***短編*** 桔梗花奇譚 ***
『なんて素敵にジャパネスク〜二次小説』
注)このお話は一話完結です。
『らぶらぶ万歳サークル』さまに出品した作品の再録です。
今回のお題は「桔梗」でした。
<おまけの話>下にあります。
***短編*** 桔梗花奇譚 ***
ぎしぎしと言う音を立てながら夜道を進む牛車の中、高彬はさっきから黙って前を向いたまま微動だにしない。
「・・・すっかり遅くなっちゃったわね」
横顔に向かいそっと言ってみると、じろりと睨まれてしまった。
「そろそろご辞退しようと言っているのに、瑠璃さんがもうちょっと、もうちょっとと言うから」
怒ったような声で言う。
「だって、桂の尼君が色々と話してくるんだもの。それを遮って席を立つことなんて出来ないわよ」
「うん、それはまぁ・・・」
高彬は幾分、口調を和らげたものの、それでも
「この時刻で桂川付近だとすると、三条邸に着くのは子の刻を回ってしまうかも知れないな・・」
と気難し気に独り言ちている。
あたしの護衛を兼ねている身として、帰路がこんな遅い時間になってしまったことに責任を感じているらしい。
実は今は、太秦にある青蓮花寺からの帰り道なのだ。
青蓮花寺と言うのは桂川のほとり、太秦にあるうちに縁の尼寺で、そこの庵主である桂の尼君は、あたしの亡くなった母さまの乳兄弟なんである。
それであたしを実の娘のように可愛がってくれていて、あたしも年に数回は顔を見せに行ったりしているのだけど、三日前に桂の尼君が病で臥せっているとの連絡が入った。
ここんとこ会いに行ってなかったし、お見舞いに行く旨を伝えたら、ぜひ婿君、つまりは高彬も一緒に来てもらえないか、との返事があったのだ。
尼寺だから、もちろん男の人が入ることは出来ないのだけど、そこは表向きの話のようで、裏からこっそり・・・と言う手があるのだそうである。
まぁ、そこら辺は庵主次第ということなのかも知れない。
それを伝えた時、高彬は最初、尼寺と言う事で躊躇を見せたものの、それでも「お見舞いと言う事なら」と同行することになった。
行って見たら思いの他、尼君はお元気で、それはそれで良かったのだけど、今度はなかなかあたしを解放してくれなかったのだ。
話好きの明るい人だから、あたしもついつい盛り上がってしまったんだけど・・・
まぁ、お元気そうで良かったわ。
尼君には母さまの分まで長生きしてもらわないとねぇ・・・
ちょっとだけしんみりし、ふと思い出して、横に置いてある桔梗の花を手に取った。
青蓮花寺の庭に咲いていた桔梗の花で、帰り際に尼君が手折ってくれたのだ。
何本かを束ねて麻紐で括ってある。
桔梗は母さまの好きな花だから、尼君は庭に植えてくれていたのではないかしら・・・?
またしてもしんみりしかけた時、高彬が物見窓を開けようとしていることに気付いて
「開けないで!」
と慌てて止めてしまった。
何ていうか・・・その・・・何でだか怖いのよ。
あたしは自分が物の怪憑きと言われていたせいか、普段、物の怪なんか怖いと思ったことはないし、よっぽど生きてる人間の悪意の方がタチが悪いし怖ろしいと思っている。
だけど、今日は、と言うか今夜は、<そういう感じ>で怖い。
一言で言うと<出そう>って言うかさ。
現代では怨霊や祟りが本気で信じられてるし、実際、百鬼夜行に出くわして命からがら助かった、なんて人の話も聞く。
思えば、青蓮花寺を出て、牛車に乗り込む辺りからその気配はあった。
月もなく、秋にしては生ぬるい纏わりつくような風が吹いている。
これでどこからか犬の遠吠えでも聞こえてこようものなら・・・
──── ウォォォン・・・
「きゃっ」
思わず高彬にしがみつき、その瞬間、あたしはピンときてしまった。
もしかしたら高彬も常ならぬものを感じているのかも知れないなって。
何故なら、あたしがしがみついた時、高彬の手がさっと動いて、脇に置いてあった太刀を掴んだのだ。
付き従う従者らは、主人の有事に備えて日頃から帯刀しているものだけど、でも高彬は通常は太刀なんか携帯しない。
今日は少し遠出するし、ある程度は遅くなることも予測して高彬は太刀を持ってきていたのだ。
今までにも外出時に高彬が太刀を持ってきたことはあるし、だから別にそれ自体は珍しいことではないのだけど、でも、実際、今みたいに高彬が太刀に手を掛けたと言うのは初めてのことだった。
高彬がさっきから無口で気難しかったのは、ひょっとしたら何かしらの警戒心があったからなのかも知れない。
高彬が警戒しているものが、賊や人さらいの類なのか、それとも物の怪の類なのかは判らないけど・・・
でも、それを口に出して確認するのも怖いと言う感じ。
──ふいに牛車が止まった。
「な、何よ・・」
またしても高彬にしがみつくと
「若君」
外から、きびきびとした若い男のものと思われる声が聞こえた。
「どうした、政文」
物見窓に向かい高彬が声を掛け
「それが、実は・・・道に迷ってしまったようでして・・・」
政文と呼ばれた従者は、歯切れ悪く答えている。
「迷った?太秦からなら、そう難しくない道だろう」
「そうなのですが・・・その・・・」
「何だ、言ってみろ」
高彬は警戒心からなのか、少し不機嫌そうな声で聞き
「実は・・・、どうもさっきから同じところばかりをグルグルと回っているようなのでございます」
従者は、薄気味悪そうなどこか怯えたような声で言った・・・・
********
「同じところを回っているって?そんな馬鹿なことが・・・」
最後の方は呟くように言い、そうして口をつぐむと何事かを考えこんでいる。
「判った。どこかで道を尋ねよう。灯りの点いている邸があったら教えてくれ」
「それが、若君。さっきから私もそう思い探しているのですが、どの邸も寝静まっているのか、灯りの点いている邸はございません。右京はもともと廃屋も多いですし・・・、あっ!」
ふいに従者が大きな声を上げたので
「どうした」
さすがの高彬も腰を浮かしかけ、あたしはひしと縋り付いてしまった。
「若君、灯りの点る邸がありました」
「・・・それしきのことで大声を出す奴があるか、馬鹿者」
従者を叱りながらも、ホッとしてるのがありありと判る様子で高彬が息をつく。
「おかしいな、さっきまではなかったのに・・・」
「車を寄せてくれ」
従者が呟くのを無視して高彬は指示を出し、車は少し動くとすぐに止まった。
「瑠璃さんはここで待っていて。従者もいるから大丈夫だ。すぐに戻るから」
「あたしも行くわ!」
車を降りようとする高彬の後に続く。
いくら従者がいるとは言え、こんなところで待たされちゃ堪らないわ。
高彬はちらりと振り返り、何かを言い掛けたけど、でも結局は何も言わなかった。
お邸はびっくりするほど立派で、月もない真っ暗闇の夜に、この邸だけがどの部屋からも煌々とした明かりがもれているのがかえって異様な感じがする。
「どなたかの別邸だろうか・・・」
高彬が呟き、門を叩くと、それだけでギギギィ・・・と音を立てながら門が開いたので、あたしは高彬の袖を掴んでしまった。
何?今の・・・
門の中では誘うように柳の木が揺れている。
「瑠璃さんは待ってる?」
小声で聞かれ
「・・・・行くわ」
ごくりと唾を飲み込んで答える。
一人になる方が怖いもの。
ふと、気が付くと、あたしはさっきの桔梗の花を握っていて、どうやら車からそのまま持って来てしまったみたいで、だけどわざわざ車に戻るのもイヤだったので、取りあえずそこのまま持って行くことにした。
萎れなきゃいいけど・・・。
ちらりとそんな考えがよぎったけど、高彬が門をくぐったので、慌てて後に付いて行く。
広い庭を横切り邸宅へと向かい歩いていくと、ふいに───
本当にふいにと言う感じで人が現れた。
女房装束に身を包んだ若そうな女性が顔を伏せ、じっと佇んでいる。
さっきまではいなかったのに、一体、どこから来たと言うの・・?
門の開く音で様子を見に来たと言われればそれまでだけど、だけど、普通、これだけのお邸でいきなり女房が出迎えるに来るはずがないし、第一、何も言わずに立っているのがおかしい。
それに、この女房、何かが・・・・変、よ。
じっと見ていたあたしは
(あ)
と声を上げそうになった。
庭の木々も灯籠も、部屋から洩れる灯りを受けて長い影が出来ていると言うのに、女房には影が・・ない!
高彬も気付いたのか、あたしの手を握ると、じりっと後ずさった。
その音に反応したように、女房はゆっくり、ゆっくり、と顔を上げ、あたしは今度こそ
「あっ」
と声を上げてしまった。
女房の目は赤く、しかも赤いだけではなく、それが炎のようにチロチロと揺らめいていて、この世のものじゃないことは明らかだった。
赤い目を揺らめかせながら、妖(あやかし)はゆらりゆらりとあたしと高彬に近づいてくる。
「・・・瑠璃さん、一人で走れる?」
前を向いたまま高彬が聞いてきたけれど、あたしは恐怖のあまり返事をすることすら出来なかった。
高彬は動けなくなっているあたしの手を引きながら、じりじりと後ろに下がって行く。
妖は突然、カクンと頭を下げたかと思うとゆっくりと顔を上げ、見る見る口が裂けて行き、やがて裂け目は耳元まで広がった。
気付けば頭にはメリメリと音を立てながら角のようなものまで生えてきており、あたしは声にならない叫び声を上げてしまった。
妖は、まるで「おいで、おいで」と手招きでもするように手を揺らしながら、一歩一歩あたしたちに近づいてくる。
風もないのに、妖の髪は揺れ始め、やがて髪自体が意思を持っているかのようにうねるように逆立ち始めた。
「抜刀する。瑠璃さん、下がって」
低くするどい声で高彬は言い、あたしを自分の背中の後ろに追いやると、すかさず刀に手を掛ける。
妖を迎え討つつもりのようだった。
高彬はぴたりと下がるのをやめると、ひとつ大きく息を整え、抜き身の刀を構えた。
妖との距離はどんどん縮まって行く。
手を伸ばせば触れそうなところまで妖が近づいたところで、妖が両手を伸ばし、あっと思った時には、ビュンと言う音がして高彬が刀を振りおろしていた。
高彬の一刀は受けた妖をいったん霧のように薄くなり、このまま消えて行くかと思ったのに、でもすぐに元に戻っていた。
そうして猛り狂ったように全身を震わせ始めると、目の炎がやがて顔に髪にと広がって行き、あっと言う間に炎の塊となって高彬に襲い掛かろうとしてくる。
このままだと高彬が妖に焼かれてしまう!
高彬──!!
とっさに手にしていた桔梗の花を、妖目掛けて投げつけると、炎は急に小さくなり、妖は苦し気にのたうち回り始めている。
ふいに高彬があたしの前に立ちはだかった。
刀を地面にぶすりと突き刺し
「臨、兵、闘、者、皆、陳、烈、在、前!」
と唱えながら、手を複雑に組み合わせ、最後に手刀を切るみたいな動作をした。
唸り声を上げながら苦しがっていた妖は、ついには動かなくなり
「何・・・、どうして・・・、何が起こったの・・・」
「説明は後だ。早く行こう」
状況が全く判らずにぼう然と立ち尽くすあたしの手を引っ張ると、高彬は足早にその場を立ち去った。
門の外で従者らは全員眠り込んでおり、高彬はまずはあたしを車に押し込み
「政文、将人、起きろ!車を出せ」
全員を叩き起こす。
車はすぐに動き出し、車中、高彬はずっとあたしの肩を強く抱いていた。
真の闇に包まれた大路、カラカラと車輪の回る音だけが聞こえてくる。
**********
翌日、高彬が三条邸にやってきたのは、戌の刻を回った頃だった。
さすがに疲れがたまっているのか、あたしの前に腰を下ろすと目頭を押さえている。
小萩が差し出した白湯を飲むと、ふぅと息を付き
「今日、もう一度、あの場所に行って見たら、朽ちかけた邸だったよ」
「・・・・」
「陰陽寮生に見てもらったところ、男に裏切られ無念のまま死んで行った成仏できない女の怨霊がいるとのことだった」
「・・・・」
「祈祷し、弔ってもらった」
「成仏できたの?」
「多分ね。大丈夫だろうと、その寮生は言っていた。ただ、念のため結界を張っておくとも言っていた。交わってはいけない者同士が交わるのは、どちらにとっても不幸なことだからね」
「・・・うん」
そうよね。
成仏できない程の無念を抱えていたなんて気の毒だけど、だけど、あたしたちが踏み込んでもどうにも出来ない領域だもの。
だったら、せめてそっとしておいてあげたい。
───どうか、闇から抜け出して。浄土に行って・・・
目を閉じ、静かに冥福を祈る。
しばらく沈黙が続き、あたしはふと、気になっていたことを思い出した。
「ねぇ、高彬。昨日のあれって何だったの?」
「あれって?」
「ほら、何とかって言いながら、こうやって手を動かしてたじゃない」
「あぁ、あれか。あれは九字を切っていたんだよ」
「九字・・・?」
「そう、魔除けとか調伏法として有効なんだ。護身法として使われることもある」
「ふぅん、高彬、そんなことまで出来るんだ・・」
高彬は苦笑いを浮かべると
「いや、ぼくのは真似事だよ。本来ならきちんと修行を積んだ修験者や陰陽師がやることなんだ。武官であるぼくたちは、今上のお側にいることが多いだろう。だから緊急時のため、一応、心得として教えられているんだよ。いつもいつも陰陽師がいるわけじゃないからね」
「そうなの・・。でも、真似事って言ったってすごいわ。それで妖が鎮まったんだもの」
そう言うと高彬は、おやおやと言うように眉をあげた。
「瑠璃さん、気が付いてないんだね」
「え、何が」
「妖を鎮めたのはぼくじゃない、瑠璃さんが投げた桔梗だよ」
「桔梗?」
「そう。瑠璃さんは安倍晴明どのの名前は聞いたことがあるかい?」
「あるわよ、優れた陰陽師だったんでしょう?」
「そうだ。じゃあ『清明桔梗』は?」
「晴明桔梗?」
「うん、桔梗の花の形が、魔除けの呪符として知られる五芒星に似ていることから、晴明どのは桔梗紋を用いていたんだ」
「・・・じゃあ、あの桔梗が・・?」
「多分ね、妖を鎮めたんだ」
「・・・・」
ふと、母さまと尼君の顔が浮かぶ。
もしかしたら、あたしたちを護って・・・くれた・・?
母さま、ありがとう───
そう思い掛けて、あたしはそっと頭を振った。
いけない、いけない。あたしは別に母さまに護ってもらいたいわけじゃないもの。
ここでお礼なんか言ったら、きっと母さまは「次も」なんて張り切ってしまって、負担を掛けてしまうことになるわ。
母さまは浄土でのんびりとしていてくれればいいの。
あたしは、雄々しく生きてるから大丈夫よ。
命がけで守ってくれるような頼りになる夫もいるし・・・
「・・・ねぇ、高彬。もう一度、ここで九字を切って見せてよ。すごくかっこ良かったもの」
うっとりと言うと
「何を言ってるんだ、瑠璃さんは。興味本位でやるようなことじゃないんだよ」
ぎょっとしたように高彬は目を見開いた。
「じゃあ、振りだけでもいいから・・・ダメ?」
お願い、と手を合わせると、やれやれと高彬は肩をすくめ、それでも、さらりと所作をこなし、最後に手刀を切る真似までしてくれた。
そうして
「瑠璃さんを閉じ込めておくための結界を張ったよ」
笑いながら言い、あたしを抱き寄せたのだった。
<終>
<おまけの話>
「それでは、明日の朝、お格子を上げに参ります。お夜り遊ばしませ」
手を付き丁寧に口上を述べた小萩はしずしずと下がって行き、部屋には高彬とあたしの二人きりになった。
昨日からの疲れのためか、早や横になるために立ち上がる高彬を横目に捉えながら、ぼんやりと灯台の火を見る。
チロチロと揺れる火は昨夜の妖の赤い目を思い出させるわ・・・
───ふぅ・・
「・・・どうしたのさ、瑠璃さん。ため息なんかついて。横にならないの?」
知らずに漏れたため息を聞き咎めた高彬が、また寝所から戻ってきた。
「何だか、昨日の女房のこと考えちゃって」
「女房って、あの妖のことかい?」
こくりと頷き
「成仏出来ないほどの無念って、一体、何があったのかしら・・・」
呟くと、高彬はふと腕を組み
「そうだなぁ。男なんて身勝手だから、ふいに訪れが途絶えたとか、約束を反故にしたとか・・・まぁ、いくらでも思い付くけどね」
思いがけずにすらすらと答えるので、返事するのも忘れて、ついじっと見てしまった。
「な、なんだよ、瑠璃さん」
あたしの視線に驚いたのか高彬はぎょっとしたように目を開き、そうしてあたしの視線を何と受け止めたのか
「ぼ、ぼくは訪れを途絶えさせたり、約束を反故になんかしないよ」
慌てて弁明なんかしている。
やぁねぇ、そんなこと思っちゃないわよ、男女の機微に疎いあんたが思いがけずにスラスラ言うもんだから、ちょっとびっくりしただけよ・・・・
そう言い掛けた途端、ふいにイタズラ心が湧いてきた。
ふふふ。いい機会だから、ちょっと釘でも刺しておこうかしら。
「もし、あたしが祟ったら、・・・・・怖いわよぉ」
目を細め、間合いたっぷりに恨めし気な声を出してやると、案の定、高彬は震え上がった。
「い、いや、だからさ、瑠璃さん。ぼくは絶対に・・・・」
必死に話しだし、かと思ったら、ふいに黙り込み
(ふむ)
なんて感じで手を顎に当て考えこんでいる。
そうして
「瑠璃さんに祟られるって言うのは悪くないかも知れないな。・・・それくらい、ぼくを思ってくれてるってことだろ?」
ね?なんて言いながら、あたしの顔を覗き込んできた。
「な・・・」
何、言ってるのよ・・・
思いがけない高彬の切り返しに、知らずに顔が赤らんでしまう。
「え、えぇと、どうやるんだっけ?九字って」
話を逸らすため、適当に両手を動かすと
「違うよ、こうだよ」
向かいから高彬が両手を取って来た。
「こう?」
「違う、違う。こうやって、こう」
「こうやって、・・・こう?」
「ううん。こうやって、今度はこうやって、こう。判る?」
「・・うーん、高彬が簡単そうにやるから、あたしにも出来るかと思ったんだけど」
案外、難しいのねぇ・・・
そう呟くと、高彬は声を上げずに喉の奥で笑ったようだった。
「瑠璃さんは九字なんか覚える必要はないよ」
あたしの両手を取ったまま言い
「ぼくはもう十分に瑠璃さんの結界に閉じ込められている」
「閉じ込めてなんかいないわ」
何となく不満で言い返すと
「大丈夫、ぼくが好きで結界に入っていったんだから」
高彬は笑い
「さぁ、寝よう」
あたしの手を引き几帳を回り込むと、二人してするりと夜具に滑り込んだのだった。
<おしまい>
瑞月です。
いつもご訪問いただきありがとうございます。
ブログ上部の固定記事「ごあいさつ」を加筆修正しました。
修正したところは冒頭の
「気が付けばジャパネスクと出会ってから20年以上もたっていました」
のところです。
「20年以上も」を、「30年近く」に変えました。
もうこの記事を書いてから5年もたってしまったので、そろそろ「20年以上も」では済まない年になってきました(^-^;
加筆したところは「コメント」についてです。
お時間のある時にでもご一読頂ければと思います。
(←お礼画像&SS付きです)
注)このお話は一話完結です。
『らぶらぶ万歳サークル』さまに出品した作品の再録です。
今回のお題は「桔梗」でした。
<おまけの話>下にあります。
***短編*** 桔梗花奇譚 ***
ぎしぎしと言う音を立てながら夜道を進む牛車の中、高彬はさっきから黙って前を向いたまま微動だにしない。
「・・・すっかり遅くなっちゃったわね」
横顔に向かいそっと言ってみると、じろりと睨まれてしまった。
「そろそろご辞退しようと言っているのに、瑠璃さんがもうちょっと、もうちょっとと言うから」
怒ったような声で言う。
「だって、桂の尼君が色々と話してくるんだもの。それを遮って席を立つことなんて出来ないわよ」
「うん、それはまぁ・・・」
高彬は幾分、口調を和らげたものの、それでも
「この時刻で桂川付近だとすると、三条邸に着くのは子の刻を回ってしまうかも知れないな・・」
と気難し気に独り言ちている。
あたしの護衛を兼ねている身として、帰路がこんな遅い時間になってしまったことに責任を感じているらしい。
実は今は、太秦にある青蓮花寺からの帰り道なのだ。
青蓮花寺と言うのは桂川のほとり、太秦にあるうちに縁の尼寺で、そこの庵主である桂の尼君は、あたしの亡くなった母さまの乳兄弟なんである。
それであたしを実の娘のように可愛がってくれていて、あたしも年に数回は顔を見せに行ったりしているのだけど、三日前に桂の尼君が病で臥せっているとの連絡が入った。
ここんとこ会いに行ってなかったし、お見舞いに行く旨を伝えたら、ぜひ婿君、つまりは高彬も一緒に来てもらえないか、との返事があったのだ。
尼寺だから、もちろん男の人が入ることは出来ないのだけど、そこは表向きの話のようで、裏からこっそり・・・と言う手があるのだそうである。
まぁ、そこら辺は庵主次第ということなのかも知れない。
それを伝えた時、高彬は最初、尼寺と言う事で躊躇を見せたものの、それでも「お見舞いと言う事なら」と同行することになった。
行って見たら思いの他、尼君はお元気で、それはそれで良かったのだけど、今度はなかなかあたしを解放してくれなかったのだ。
話好きの明るい人だから、あたしもついつい盛り上がってしまったんだけど・・・
まぁ、お元気そうで良かったわ。
尼君には母さまの分まで長生きしてもらわないとねぇ・・・
ちょっとだけしんみりし、ふと思い出して、横に置いてある桔梗の花を手に取った。
青蓮花寺の庭に咲いていた桔梗の花で、帰り際に尼君が手折ってくれたのだ。
何本かを束ねて麻紐で括ってある。
桔梗は母さまの好きな花だから、尼君は庭に植えてくれていたのではないかしら・・・?
またしてもしんみりしかけた時、高彬が物見窓を開けようとしていることに気付いて
「開けないで!」
と慌てて止めてしまった。
何ていうか・・・その・・・何でだか怖いのよ。
あたしは自分が物の怪憑きと言われていたせいか、普段、物の怪なんか怖いと思ったことはないし、よっぽど生きてる人間の悪意の方がタチが悪いし怖ろしいと思っている。
だけど、今日は、と言うか今夜は、<そういう感じ>で怖い。
一言で言うと<出そう>って言うかさ。
現代では怨霊や祟りが本気で信じられてるし、実際、百鬼夜行に出くわして命からがら助かった、なんて人の話も聞く。
思えば、青蓮花寺を出て、牛車に乗り込む辺りからその気配はあった。
月もなく、秋にしては生ぬるい纏わりつくような風が吹いている。
これでどこからか犬の遠吠えでも聞こえてこようものなら・・・
──── ウォォォン・・・
「きゃっ」
思わず高彬にしがみつき、その瞬間、あたしはピンときてしまった。
もしかしたら高彬も常ならぬものを感じているのかも知れないなって。
何故なら、あたしがしがみついた時、高彬の手がさっと動いて、脇に置いてあった太刀を掴んだのだ。
付き従う従者らは、主人の有事に備えて日頃から帯刀しているものだけど、でも高彬は通常は太刀なんか携帯しない。
今日は少し遠出するし、ある程度は遅くなることも予測して高彬は太刀を持ってきていたのだ。
今までにも外出時に高彬が太刀を持ってきたことはあるし、だから別にそれ自体は珍しいことではないのだけど、でも、実際、今みたいに高彬が太刀に手を掛けたと言うのは初めてのことだった。
高彬がさっきから無口で気難しかったのは、ひょっとしたら何かしらの警戒心があったからなのかも知れない。
高彬が警戒しているものが、賊や人さらいの類なのか、それとも物の怪の類なのかは判らないけど・・・
でも、それを口に出して確認するのも怖いと言う感じ。
──ふいに牛車が止まった。
「な、何よ・・」
またしても高彬にしがみつくと
「若君」
外から、きびきびとした若い男のものと思われる声が聞こえた。
「どうした、政文」
物見窓に向かい高彬が声を掛け
「それが、実は・・・道に迷ってしまったようでして・・・」
政文と呼ばれた従者は、歯切れ悪く答えている。
「迷った?太秦からなら、そう難しくない道だろう」
「そうなのですが・・・その・・・」
「何だ、言ってみろ」
高彬は警戒心からなのか、少し不機嫌そうな声で聞き
「実は・・・、どうもさっきから同じところばかりをグルグルと回っているようなのでございます」
従者は、薄気味悪そうなどこか怯えたような声で言った・・・・
********
「同じところを回っているって?そんな馬鹿なことが・・・」
最後の方は呟くように言い、そうして口をつぐむと何事かを考えこんでいる。
「判った。どこかで道を尋ねよう。灯りの点いている邸があったら教えてくれ」
「それが、若君。さっきから私もそう思い探しているのですが、どの邸も寝静まっているのか、灯りの点いている邸はございません。右京はもともと廃屋も多いですし・・・、あっ!」
ふいに従者が大きな声を上げたので
「どうした」
さすがの高彬も腰を浮かしかけ、あたしはひしと縋り付いてしまった。
「若君、灯りの点る邸がありました」
「・・・それしきのことで大声を出す奴があるか、馬鹿者」
従者を叱りながらも、ホッとしてるのがありありと判る様子で高彬が息をつく。
「おかしいな、さっきまではなかったのに・・・」
「車を寄せてくれ」
従者が呟くのを無視して高彬は指示を出し、車は少し動くとすぐに止まった。
「瑠璃さんはここで待っていて。従者もいるから大丈夫だ。すぐに戻るから」
「あたしも行くわ!」
車を降りようとする高彬の後に続く。
いくら従者がいるとは言え、こんなところで待たされちゃ堪らないわ。
高彬はちらりと振り返り、何かを言い掛けたけど、でも結局は何も言わなかった。
お邸はびっくりするほど立派で、月もない真っ暗闇の夜に、この邸だけがどの部屋からも煌々とした明かりがもれているのがかえって異様な感じがする。
「どなたかの別邸だろうか・・・」
高彬が呟き、門を叩くと、それだけでギギギィ・・・と音を立てながら門が開いたので、あたしは高彬の袖を掴んでしまった。
何?今の・・・
門の中では誘うように柳の木が揺れている。
「瑠璃さんは待ってる?」
小声で聞かれ
「・・・・行くわ」
ごくりと唾を飲み込んで答える。
一人になる方が怖いもの。
ふと、気が付くと、あたしはさっきの桔梗の花を握っていて、どうやら車からそのまま持って来てしまったみたいで、だけどわざわざ車に戻るのもイヤだったので、取りあえずそこのまま持って行くことにした。
萎れなきゃいいけど・・・。
ちらりとそんな考えがよぎったけど、高彬が門をくぐったので、慌てて後に付いて行く。
広い庭を横切り邸宅へと向かい歩いていくと、ふいに───
本当にふいにと言う感じで人が現れた。
女房装束に身を包んだ若そうな女性が顔を伏せ、じっと佇んでいる。
さっきまではいなかったのに、一体、どこから来たと言うの・・?
門の開く音で様子を見に来たと言われればそれまでだけど、だけど、普通、これだけのお邸でいきなり女房が出迎えるに来るはずがないし、第一、何も言わずに立っているのがおかしい。
それに、この女房、何かが・・・・変、よ。
じっと見ていたあたしは
(あ)
と声を上げそうになった。
庭の木々も灯籠も、部屋から洩れる灯りを受けて長い影が出来ていると言うのに、女房には影が・・ない!
高彬も気付いたのか、あたしの手を握ると、じりっと後ずさった。
その音に反応したように、女房はゆっくり、ゆっくり、と顔を上げ、あたしは今度こそ
「あっ」
と声を上げてしまった。
女房の目は赤く、しかも赤いだけではなく、それが炎のようにチロチロと揺らめいていて、この世のものじゃないことは明らかだった。
赤い目を揺らめかせながら、妖(あやかし)はゆらりゆらりとあたしと高彬に近づいてくる。
「・・・瑠璃さん、一人で走れる?」
前を向いたまま高彬が聞いてきたけれど、あたしは恐怖のあまり返事をすることすら出来なかった。
高彬は動けなくなっているあたしの手を引きながら、じりじりと後ろに下がって行く。
妖は突然、カクンと頭を下げたかと思うとゆっくりと顔を上げ、見る見る口が裂けて行き、やがて裂け目は耳元まで広がった。
気付けば頭にはメリメリと音を立てながら角のようなものまで生えてきており、あたしは声にならない叫び声を上げてしまった。
妖は、まるで「おいで、おいで」と手招きでもするように手を揺らしながら、一歩一歩あたしたちに近づいてくる。
風もないのに、妖の髪は揺れ始め、やがて髪自体が意思を持っているかのようにうねるように逆立ち始めた。
「抜刀する。瑠璃さん、下がって」
低くするどい声で高彬は言い、あたしを自分の背中の後ろに追いやると、すかさず刀に手を掛ける。
妖を迎え討つつもりのようだった。
高彬はぴたりと下がるのをやめると、ひとつ大きく息を整え、抜き身の刀を構えた。
妖との距離はどんどん縮まって行く。
手を伸ばせば触れそうなところまで妖が近づいたところで、妖が両手を伸ばし、あっと思った時には、ビュンと言う音がして高彬が刀を振りおろしていた。
高彬の一刀は受けた妖をいったん霧のように薄くなり、このまま消えて行くかと思ったのに、でもすぐに元に戻っていた。
そうして猛り狂ったように全身を震わせ始めると、目の炎がやがて顔に髪にと広がって行き、あっと言う間に炎の塊となって高彬に襲い掛かろうとしてくる。
このままだと高彬が妖に焼かれてしまう!
高彬──!!
とっさに手にしていた桔梗の花を、妖目掛けて投げつけると、炎は急に小さくなり、妖は苦し気にのたうち回り始めている。
ふいに高彬があたしの前に立ちはだかった。
刀を地面にぶすりと突き刺し
「臨、兵、闘、者、皆、陳、烈、在、前!」
と唱えながら、手を複雑に組み合わせ、最後に手刀を切るみたいな動作をした。
唸り声を上げながら苦しがっていた妖は、ついには動かなくなり
「何・・・、どうして・・・、何が起こったの・・・」
「説明は後だ。早く行こう」
状況が全く判らずにぼう然と立ち尽くすあたしの手を引っ張ると、高彬は足早にその場を立ち去った。
門の外で従者らは全員眠り込んでおり、高彬はまずはあたしを車に押し込み
「政文、将人、起きろ!車を出せ」
全員を叩き起こす。
車はすぐに動き出し、車中、高彬はずっとあたしの肩を強く抱いていた。
真の闇に包まれた大路、カラカラと車輪の回る音だけが聞こえてくる。
**********
翌日、高彬が三条邸にやってきたのは、戌の刻を回った頃だった。
さすがに疲れがたまっているのか、あたしの前に腰を下ろすと目頭を押さえている。
小萩が差し出した白湯を飲むと、ふぅと息を付き
「今日、もう一度、あの場所に行って見たら、朽ちかけた邸だったよ」
「・・・・」
「陰陽寮生に見てもらったところ、男に裏切られ無念のまま死んで行った成仏できない女の怨霊がいるとのことだった」
「・・・・」
「祈祷し、弔ってもらった」
「成仏できたの?」
「多分ね。大丈夫だろうと、その寮生は言っていた。ただ、念のため結界を張っておくとも言っていた。交わってはいけない者同士が交わるのは、どちらにとっても不幸なことだからね」
「・・・うん」
そうよね。
成仏できない程の無念を抱えていたなんて気の毒だけど、だけど、あたしたちが踏み込んでもどうにも出来ない領域だもの。
だったら、せめてそっとしておいてあげたい。
───どうか、闇から抜け出して。浄土に行って・・・
目を閉じ、静かに冥福を祈る。
しばらく沈黙が続き、あたしはふと、気になっていたことを思い出した。
「ねぇ、高彬。昨日のあれって何だったの?」
「あれって?」
「ほら、何とかって言いながら、こうやって手を動かしてたじゃない」
「あぁ、あれか。あれは九字を切っていたんだよ」
「九字・・・?」
「そう、魔除けとか調伏法として有効なんだ。護身法として使われることもある」
「ふぅん、高彬、そんなことまで出来るんだ・・」
高彬は苦笑いを浮かべると
「いや、ぼくのは真似事だよ。本来ならきちんと修行を積んだ修験者や陰陽師がやることなんだ。武官であるぼくたちは、今上のお側にいることが多いだろう。だから緊急時のため、一応、心得として教えられているんだよ。いつもいつも陰陽師がいるわけじゃないからね」
「そうなの・・。でも、真似事って言ったってすごいわ。それで妖が鎮まったんだもの」
そう言うと高彬は、おやおやと言うように眉をあげた。
「瑠璃さん、気が付いてないんだね」
「え、何が」
「妖を鎮めたのはぼくじゃない、瑠璃さんが投げた桔梗だよ」
「桔梗?」
「そう。瑠璃さんは安倍晴明どのの名前は聞いたことがあるかい?」
「あるわよ、優れた陰陽師だったんでしょう?」
「そうだ。じゃあ『清明桔梗』は?」
「晴明桔梗?」
「うん、桔梗の花の形が、魔除けの呪符として知られる五芒星に似ていることから、晴明どのは桔梗紋を用いていたんだ」
「・・・じゃあ、あの桔梗が・・?」
「多分ね、妖を鎮めたんだ」
「・・・・」
ふと、母さまと尼君の顔が浮かぶ。
もしかしたら、あたしたちを護って・・・くれた・・?
母さま、ありがとう───
そう思い掛けて、あたしはそっと頭を振った。
いけない、いけない。あたしは別に母さまに護ってもらいたいわけじゃないもの。
ここでお礼なんか言ったら、きっと母さまは「次も」なんて張り切ってしまって、負担を掛けてしまうことになるわ。
母さまは浄土でのんびりとしていてくれればいいの。
あたしは、雄々しく生きてるから大丈夫よ。
命がけで守ってくれるような頼りになる夫もいるし・・・
「・・・ねぇ、高彬。もう一度、ここで九字を切って見せてよ。すごくかっこ良かったもの」
うっとりと言うと
「何を言ってるんだ、瑠璃さんは。興味本位でやるようなことじゃないんだよ」
ぎょっとしたように高彬は目を見開いた。
「じゃあ、振りだけでもいいから・・・ダメ?」
お願い、と手を合わせると、やれやれと高彬は肩をすくめ、それでも、さらりと所作をこなし、最後に手刀を切る真似までしてくれた。
そうして
「瑠璃さんを閉じ込めておくための結界を張ったよ」
笑いながら言い、あたしを抱き寄せたのだった。
<終>
<おまけの話>
「それでは、明日の朝、お格子を上げに参ります。お夜り遊ばしませ」
手を付き丁寧に口上を述べた小萩はしずしずと下がって行き、部屋には高彬とあたしの二人きりになった。
昨日からの疲れのためか、早や横になるために立ち上がる高彬を横目に捉えながら、ぼんやりと灯台の火を見る。
チロチロと揺れる火は昨夜の妖の赤い目を思い出させるわ・・・
───ふぅ・・
「・・・どうしたのさ、瑠璃さん。ため息なんかついて。横にならないの?」
知らずに漏れたため息を聞き咎めた高彬が、また寝所から戻ってきた。
「何だか、昨日の女房のこと考えちゃって」
「女房って、あの妖のことかい?」
こくりと頷き
「成仏出来ないほどの無念って、一体、何があったのかしら・・・」
呟くと、高彬はふと腕を組み
「そうだなぁ。男なんて身勝手だから、ふいに訪れが途絶えたとか、約束を反故にしたとか・・・まぁ、いくらでも思い付くけどね」
思いがけずにすらすらと答えるので、返事するのも忘れて、ついじっと見てしまった。
「な、なんだよ、瑠璃さん」
あたしの視線に驚いたのか高彬はぎょっとしたように目を開き、そうしてあたしの視線を何と受け止めたのか
「ぼ、ぼくは訪れを途絶えさせたり、約束を反故になんかしないよ」
慌てて弁明なんかしている。
やぁねぇ、そんなこと思っちゃないわよ、男女の機微に疎いあんたが思いがけずにスラスラ言うもんだから、ちょっとびっくりしただけよ・・・・
そう言い掛けた途端、ふいにイタズラ心が湧いてきた。
ふふふ。いい機会だから、ちょっと釘でも刺しておこうかしら。
「もし、あたしが祟ったら、・・・・・怖いわよぉ」
目を細め、間合いたっぷりに恨めし気な声を出してやると、案の定、高彬は震え上がった。
「い、いや、だからさ、瑠璃さん。ぼくは絶対に・・・・」
必死に話しだし、かと思ったら、ふいに黙り込み
(ふむ)
なんて感じで手を顎に当て考えこんでいる。
そうして
「瑠璃さんに祟られるって言うのは悪くないかも知れないな。・・・それくらい、ぼくを思ってくれてるってことだろ?」
ね?なんて言いながら、あたしの顔を覗き込んできた。
「な・・・」
何、言ってるのよ・・・
思いがけない高彬の切り返しに、知らずに顔が赤らんでしまう。
「え、えぇと、どうやるんだっけ?九字って」
話を逸らすため、適当に両手を動かすと
「違うよ、こうだよ」
向かいから高彬が両手を取って来た。
「こう?」
「違う、違う。こうやって、こう」
「こうやって、・・・こう?」
「ううん。こうやって、今度はこうやって、こう。判る?」
「・・うーん、高彬が簡単そうにやるから、あたしにも出来るかと思ったんだけど」
案外、難しいのねぇ・・・
そう呟くと、高彬は声を上げずに喉の奥で笑ったようだった。
「瑠璃さんは九字なんか覚える必要はないよ」
あたしの両手を取ったまま言い
「ぼくはもう十分に瑠璃さんの結界に閉じ込められている」
「閉じ込めてなんかいないわ」
何となく不満で言い返すと
「大丈夫、ぼくが好きで結界に入っていったんだから」
高彬は笑い
「さぁ、寝よう」
あたしの手を引き几帳を回り込むと、二人してするりと夜具に滑り込んだのだった。
<おしまい>
瑞月です。
いつもご訪問いただきありがとうございます。
ブログ上部の固定記事「ごあいさつ」を加筆修正しました。
修正したところは冒頭の
「気が付けばジャパネスクと出会ってから20年以上もたっていました」
のところです。
「20年以上も」を、「30年近く」に変えました。
もうこの記事を書いてから5年もたってしまったので、そろそろ「20年以上も」では済まない年になってきました(^-^;
加筆したところは「コメント」についてです。
お時間のある時にでもご一読頂ければと思います。
(←お礼画像&SS付きです)
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非公開さま(Rさま)
Rさん、こんばんは。
九字を切る高彬に鼻血を出していただき(笑)ありがとうございます(*^-^*)
私も実は書きながら、鼻血を出していました。
絶対かっこいいに決まってますよね!
Rさんもジャパネスクと出会って30年ですか。と言う事はおそらくは同年代ですね。
(まさか5歳で出会ったとかじゃないですよね?!)
最近、急に寒くなってきましたのでRさんも気を付けてくださいね。
お気遣いもありがとうございます(^^)/
九字を切る高彬に鼻血を出していただき(笑)ありがとうございます(*^-^*)
私も実は書きながら、鼻血を出していました。
絶対かっこいいに決まってますよね!
Rさんもジャパネスクと出会って30年ですか。と言う事はおそらくは同年代ですね。
(まさか5歳で出会ったとかじゃないですよね?!)
最近、急に寒くなってきましたのでRさんも気を付けてくださいね。
お気遣いもありがとうございます(^^)/
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ぺんぺんさま
ぺんぺんさん、こんばんは。
> 瑞月さんのコメント、めっちゃ嬉しかったです。
私もぺんぺんさんのコメント、嬉しかったんですよ(*^^)v
> 東京は雪降ったんですよね。寒そう。
昨日、降りました。今日は晴天ですけど、ものすごく寒いです。いきなり真冬です。
> 私は冬が大の苦手で、どっちかといえば真夏のほうが断然好きです。
私もそうです。
> 周囲には変わってると言われますが。。。
えー?皆さん、冬の方が好きってことですかね??
私は冬か夏を選べと言われたら、夏ですよ。
(本音を言えば、春と秋がいいですが(^-^;)
> そんなわけで、瑠璃さんと高彬のラブぽかキャンペーン、楽しみに待ってますね(^o^)
はい。あったまる話を書きたいです(^^)/読んでくださいね~。
> 瑞月さんのコメント、めっちゃ嬉しかったです。
私もぺんぺんさんのコメント、嬉しかったんですよ(*^^)v
> 東京は雪降ったんですよね。寒そう。
昨日、降りました。今日は晴天ですけど、ものすごく寒いです。いきなり真冬です。
> 私は冬が大の苦手で、どっちかといえば真夏のほうが断然好きです。
私もそうです。
> 周囲には変わってると言われますが。。。
えー?皆さん、冬の方が好きってことですかね??
私は冬か夏を選べと言われたら、夏ですよ。
(本音を言えば、春と秋がいいですが(^-^;)
> そんなわけで、瑠璃さんと高彬のラブぽかキャンペーン、楽しみに待ってますね(^o^)
はい。あったまる話を書きたいです(^^)/読んでくださいね~。
うれしいっ(*^^*)
瑞月さんのコメント、めっちゃ嬉しかったです。
久しぶりのコメントだったにも関わらず、しかも思い出してくださっていたなんて。。。感激です(ToT)
東京は雪降ったんですよね。寒そう。
私は冬が大の苦手で、どっちかといえば真夏のほうが断然好きです。
周囲には変わってると言われますが。。。
そんなわけで、瑠璃さんと高彬のラブぽかキャンペーン、楽しみに待ってますね(^o^)
久しぶりのコメントだったにも関わらず、しかも思い出してくださっていたなんて。。。感激です(ToT)
東京は雪降ったんですよね。寒そう。
私は冬が大の苦手で、どっちかといえば真夏のほうが断然好きです。
周囲には変わってると言われますが。。。
そんなわけで、瑠璃さんと高彬のラブぽかキャンペーン、楽しみに待ってますね(^o^)
ぺんぺんさま
ぺんぺんさん、こんにちは。
お久しぶりです~、お元気でしたか?
実は私、ちょうど今朝、ふとぺんぺんさんのことを思い出していたんですよ。
ほら、前にぺんぺんさん、寒い季節にはどこかにカニを食べに行くと書かれたことがあったでしょう?
朝がすごく寒かったせいなのか、ふとその話を思いだして、ぺんぺんさん元気かなぁ・・と思ってたところだったんです。
そしたら、ぺんぺんさんからのコメントがあってびっくり!
嬉しかったです(*^-^*)
> 高彬の結界に閉じ込められたいです(>_<)
閉じ込められたい人、続出で、「満員御礼」の札がでてしまいそうですね(笑)
> もうずっと外には出なくていいので(笑)
そうですよね~(笑)
お久しぶりです~、お元気でしたか?
実は私、ちょうど今朝、ふとぺんぺんさんのことを思い出していたんですよ。
ほら、前にぺんぺんさん、寒い季節にはどこかにカニを食べに行くと書かれたことがあったでしょう?
朝がすごく寒かったせいなのか、ふとその話を思いだして、ぺんぺんさん元気かなぁ・・と思ってたところだったんです。
そしたら、ぺんぺんさんからのコメントがあってびっくり!
嬉しかったです(*^-^*)
> 高彬の結界に閉じ込められたいです(>_<)
閉じ込められたい人、続出で、「満員御礼」の札がでてしまいそうですね(笑)
> もうずっと外には出なくていいので(笑)
そうですよね~(笑)
非公開さま(Mさま)
Mさん、こんにちは。
高彬の怨霊だったら、私だってwelcomeですよ!
むしろ「成仏しないで、ずっと居て」と懇願します。
高彬と結界に閉じ込められる!いいですねぇ。ワクワクします(笑)
ジャパネスクに出会って40年、50年・・・
一緒にどんどん更新していきましょ~。
高彬の怨霊だったら、私だってwelcomeですよ!
むしろ「成仏しないで、ずっと居て」と懇願します。
高彬と結界に閉じ込められる!いいですねぇ。ワクワクします(笑)
ジャパネスクに出会って40年、50年・・・
一緒にどんどん更新していきましょ~。
No title
おはようございます。お久しぶりです。
高彬の結界に閉じ込められたいです(>_<)
もうずっと外には出なくていいので(笑)
久しぶりに映画の陰陽師を見たくなりました。
安倍晴明が高彬なら、結界に閉じ込められる私は妖怪になっちまいますよね。
あらあら、まぁいっか(^o^)
高彬の結界に閉じ込められたいです(>_<)
もうずっと外には出なくていいので(笑)
久しぶりに映画の陰陽師を見たくなりました。
安倍晴明が高彬なら、結界に閉じ込められる私は妖怪になっちまいますよね。
あらあら、まぁいっか(^o^)
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