***<原作シリーズ>~My dear ジャパネスク~4***

『なんて素敵にジャパネスク〜二次小説』




注)このお話は一話完結です。
原作の「その後」を書いていますのでネタバレ要素を多く含みます。
原作未読の方はご注意ください。
          
          





***<原作シリーズ> ~My dear ジャパネスク ~ ***








睦月の春まだ浅い昼下り───

「姉さん、ちょっといい?」

これと言ってやることもなく、つれづれに庭を眺めているところに、足音が聞こえてきたと思ったら、融が部屋に入って来た。

「おまえ、今日は参内してたんじゃ・・・」

「うん、早くに仕事が終わったんだよ」

断りもなくあたしの前に座り、ふと見ると、薄っすらと顔が赤い。

「あんた、顔赤いわよ。熱でもあるんじゃ・・」

「頭に来るよなぁ、高彬のやつ」

あたしの言葉を無視して融は唐突にしゃべりだした。

「高彬?何よ、高彬がどうかしたの」

「うん」

融は鼻息も荒く頷くと

「姉さんさ、前に<血の道>で倒れたこと、あったよね」

いつもののらりくらりとした話し方からは想像できないくらい、ズバリと聞いてきた。

「・・・・」

融の勢いに面食らいながらも

(血の道・・・)

とあたしは頭をフル回転させた。

ただならぬ様子の融、血の道のこと、そして高彬・・・・

何となく閃くことはあったんだけど

「なぜそんなことを聞くの」

一応、聞いてみると、案の定、融は

「高彬とそのことで喧嘩になったんだよ。ほら、ぼく、前に夜中にお医師を呼びに行かされたじゃないか。父上、母上が姉さんの懐妊祈願で邸を留守にした時だよ」

「・・・・・」

「誰もいないって言うんで、ぼくが行かされてさ、その時、姉さん、お医師に<血の道>って診断されたよね?」

「うん、まぁ・・」

歯切れ悪く頷くと

「それをさ、高彬のやつ『瑠璃さんは<血の道>と医師に見立てられたことなんかない。夫であるぼくが言うんだから間違いない。おまえの思い違いだ』なんて言ってさ。悔しいから『懐妊祈願の最中だよ。ぼくがお医師を呼びに行ったんだから間違いない』って言ってやったら、黙り込んでさ。そのままどっか行っちゃったけど、ザマーミロだよ」

融は一気に捲し立てた。

「・・・・・」

「そういや、姉さん。あれ以来、身体は大丈夫なの?まぁ、姉さんのことだから平気だと思うけど」

「大丈夫よ」

そう言うと融は安心したように頷き

「じゃあね、姉さん」

来た時同様に足音を立てながら帰って行き、融の気配がすっかりなくなったのを確認して、あたしは大きく息を吐いた。



******


あの事件から1年、ううん、年が明けたからもう2年になる。

高彬が仕事復帰を果たし、鷹男と承香殿女御さまのところに皇子さまがお産まれになり、そうして鷹男はあの事件の真相を知り───

あんな悲しい事件はまるでなかったかのように、もう誰もそれを話題にすることもなくなって、いつもの日常が戻ってきたわけなんだけど、それでも、あたしの中にはたった一つ、忘れられない出来事があった。

あの夜の帥の宮の振る舞い、接吻や腹部を思い切り殴られたこと、それはどうしても頭の中から消えることはなかった。

恨みとか、そんなんじゃない。

もちろん、思い出せば悔しさやら生々しい痛みとかあるけれど、何よりもあたしの心に堪えているのは<高彬に言っていないことがある>と言う事だった。

結局、あの辺りに起こったことは、煌姫や守弥の面子を立てるためもあって、全てを高彬に話したわけじゃないし、何よりも大火傷を負い生死の境を彷徨った高彬にゆっくりと詳細を話す時間も余裕もなかった。

火傷が治れば治ったで仕事に忙殺されてたし、そうこうしてるうち、何もわざわざ話すようなことじゃないし、このままあたし一人の胸に収めてしまえばいいわけだし、まぁ、いっか、なんて思うようになった。

元々、勢い込んで「話そう」と思ってたことでもなかったし。

それでも、やっぱり何かの拍子に───

例えば、高彬から接吻を受けた時とか、寝所で甘い睦言を囁かれた時とかに、ふいに思い出すことがあった。

あたしたちも夫婦だし、そりゃあ少しは歯の浮くようなセリフを言い合う事もあるわけで、接吻をした後に

「瑠璃さんだけだよ」

なんて言われれば、あたしだって

「あたしもよ」

なんて答えるわけで、そんな時、チクっとするって言うか、さ。

あの接吻は、もう事故みたいなもんで、接吻とすら呼べないような単なる接触だとは思ってはいるんだけど、だけど、どこか一点、心が晴れないと言うか、何だか高彬を騙してるような、変な後ろめたさがあるのも事実だった。

融の言葉を聞いて、高彬のことだからきっと何かを言ってくるわ。

あたしはひとつ、大きく息を吸い、ぐっとお腹に力を入れた。

睦月の陽射しはまだ弱々しく、あっと言う間に京は暮色に包まれるだろう。

そうしてとっぷりと陽も暮れた頃、きっと高彬はやってくる。



*******



思っていた通り、すっかりと陽も暮れた頃、東門の辺りがざわつき、ほどなくして女房に先導された高彬が現れた。

強ばるでもなく、気負うでもなく、普段通りの顔で、何となくあたしはほっとした。

「おかえりなさい」

「うん」

あたしの前に座り、そっとお互いの指先を絡め合う。

いつの頃からか出来た、あたしたちの習慣だった。

女房らを下がらせると、部屋の中には風が通るばかりとなり、春浅いとは言え、その風はどこか温気をはらんでいる。

「融から・・・」

「うん」

それだけ言って、あたしたちは頷きあった。

「あの・・」

「その・・」

奇しくも声が重なり、目が合って二人して小さく笑う。

「高彬からどうぞ。あたしに聞きたいことがあるんでしょう?」

そう言うと、すっと高彬が背筋を伸ばした。

釣られてあたしも伸ばす。

「あの頃のこと、良かったら話してくれないか。多分、まだぼくには知らないことがある」

穏やかな、一本筋の通ったような口調で言い、まっすぐにあたしを見た。

「・・・いいわ」

頷き、ふっと小さく息を吐く。

全てを話すわ、高彬に。

あの頃は、接吻されたなんてことが知れたら離縁されてしまうと思って話せなかったけど、今なら話せる。

2年間の夫婦生活の絆は伊達じゃないと、そう思えるもの。

あたしはゆっくりと話し出した。

帥の宮をおびき出すために三条邸を空にしたこと、予想通り帥の宮がやってきたこと、そこで受けた狼藉、その後の顛末───

あたしが話してる間中、高彬は一言も発せず、ただ黙ってあたしの言葉を聞いていた。

やがてすべてを話し終えると、高彬は長い息を吐き出した。

「まず・・・」

そう言って少し空を仰ぐと

「全て信じるよ。他ならぬ瑠璃さんの話だからね」

あたしに頷いてみせた。

その後は、長いこと黙り込んでいて、あまりにそれが長いので心配になってきて

「怒った・・?」

恐る恐る聞くと、高彬は困ったように頭を振った。

「怒ってるわけではないよ。怒るには・・・、時間が経ち過ぎている。ただ、何と言うか・・・・」

「・・・・・」

「やっぱりショックではあるし・・」

「うん・・・」

「すぐに言って欲しかった気もするけど、もしあの時、聞かされていたら、ぼくは帥の宮どのを殺してしまっていたかも知れないし・・・」

と何とも物騒なことを言い、だけど、あたしは笑う気にはなれなかった。

「だから、やっぱり今、聞かされて良かったような気もしてる」

「うん・・」

「瑠璃さんが嘘を言ってるとは思わないけど、でも、ひとつだけ確認させてくれないか」

「なぁに。いいわよ」

「本当にそれ以上のことはされなかったんだろうね」

心底、心配そうな声で聞かれ、あたしは大きく頷いた。

「それは大丈夫よ」

「・・・・」

それでも高彬の心配そうな顔は解消されず、少し考えてあたしは口を開いた。

「高彬。あの日、帥の宮がやってきた一番の目的は、鷹男の文遣いなんかじゃないの」

「・・・・」

「もし、あたしのお腹に御ややがいたら、その御ややを殺すつもりで来たのよ」

この話を始めてから、初めて高彬の顔が歪んだ。

「だから、万が一にも、あたしのお腹に御ややが宿るような行為をしなかった。出来なかったのよ。でももし、帥の宮の目的が違ってたら、あたしはもしかしたらあの場で・・・」

言った途端、ブルッと身体が震えた。

想像しただけで、足元から震えが這い上がってくる。

───嫌だ、本当に考えるだけでおぞましい・・・

知らなかったこととは言え、あたしは本当に危ない橋を渡ってたんだ・・・

高彬以外の人に、あんなことをされるなんて───

しかも、愛情も何もない、ただあたしを傷つけることが目的で。

収まっていたはずの怒りやら悔しさがまたも再燃しかけると、高彬の指先があたしの手を絡め取った。

「瑠璃さんより、怒っているのはぼくだよ」

ハッと顔を上げると、まっすぐにあたしを見つめる高彬の目があった。

「瑠璃さんの怖さも悔しさも、全部、ぼくのものだ。ぼくも受け止める。ぼくたちは夫婦なんだからね。ずっと一人で・・・辛かったろう・・・、可哀想に」

そう言って抱きしめられた時

(あぁ、そうだ。あの帥の宮の狼藉で、あたしは散々悔しがったり怒ったりしたけれど、でも、何よりもあたしはすごく傷付いて辛かったんだ・・・)

そんな自分の気持ちに初めて気が付いて、あたしは高彬の腕の中で静かに涙を流した。

高彬の腕の中は暖かく、涙も苦い思い出もすべて消し去ってくれるようだった。

あたしの髪を撫ぜていた高彬は

「こんなことなら・・・、あの時、もう二、三発、帥の宮を殴っておけば良かったな・・」

しみじみと呟き、その言い方があまりに心がこもっているので思わず顔を上げると、優しい目をした高彬の顔があった。

高彬は両手であたしの頬の涙を拭うと、少しずつ顔が近づいてきて───

そうしてあたしたちは───

触れた瞬間、回りの景色をみな黄金色に変えると言われる、蓬莱山の頂きにある幻の湖にも似た、愛情溢るる極上の接吻を交わし合ったのだった。






<終>

ふいにこちらのお話が浮かんでしまい<オマージュ>をお休みしてしまいました。
昨日は「しばらくオマージュ続きます」と書いたのにすみません。
次回は<オマージュ>を更新予定です。

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コメントの投稿

Secre

非公開さま(Kさま)

Kさん、こんにちは。

My dear ジャパネスク~4、お読みいただきありがとうございます。

帥の宮は、やはり色々とやり過ぎましたね。
煌姫の言葉「人殺しだと思っている」が印象的です。
私も帥の宮のしたことを考えると、やっぱり納得出来ない気持ちになります。
ただ、ここで帥の宮を全否定してしまうと、それを命懸けで助けようとした高彬と瑠璃の行動まで否定してしまうような気がして、やっぱりそれが出来ないんです。

ただ、私が思うのは、絶対に絢姫はこんなことは望んでなかったんじゃないかってことです。
絢姫は帥の宮がしたことを、いつか知る日がくるのでしょうか?
そこがちょっと気になっています。

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非公開さま(Mさま)

Mさん、こんばんは。

私も一度でいいから囁かれたいです。
そしてそれを録音して、目覚ましの音に使います!

私も、そのシーンを読んで、あれ以上の狼藉を働くとは思っていませんでした。
(瑠璃は、貞操の危機を一瞬、感じてはいましたが)
何ていうか、あとでプラスの方で記事をあげるのですが、接吻をした意味が判らないって言うか・・・
変な話、もしも瑠璃に屈辱を味わわせるためであるなら、接吻よりももっと効果的なことがあると思うんです。
(必ずしもそれが暴行だけではないんですが、一番に浮かぶのはそれ、と言う感じで)
で、最初はやっぱり少女小説だから接吻で止めておいたのかな、って思ったんです。
でも、また後になって、いや、妊娠する可能性のあることはないはずだ、ってなって。
そうすると、また最初の疑問(なぜ接吻を?)となるんです。

帥の宮の純情説、うんうん、と思って読みつつ、確かに「物馴れた接吻」って言うのがねぇ・・・と思いました(笑)
実際のところ、どうなんでしょうね・・・

ベリーさま

ベリーさん、こんばんは。

> 確かに今だから言えること、ですよね

そうですよね。
きっと、いい時期って言うのがあるんだと思います。

> まだまだ秘密な事、あるぞ〜瑠璃!吉野での守弥の事は絶対に言わない方が得策かも。苦笑

あーー(笑)
それは確かに非常にビミョウですね。
でも、その後の二人は何にもないわけですし、瑠璃なんて「あのバカ!」みたいなこと言ってましたしね。
吉野マジックだったということで!

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確かに今だから言えること、ですよね
あの時はもう高彬も許容範囲超えていたでしょうから。皆が必死で。
あんな事されて黙ってた瑠璃、あの時は怒りや悔しさでいっぱいだったでしょうが、女の子ですもの、傷つきますよね。
まだまだ秘密な事、あるぞ〜瑠璃!吉野での守弥の事は絶対に言わない方が得策かも。苦笑
もう2、3発じゃあ足りないわ、ついでにお尻蹴り上げてしっかり生活していけよー、師の宮!って説教こいてやったらいいんですよ。
ただし今度あったら高彬は容赦ないと思いますね(もう会わないけど)


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