<原作オマージュ>13~原作一巻より 

『なんて素敵にジャパネスク〜二次小説』




注)このお話は原作のあるシーンを高彬目線で書いていますのでネタバレとなっています。
原作未読の方はご注意ください。
今までのお話は<オマージュリスト>からどうぞ。
          
          





***<原作オマージュ>13~原作一巻より***








「な、何するんだ、瑠璃さん。危ないじゃないか」

飛んできた枕箱をすんでのところでかわすと

「あんたがあんまり情けないことを言うからよっ」

鬼のような形相で瑠璃さんが怒鳴りつけてきた。

「よ、吉野君は間違ってもそんなことおっしゃらなかったわ」

よほど怒っているのか、瑠璃さんの声は震えており、だけど突然に出された<吉野君>の言葉にムッとくる。

「また吉野君か。もう一万回も聞かされたよ。新婚初夜に妻になる人の口から他の男の名が出るほど、惨めなことはないね」

「ありがたいことのまだ妻になってないわよ」

こうなると、もう売り言葉に買い言葉だった。

「高彬、あんた、考え直すなら、まだ間に合うわ。あたしも考え直した方がいいかも知れない。気のきいたセリフひとつ言えずに、そのくせ今から夫面する子どもっぽい人なんて、うんざりするわ」

吐き捨てるような口調に、カッと頭に血が上った。

いくらなんでも言い過ぎだろ、瑠璃さん。

口を開いたらぼくも瑠璃さんを怒鳴りつけそうで、いったん、息を整える。

「瑠璃さん」

努めて静かに切り出すと、瑠璃さんはじっとぼくを見返してきた。

「あなたは何かと言うと、ぼくのことを子どもっぽい子どもっぽいと言うけれど───」

じっと瑠璃さんを見返しながら、ぐっと腹に力を入れる。

「それはやめてくれないか。───不愉快だ」

出来れば、瑠璃さんに向かい<不愉快だ>なんて言いたくはなかった。

だけど、それくらいぼくも頭に来ていた。

気がきかないとか、子どもっぽいとか、うんざりとか、あんまりじゃないか。

ぼくだって何も好き好んで、こんないきなりの初夜にしたわけじゃない。

戸惑っているのはぼくだって一緒だよ・・・

だけど、もうこれしか方法がないと言われて───

「あ、あの、あたしは・・・」

ぼくのただならぬ怒りを少しは感じとったのか、どこか慌てたように瑠璃さんが口を開いた時

「ご無礼致します。高彬さま、お聞きでいらしゃいますか」

格子の向こうから、ぼくを呼びかける、小萩の声が聞こえた。



********



最悪だ───

急ぎ白梅院を目指す牛車の中で、ぼくは石のように固まり動かなかった。

こんな最悪なことってあるだろうか。

お祖母さまが亡くなったのはむろんのこと、この先、5か月間も会えないと言うのに瑠璃さんと喧嘩別れをしてきてしまった。

──大体、瑠璃さんが悪いんだ。

──いや、ぼくが悪かったんだ。

相反する二つの思いが交互に表れて、気が変になりそうになる。

慌ただしく部屋に入ると、大江がいて

「まぁ、高彬さま。どちらへ行ってらしたんですか?」

なじるような問い詰めるような口調に

「大江に関係ないだろ!」

怒鳴り返すと、びっくりしたように部屋を飛び出して行ってしまった。

「・・・・」

大江の後姿を見送り、そのままどっかと座り込む。

どうせすぐに守弥がやってくるんだ。

それで、この忌み月にどこに出歩いていたのかとか、あれこれ探りを入れてくるに違いないのだ。

そのうち母上もやってきて、お祖母さまご臨終に立ち会えなかったことを殊更に嘆いて見せるに違いなくて・・・

すでにたくさんの僧侶が来ているのか、母屋の方からは絶え間ない読経の声が聞こえてくる。

お祖母さまの最後にも立ち会えず、瑠璃さんとも喧嘩して───

本当に最悪だよ・・・



******



あれやこれやとバタバタと日が経つうち、怒りの気持ちはすっかり消えて、後悔ばかりの毎日となった。

服喪のため出仕することも出来ず、つれづれに部屋で漢詩を読んでいたぼくは、はぁと大きなため息をついた。

あれはどう考えても、ぼくが悪かったよな・・・

いきなり初夜と言われた瑠璃さんの驚きはぼくの比ではないはずで、やっぱりあの場ではどんなことを言われようと、ぼくが言い返すようなことをしてはいけなかったんじゃないかと思える。

あの日、瑠璃さんは何て言ってたっけ?

調度品のことと、文や歌のことと、それと・・・

「高彬さま」

気が付くと簀子縁に女房が控えていて、手には目立たないあしらいの文箱がある。

「兵部卿家の二の姫さまよりのお文でございます」

「・・・・」

受け取った文を、女房を下がらせてからゆっくりと開く。

そこにはお悔やみの歌が見事な手蹟でしたためられていて、ぼくは(うーむ)と唸った。

さすが当代に並ぶものなしと言われる才媛だけのことはある。

16歳でこんな歌が詠めるなんて、一体、どういう教育を受けたら・・・

と、そこまで思った途端、ふと閃くものがあった。

二の姫に歌の指導をしてもらうと言うのはどうだろうか?!

年だって近いし、技巧に走るばかりの年長者のそれとは違う、実践的なコツみたいなものを教えてもらえるんじゃないだろうか。

服喪が開けるまでにはまだ5か月もあり、つまりはどう転んだところでその期間は結婚が出来ないということなのだ。

だったら、その間に歌才を磨き、調度品だって徐々に揃えて行けば、瑠璃さんが望むような結婚が出来る・・・・

───これだ!

いても立ってもいられない気持ちですっくと立ち上がり、思い直してまた座る。

内々に瑠璃さんに文を書いて、この計画を伝えておけば・・・

とそこまで考えて、また思い直す。

いや、これは瑠璃さんには教えずに密かにぼくだけで進めよう。

そうして服喪が開けた時、瑠璃さんが(あっ)と驚くような歌を贈ってあげよう。

瑠璃さんだって喜ぶだろうし、ぼくだって名誉挽回をはかれるわけで、まさに一石二鳥だ。

まずは二の姫にお願いの文を書いて・・・

気が急いて、女房を呼ぶ時間も惜しまれるので、自分で硯の用意をする。

───待ってろよ!瑠璃さん。いい歌を贈ってあげるからさ!

ぼくは意気揚々と筆を取ったのだった。






<続>


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Secre

ありちゃんさま

ありちゃんさん、こんばんは。

お帰りなさい~!
かの地で某世子さまの気配など、お感じになられてきたのでしょうか?!

> お歌で瑠璃を驚かせるどころか、高彬自身が腰も抜かさんばかりに驚かせられるとは、この時は思いもよりませんよね〜。(笑)

そうですよねー。
色々、先を知ってるだけに不憫です(笑)

> 続きも楽しみにしてます。m(_ _)m

ありがとうございます!また読んでくださいね~。

ベリーさま

ベリーさん、こんばんは。

> 喧嘩両成敗!でも、瑠璃の気持ちも、怒りがもわかるし、それは高彬だってダメ押しの「吉野君」の名は痛いですいね。

この時は本当に2人とも自分のことで手一杯って感じだったんじゃないかと思います。
ここで吉野君の名前を出されたら、高彬としたらやりきれないですよねぇ・・

> 頑張ってお歌の勉強するんだぞー 高彬〜!

童の頃から、ちゃんと勉強してればこんな苦労もしなくよかったのに!
それもこれも、某教育係りのせい!ですよね(笑)

お久しぶりです。

瑞月さん おはようございます。
海外逃亡中にいっぱい更新されてて、おお〜!と喜んだ次第です。(笑)
(プラスも含め、やっと追いつくことができました。。✌️)

お歌で瑠璃を驚かせるどころか、高彬自身が腰も抜かさんばかりに驚かせられるとは、この時は思いもよりませんよね〜。(笑)
瑠璃のぶっ飛び方って、やっぱりすごいんですね〜。
高彬目線だと、その辺がより強調されて面白いですね。流石、瑞月さんです!
続きも楽しみにしてます。m(_ _)m

喧嘩両成敗!でも、瑠璃の気持ちも、怒りがもわかるし、それは高彬だってダメ押しの「吉野君」の名は痛いですいね。既に宮中では社会人デビューしてるのに、瑠璃さんにはまだまだ未熟者扱いで。かわいそう。
頑張ってお歌の勉強するんだぞー 高彬〜!
ニの姫との対談も興味あります。
高彬の女性に対する紳士的な姿、惚れまする〜
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瑞月(みずき)です。

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