***新婚編***第二十九話 吉野の人 ***

『なんて素敵にジャパネスク~二次小説*新婚編』





このお話には「吉野君」が出てきます。
原作とは違う形で登場しますので、原作のイメージを壊したくない方はお読みになるのをお控え下さい。





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***新婚編***第二十九話 吉野の人 ***








月光の下に佇む人の影は怖いほどに静謐で、その姿が現のものなのか幻なのか、判らなくなるほどだった。

どれくらいそうしていたのか、ジャリ、と小砂利を踏みしだく音がして人影が動き出す。

まるで金縛りにあったみたいに動けなくなっているあたしをよそに、人影は音もなく階を上り、気が付いたら部屋の中で対峙していた。

───この匂い。

吉野君だ・・・

静かな息が漏れる。

灯台の火のない月明かりだけの室内で、でも、まるで月の光をそのまま纏ってきたかのように、吉野君の姿は自ら発光しているような煌めきを放っている。

「・・・瑠璃姫」

僅かに唇が動き、吉野君が言葉を発した。

「お久しぶりですね」

口の端が少し上がり、笑ったのだとわかった途端

「本当に・・・、本当に吉野君なの?」

あたしは縋るような声で聞いていた。

確かめずにはいられなかった。

ねぇ、本当に吉野君なの・・・?

「<吉野君>ですか・・・。懐かしい名だ。今は左大弁などと言う血の通ってないような官位名で呼ばれておりますがね」

「・・・・」

本当に吉野君なんだ・・・

「なぜ流行り病で亡くなったなどと嘘を付いたの?どうして突然にいなくなったりしたの?どうして・・」

「座りましょう、瑠璃姫。夜は長い」

両肩に手を置かれ、あたしはぺたんと座り込んだ。

向かいに座った吉野君の表情は、月明かりの逆光であまりよく見えなくて、わずかに目を細めると

「私からは瑠璃姫のお顔が良く見えております。このままで」

まるで暗闇の中から届くような吉野君の声がする。

「そうですか、流行り病で亡くなったとあなたには言ったのですか、母上は」

「え」

「止めるのも聞かずに一夜にして吉野を出てしまいましたからね。その後のことはまったく知らないのですよ。そうですか、母上は私を亡くなったと・・・。どこまでも儚げな人だ・・・」

「吉野を出て、どこへ行ったの?」

聞かなくたって分かるけど、でも、あたしの口からは勝手に言葉が飛び出していた。

「京、ですよ」

吉野君が言う「京」の言葉は、華やかな都のはずなのに、どこか寂し気な響きがした。

「どうして京なんかに行ったりしたの?」

聞いちゃいけない。

聞いたって仕方がない。

聞いたりしたら、その言葉にあたしはがんじがらめになってしまうかも知れない───

「官位が欲しかったのですよ。あるたった一人の姫のために」

「・・・」

気付かれないように息を吸い、吐き出すときには唇が震えていた。

「どうして・・・」

隠しようもないほどに声まで震え

「どうして、今頃になって現れたの」

少し気を抜いたら、涙まで流れそうであたしは奥歯を食いしばった。

もしも。

もしもだけど、吉野君があたしのために官位を手に入れたとして、だったら、どしてもっと早くに現れなかったの。

あたしはもう、結婚しているの。

高彬の妻なのよ・・

「長いこと、分からなかったのですよ」

「・・・・」

「幼い頃、吉野で遊んだ姫が、一体、どこの姫君なのかと言うことが」

「え」

そんなまさか、と言いかけて、あたしは口をつぐんだ。

あたしだって、吉野君の身元なんか知らなかった。

ただ、仲良しの男の子と言うだけで。

小さい時なんて身分や家柄なんて関係ないし、ましてや遊んでいたのが吉野だもの、どこのお邸だとか、父親の役職がどうだとか、そんなこと気にするわけもない。

それに、そうよ。

現代では、子女の名前が知れ渡ることなんか稀で、あたしは世間からは「三条の姫君」とか「内大臣家の総領姫」とか呼ばれてるだけで・・・

「ご結婚前に一度、後宮に来られたことがありましたね」

「・・・」

「その時に知ったのですよ。内大臣家の姫君が、・・・いえ・・・」

吉野君が頭を振ったことが、気配だけで伝わってくる。

「右近少将の結婚相手の姫君のお名前が、瑠璃姫だと言うことを」

「・・・」

ぎゅっと目を瞑り、息を止めた。

あの時───

記憶が戻り、それを高彬に知らせるために後宮に行った時。

帝の前に転がり出て、高彬にさんざん叱られた、あの時───

あの騒動で、あたしを探し当てたと、そういうことなの?

流れた雲が月を隠し、闇に包まれた室内で、あたしは気配だけで吉野君と見つめ合った。






<第三十話に続く>


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Secre

ベリーさま

ベリーさん、こんばんは。

> 瑠璃姫、吉野の君、どうするんだろう、どうなるんだろう。

高彬のいない夜・・、二人はどうするんでしょう?!

> 昔、ジャパネスクを読んでいたわくわく感がまた体感できるなんて、瑞月さん、本当に感謝です。瑞月さんならではのお話、楽しませて頂いております!

ありがとうございます!
ものすごく励まされます(*^-^*)更新がんばります~。

非公開さま(Mさま)

Mさん、こんばんは。

そうなんです。瑠璃の複雑な気持ちは分かるんですよね。
吉野での楽しい思い出しかないでしょうし・・
ぜひぜひ、瑠璃には心を強く持っていただきたい!
もうしばらくお付き合いくださいませ~。

か、固唾を飲んで読んでます。
まだまだドキドキハラハラですよ。
瑠璃姫、吉野の君、どうするんだろう、どうなるんだろう。
我らが高彬(笑)、どうするんだろう!
昔、ジャパネスクを読んでいたわくわく感がまた体感できるなんて、瑞月さん、本当に感謝です。瑞月さんならではのお話、楽しませて頂いております!

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