***短編*** 雪うさぎ!~ラプソディ ***

『なんて素敵にジャパネスク〜二次小説』




注)このお話は一話完結です。


『らぶらぶ万歳サークル』さまに出品した作品の再録です。
今回のお題は「雪うさぎ」でした。

<おまけの話>下にあります。
          
           





***短編*** 雪うさぎ!~ラプソディ ***








文遣いの者によって、その文が右近衛府に届けられたのは、午の刻を回った辺りの、まだ陽も高い時分だった。

文は小萩からのもので、ちょうど仕事も一段落した時だったのでぼくはすぐに文を手に取った。

小萩からの文なんてそうそうあるものじゃない。

来る時は<瑠璃さんの身に何かあった時>か<瑠璃さんが何かをしでかした時>だ。

今日のはどっちだろう・・・、と逸る気持ちを抑えて文を開いてざっと目を通し───

ほっと胸を撫で下ろす。

小萩からの文は、他愛のない内容で、曰く

『姫さまが庭に降りて雪うさぎを作っている。どうか、少将さまから止めるように一言、言葉を届けてくれないか』

と言うものだった。

昨日の明け方から、この京にも雪が舞い始め、かなりの積雪になっている。

今朝、白梅院の庭を見たぼくだって一面の雪景色に目を瞠ったくらいなのだから、あの瑠璃さんが平常心でいられるはずがないとは思っていたのだ。

ぼくがいないのを幸い、どうせ庭に降りて雪遊びに興じることぐらい、とっくに予想している。

小萩も大概、心配性なんだよな。

まぁ、長年、瑠璃さんに仕えていれば、先回りして色々と心配してしまうのかも知れないけど、雪の積もった日に雪うさぎを作るなんて可愛いものじゃないか。

『好きに作らせてやりなさい』

手短に文を書き、文遣いに託した。



*******




雪のため、普段よりも時間が掛かってしまったけれど、それでも三条邸には何とか暗くなる前に着くことが出来た。

迎えに現れた女房の先導で瑠璃さんの部屋へと向かう。

雪もすっかり上がり、暮色に包まれた三条邸の庭は雪のためにいつもよりも明るかった。

角を曲がり、東の対屋の庭が見えた途端、ぼくは腰を抜かしそうになってしまった。

庭には瑠璃さんが作ったであろう雪うさぎがあり───

どうして遠目にも雪うさぎがあると解ったかと言うと、いや、それこそが問題なのだけれど・・・

つまりは、巨大な雪うさぎがあったからなのだ。

ある、と言うか、鎮座と言う表現が相応しいほどの様相を呈している。

「・・・・」

こ、これは・・・

唖然と立ち尽くすぼくを、前を行く女房が不思議そうに振り返り、この巨大な雪うさぎを見ても何とも思っていないのが、三条邸に、いや、瑠璃さんに仕える女房のすごいところなのだった。

「瑠璃さん、庭のアレは・・・」

部屋に入って開口一番、言うと

「作ってるうちに大きくなっちゃったの。えへへ・・」

照れくさそうに瑠璃さんは笑い

「大きくなり過ぎだろ!」

ぼくはすかさず突っ込みを入れた。

「・・・小萩。瑠璃さんの作ってた雪うさぎってあれか・・」

後ろに控える小萩に声を掛けると

「はい」

「よもや、あんな大きいとは・・・」

「あら、わたくし、書きませんでしたっけ?だから、お止めして欲しいとお願いしたつもりだったんですけど・・・」

なんて言って、小首を傾げている。

「・・・・」

一番、大切なことを書き忘れてるどうするんだよ、小萩。

雪うさぎなんて言うから、てっきり手の平に乗るくらいのものを想像してたんだけど・・・

これじゃ<うさぎ>と言うより<牛>だ。雪牛だ。

「それがねぇ、高彬。困ったことがあるの。あんまり大きすぎて、目がないのよ」

「目?」

「そう。ほら、普通は南天の実を目にするでしょう?でも、こんなに大きいと南天ってわけにはいかなくて・・。どうしたらいいと思う?」

知らないよ、と言いたいところだけど

「うーん、赤い蹴鞠なんかどうだろうか」

気が付いたら、ぼくはそう答えていた。

上目づかいで可愛く「高彬、どうしたらいい?」なんて聞かれたら、答えないわけにはいかないじゃないか。

「あ、蹴鞠!いいわね!さすが、高彬だわ」

手を打ち付けて瑠璃さんは言い、まぁ、・・・悪い気はしない。

さっそく女房に言って赤い蹴鞠を二つ持って来させた瑠璃さんは、何とも意味ありげな目でぼくを見てきた。

まさしく、目は口ほどに物を言う、だ。

「いいよ。ぼくが付けてきてあげる」

蹴鞠を受け取り、庭に降りると、瑠璃さんもそそくさと後を付いてくる。

「この辺り?」

「うーん、もうちょっと右。・・うん、そうね、そこでいいわ」

なんて言いながら、目を嵌め込んでいくと、無事、雪牛、じゃなくて雪うさぎが完成した。

「そういえば、童の頃も雪うさぎ作って遊んだわよねぇ」

「うん。融もいたよね」

「でも、なかなか上手に作れなくて、ムキになってたくさん作るうち、手が冷たくなってきて・・・」

「確か、最後には女房に叱られたんだよな」

「そうだったわね」

見る見る暗くなっていく庭で何となく佇んで話すうち、瑠璃さんの鼻や頬が赤くなってくる。

吐く息は白く、それが火の入った釣灯籠の明かりに溶け込んで行く。

見上げれば、冬の夜空には星が瞬き始め───

「部屋に戻ろうか」

「そうね」

瑠璃さんの手を取って階を上り、室内に入ると、炭櫃には赤々とした炭が燃えており、ほっとするような暖かさだった。

「あんなに大きいの作って、大変だったろう」

女房らも下がり、2人きりになったところで言うと

「でも、楽しかったわ。童の頃の遊びを思い出して」

瑠璃さんは肩を揺らして笑った。

「・・・じゃあ、瑠璃さん。今度は、大人の遊びをしようか」

瑠璃さんの肩に腕を回し、意味ありげに言って見ると

「大人の遊び、ね」

おやおや、とでも言うように瑠璃さんは眉をあげて見せた。

「そう、大人の遊び」

「・・・・」

少しの間、まじまじとぼくを見ていた瑠璃さんは

「あんなに大きな雪うさぎが作れるくらい、あたしたち、もう大人なんだものね。・・いいわよ」

そう言って、何とも色っぽく笑ったのだった。






<終>






<おまけの話>





肩に回した腕にぐっと力を入れ抱き寄せると

「あ、待って」

思いがけず、瑠璃さんから制止がかかる。

「忘れないうちに・・」

なんて呟きながら二階厨子に近づくと、螺鈿細工の小箱を開け中から小さな器を取りだしている。

戻ってきた瑠璃さんからは何とも良い香りがしていて、どうやらそれは、器から香り立っているようだった。

「新しい香を作ってみたのよ。どうかしら」

瑠璃さんは香りがぼくに来るように手を振ってみせ

「うん、いい香りだね」

「何を使っているかわかる?」

すかさず聞いてきた。

「・・・」

香合わせかぁ・・

こういう分野はぼくがもっとも苦手とするもので、瑠璃さんの目が笑いを含んでいるところを見ると、どうやら先刻承知で聞いてきているのだろう。

練り香を前に考え込むぼくに向かい

「これぞ<大人の遊び>、でしょ」

と意味ありげに笑ってみせた。

「梅、は入ってるよね」

「まずは正解ね」

「丁子・・も、あるかな」

「正解」

「白檀・・かな?」

「残念。使ってないわ」

「うーん、薫陸・・は?」

「すごいわ、正解よ」

瑠璃さんは手を打ち付けて笑い、どうやら何とか合格点はもらえたらしい。

「春に向けて、この香りにしようと思うの」

「うん、いいね」

これから瑠璃さんの香りになるであろう練り香の匂いをもう一度、嗅いでいると、ふと、いいことを思い付いた。

「ねぇ、瑠璃さん。ぼくからも香りの問題を出していい?」

「なぁに、いいわよ。あたし、鼻には自信があるの」

負けず嫌いな瑠璃さんはすぐに身を乗り出してきた。

「ぼくがさ、身体のどこかにその香りを付けるから、それがどこから香っているかを当てるんだ」

前に、宿直の時だったか、後宮の女官たちだったか、誰が話していたかは忘れてしまったけれど、思いつきでそんな遊びをしてみたら、案外に面白く、ことのほか盛り上がった・・・と言う話を聞いたことがあったのだ。

実際の香合わせとは別に、内々ではアレンジした楽しみ方や遊び方があり、普段はそういうことには無縁の生活を送っているけれど、他ならぬ瑠璃さんとなら、たまにはいいだろう。

果たして瑠璃さんも

「いいわよ、楽しそう」

とすぐに乗って来た。

それどころか

「ねぇ、こうしない?あたしも身体のどこかに香りを付けるから、どっちが先に当てるか競争しましょうよ」

なんて提案をしてきた。

こういうノリの良さは瑠璃さんの良い所でもあり、悪い所でもある。

・・・まぁ、今日のは<良い所>だろう。

お互い、背を向け合って思い思いのところに香りを付け、そうして向き合った。

「どうする?せーので当て合うの?それとも、別々に当てて、その時間を競う?」

「うーん・・」

あれこれ話し合ううち、何だか、なし崩し的に遊びは始まってしまい・・

そうして、いつしかその遊びは、まさしく

<大人の、大人による、大人のために遊び>

になってしまい───

庭の雪牛も、ほんと、呆れてるんじゃないだろうか。

いやはや・・・






<おしまい>


「このお話、別館に続いちゃってもいいかな?」「いいとも~!」の方は、お手数ですがご賛同の応援クリックをお願いいたします。
↓↓




(←お礼画像&SS付きです)

コメントの投稿

Secre

ベリーさま

ベリーさん、ありがとうございます~。
ゆっくりじっくり、書かせていただきますね!

ミズえもんさま、急ぎませんよ!
じーっくり大人の遊び楽しませてあげてくださいませ。

非公開さま(Mさま)

Mさん、こんにちは。

忘れないうちに大切なことを先にお伝えしておきますが、私の見解は「素肌」なのですが、いかがでしょうか?
確かに塗れるところは限られてますしねぇ・・・
・・ってMさん、今、確認してみたら、私、一言も「短時間」とは書いてないんですよ!でかした!昨日の私。
ということかなり手の込んだところまで塗れる・・と言う展開もありなんではないでしょうか?!

確かに「雪牛」って書いてますね、私・・(笑)

ベリーさま

ベリーさん、こんにちは。
「ぼく、ミズえもん」です。

> 瑞月さん 凄すぎます!!!嬉しすぎてウハウハです(怪しいってば)

いえいえ、私の方こそアイデアをありがとうございます!
「大人の遊び」どうしようかなぁ、と考えていたんですよ。
すぐにコトに至ってしまうのは芸がないし(?)、何かないかなぁ・・と思っていたので、ベリーさんのお申し出は願ったりかなったり、渡りに舟!でした。
お礼を言うのはミズえもんの方でございます。
週明けくらいのアップを目指していますので、よろしくお願いします~!

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

きゃあああああああ 「お香プレイ」が!!(絶叫)

瑞月さん 凄すぎます!!!嬉しすぎてウハウハです(怪しいってば)
こんなにすぐにお香プレイが読めるだなんて!鼻血鼻血〜!!悶え悶えです〜(*≧∀≦*)
瑞月さんてば、妄想界のドラえもんみたいです!ポケットの幅広すぎるううううう。爆

平安にこんな遊び、絶対ありましたよね!もう大人の遊び万歳🙌
そして高彬の"例の箇所"が出てくれば、もう向こう3年ぐらいはいい夢見れそうです!!
バンバン毎日ボタン押しまくりますから:爆
感激〜♡
プロフィール

瑞月

Author:瑞月
瑞月(みずき)です。

ランキングバナー

  ↑
ランキングに参加しています。
楽しんでいただけましたら
クリックで応援をお願い致します。
1日1クリック有効です。
初めにお読みください
**当ブログの簡単な説明です**
当ブログは「なんて素敵にジャパネスク」の二次小説を掲載しております。 二次小説と言う言葉を知らない方や苦手な方は閲覧ご注意ください。 また読後のクレームはお受けできません。 「ごあいさつ<最初にお読みください>」も合わせてご一読下さい。
カテゴリ
別館
乳姉妹ブログ
日記ブログ
掲示板
なんて素敵にサイト様 
最新記事
ご訪問ありがとう(H23.11.28-)
**オンラインカウンター**
現在の閲覧者数:
コメントありがとうございます
お礼SSや「他己紹介」があります。
web拍手 by FC2
** あれこれ投票所 **
お好きなジャンルをお選びください。 投票は何度でも可能です。
*** あれこれ投票所2 ***
メールフォーム(ご用の方はこちらから)

名前:
メール:
件名:
本文:

カレンダー
05 | 2017/06 | 07
- - - - 1 2 3
4 5 6 7 8 9 10
11 12 13 14 15 16 17
18 19 20 21 22 23 24
25 26 27 28 29 30 -
月別アーカイブ