***短編*** 寝ても覚めても ***

『なんて素敵にジャパネスク〜二次小説』






注)このお話は一話完結です。
               
        






***短編*** 寝ても覚めても ***







ふと目が覚め、まだ覚醒しきっていない頭で半ば無意識に隣に手を伸ばしたぼくは、そこに瑠璃さんの姿がないことに気が付いて、ハッと目を開けた。

「瑠璃さん?」

夜具の上で身体を起こして呼んでみても返事がない。

几帳越しにも外の陽射しの強さが判るほどで、どうやらすっかり寝過ごしてしまったらしい。

衣桁に掛けてあった単衣を肩に羽織り几帳を回り込むと、瑠璃さんは半分下ろした御簾の前に座り庭を眺めていた。

庭で動く何人かの人影が見え、良く見ると庭師や下人たちが桶に入った水を盛大に撒いているようだった。

最近の日照り続きでカラカラの庭の草木に水遣りをしているのだろう。

水の跳ね上がる音や威勢の良い掛け声が夏の空に響く渡っている。

その音のせいで、瑠璃さんにはぼくの声が聞こえなかったらしい。

「あ、・・・高彬。起きたのね」

ようやくぼくの気配に気付いて振り返った瑠璃さんはびっくりしたように言い、ぼくは頷きながら黙って御簾を全部下ろした。

半分下ろしていたからまだ良かったようなものの、でも、もし顔でも見られたりしたら・・・

メッと無言で睨んでやると

「あの庭師たちは昔から三条邸に出入りしてるし、あたしの顔なんてもう見飽きたんじゃないかしら」

「・・・・」

恐ろしいことをさらりと言う。

庭師に顔を見飽きられている姫なんて、古今東西、聞いたことがない。

ちょっとオープン過ぎるだろう。

顔をしかめて見せると、瑠璃さんは小さく肩をすくめた。

気は進まないけど、少しお説教でも・・・と口を開きかけると、ふと思い出したように瑠璃さんがくすくすと笑いだした。

「そういえば高彬、今朝方、寝言言ってたわよ」

「寝言?」

寝言と言われてギクリとしてしまう。

「なんて」

「その書類は、とか、定考は、とか。仕事のことばっかり」

「・・・・」

「ほんと、あんたって寝ても覚めても仕事のことばかり考えてるのねぇ」

感心半分、呆れ半分と言った感じで瑠璃さんが言い、ぼくは広げた扇の影で気付かれないように息を詰めた。

───寝ても覚めても。

またしても、ぎくり、と言う感じだ。

ついこの間も、この言葉で同僚にイヤと言うくらいからかわれたばかりなのだ。

話は一昨日にさかのぼる。




*******




その日、宿直だったぼくは明け方になり仮眠を取った。

その日はたまたま仮眠所が満員だったため、右近衛府の空いている小部屋で横になっていたのだけど、誰かの笑い声で目を覚ました。

寝たと言っても一刻くらいのこと、まだぼんやりする頭で辺りを見回してみると、同僚の源重行を中心とした数名が車座になってぼくの方を見ながら笑っている。

起き出して行くと

「やぁ、高彬。おまえ、随分と良い夢を見ていたようだな」

笑いを噛み殺したような声で重行がぼくの肩を叩きながら言い、他の連中もにやにやとぼくの顔を見ている。

夢?

夢なんか別に───

と言い掛けて、ふと脳裏をよぎるものがあった。

そう言えば、何となく瑠璃さんが出てきたような気がする。

ここんとこ宿直が続いて会えてなかったから、眠りに落ちる直前、瑠璃さんのことを考えていたのは確かだから───

だけど、よしんば瑠璃さんの夢を見たとしてもそれが何か・・・

「寝言でもあんなこと口走るなんて、おまえ重症だぞ」

誰かが言い、回りがどっと沸く。

「寝ても覚めても、とはこのことだ。宮廷きっての花形公達、武官の誉れ高い藤原高彬がここまで北の方に骨抜きだとはなぁ。内裏の女官たちが聞いたらさぞ嘆くだろうよ」

「オレはまだまだ独身を謳歌しようと思ってたんだけど、この堅物がこうまで変わるとなると、俄然結婚したくなるな」

「よせよせ、こいつは特別だ。結婚なんて人生の墓場だ。何かと面倒なことの方が多い。高彬が馬鹿みたいに妻にぞっこんなだけだ」

皆がてんでに好き勝手言い、そうしてにやにやとぼくを見てくる。

「・・・・」

嫌な汗が湧き出るくる。

一体、ぼくは何を言ったんだろうか・・・

聞きたいような、聞きたくないような。

「聞きたいか?何を口走ったか」

重行に意味ありげに横目で見られて、ぼくはごくりと唾を飲み込んだ。

「い、いや、いいよ」

聞いたら激しく落ち込みそうな、そんな予感がある。

「賢明な判断だ。安心しろ。貸しと言う事でここだけの話にしておいてやるから」

重行は重々しく呟き、ぼくは長いため息をついたのだった───




*******




「高彬がお役目大事な人なのは判ってるけど、でも、仕事から離れてる時くらい少し忘れてみるとか、考えないようにするとか、そう言うのも大切なんじゃないかしら」

「・・・・・・」

「いつも仕事のこと考えてたら、身体が保たないわよ」

ぼくが返事をしないのを何と勘違いしたのか、瑠璃さんは熱心に言い募ってくる。

「う、うん・・」

曖昧に返事をしながら、瑠璃さんは判ってないなぁ、と思う。

ぼくのこと、お役目大事な仕事人間だと思っているのは、ひょっとしたら瑠璃さんだけなんじゃないだろうか。

大体に於いて、ぼくは特別に仕事人間なんかじゃないと自分では思っている。

ぼくが仕事をするのは、そこに仕事があるから───だ。

極めてシンプルな理由だ。

宿直が回ってくれば当然やるし、与えられた任務は責任を持って全うしたい。

だけど、終われば帰りたい。

それが偽らざる気持ちなのだ。

そして結婚してから、その気持ちはさらに強まった。

そりゃあ仕事してるより、瑠璃さんと過ごしてる方が楽しいに決まっている。

同僚との軽口も、仕事の達成感も、もちろんある種の楽しさは十分に感じるけれど、でも、やっぱり瑠璃さんといる時間の方が数段楽しい。

宮廷でぼくが何とからかわれてるか、瑠璃さん知ったら驚くだろうな。

「あんまり仕事ばかりしてると、仕事辞めたら何も残らない人になっちゃうわよ。歌が得意とか、趣味人として生きるとか、そういうタイプじゃないんだから」

「・・・・」

───瑠璃さんが残るじゃないか。

ぼくから仕事を取ったら、瑠璃さんが残るじゃないか。

瑠璃さんが趣味と言うのはダメなのか?

───そう言おうとして、止めた。

そこまで惚れこんでいるのが知られてしまうのは少しシャクだったし───何より、恥ずかしい。

仕事人間と思われてるくらいでちょうどいいのかも知れないな。

「仕事のことばっかり考えてるってわけでもないんだけどね」

適当に返事をすると、瑠璃さんは

「そう?ならいいけど」

さして突っ込むこともなく、その話は終わりとなった。

朝餉を掲げ持った女房らが部屋に入ってくる。

「本日の鮎の塩焼きは骨を抜いておりますので、口当たりよくお召し上がりいただけると思いますわ」

小萩がテキパキと膳を整えながら言い、目が合うと微笑みかけてきた。

「・・・・」

またしてもギクリとする。

骨抜き、か。

寝ても覚めてもとか、骨抜きとか、まるで見透かされたような言葉の数々に何とも落ち着かない気分になってしまう。

思わず首筋を撫でると

「なぁに?寝違えでもしたの?」

さっそく箸を手にした瑠璃さんが言い

「いや、そう言うわけではないんだけどね」

またしても適当にはぐらかすと、瑠璃さんは

「そう?ならいいけど」

そう言ってにっこりと笑い、すっかり骨抜きをされている鮎に手を伸ばしたのだった。






<終>
 

巷で大人気の「ポケモンGO」ですが、高彬がゲットできる「高彬GO」だったら、私も街中を一生懸命歩き回るんですけどね!


(←お礼画像&SS付きです)

コメントの投稿

Secre

非公開さま(Rさま)

Rさん、こんにちは。

高彬は瑠璃中毒。
そうですよね~、おっしゃる通りです。
そして守弥は高彬中毒(笑)
あ、でも私も高彬中毒かも!

重行の口は堅そうですよ~。

maiさま

maiさん、こんにちは。

いいですよね、「高彬GO」。
どこかで開発してくれないですかね~(笑)
危機管理能力の高そうな高彬も、さすがに寝言は無防備なんでしょうね。お気の毒(笑)

非公開さま(Mさま)

Mさん、こんにちは。

きっと重行は口が堅いから(と言うか、高彬の弱みを握っていたいから(笑))口外はしないと思われます。

「高彬GO」、やりたいですよね~。
そしてレアな高彬をゲットしたい!
時々、守弥が現れたりして・・(笑)

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No title

いかんいかん、久しぶりのコメントが「高彬GO!」だけで終わっては。
いいですねえ、この思わせぶりな感じ。
一体高彬はどんな寝言を言ったのでしょうね!

高彬GO!

まったくゲームをしない私ですが、高彬GOだったらはまりまくって電柱に激突しそうです笑 

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