***新婚編<番外編>*** 高彬のジャパネスク・サスピション ***

『なんて素敵にジャパネスク〜二次小説*新婚編<番外編>







***新婚編<番外編>*** 高彬のジャパネスク・サスピション ***






「やあ、高彬」

三条邸の瑠璃さんの部屋、二人で寛いでいるところに融が片手を上げながら入ってきた。

自邸と言う事もあってか、かなり着崩れた狩衣姿である。

まぁ、ぼくだってほぼ寝起きで、融のことを言えた義理じゃないけど。

「邪魔しちゃったかな。へへ」

隣の瑠璃さんを見ながら言い、瑠璃さんが「別に」なんて肩をすくめてみせると、融はぼくの前に腰を下ろした。

「高彬、聞いてよ。昨日さ・・・」

白湯を口に含みながら融の話を聞いていると、ふと廂に手を付く女房の姿が目に入った。

何だか落ち着かない様子で、主人である瑠璃さんの様子を窺っている。

「なに」

瑠璃さんの言葉に、女房はおずおずと文を差し出した。

良くある光景で気に掛けることでもないはずなのに、なぜだかこの時はやけに気になった。

何しろ、つい最近、帥の宮どのに

『瑠璃姫のこと、少しばかり興味を持ってしまいましたよ』

なんて言われたばかりなのだ。

昨夜、瑠璃さんは「殿方から文なんてもらってない」と言っていたし、まぁ、ぼくもそれを信じているのだけど、でも、いくら瑠璃さんを信じたところで、相手があのプレイボーイとして名高い帥の宮なのだ。

そこに持って来ての瑠璃さん宛ての文である。

ぼくが疑い深くなってしまうのも、むべなるかな、だろう。

融と話しながらもさりげなく様子を窺っていると、文に手を伸ばした瑠璃さんの動きがぎこちなく止まった。

ひったくるように文を手にしたかと思うと、まるでぼくの目を避けるかのように文を袖下に持ち、不自然極まりない動作で立ち上がる。

そのまま部屋の隅に行き、戻って来た時に瑠璃さんの手に文がなかったところを見ると、どうやらどこかへしまい込んだようだった。

───隠した?

「・・・・・」

融の話に半ば上の空で相槌を打ちながら、ぼくの胸はざわついた。



*********



見せたいものがあると言う融に誘われ、西の対屋に出向きながらも、ぼくの心中は穏やかではなかった。

「文なんかもらってない」と瑠璃さんが言ったのは、昨日の今日である。

どうして、文を隠したりしたのだろう。

やはり瑠璃さんは、男から──いや、はっきり言おう、帥の宮から文をもらっていたのだろうか。

融の部屋を辞し、あれこれ考えながら渡殿を歩いていると、遠目から瑠璃さんの姿が見えた。

どうやら瑠璃さんはぼくに気が付いていないようで、その手には文が握られ、食い入るように目は文字を追っている。

「あ、少将さま」

声を掛けられるまで前からくる小萩に気が付かなかったくらいなので、ぼくも相当、瑠璃さんに集中していたようだった。

「なんだい、小萩」

「実は姫さまのお顔の色が悪いようでございまして。姫さまは大丈夫だとおっしゃるのですが・・・」

「わかった。ぼくも部屋に戻るから、少し気を付けておくよ」

部屋の方を振り返り心配そうに眉根を寄せる小萩に言うと、小萩はホッとした表情で立ち去っていった。

部屋に近づく頃には、さすがに瑠璃さんもぼくに気が付いたようで、また文をしまったようだった。

『何だよ、瑠璃さん、文なんか隠して怪しいな。誰からの文だよ』

こんな風に、気軽に聞いてしまえば良かったんだと思う。

だけどぼくの取った行動と言ったら、文のことなんかおくびにも出さずに、いつも通りに振る舞っただけだった。

その後も瑠璃さんとおしゃべりをしながら過ごし、あの煌姫が物語を書くと言う話に笑いながら、ずっと心の中では文のことが気になっていた。

夜になり

「少し疲れてるようにも見えるね。今日は早めにゆっくり休もうか」

瑠璃さんを促して横になる。

日中、顔色が悪かったと言う瑠璃さんを気遣う気持ちもあったけど、でも、本音は他のところにあった。

いつも通り腕枕をしてやり、そうして目を閉じてみても、心のざわつきは収まらず

「高彬・・・」

身を寄せてくる瑠璃さんを、寝たふりをして敢えてやり過ごす。

どれくらい時間がたったのか、やがて瑠璃さんが規則正しい寝息をたて始めた。

「・・・・・」

そっと腕を抜き、立ち上がる。

自己嫌悪がなかったと言ったら嘘になる。

だけど、それよりも疑惑を晴らしたいと言う思いが勝っていた。

文を隠したのはこの辺りか───

部屋の隅の二階厨子に近づき、静かに経箱の蓋を取ると、案の定、文があった。

意を決し文を手に取り広げると

『瑠璃姫、いつかわたしが官位を授かることができたら、お迎えに行ってもいいですか』

料紙に書かれているのはこれだけで、てっきり、帥の宮からの恋文だとばかり思っていたぼくは拍子抜けしまったのだけど、でも、ふと、この文面が気になった。

どこかで聞いたことのある言葉だな・・・

首を捻っていたぼくは、すんでのところで声を上げそうになり、慌てて息を付いた。

この言葉は・・・、吉野君が瑠璃さんに言ったと言う言葉ではなかっただろうか。

幼い頃を吉野で過ごした瑠璃さんには、「吉野君」と瑠璃さんが呼ぶ幼馴染の童がいて、確かその童に求婚された時に言われた言葉だとか何とか聞いた覚えがある。

でも、と再度、ぼくは首を捻った。

吉野君は流行り病で亡くなったと聞いている。

「・・・・・」

ふと、寝る前に瑠璃さんと交わした会話が思いだされた。

瑠璃さんはしきりに左大弁のことを気にしていたようだけど・・・

いや、違うな。

育ちが変わってる人はいないか、と聞かれたんだ。

それでぼくが、左大弁の名を出して・・・

そうだ、瑠璃さんはこうも言っていたはずだ。

『たとえば、幼いときに京を離れて育ったとか』と。

京を離れ───吉野で育った?

「・・・・・」

混乱しそうになる頭を整理する。

もし、ぼくの推測が正しいとしたら、どうしてだか吉野君は生きており、今は左大弁となり、この文は左大弁どのからのものと言う事になる。

生きている?───吉野君が。

そうして瑠璃さんに文を贈っていると言うのか。

瑠璃さんはそれをぼくに言わずに・・・・

ぼくは息をすることも忘れ、その場に佇んでいた。



********



「・・・もう起きるの?まだ・・・、早いんじゃない?」

翌朝、身支度のため、そっと身体を起こしかけたぼくは、瑠璃さんの言葉にぎょっとして息をのんだ。

「・・・・ちょっと急ぎの仕事を思い出してね、気になるから早めに出仕するよ」

「そう・・」

頷く瑠璃さんの頭を撫ぜ、気付かれないように息をつく。

仕事があるなんて言うのは大嘘だったけど、とにかく早く出仕したかった。

出仕して左大弁の身辺を洗いたい。

左大弁どのは今上の異母弟にあたられる方だし、身辺を洗うだなんて無礼極まりない言い方だとは判っているけど、でも、それがまごうことなき気持ちだった。

左大弁どのが吉野君でなければそれで良し、もしそうだったら・・・・

もしそうだったら、ぼくはどうすると言うのだろう?

いや、ぼくじゃない。

瑠璃さんはどうするのだろう?

「・・・・」

頭を振り、雑念を追い払う。

それは今、ぼくが考えることじゃない。

まずは事実確認だ。

早くに参内をしてみたものの、いざ、左大弁どのに付いて調べると言ったところで、右から左に何かが判明するわけもなく、また、誰かれ構わずに聞き出せるようなことでもなく、結局、ぼくは内心の焦燥を感じながらも、通常任務をこなすしかないのだった。

翌日は宿直で、夜も更けた頃、詰め所で待機をしていると

「右近少将どのに」

との取次ぎが入った。

誰かと思い部屋を出てみると、そこに控えていたのは伊勢──、姉上付きの女房だった。

「伊勢。・・・どうした。姉上に何か・・?」

今日、日中に姉上のところにご機嫌伺いに行ったばかりである。

わざわざ伊勢が後宮を出てくるなんて、何か良からぬことでも起きたのかと思い心配して聞くと

「こちらへ、少将さま」

伊勢が物陰に手招きをした。

「高彬さまのお耳に入れてよいものかどうか随分と悩みましたが、思い切って申し上げることに致しました。どうか怒らないで聞いて下さいませ」

「うん、なんだい」

右大臣家の女房だと言う気安さもあり気軽に頷くと

「実は・・・」

「うん」

伊勢は声を潜めると

「実は今、瑠璃姫さまが後宮においでなのでございますわ」

「なっ、なんだって・・・・!」

「しっ。お声が大きゅうございますわ」

伊勢に制され

「なんだって、瑠璃さんが・・・」

小声で声を張り上げると言う、何とも器用な声の出し方になった。

「それが、実は公子姫さまが、またしても『遊びにいらっしゃい』とお文をお出しになり・・・」

「そうして瑠璃さんが来た、と・・・」

「はい・・」

「・・・」

この義姉にして、この義妹あり、だ。

眩暈がする。

「で、瑠璃さんは今、どこに」

「今夜はお泊りになると言う事でしたので、承香殿内の一部屋に・・・」

「・・・・」

「それで、実はお伝えしたかったのは、・・・少しばかり気になることがございますの」

伊勢は更に声を潜めた。

「少将さまは式部と言う女官を覚えていらっしゃいますか?あの、いつぞや少将さまを、その、お誘いと言いますか、誘惑と言いますか・・」

「・・・覚えてるさ」

ぼくは憮然と頷いた。

忘れようたって忘れられない。

式部に相談ごとがあると言われて話を聞きに言ったら、その場で衣裳を脱がれてしまい・・・・

伊勢が機転を利かせてくれたお蔭で事なきを得たけど。

瑠璃さんに浮気を疑われたり、と大変な目にあったのだ。

「その式部がどうした」

「今日、瑠璃姫さまが後宮にお泊りになることは、急に決まったことですし本当に内々のお話なのですが、さきほど式部さんがどなたかに文を書いていたのです」

「文を?」

「えぇ。書きさしで式部さんが席を立ったので、ついつい目に入って読んでしまったのですが、その文には瑠璃姫さまが今夜は後宮に泊まることが書いてありましたの。どなた宛ての文かは判りませんが、読みようによっては、まるで夜這いの手引きのようにも見受けられまして・・・」

「・・・・」

「こう申しては何ですが、式部さんはなかなかにお盛んな方ですし、そういう<情報>を、自分の情夫に売るようなことも平気でするんじゃないかと・・・、あ、少将さま」

伊勢の話が終わる前に、ぼくは駆け出していた。

──夜這いの手引きだって?

冗談じゃない。

式部は一体、誰に知らせたと言うのだ。

夜の大内裏を走り抜け、そのまま後宮の門をくぐり抜ける。

「あ、お待ちを。名を名乗られよ!止まられよ!」

門を警護していた衛士に後ろから叫ばれ

「上司の顔も判らないのか!」

走ったまま怒鳴り返す。

承香殿を目指し渡殿を走ると、やがて目当ての場所に辿り着いた。

暗闇の中、うごめくような人影がある。

近づくに連れ、それが戸口に立つ男のものだと判明した。

無言で近づくと───

ぼくは男の腕を取った。






<新婚編・第二十五話に続く>



新婚編の高彬サイドのお話です。

新婚編はちょっとあっちこっちに話が広がっていて、「これまでのお話」の中にも書いたのですが

<帥の宮が瑠璃に興味を持つ話>

高彬のジャパネスク・ブルース<前編>
高彬のジャパネスク・ブルース<後編>

<高彬が式部に誘惑される話>

高彬のジャパネスク・テンプテーション<前編>
高彬のジャパネスク・テンプテーション<後編>

となっています。

合わせてお読みいただいた方が、より新婚編がお楽しみいただけるのではないかと思いますので、未読の方はよろしかったらどうぞ。
(今度、新婚編リストにも、更新順序のまま追加しておきますね)


(←お礼画像&SS付きです)

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Secre

ベリーさま

ベリーさん、こんにちは。

> 高彬、知っていたんですね。お文のこと。
> 原作では全てが瑠璃が自分で内緒に処理をしてたんで、何となくそこはいやだったんですが

はい。私も原作の「高彬はカヤの外」感が何だか物足りなくて、今回は高彬は「知っている」と言う設定にしてみました。
ただ、知っていたら、知っていたなりの葛藤も生まれるはずなので、どのみち二人には少しばかり「試練」っぽい感じの話の展開になってしまうと思います。
もちろん『雨降って地固まる』ですが(*^^)v


(でもそうでないとお話は進まず)。
> まずは伊勢のおかげで瑠璃さんが無事でよかった!(って言うには早いですかね!)

非公開さま(Mさま)

Mさん、こんにちは。

大丈夫ですよ!
高彬はヨッシーにもソッチーにも負けませんっ。
もちろん瑠璃は高彬のもの、高彬は瑠璃のものでございます(≧▽≦)

No title

高彬、知っていたんですね。お文のこと。
原作では全てが瑠璃が自分で内緒に処理をしてたんで、何となくそこはいやだったんですが(でもそうでないとお話は進まず)。
まずは伊勢のおかげで瑠璃さんが無事でよかった!(って言うには早いですかね!)

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