<原作オマージュ>7~原作一巻より 

『なんて素敵にジャパネスク〜二次小説』




注)このお話は原作のあるシーンを高彬目線で書いていますのでネタバレとなっています。
原作未読の方はご注意ください。
          
          




***<原作オマージュ>7~原作一巻より***








一日の仕事を終え自邸の門をくぐる。

車から降りたところで、隣に停車してる車にぼくは目を留めた。

右大臣家所有のものでもないし、かと言って普通、客人は専用の車宿りに車を置くものだから、客人のものと言うわけでもなさそうなのだ。

華美なものではないけれど、むしろその分作りはしっかりしている車で、何となくどこかで見たことがあるような・・・

首を捻りながら渡殿を歩き、部屋に入っていくと

「あ、高彬さま。お帰りなさいませ」

大江が待ちかねたように声を掛けてきた。

どこかそわそわしているように見える。

「何かあったのか?」

見慣れない車と大江の様子が結びついて、そう言って見ると大江は大きく頷いた。

「はい、実は先ほど公子姫さまがお戻りになられたのでございます」

「姉上が?」

びっくりして思わず大きな声が出てしまう。

びっくりしつつ、そうか、あの車を見たことがあると思ったのは内裏でか、と合点が行く。

姉上は東宮妃として入内しており、今は梨壺女御と呼ばれている。

あの車は非公式に、つまりはお忍びで出かけるためのもので、姉上は何か事情があってやってきたのだろう。

東宮妃ともなれば、おいそれと実家に戻れるような立場ではないのだけど・・・

「姉上がなんで・・・」

「大尼君さまのお見舞いにいらっしゃったのですわ」

「え」

ぼくはぎょっとして大江を見た。

姉上がお忍びでわざわざ見舞いにくるほど、お祖母さまの容態は悪いのだろうか?

いくら同じ邸に住んでいるとは言えそう頻繁に行き来もしないし、特にぼくは仕事で留守にしてることも多いし、なかなかリアルタイムで情報が入って来ないと言うのが実情だ。

とにかくお祖母さまの部屋に、いや、その前に姉上にお会いして話を聞いた方がいいだろうか・・・と、考えていると、急に母屋の方が騒がしくなった。

たくさんの人が出入りする足音や声高に話す声が聞こえてくる。

そのただならぬ様子にふいに嫌な考えがよぎり、慌てて部屋を飛び出すと、向こうから姉上がやってきた。

後ろには後宮から一緒に下がってきたのか、姉上付きの女房が数名いる。

「姉上!」

「あぁ高彬、良かったわ。戻ってきていたのですね」

「はい、たった今。姉上、何が・・・」

「お祖母さまがお目覚めになられないのです。お呼びかけしても何の反応もなく・・・。今、母上が加持祈祷のための手配を行っているところです」

「・・・・・」

「潔斎に入る前にわたくしは後宮に戻らねばなりません。心惹かれる思いなのですが・・・」

姉上は唇を噛み、母屋の方を見た。



*********



それからの白梅院はひたすら祈りの日々だった。

右大臣家の威信にかけて都中から名だたる僧侶が集められ、昼も夜もなく読経の声が響き渡っている。

「お祖母さまは大丈夫なのでしょうか・・。もしこのまま儚くなってしまわれたら・・・」

物々しい雰囲気が恐ろしいのか、最近は毎晩、ぼくの部屋にやってくる由良が独り言のように呟き、ぼくは小さく息を吐いた。

お祖母さまがどうなるか、こればかりは判らない。

今のぼくに出来ることといったら、まさしく念じることくらいで・・・

───はぁ・・

ぼくは由良に気付かれないようにため息をつく。

お祖母さまの心配はもちろんのこととして、実は瑠璃さんことが気になって仕方ないのだ。

潔斎に入っているから参内はもちろん、文ひとつ書くことも出来ないでいる。

何の説明もなく音信不通になっていること、瑠璃さんはどう思っているだろう・・・

お祖母さまが危篤状態なことは緘口令が引かれていて、瑠璃さんにはおろか、大納言さまの耳にだって入ってはいないだろうし。

片思いを返上して、せっかく瑠璃さんといい雰囲気になれていたところだったのになぁ。

本当に、今にして思えば、もっと早くに話を進めて婚約でも取りつけておけば良かった。

はぁ・・ともう一度、息を吐き出したところで、足音が聞こえてきて、それが部屋の前で止まった。

「失礼いたします。高彬さま。たった今、大尼君さまの意識が戻られ、高彬さまをお呼びでございます」

「お祖母さまが!」

ハッと由良が顔を上げる。

「わかった、すぐに伺う」

由良に目配せをして立ち上がり、女房の後を歩きながらお祖母さまの部屋に入って行くと、四方に几帳が立てられた中にお祖母さまが臥せっていた。

「お祖母さま。高彬です」

枕元に座ると

「おぉ、高彬か」

か細い声が返って来た。

「お祖母さま、ご容態は・・・」

「高彬はいくつになった」

「・・15です」

「もう、身を固めても良い歳じゃ・・・」

「・・・・・」

「わたしももう先は長くない」

「お祖母さま、そんな・・」

「わたしを安心させるためにも早く身を固めておくれ」

「・・・・・」

身を固めたいのは山々なのだけど、でも、お祖母さまが思う相手ではないわけで・・・。

意を決し、膝を進める。

「お祖母さま。ぼくの気持ちを聞いて下さい。ぼくには、その・・・ずっと前から好きな姫がいるのです。だから、二の姫とは・・・結婚出来ません」

きっぱりと言ってはみたものの返事がなく、そっとお祖母さまの顔を覗き込むとスースーと言う寝息がかすかに聞こえるばかりで、どうやら寝入ってしまったようだった。

「・・・・・・」

立ち上がるきっかけもなく、ぼくはしばらくぼんやりと座り込んでいた。



**********



相変わらず読経の声が響き渡っている。

由良がいなくなった自室で、ごろりと行儀悪く寝ころぶ。

お祖母さまは、やはりぼくに二の姫と結婚して欲しそうだったなぁ・・・

身を固めてくれ、なんて、あれは絶対に二の姫のことが念頭にありそうだし・・・

だけど、そもそもぼくが好きなのは瑠璃さんなわけで、結婚なんて誰かのためにするものじゃない。

こう言っちゃなんだけど、病人相手と言うのは分が悪い気がする。

泣き落としじゃないけれど、病床からか細い声で頼まれ続けたら、ぼくだって断り切れないと言うか、いや、もちろん断るけど。

だけど、もし目の前で涙ながらに頼まれでもしたら・・・・

きっと母上だって黙ってはいないだろう。

「何も妻は一人と決まったわけじゃない」

とか何とか言いだして、大尼君の為、とか言う大義名分の元、さっさと兵部卿宮家と話を進めてしまいそうな気もする。

───冗談じゃないぞ。

上体を起こし、腕組みをした。

自分の想像とはいえ、いかにもありそうなことで落ち着かなくなる。

一体、どうしたら・・・・と考えて、浮かんだのは瑠璃さんのお父上、大納言さまの顔だった。

思えばこの結婚を誰よりも祝ってくれているのは、大納言さまなのだ。

もしかしたら、当の瑠璃さんより乗り気かも知れない。

明日、大納言さまにご相談に伺おう。

そう思い定めると少しだけ気が楽になり、ぼくはまたしてもごろんと横になった。







<原作オマージュ8へ続く>



瑞月です。

いつもご訪問いただきありがとうございます。

3連休中に上野にある「東京国立博物館」(トーハク)に行ったのですが、展示物を見て回るうち、思わず

「あ、高彬・・・」

と呟いてしまいました。

何故なら、そこには「愛染明王像」があったのです。

どうやら特別展示品だったらしく、それを知らずに行っていたので、本当にふいに現れた・・・と言う感じで心の準備が出来ておらず(?)ドキっとしてしまいました。

ふいに片思いの人を街で見かけた感じとでもいうのでしょうか。

本物の展示品は写真撮影禁止だったので、案内版ですが。


IMG_20160920_083347 (3)

「重要文化財 愛染明王(高彬)坐像」←と、私の脳内では見えています。

館内では他にも平安時代に能書として知られていた藤原行成(ふじわらのこうぜい)の直筆の書も特別に展示されていて、千年も前の書を今も見れることの感動は感動として

(ふーん、鷹男って字が上手いらしいから、こんな字で瑠璃に歌を贈ってたのかな?高彬はヨタヨタ文字だもんなぁ。がんばれ、高彬)

なんて思っていました。

「愛染明王像」も「書」も、長く立ち止まってく見入っていたので、きっと回りからはかなり文化遺産について熱心な人間なのかと思われたかも知れませんが、すみません、ただミーハーなだけなんです・・・。

そして、拍手お礼限定のSS「教師編」の1~3話を読みたいとリクエスト下さったyさま。

コメント返信では今回のお礼ページに3話を載せると書きましたが、今、見てみたら「2話」が見当たりません。

どこかに紛れているのか、間違えて削除してしまったのか(><)

とりあえず、教師編の1話、3話と、代わりと言っては何ですが「弁護士編」を載せておきます。

「2話」はプールが舞台の話でした。男子児童が瑠璃先生の水着を見て、高彬先生が注意する・・・みたいな感じのだったと思います。(ウロ覚え)

もう少し探してみますし、もしなかったら思い出しながら「新2話」を書きますね。すみません。

もしどなたか「教師編2話」の内容を覚えている方がいらっしゃいましたら、どんな話だったか教えていただけると助かります。(大ボケなお願いでお恥ずかしい限りです・・・)


(←お礼画像&SS付きです)

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Secre

非公開さま(Uさま)

Uさん、こんにちは。

いただいたコメントはUさんだったのですね。
ありがとうございます(#^^#)

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非公開さま

(お名前がなかったので「非公開さま」で書かせていただきました)

はい、これは原作一巻の高彬サイドのお話なんです。
右大臣家でも色々あって、瑠璃とのことで板挟みの高彬・・・です。

愛染明王には本当にびっくりしたし、私も運命を感じました!(笑)
非公開さまも、身体に気を付けてお過ごしくださいね。
コメントありがとうございました。

非公開さま(Mさま)

Mさん、こんにちは。

進退窮まる高彬・・・。
ホント、私たちの知らない辺りから高彬って苦労してるんですよね~。
思えば、原作一巻以前から、高彬は(どうせ瑠璃さんは忘れてるんだろうな)と思って「失恋気分」を味わっていたわけですし。
でも、今ふと思ったんですけど、瑠璃パパに相談に行ったのが、果たして最善の策だったかどうかと言う問題もありますよね(笑)
瑠璃パパは「強行突破」の人ですし(笑)
どっちみちヒステリー起こされるんだったら、瑠璃に正直に言ってしまうと言うのが良かったのでは?!
うーん、でも、その辺りの相談が出来ないのが、少年の微妙な「オトコ心」なんですかねぇ・・(しみじみ)

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