたみたいで、笑いを噛み殺しながら何となく目配せし合うのもおかしかった。

「そう言えば、由良、今日泊まるところは決まってるのか?」

食後のコーヒーを飲みながら、ふと思い出したように高彬が聞いた。

「それが、まだ・・・」

由良ちゃんはカッブを置くと恥ずかしそうに頭を横に振り

「じゃあ由良ちゃん、うちに泊まらない?」

ウキウキと提案すると

「ぼ、ぼ、ぼくも姉さんのところに、と、泊まろうかな」

真っ赤な顔で融が横から口を挟んできた。

「ダメ」

即座に却下する。

「仕事終わったんならもう帰りなさいよ。最終の新幹線なら間に合うわよ。ここ東京駅近いし」

「姉さんと積もる話が・・・」

「あたしはないけど」

「そんなぁ」

「じゃあ、融はぼくのところに泊まるか?男同士、積もる話でも・・・」

「・・ぼく、帰る」

高彬とは積もる話がなかったのか、途端に興味がなくなったように融が呟くと

「あの、もしご迷惑でなければ、明日、京都まで一緒に帰っていただけませんか?それに出来れば、午前中だけでも東京観光が出来れば・・・」

由良ちゃんが真っ直ぐな目を融に向ける。

「由良。無理を言うもんじゃないぞ。融だって明日、仕事なんだろうし・・」

「ぼく、仕事辞めるよ!・・・あ、じゃなかった、休む。高彬、泊めてよ。積る話をしようよ」

「・・・積る話、あるのか?ぼくと」

懐疑的な目で高彬が言い

「ある、ある。たくさんある」

姉として愚弟の浅はかな言動に顔から火が出る思いだったんだけど、由良ちゃんには受けたみたいで声を上げて笑ってくれているのが、せめてもの救いだわ。

店を出て、途中の駅で高彬たちと別れると

「あのぅ、瑠璃さま」

「なぁに」

由良ちゃんが緊張した声で聞いてきた。

「瑠璃さまとお兄さまは、・・その・・・、特別なご関係なのでしょうか?」

「ふぇ?!」

奇襲攻撃とも言える突然の質問に、変な声が出てしまう。

「と、と、と、特別なご関係って言うと・・・」

「お付き合いなさっているのか、と言うことです」

「あ、あぁ、そういう事ね」

てっきり、アッチのことを聞かれたのかと・・・

「えーと、ね。うん、そうなのよ。へへ」

勝手に言っちゃって良かったかな、と思わないでもなかったけど、まぁいいわよね。由良ちゃんなんだし。

由良ちゃんは緊張を解いた顔になると、ふいにあたしの手を取り両手で包み込んだ。

「瑠璃さま。お兄さまと、結婚して下さい」

「へ?」

「ふつつかな兄ですが・・」

「・・・・・」

ふつつかって。結婚って・・・。

そういや、高彬も<前向きに検討>とか言ってたっけ。

すぐに結婚に発想が飛ぶのって、これって藤原家の血なのかしら・・・?

いや、あたしも藤原だけどさ・・・



******



上京の疲れなのか、お風呂から出た由良ちゃんはすぐに寝息をたて始めたので、部屋の電気を消し、ダウンライトだけにしてやる。

可愛い寝顔で、ついつい覗き込んでしまう。

妹がいたら、こんな感じなのかしらね。

「・・・・」

そっかー、もし高彬と結婚したら、由良ちゃんはあたしの妹になるのかぁ。

そんなことを思っていたら携帯が鳴った。

慌てて出ると高彬で

「由良ちゃんならもう寝ちゃったけど」

声を潜めて言うと

『融も寝たよ。由良はいいんだ』

「・・・」

『瑠璃さんの声が聞きたくなってさ・・』

「うん・・」

窓際に移動すると、爪のように細い月が見えた。

「月、見えてる?」

『・・・待って。窓際、行くから。・・・・うん、見えたよ』

「綺麗ね」

『うん』

沈黙が流れ、きっと高彬も月を見ているに違いなかった。

『さっき会ったばかりなのに、・・・瑠璃さんに会いたいな』

「ふふふ・・」

『何だよ、笑って。瑠璃さんは?ぼくに会いたくないの』

「・・・会いたいけど」

『会いに行こうか』

「ダメよ。融と由良ちゃんがいるわ」

『うん。・・だよな』

何とも甘やかな空気が流れ───

そりゃあ、恋人同士ですからね。すぐにこう言うムードにはなるわけよね。うふふ・・

「おやすみ」と言い合って電話を切り、薄暗闇の中、歩きだしたところで何かを蹴飛ばしそうになった。

しゃがんで見てみると由良ちゃんのカバンで、開いたファスナーから中のものが飛び出しそうになっている。

元に戻そうと手に取ると、何かの小包みだった。

宛名を見ると、高彬宛で、そう言えば由良ちゃんの上京の目的は高彬に荷物を渡すことだとか何とか言ってたけど、どうやら渡すの忘れちゃったみたいね。

何の気なしに裏を見ると、そこには「兵部仁菜子」と書かれてあり───

兵部仁菜子?

「・・・・・」

断ったと言う、高彬のお見合いの相手ではなかったかしら・・・?







…To be continued…


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Secre

ベリーさま

ベリーさん、こんばんは。

>積もる話、あんのか融!

ないですよね(笑)
確かにこの4人が揃ったのって原作ではなかったですよね!
守弥、煌姫、瑠璃、融、由良って言うのはありましたけど。

>電話の会話も可愛らしい

恋人ですもんねぇ。
私の高彬と電話で話したいです。

あさぎさま

あさぎさん、こんばんは。

まずはタイトルに爆笑しました。
こんな簡単に「仕事辞める」なんて言っちゃう融は、まさしく「何者?!」「何様?!」って感じですよね(笑)

> 融&由良ちゃん、何ともかわいらしいです~!

可愛いですよねぇ。書いてて癒されます!

> ちゃんと会社勤めができているのか、心配になってきました(笑)

心配なさらずとも、出来ておりませんので(笑)
融の給与明細の項目には、他の人にはない「(周りの人を)癒した代」と言うのがあるんです。
「融ちゃんは仕事はしなくていいんだよ、居てくれるだけで癒されるから・・」
と、おばちゃん達に可愛がられてる可能性大です。

> らぶポカキャンペーンに浮かれてすっかり忘れかけていましたが、動画の件や、鷹男の話に守弥の動き、高彬の過去も含めて(笑)、まだまだ問題は山積みですが、身も心も結ばれた二人なら、何があってもきっと乗り切ってくれることでしょう~!

そうなんです、私もうっかりすっかり忘れかけていたんですけど色々と問題があるんでしたよね。
らぶポカを挟みつつ、問題も解決させていきますので、またお付き合いくださいませ~。
(正直、私の頭の中では「らぶポカ」>>>>>>「問題解決」なんですけど!)

積もる話、あんのか融!
この4人集まった感が現代で見れていいですね。平安じゃなかなかありえない!
電話の会話も可愛らしい♡

融、仕事辞めるってよ!?

瑞月さん、こんばんは~。

融&由良ちゃん、何ともかわいらしいです~!
「ぼく、仕事辞めるよ!」とさらりと言い間違えるなんて、高彬は絶対しないでしょうねぇ。
ちゃんと会社勤めができているのか、心配になってきました(笑)
高彬の方は、現代版でも有能なんだろうなあと簡単に想像がつくんですけどねぇ・・・。

でもでも、この調子の良さというのかテキトー感が、いかにも融らしくて素敵です!
これくらいの愚弟さが彼の魅力なんですよ~(←誉め言葉)
原作では鴛鴦殿に送り届けるだけでしたが、今度は一緒に京都に帰れればいいですね~。

仁菜子さんからの荷物は何だったのでしょうか。
らぶポカキャンペーンに浮かれてすっかり忘れかけていましたが、動画の件や、鷹男の話に守弥の動き、高彬の過去も含めて(笑)、まだまだ問題は山積みですが、身も心も結ばれた二人なら、何があってもきっと乗り切ってくれることでしょう~!
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瑞月(みずき)です。

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