***新婚編***第三十五話 高彬の思い ***

『なんて素敵にジャパネスク~二次小説*新婚編』





このお話には「吉野君」が出てきます。
原作とは違う形で登場しますので、原作のイメージを壊したくない方はお読みになるのをお控え下さい。





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***新婚編***第三十五話 高彬の思い ***








やがて女房の先導を受け、やってきた高彬の姿にあたしは言葉を失ってしまった。

重行少将が心配のあまり、あたしに文を書いてきたのも分かるくらいの憔悴ぶりだったのだ。

顔色も悪く、頬の辺りが以前より細くなっているように見える。

「高彬・・・、大丈夫なの・・・」

まるで病人のような面立ちに思わず近寄り手を伸ばすと、高彬は控えめな仕草であたしの手を制しながら、用意されていた円座に静かに腰を下ろす。

伸ばしかけていた手の行き場を失い、しばらく立ちすくんでいたあたしは、少し迷って、それでも高彬の前にゆっくりと座った。

いざ、高彬を目の前にすると、一体、何から話していいのか判らなくて、それに何よりも高彬の憔悴ぶりがショックで、しばらくはただ黙っていた。

一段と濃くなった夕闇が室内に入り込み、そろそろお火入れをしなくちゃいけない時分だったけど、もちろんそんなことを頼むために女房を呼ぶ気にはなれない。

顔を上げ、高彬の顔を見る。

伏し目がちな高彬の顔に、夕闇が微妙な陰影を作っている。

あの嵐の夜にあった立ち上る怒りは高彬からは感じられず、夕闇が織りなす陰影のせいなのか、むしろ寂寥感のようなものが漂っていた。

後悔や懺悔、自己嫌悪、高彬の様子からはそんなものが伝わってくる。

あれほどのことをして高彬が無傷でいられるわけがないとは思っていたけれど、でも高彬が受けた傷はあたしが思っているよりも、もっと深いのかも知れなかった。

「・・・・」

あたしのせいだ・・・・

そっと手首をさする。

今なら判るわ。

手首を掴まれた強さは、決して怒りの強さと比例してたわけなんかじゃない。

あたしを思ってくれる気持ちと比例してたのよ・・・

「ねぇ、高彬・・」

たまらず話しかけると

「今日・・・、左大弁どのから声を掛けられた」

あたしが何かを言うより先に、高彬が話し出した。

「・・・・・」

「左大弁どのは京を去られるそうだ。ご高齢になられた母君とお二人、鄙の地でお過ごしになられるとのことだった」

あたしの目を真っ直ぐに見ながら、静かな口調で言う。

「どこにお住いになるのか伺ったんだけど、教えては下さらなかった。五日後には京を立たれるとのことで・・・・」

いったん言葉を切ると目を伏せ、それが辛そうな顔に見えたけど、でもすぐに顔を上げると

「瑠璃さんに教えなきゃと思って。多分、瑠璃さんの耳に入れられるのは、ぼくだけだから」

穏やかに言い、あたしと目が合うと、ほんの少し笑って見せた。

「・・・じゃあ、ぼくはこれで・・」

「待って」

立ち上がろうとする高彬に慌てて声を掛けた。

声を掛けただけじゃ不安で、腕もつかむ。

「・・・それを伝えに来たの・・?あたしに教えなきゃと思って?」

高彬は小さく頷き、近くで見る高彬は、もっと憔悴しているように見えた。

「・・・」

あたしが吉野君を好きだと思い、この情報を知らせなきゃ、と思っているんだ・・・

「・・・・馬鹿ね」

呟き声のような声が漏れ

「あんたは何にもわかっちゃいないのよ・・・」

言いながら、涙が滲み声が震えた。

そんな満身創痍の身体で、恋敵の消息をわざわざあたしに伝えにくるなんて、本当にあんたはどこまであたしに優しいの・・

でも、その優しさは見当違いなのよ、高彬。

それをきちんと解らせなきゃ。

吉野君は、あんたの恋敵でもなんでもないの。

「あたしね、高彬。あんたが左大弁の名を出すまで、今の今まで思い出しもしなかったわ」

「・・・・」

「本当よ。この一週間考えるのは・・・・高彬のことだけだった」

あたしは鼻をすすり、手の平で頬を拭った。

「せっかく伝えに来てくれたのに悪いけど。あたしは高彬が来てくれたことが嬉しいの・・・」

きちんと高彬の前に座りなおすと、ひとつ大きく息を吸い

「高彬」

泣いてる場合じゃないわ。

ちゃんと伝えなきゃ。

誤解を解いて身の潔白を証明しようとかそんなんじゃなくて、ちゃんと伝えて、高彬の気持ちを少しでも楽にしてあげなきゃ。

「文をもらってたこと、黙ってて、嘘ついてごめんなさい。でもね、騙そうと思ってたわけじゃないの。死んだとばかり思ってた吉野君からの文で驚いたって言うのもあるし、本当に吉野君からのものかもわからないし、まずは確かめようって思ったの。何もわざわざ高彬を心配させるようなこと言う必要もないって思って」

高彬の目を見ながら必死に言うと、高彬もちゃんと見返してくれている。

だけど、どこまで心に届いているか不安だった。

「それにね、あの後宮に泊まった日、あの時、話そうと思ってたの。でも、高彬、急に仕事が入っちゃったから話す時間がなくて・・・」

「・・・うん」

すごく控えめだったけど、高彬が首肯してくれたことが嬉しくて、あたしは力を得たようにさらに話を続けた。

「あの時、吉野君はあたしに伝えたいことがあって来たの。帥の宮があたしを狙ってるから気を付けなさいって」

「帥の宮が・・」

ハっとしたように高彬が顔を上げ

「そうよ。女御さまもね、あたしを後宮に呼んだのは、そのことを言いたかったんですって。高彬も、もしかしたらそんな噂を耳にしたことがあったんじゃないの?」

言いながら、何となくピンと来るものがあった。

高彬があたしに「文をもらったことがあるのか」なんて聞いてきたのは、案外、帥の宮のことが頭にあったからなんじゃないかしら?

案の定、高彬はしぶしぶながらも

「確かに、その通りだよ、瑠璃さん」

と頷き、あたしは(やっぱり)と言う思いで頷き返した。

高彬には吉野君のこと以外にも、もやもやとする思いがあったのかも知れないわ。

あたしみたいに、直情的な行動を取るような人じゃないから、そういう小さな心配事を一人で胸に抱え込んでいたのね。

あたしたち、夫婦なんだし何でも話して、その都度<答え合わせ>をして行けば良かったんだ。

そうすれば、あんな風に大きく諍うこともなく───

「・・・吉野君に抱き寄せられたのは本当よ。接吻もされそうになったわ」

きっぱり言うと、瞬きもせずに高彬があたしを見て、あたしも真っ直ぐに見返した。

やましいことなんて何もないもの。

「吉野君があたしを好きでそんなことをしたのか、それともただのおふざけなのか、あたしには判らない。だってあたしは吉野君じゃないもの。でもね、高彬、あたしはちっとも嬉しくなかったの。抱き寄せられた瞬間、嫌だ、って思ったの」

そうよ、大切なのはあたしの気持ちなのよ。

吉野君から文をもらって心がざわめいていたのは、吉野君の真意が掴めなかったからなんだわ。

吉野君が何を考え、どう行動に出るのか───

それが判らなくて、あたしは動揺していたんだ。

あたしが考えなきゃいけなかったのは吉野君の気持ちじゃない。

自分の気持ちだったのよ。

そうすれば自ずと答えは出ていたはずで・・・

「ちょうどその時に高彬が入ってきたの。だから、高彬にはあたしと吉野君が抱き合ってるように見えたのかも知れないけど・・・」

言葉を切ったのは、高彬が何か言いたそうな顔をしていたからだった。

「瑠璃さん。・・・前にぼくが、女官に紅を付けられた時があったのを、覚えてるかい?」

「覚えてるわ」

相談したいことがあると女官に言われ、それで女房部屋で二人きりになった高彬は、直衣に紅を付けられたのよ。

それを後から知ったあたしは、浮気だと怒って───

「あの時、ぼくがとっさに思ったことは、これは瑠璃さんの耳には入れられない、ってことだったんだ。騙そうなんて気持ちじゃなく、もし知ったら心配させるだけだからってね」

静かな口調で話し出す。

「だから、瑠璃さんの気持ち、判るよ。ぼくも同じ気持ちだったからね」

「・・・・」

あたしの思いを伝えて、高彬も心情を吐露してくれて、それですべてが解決に向かっているはずなのに───

なのに、言いようのない不安がこみあげてくる。

「自分だって同じように瑠璃さんに嘘を付いたことがあるのに、それなのに一方的に瑠璃さんを責めて、・・・・本当に申し訳ないと思っている」

「そんな・・」

相変わらず高彬からは寂寥感が漂っていて、まさか、誤解を解いて、お互いに謝り合って、でも、それで終わりになっちゃうとか、そんなことが・・・

高彬は目を伏せ、どこか一点を見ている。

その表情からは、何の感情も読み取れなくて・・・・

不安と嫌な予感ばかりが胸に広がって、あたしはぎゅっと脇息を掴んだ。






<第三十六話に続く>

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Secre

あさぎさま

あさぎさん、こんばんは。

> 慌ただしい年末ではありますが、毎晩帰宅後の癒しのひと時になっておりますv

わ~、ありがとうございます(^^)/
更新しつつ、リアル守弥探しに余念のない私です(笑)
今、一人、目を付けた人がいます。精査ののち、ご連絡を・・・(笑)

> 二人ともお互いを想いすぎるあまり、すれ違っちゃったんですねぇ(涙)

そうなんです。想うあまりのすれ違い。切ないです(><)

> ・・・などと思っていましたら、ベリーさんのコメントを「高彬フェア」と勝手に読み間違えて、なんて素敵な催しなの!とときめいてしまいました、一瞬f^_^;

「高彬フェア」!
なんて魅惑的な響き!
ときめきますよ。いや~、行きたいです。
行きましょう!あさぎさん!

非公開さま(Aさま)

Aさん、こんばんは。

ケーキ、味は良かったんですよ~。
息子は「美味しいんだから、見た目なんていいんだよ」と、微妙な褒め方をしてくれました(笑)
韻を踏む。
だからAさんのは読んでで心地いいのか、と納得しました(*^_^*)
「ものすごく」正解でしたか!嬉しい。
Aさんもお忙しい中、いつもコメントありがとうございます。
Aさんもご自愛くださいね~(^^)/

非公開さま(Mさま)

Mさん、こんばんは。

Mさん、大丈夫でしたか~?インフル、大変でしたね(><)節々が痛むし、ズキズキと頭は痛いし・・
大人の高熱は本当に堪えますよね。
今はだいぶ、よくなったのでしょうか。
まだ病み上がりだと思いますし、あまり無理しないでくださいね!
(と言っても、年末は色々とやることあると思いますが(^-^;

もうしばらく二人を見守ってあげてくださいね~(*^-^*)

ベリーさま

ベリーさん、こんばんは。

> 高彬、自分を責めているだろうなとは、思っていました。

そうですよね。あれほどのことをして平気でいられるわけがないですよね。

> 思えば原作では2人の恋愛の心情にフォーカスされてていたのは最初ちょこっと、そして夏が出てきた作品ぐらいでしたよね。

そうそう、そうなんです。
私も二人の恋愛のあれこれを、もっと読みたいなぁと思っていました。
もちろん、原作は陰謀や事件がメインですし、ベリーさんと一緒でそれはそれで満足ではあったんですが。
でもやっぱり瑠璃と高彬の恋バナ(笑)読みたいですよね~。
その気持ちが、ズバリ私が妄想をめた原点なんです(笑)

> 原作おまけシリーズの於兎丸の作品の当たって砕けろ作戦(?)で瑠璃が「あたしに当たってくれたの?」
> 高彬が「どうだろね」っていうあの場面全体の会話がとてもとても2人らしくて大好きです。

嬉しいです~。
私もあのシーンは大好きです(*^-^*)ありがとうございます。

娘さん、インフルでしたか((+_+))
大変でしたね。
インフルは辛いですよ・・。(私も数回、罹りましたが、あれは辛い!)
ベリーさんもご自愛くださいね!
らぶぽか、書きたいです~(*^-^*)

高彬・・・(涙)

瑞月さん、こんばんは~。

毎日の更新、ありがとうございます(^-^)
慌ただしい年末ではありますが、毎晩帰宅後の癒しのひと時になっておりますv

二人ともお互いを想いすぎるあまり、すれ違っちゃったんですねぇ(涙)
瑠璃さんも、まさかこんな事になるとは思わなかったでしょうし、さぞかし辛い一週間だったでしょう。
そして高彬。誤解している事態も、自分の行動についても色々と思い悩んで憔悴しているというのに、なんて事を伝えに来るんですかーーー(T_T)
優しさが切ないです・・・。

もう十二分に苦しんだのに、何を思いつめているのでしょうか。
早く元の二人に戻れたらいいですね!

・・・などと思っていましたら、ベリーさんのコメントを「高彬フェア」と勝手に読み間違えて、なんて素敵な催しなの!とときめいてしまいました、一瞬f^_^;

もしもそんなフェアがあったら、毎日通い詰めますよ私(笑)

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高彬、自分を責めているだろうなとは、思っていました。しかも恋敵は去っていくことを告げに来る、そんな義理堅さ、なんて真面目で優しいやつなんだよ!でもきっと高彬フェアに勝負をしたかったんだと思ってます。
思えば原作では2人の恋愛の心情にフォーカスされてていたのは最初ちょこっと、そして夏が出てきた作品ぐらいでしたよね。それも夏や聡子夫婦の話がメインで瑠璃と高彬がお互いの思いをきちんと伝えることもなく。平安時代は話す言葉も少なかったでしょうし憶することぞ恋愛の美なりってな感じだったでしょうから、それはそれで好きなんですけど。
私が瑞月さんの作品が好きな大きな理由はやはり2人の心情を描いてくれるところです。
原作おまけシリーズの於兎丸の作品の当たって砕けろ作戦(?)で瑠璃が「あたしに当たってくれたの?」
高彬が「どうだろね」っていうあの場面全体の会話がとてもとても2人らしくて大好きです。
どうか2人が試練を乗り越えて、もっともっとお互いを大事にしてほしい!
そんな気分です(^^)

娘は元気になりました。インフルでした。意外と熱に強い子なんですけど、今回のはキツそうでした。そんな季節ですね。
新婚編が落ち着いたら、ラブぽか、待っています!
お忙しい中、更新お疲れ様です!
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Author:瑞月
瑞月(みずき)です。

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