***第三十話  三条邸の夜***

『なんて素敵にジャパネスク〜二次小説』




          注)このお話は連続ものです。
            カテゴリー「二次小説」よりお入りいただき
            第一話からお読みくださいませ。



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*** 第三十話 三条邸の夜***




「わたしをお忘れですか?瑠璃姫」

男はなおも言い募ってくる。

お忘れに決まってるじゃない!あたしは記憶を失っているんだから!

でも、でも。

どんないきさつのある男か知らないけど、この男は、あたしへの恋慕の想いを募らせて夜這いしてきたとは思えないわ。

いくら記憶を失っているとはいえ、それはもうわかる。

だって手荒だし、とてものこと、恋しい姫に会うために忍びこんできたって感じじゃないもの。

あたしは思いっきり、もがいたんだけど、男はびくともせずに、顔を近づけてくる気配がした。

接吻だけは防ごうと、思いっきり顔をそむけ、少し自由になる足をばたつかせた。

男の吐く息が首にかかる。

もしかしたらお酒でも飲んでいるんじゃないかしら。吐く息が妙に熱くて変な匂いがする。

あぁ、気持ち悪いっ。

男は強引にあたしの単を脱がせにかかった。

冗談じゃないわよっ!

あたしは全身の力をこめて、男を突き飛ばした。

男は少しよろけ、あたしはそのすきに部屋の隅に逃げたのだけど、すぐに男に捕まってしまい、また組み敷かれてしまった。

「誰か!助け・・」

言いかけた口をふさがれ、はずみで倒れた几帳の音に、あたしの声はかき消されてしまった。

男はまたもや、単に手をかけた。

もうだめだ・・・。

ふいに涙が浮かんだ。

こんなことになるのなら、昼間、高彬に身をまかせておけば良かった・・。

こんな奴に、こんな奴に、無理やりされるくらいなら。

あぁ、あぁ、あたしのばか!

あんなに優しい高彬なのに。

お預け喰らった、なんて言ってたけど、きっと、あたしの我儘を聞いてくれたのに違いないんだから。

佳き日を選んで、ちゃんとした手順で結婚しよう、って言ってくれる優しい人がいるのに。

どうして、こんな奴に貞操を奪われなきゃいけないのよ!

高彬、ごめんね・・・

高彬への申し訳なさと、悔しさで、涙が溢れた。

男の手が単に入りかけ、あたしがせめてもの抵抗をしようと身体をよじった次の瞬間

「瑠璃姫っ」

すごい勢いで妻戸が開いた。



       
          ************************************





「瑠璃姫っ!どうなさいましたのっ」

そう言いながら、ずかずかと部屋を横切ってきたのは・・・・煌姫だった。

開いた妻戸から差し込む月の明かりで部屋が浮かび上がる。

組み敷かれているあたしを見た煌姫は、瞬時に状況を理解したみたいだった。

「痴れ者っ!瑠璃姫から離れなさいっ」

それでも、なおも離れようとしない男の様子を見て取ると、煌姫はすばやく部屋を見まわし、二階厨子をむんずと持ち上げ、男めがけて投げつけた!

とっさに逃げようと立ち上がりかけた男の身体に、二階厨子が命中し、男がもんどりうって倒れ、逃げ出そうと立ち上がったあたしに倒れこんできた。

男に全体重で倒れかかられ、重みであたしも当然、倒れ込み、その拍子に近くにあった脇息の角にしたたか頭をぶつけてしまった。

目の玉が飛び出そうなほどの痛みが走り、その瞬間、頭の中で何かがかちっと音をたてた。

徐々に靄が晴れるように、頭の中がすっきりとしてきて、やがて、全てがクリアになった。

・・・・思い出した!思い出したわ!

あたしは瑠璃。瑠璃姫よ!

足元で唸っている男はと見ると・・・

「権少将!」

なんてこと。男は権少将ではないの!

権少将と言えば、忘れもしない、去年の管弦の宴が流れたときに、あたしに夜這いをかけてきた男じゃないの。

あの時は、すんでのところで高彬に助けてもらったんだった。

一年以上もたった今頃になって、またやってくるなんて、どういうことよ。

あたしへの恋心やみがたく・・・ではなくて、きっと、あの時の恨みをはらすために、てごめにしようとしたんだわ。

「る、瑠璃姫・・・」

唸りながら、なおもあたしの足首をつかんでくるのが腹立だしくもおぞましい。

思いっきり蹴りあげてやると、権少将はよろよろと立ちあがり、それでも煌姫の姿を見ると、舌打ちしながら部屋を出て行った。

さすがに二対一では勝ち目がないと思ったらしい。

あたしは妻戸に駆けよると

「おととい来やがれっ!」

と怒鳴りつけた。




           *********************************





「まぁまぁ、瑠璃姫。ひょっとしたらご記憶がお戻りになったのではなくて?」

今しがた二階厨子をぶん投げた人とは思えないような、あでやかな声で煌姫が聞いてきた。

「え、どうしてわかるの」

驚きつつ答えると

「どうしてって・・・。『おととい来やがれ』だなんておっしゃる姫君は、都中探したって瑠璃姫だけですもの。口の悪さは、正真正銘の瑠璃姫だと言うまぎれもない証拠ですわ。良かったですわねぇ・・・ご記憶が戻られて」

袖で口元を押さえつつ、にっこりと言う。

なんか褒められてるんだかけなされてるんだかわからないけど、でも、記憶が戻ったのは煌姫のおかげだわ。

「煌姫のお陰で助かったわ。それに色々心配してくれたみたいで悪かったわね。吉野にまできてくれたみたいでさ」

一応、お礼だけは言っておかなきゃと思って、そう言うと

「あ〜ら。瑠璃姫はあたくしのパトロンですもの。お元気でいていただけなければ困りますわ。瑠璃姫がいなかったら、明日のご飯にも事欠く儚い身ですもの。瑠璃姫は、あたくしのご飯の素。瑠璃姫の一大事は、あたくしの一大事ですわ」

あたしはがっくりと肩を落とした。

こういう姫だったわよね・・・確か、この人。

ご飯の素って・・。仮にも宮家の姫がさぁ。

でも、色んな意味での恩人だから、まぁいいか。細かいことは気にしないでおこう。

「ところで、どうして煌姫はここにいたの?」

ふと気になったので聞いてみると、煌姫は

「あたくし、小腹がすいたもので、台盤所でお粥などいただいておりましたのよ。すっかりお腹もくちて、部屋に戻ろうとした時に、瑠璃姫の部屋の近くで人影が見えたのですわ。少将さまは昼にいらっしゃってるし、おかしいと思い様子を見ていたのですのよ」

「心配してくれたってわけね」

「いえ、違いますわ。瑠璃姫ごときに、そうそう何人も懸想する人がいらしたら、あたくしのプライドが許しませんもの。もし、そうなら少将さまにご報告して、少将さまにお目を覚まして頂こうと思ったのですわ。そうすれば、あたしの愛人の道も開かれるというものですもの」

「まだ、愛人の座を狙ってるってわけ・・・ね」

「ま、瑠璃姫ったら、怖いお顔ですこと。そういう可能性があれば、のお話ですわ。今のパトロンは瑠璃姫ひとりですわ」

「はぁ・・」

なんか疲れる姫だなー。

せっかく記憶が戻ったって言うのに、いきなりこれだもの。

どうせなら、高彬といるときに、記憶が戻りたかったな。

高彬・・・。

吉野でも、記憶を失ったあたしに、あんなに優しくしてくれて。

なんか高彬の誠実さを見せてもらった気がするわ。

あたしは高彬が童の頃からあたしを想っていてくれて、だから高彬が好きなんだろうって思っていたけど、でも、あたしはどんな風に出会ったとしても高彬を好きになるのかも知れないなぁ・・・なんて思っちゃった。

高彬のいろんな思いも聞けたしさ。

「好きだ」なんて言ってくれたりもしたしさぁ・・・・

思えば、きちんと高彬の口から「好き」という言葉を言われたことってなかったのよね。

なんだか、高彬ともう一度、出会って、一から恋をし直したような気分だわ。

記憶を失ったり、大怪我をしたりしたのは、大変なことだったけど、でも、良いこともたくさんあった。

東宮さまにもお怪我がなかったんだし。

人生で起こることって全てが必要なことなのよ、きっと。うん。

・・・・こんな風にして、あたしの記憶は戻ったのだった・・・。



               <第三十一話に続く>


〜あとがき〜

こんにちは、瑞月です。

瑠璃の記憶も戻り、いよいよ初夜に向けてのカウントダウンです(の、予定です)

長い話になってしまいましたが、もうしばらくお付き合いください。

読んでいただきありがとうございました。

ご感想などございましたら、コメント欄よりお寄せくださいませ。


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Secre

非公開さま(Aさま)

Aさん、おはようございます。
ひょっとしたら「初めまして」でしょうか?
コメントありがとうございます。

「母が氷室冴子世代ど真ん中・・」とのこと、Aさんはものすごくお若いのですね。
私、お母上と同い年くらいだと思います。
お母さんが昔読んでいたジャパネスクを、娘さんが受け継いで読んでいるってとても嬉しいです!
お母上も大切にとっていたんでしょうね。
高彬みたいな人とぜひ一緒になってくださいね。

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こんばんは

いつも楽しく読んでいます。
まさか権少将が再登場するとは(笑)
でも、権少将Good jobですね

瑠璃も記憶が戻ったからこのまま高彬とゴールインして欲しいけど、まだ 続きが読みたいからお預け状態が続いてもいいかなと言う複雑な心境です(^-^)

こんにちは!

はじめまして 初めてコメントさせていただきます。私も中学生の時ジャパネスクに出会いました。漫画のほうが先でしたが、続きが気になり小説も読み始め、あれよあれよという間にどハマりしたんですよ~ なので挿絵はやっぱり峯村先生以外ありえませんよね!!
正直最後に読んだのはいつだったのか忘れてしまうほど前ですが、こんなふうにいまだに好きでいてくれている人がいるのがすごくうれしいです!もちろん二次小説も読ませていただきました。氷室先生の世界観がそのまま引き継がれていて、なんの違和感もありませんでした。なにより積極的な高彬&寸止めがサイコーです(笑)高彬熱望の初夜も楽しみですが、その後や原作の裏話的なお話も読みたいです。 

>まこさま

そうそう、まさかの権少将です!
昇進してないってことですね(笑)

>お預け状態が続いてもいいかなと言う・・・

まこさん、そんなこと言ったら高彬に小刀持って踏み込まれちゃいますよ~(笑)

>みちゃさん

こんにちは!コメントありがとうございます。
ジャパネスクは根強いファンが多いと思います♪
新しいファンの方も増えて欲しいなぁと思います。

>寸止めがサイコーです(笑)

あははは!サイコーですか。
高彬が聞いたら怒りそうですけど(笑)
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