拍手お礼SS<15>

*** 拍手お礼SSの寄せ集めです ***





「静かなおしゃべり」




サワサワと言う音がする───

葉擦れの音かと思って目を覚ましたら、雨の音だった。

しっとりと葉を濡らしていくような細かい雨が降っている。

あたしは脇息からゆっくりと身体を起こした。

つれづれに庭を眺めているうち、ウトウトしてしまったようだった。

「姫さま、じきに少将さまがお見えになりますわ。そろそろご用意されませんと」

夕刻のお火入れの準備をするために部屋にやってきた小萩に言われあたしは素直に頷いた。

「やっぱり降り出しちゃったわね」

今日は朝からどんよりとした曇り空で、きっと梅雨の走りなんだろうと思う。

もうじき五月。

ついこの間、桜の季節だったはずなのに、もう五月だなんてびっくりよ。

年々、時間の流れが速くなって行く気がするのは気のせいかしら・・・?

童の頃は、もっともっとゆっくりと毎日が過ぎていったような気がするのだけど。

やがてやってきた高彬は雨の匂いを纏っていた。

「大丈夫?濡れなかった?」

五月が近いとは言え、雨が降ればまだまだひんやりと肌寒く風邪でもひいたら大変だと聞いてみると、高彬は

「大丈夫だよ」

と頭を振り、そうして静かに雨を眺めている。

並んで座り、同じように雨を眺めつつ高彬の掌にそっと指を滑りこませるときゅっと指先を掴まれた。

五月と言えば、忌み月───

逢えない一月がやってくる・・・・。

とうに判っていることなのに、高彬はそのことに触れない。

言ったらそれが本当のことになるかと恐れているかのように触れない。

三条邸に来ても、関係のない話ばかりをしていく。

だから、あたしも触れない。

いっそ忌み月なんて嘘になってしまえば良いのに、と思っている。

目が覚めたら呪術が解けたみたいに、世の中のしきたりとか決まりが変わっていたら良いのに、と思っている。

あたしたちは黙ったまま、指先だけで静かなおしゃべりをする。

細やかな雨が、葉を揺らし、濡らしていく・・・




<終>






「瑠璃×高彬<弁護士編>」




勢い良くドアを開けたあたしは「ソレ」が目に飛び込んできた途端、盛大にため息を付いた。

「ソレ」って言うのは、パーティションの向こうからニョッキリと見えている脚なんだけどさ。

覗き込むと、案の定、3人掛けソファに身体を横たえ気持ち良さそうに眠る高彬がいた。

スーツの上を脱いでネクタイを緩めている。

ドスンとカバンを置くと給湯室に直行し、ちょうど目に入ったヤカンとスプーンを手に取ると、高彬の耳元で思いっきり打ち鳴らしてやった。

高彬は一瞬うるさそうに顔をしかめたものの、すぐに状況を把握したようで

「・・・おはよう」

と身体を起こしてきた。

まだ寝足りないのか目をこすっている。

「おはよう、じゃないわよ。また泊まり込んだの?」

「うん・・・、急ぎの案件があってね。・・・・あのさ、瑠璃さん」

「何よ」

「出来ればもう少し優しく起こしてもらえると嬉しいんだけどな。眠り姫をキスで起こすような感じでさ」

「バカバカしい」

そっぽを向き、ふと思い付いて窓を開けると5月の爽やかな風が流れ込んできた。

オフィスビルの5階にある、この弁護士事務所に高彬がやってきたのは2年前のことだった。

ものすごい有能な凄腕弁護士がいると言うことで所長がヘッドハンティングしてきたのだ。

来てみれば、噂通りの有能振りで、今じゃ高彬目当ての依頼人が後を絶たず、この事務所は高彬が支えていると言っても過言ではないほどなのだ。

そうして・・・・、実はあたしの恋人だったりする。

どう言うわけだが高彬があたしに猛アプローチをしてきて、年下なんか眼中になかったはずなんだけど、1年たった頃には、あたしは高彬にしっかり「落されて」いた。

「コーヒーでも飲みに行く?まだ時間あるし」

「行かない」

備え付けの鏡の前でネクタイを締め直しながら高彬が言い、あたしは振り返りもせずに即座に却下した。

「瑠璃さん?」

「何よ」

「もしかして・・・怒ってる?」

「別に」

「ぼくが昨日、連絡もせずに泊まりこんだから?」

「まさか!冗談でしょ。どうして高彬が帰ってこないくらいであたしが怒らなきゃいけないのよ。お陰さまで昨日は久しぶりに広々とのんびり寝られたわ」

実はあたしたちは一緒に住んでいて、と言うか、正確には高彬には高彬のマンションがあるんだけど、いつの頃からかあたしのマンションに寝泊まりすることが多くなった。

昔風に言うなら「通い婚」って感じかしらね。

まぁ、結婚してるわけじゃないんだけど。

あたしの横顔を窺う高彬の視線を感じながら、手早くデスクの上のパソコンを起動させる。

別にね、怒ってるわけじゃないのよ。

ただ───

昨日は『2人が付き合ってちょうど1年目』の日だったのよ。

だから、高彬が来るかと思ってただけで・・・・

まぁ、朴念仁の高彬にそんなこと期待してたあたしが馬鹿なんだけどさ。

「瑠璃さん」

「何」

画面が切り変わり見慣れた壁紙が現れ、まずはメールをチェックしながら顔を上げずに返事をする。

「今日、付き合って欲しいところがあるんだけど。買いたいものがあるんだ」

「何を」

「婚約指輪」

「・・・・」

マウスをスクロールする手が止まり、思わず高彬の顔を見てしまった。

「いつまでも中途半端なままじゃだめだろ」

「・・・・」

「指輪買って渡そうかとも思ったんだけど、どんなのがいいか判らないし、『センスが悪い』って付き返されるのも嫌だしさ。だったら最初から瑠璃さんに選んでもらおうかと思って」

「・・・・」

「今日、プロポーズしようって決めてたんだ。付き合って一年目だろ、今日で」

「ウソ!昨日よ、一年目は。だから、てっきり高彬が来ると思って・・・」

思わず正直に言ってしまい、慌てて言葉を飲み込んでみたものの後の祭りだった。

「それで怒ってたのか・・・。間違いなく今日だよ。瑠璃さんは忘れっぽいからなぁ」

高彬が呟き、あたしはと言うと恥ずかしさと気まずさで、むぅと黙り込んでしまった。

「で、どうなの?瑠璃さん。指輪、一緒に買いに行ってくれるの?」

顔を覗きこまれ───

コクンと頷くと同時に、ドアの向こうで人の話し声が聞こえてきた。

どうやら他の所員たちが出勤してくるみたいで、ドアノブが回る瞬間、すばやく高彬にキスをされ、あたしたちは何事もなかったかのようにその場を離れたのだった。




<Fin>






社会人編<51>の没原稿、瑠璃目線バージョンです。





キスがどんどん深くなっていき、と思ったら両頬に置かれていた高彬の手がするりと肩にかかった。

その手がそのまま腕に下り、ともすれば指先が食い込んで痛いほどの力で掴んでくる。

痛い、と思うより先に、昨夜のオフィスで見た、袖を捲りあげた高彬の腕が浮かんできた。

程よく筋肉の付いた男らしい腕・・・・

その途端、いつだったか抱きしめられた時にも感じた<男の匂い>のようなものが鼻孔をくすぐり、あたしはきつく目を閉じた。

「あのぅ・・・」

ほんの少しキスが弱まった瞬間、唇を離して言うと、(なに?)と言った感じで顔を覗き込まれてしまった。

「シャワー、浴びてきても・・・いい?」

「シャワー・・・」

思ってもみない提案だったのか、それともオトコとして盛り上がってるところに水を差されて心外だったのか、高彬は感情のこもらないような声で呟く。

あたしはコクコクと頷くと、高彬の返事を待たずに慌てて洗面所に駆け込んだ。

ドアを閉め、ふぅーっと大きく息を吐いた。

びっくりした・・・

高彬、あんなキス、するんだ。










『高彬・初夜編』の没原稿です。

「高彬が両親に瑠璃との結婚の話をするシーン」です。






翌朝、ぼくは意を決して寝殿に向かった。

先導の女房に続き部屋に入って行くと、父上母上がどこか緊張した面持ちで座っていた。

昨夜のうちに女房を介して「折り言って話しがある」と伝えてあり、そんなことは初めてのことだったから、それなりの心づもりがあるのかも知れない。

用意されていた円座に腰を下ろし、ちらりと横目で守弥が控えていることを確認する。

同席するように言っておいたのだ。

ぼくは息を小さく吐くと切り出した。

「父上、母上。ぼくは大納言家の瑠璃姫と結婚したいと考えています。お許しいただけますか」

一気に言うと、父上は「ほお」と小さく呟き、母上は大きく目を開いたかと思ったら、継いで見る見ると顔をゆがめた。

父上が何か言うよりも早く

「そんな、結婚だなんて・・・。高彬さん、許しませんよ」

語気も荒く身を乗り出して言った。

「高彬さんはまだ15ではありませんか」

「母上。なにも今すぐと言うわけではありませんよ」



*******

「翌朝」と言うのはこの出来事の翌日のことのようです。

当初はこのシーンをどこかに入れるつもりでしたが、ばっさりとカットしました。







更新出来ずにすみませんでした。明日は社会人編の更新が出来ると思います。

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<読者さま選>

『尼寺で 女になるのは 困ります』
(桂の尼君、心の一句)

*********

「特選ジャパネスク名(迷)言集」募集中です!
これは、と思う言葉がありましたら、どしどしお寄せ下さいませ。
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また、私の一言コメント(突っ込み)を付けてのご紹介となりますので、ご了承ください。

*********

(←お礼画像&SS付きです)

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ベリーさま

ベリーさん、こんばんは。

> 高彬、弁護士も似合いますね〜

はい。敏腕弁護士(でも情に厚い)がすごく似合いそうです。有能ですからね~。

> スーツ着崩した感はたまりませんね (オイ!)

いいですよね!ちょっと「お行儀悪い」高彬って!

> まだまだ読み逃していたお話もたくさんのありました。SSの話をまとめてアップしてくださってありがとうございます😊

いえいえ、こちらこそ読んでいただきありがとうございます。

高彬、弁護士も似合いますね〜
スーツ着崩した感はたまりませんね (オイ!)
さりげなく婚約指輪っていうところが、ニクい〜
まだまだ読み逃していたお話もたくさんのありました。SSの話をまとめてアップしてくださってありがとうございます😊

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