***新婚編***第二十七話 左近少将との話 ***

『なんて素敵にジャパネスク~二次小説*新婚編』





このお話には「吉野君」が出てきます。
原作とは違う形で登場しますので、原作のイメージを壊したくない方はお読みになるのをお控え下さい。





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***新婚編***第二十七話 左近少将との話 ***








時折り衝立の向こうから衣擦れの音が聞こえてくるだけで、部屋の中はしんと静まり返っている。

さすがは帝の寵姫が住まわれる後宮だけあって、外の喧噪なんか一切入ってこないようだった。

コホン、と咳払いをひとつすると

「えぇと、その。左近少将さま」

あたしは取りあえず一番のよそ行きの声を出した。

やっぱり夫の同僚には、好印象を持ってもらいたいじゃない。

だけど、いくら待っても返事がなく、もしかして聞こえなかったのかしらと

「えぇと、左近少将さま」

今度は幾分、普段使いの声で呼びかけると

「あ、いや、これは参ったな」

困惑した左近少将の声が聞こえてきた。

「姫さんと口聞いたなんてことがバレたら、俺の、いや、私の身が危うい。勘弁してください」

困り果てつつも、どこか口調は楽しげで、高彬とよっぽど気安い仲なのかもしれなかった。

「それは高彬が怒ると言うこと?」

「そうですよ」

「そんな、口聞いたくらいじゃ・・」

「いやいや。姫さんのこととなると、あいつは全くもって冷静さを失うんですよ。前に冗談で『おまえの姫君に会わせろ』と言ったら、本気でどつかれましたからね」

「・・・・・」

何て返事をしたらいいのか判らず黙っていると、自分で<身が危うい>なんて言っていたくせに

「いつだったか、姫さんが吉野に行っていた時のことですよ、あの時はひどかったなぁ・・」

案外話好きなのか、おかしそうに言い、そうして含み笑いをしている。

同僚から聞く高彬の様子なんてそれだけで興味津々だけど、でも、突然に出てきた「吉野」の言葉に、あたしはぎょっとして身を乗り出した。

なんてタイムリーな話題なの。

左近少将、あなたはエライ!

「吉野って、あの吉野?」

「そうですよ。ほら、姫さんが大怪我を負ったって言う・・・。あ、これはいかん。思い出したくもないことを口にしてしまいましたかね」

「いいえ、大丈夫よ」

答えながらやたらと胸がざわついてしまったんだけど、でも、あたしはあることを確信していた。

この左近少将は信用して大丈夫な人なんだっていうこと。

あの時の吉野のことと言ったら女御さまのお忍びの一件も絡んでいるわけだし、信用してなきゃ高彬が吉野のことを話題になんかするわけないもの。

そうと判れば、少し踏み込んだ質問をしてもいいかも知れないわね。

「・・・で、ひどかったって言うのは?」

「姫さんが怪我をしたって言うんで、すぐにも飛んで行きたいのに仕事が立て込んで抜けられず、あの時の高彬は見てて気の毒なくらいに取り乱してましてね。それにやたらと気が立っていた。だから、私は吉野には馴染みがあるから、気を紛らわせてやるつもりで『代わりに俺が行ってきてやろうか?』と言ったら・・・・」

「え?」

「いや、冗談で、ですよ、冗談で。俺が代わりに・・」

「ううん、じゃなくて、その少し前」

「気を紛らわせる?」

「もっと前」

「吉野に馴染みがあるから?」

「それよ!」

衝立を押しのけそうになるところを、すんでのところで留まった。

吉野に馴染みがあるなんて、聞き捨てならないわ。

「左近少将どのは・・」

「重行でいいですよ」

そうは言われても、まさか呼び捨てにするわけには行かないから

「じゃあ、重行少将。吉野に馴染みがあると言うのは?」

「まぁ馴染みがあると言っても、童の頃ですけどね。叔父貴に連れられて、何度か吉野に行ったことがあるんです」

「それはまた、どうして?吉野なんて寂しい地で、物見遊山で行くような場所ではないでしょう」

ついつい探りを入れるような口調になってしまう。

まさかのまさかとは思うけど、この重行少将が吉野君なんてことはないわよね・・・

ここでまさかのご対面・・とか?

「だから、ですよ」

「え?」

「姫さんの言う通り、吉野は寂しい地だ。だから、俺が連れて行かれたんです。話し相手としてね」

「話し相手・・・」

「姫さんは、と言うか、ほとんどの人は知らない事ですが、その頃、吉野には時の帝の皇子が住んでらっしゃったんですよ」

「・・・・・」

「ご生母のご身分が低いとか言う事で、身を隠すように母子で住んでいらっしゃった。俺の叔父貴が後見人となっていましたが、叔父貴だって宮家と言うだけでたいした官位はなかったんです。取り立てて何かしてあげられるわけでもない。だけど叔父貴は優しい人だったんでしょう。幼い皇子を不憫に思い、歳の近い俺を話し相手として時々は吉野の連れて行ったんですよ」

「それで・・、その皇子と言うのは今は・・?」

知らずに声が震えたと言うのに、重行少将は全く意に介さずに

「今は左大弁として昇殿してますよ」

気楽に言い放った。

「・・・・」

嗚呼───

固く目を瞑る。

やっぱり左大弁は吉野君だったんだ・・・・!



********



結局、高彬は仕事から戻ることが出来なくて、翌朝まで重行少将が護衛に付いてくれた。

あたしは一睡もすることが出来ず、衝立の向こうで座位で過ごしたらしい重行少将は、朝が来ると簡単な挨拶を残して部屋を出て行った。

「もうお帰りになるなんて、ほんに時間なんてあっと言う間ですわ。またぜひ遊びにいらっしゃいね」

御前で女御さまに退室のご挨拶をしていると、音もなく女官が現れ、帝の来意をしめやかに告げた。

「まぁ、主上が?瑠璃姫も会っていかれますか?」

女御さまに小首を傾げながら聞かれ、あたしは一拍ののち、大きく横に頭を振った。

「もう帰りますわ、女御さま」

昨夜、「後宮は遊びにくるところじゃない」と言っていた高彬の真面目な顔を考えると、とてものことそんな気分にはなれないもの。

頷かれる女御さまに頭を下げ、あたしは万が一にも帝と鉢合わせにならないように足早に渡殿を歩いた。

角を曲がったところで、向こうからこちらにやってくる一人の公達の姿が目に入ってきた。

極上の絹で織られたであろう直衣が、朝陽に負けないほどの光沢を放っているのが遠目にも見て取れる。

近づくほどにわかる品のある佇まいと、美々しいと呼ぶに相応しい顔立ち・・・・

「・・・・・」

サッと扇を開いて顔を隠した。

どうしてだか動悸が激しくなってくる。

どんどん距離が近づいてきて───

すれ違いざま、ふわり、とあの匂いが漂ってきた。

(あ!)

息を飲んだ瞬間、手に何かを押し付けられ、振り向くと、その公達は何事もなかったかのように静かな背中を見せながら歩いて行ってしまった。

手の中には幾重にも折りたたまれた料紙がある。

辺りに誰もいないことを確認し、そっと料紙を広げて見ると

『今宵』

墨痕も鮮やかに、ただ一言、そうしたためられていた。





<第二十八話に続く>



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Secre

非公開さま(Mさま)

Mさん、こんにちは。

はい、重行のお蔭で(?)左大弁が吉野君と判明いたしました!
左大弁に若干の殺意・・(笑)
大丈夫です!
我らが高彬は、誰にも負けません!!
大船に乗ったおつもりで、安心してお読みいただければ・・と思う次第でございます(笑)

ベリーさま

ベリーさん、こんにちは。

どきどき、ハラハラだなんて嬉しいです(#^^#)ありがとうございます。

現代編もお読みいただたんですね。
現代編の高彬、私も好きなんです。(あ、どの高彬も好きなんですけど!)
また現代編のその後も書いてみたいなぁと思っています。

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どきどき、ハラハラしてきました。
どうなっちゃうんだろう!?
ついにご対面ですか!!
いつもながら瑞月さんのお話楽しませてもらってます!
ついこの間は現代版(卒業して一緒に暮らしてるお話)の高彬、瑠璃編を読みました。
細かい些細な高彬の仕草のかっこよさとか、いいですねえ。そしてそれに一喜一憂ドキドキしてる瑠璃が可愛かった。ほんわかしました〜☺️
さ、どうするんでしょうね、瑠璃姫!!
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