<原作オマージュ>番外編~この胸のときめきを<前編>

『なんて素敵にジャパネスク〜二次小説』




注)このお話は一話完結です。
原作のあるシーンを高彬目線で書いていますのでネタバレとなっています。
原作未読の方はご注意ください。
          
          




***<原作オマージュ>番外編~この胸のときめきを<前編>***








「どこ行っちゃったのかなぁ。そんな変なトコには行ってないと思うんだけど」

「ぼく、あっちの方を探してくるよ」

寝殿の南庭をお借りして融と蹴鞠をやっていたのだけど、融が蹴った毬が弧を描いて高く飛び、そのまま見えなくなってしまったのだ。

毬を探すのはこれが初めてじゃない。

いつだったかはいくら探しても見つからず、後日、池にぷかりぷかりと浮いているのを三条邸の使用人が発見したなんてこともあった。

まったく融は強く蹴り過ぎなんだよ。

いくら言ったって、面白がって毬を力一杯に蹴るんだから。

ガサゴソと灌木を分け入っていくと、ふいに開けたところに出た。

対の屋が見えるところを見ると、どうやら邸の東まできてしまったようだった。

まさか、こんな方までは飛んで来ないよな・・・

そう思って回れ右をしようとした瞬間、庭に人がいることに気が付いた。

一瞬、庭師が庭の手入れでもしているのかと思ったのだけど、すぐに違う事に気が付く。

だって、ものすごく綺麗な色合いの衣裳を身に着けていたから。

あんな衣裳、使用人が着るわけがない。

誰だろう・・・

後になって思えば、そう思ったかどうかも定かではないけれど、気付いたらぼくは一歩を踏み出していた。

ちょうど木の葉の陰になって、向こうからはぼくが見えないのも好都合だった。

そっと様子を窺うと、ぼくと同い年くらいの姫が立っていて───

「・・・・・」

どうしてこんなところに姫が一人で立っているんだろう、とか、そもそもこの姫は誰なんだろう、とか、当然、疑問に思うべき点はあったはずなのに、ぼくはそんなこと思いもせずに、その姫の横顔をただ食い入るように見てしまっていた。

どうしてだか目が離せなかった。

「君、誰?」の言葉も出てこない。

どれくらいの時間が経ったのか、ふいに風が吹いて木の葉が揺れ、それと同時にどこかから「姫さまー、姫さまー」と言う声が聞こえてくる。

その声が聞こえてたのか、その子はふいに振り返り、一瞬、ぼくと目が合った───気がして、慌てて木の幹に身体を隠した。

「まぁ、姫さま。このようなところに!」

叱責するような声と、何かを言い返すような声が聞こえ、やがて庭はしんと静まり返った。

そっと顔を出してみると、庭には誰もおらず、代わりに縁廂の辺りを女房らが行ったり来たりしている。

「・・・高彬ぁ。あったよー」

風に乗って遠く融の声が聞こえ、だけどぼくはドキドキしてしまって返事どころではなかった。

───ぼくが見てたこと、あの子に気付かれたかな。

変な人が見てた、なんて女房に言い付けたりしないだろうか・・

違うんだ。たまたま毬を探して迷い込んできただけで、決して覗き見してたわけじゃないんだ。

だから、ぼくのこと、不届き者とか思わないで・・・

誰とも判らない姫に向かい、心の中で必死に弁明をする。

「高彬ぁ・・」

融の声のする方に走り出しながら、頭の中で今しがた見た姫の横顔が浮かんでは消える。

衣裳の鮮やかさとは裏腹に、やけに沈んだような表情に見えたのが気掛かりだった。



*******



「それ、姉さんだよ」

「姉さんって・・・融の?」

「うん。ほら、前に言ったじゃないか。ずっと吉野で暮らしてたんだけど、京に戻って来てるって」

「あぁ、うん・・・。そっか、融の姉上さまだったのか」

「姉上さまって柄じゃないけどね」

融は手にしていた毬をぼくに投げて寄越してきた。

「父さまが嘆いてるよ、どうにもならんじゃじゃ馬だって。吉野で育てたのが間違いだったって毎日ぼやいてる」

「ふーん」

毬を投げ返しながら曖昧に返事をする。

そんな風には見えなかったけどな。

むしろどっちかって言うと憂いを帯びてたって言うか・・・

「なかなか良い女房が見つからないらしいよ。意地悪するんだってさ」

「女房が?仕えてる姫に?」

あの時の沈んだような表情は、女房からの意地悪のせいなのかと思ってびっくりして言うと

「反対だよ、反対」

融はゲラゲラと笑いだした。

「姉さんが女房に意地悪するんだよ」

「意地悪・・・」

「うん。小石の礫を投げたり、怒鳴りつけたりして追い返しちゃうんだってさ。すごいよね」

「・・・・・」

どうにもさっき垣間見た姫の様子とイメージが合わず、内心、首を捻っていると

「姉さんのとこ、行ってみようよ」

思い出したように融が言い、先触れもあらばこそ、さっさと東の対の屋に向かいだした。

慌てて融の後を追って長い渡殿を歩きながら、そういえば三条邸に来るようになってから長いこと経つけど、東の対の屋に行くのは初めてだったことに気付く。

幾つかの角を曲がり部屋に近づくにつれ、収まったはずのドキドキが甦ってくる。

見られてたら、どうしよう───

「姉さん、入るよ」

部屋の前に来ると、融は挨拶も何もなくひょいと室内に入り、慌ててぼくもそれに続く。

「んまぁ、融君。そんな先触れもなしに・・・!あ、姫さま。ただ今、御簾をお下げしますから、どうか中にお戻り遊ばして」

おそらくはさっき叱りつけるように呼びに来た女房なのだろう、キンキン声で捲し立てており、その声を全く無視したように部屋の真ん中に小さな姫が立っていた。

「融」

一瞬、融を見た後、すぐにぼくに視線を当てた。

「・・・・」

少しの間、黙って見つめ合い、ハッと我に返って慌てて頭を下げる。

「は、初めまして・・」

間違いない。さっきの姫だ。

顔を上げると、まだぼくを見ており、その視線のまっすぐさは思わずたじろぐほどで───

「姉さん。ぼくの友だち。高彬って言うんだよ」

のんびりと融がぼくを紹介すると

「あたし、瑠璃よ」

はきはきとした良く通る声だった。

「はい」

瑠璃、姫───。

そうか、瑠璃姫って言うのか。

何でだか感心して返事をすると、瑠璃姫はプッと吹き出した。

「はいって、そんな真面目に・・・。あんた、面白い子ねぇ」

「・・・・」

面白い、と言われて面食らう。

面白いのは瑠璃姫の方じゃないか。

こんなに堂々と顔を見せて、はきはきと自己紹介する姫なんて、聞いたことがない。

「ねぇ、高彬」

「はい。瑠璃姫」

「姫はイヤ。皆、姫らしくなれって言うから、瑠璃はイヤなの。それに、高彬は融の友だちなんでしょ?」

「う、うん」

「じゃあ、瑠璃もまぜてよ」

「えー、姉さん、すぐ怒るからヤだよ」

融が文句を言いだし、ぼくは慌てて口をはさんだ。

「いいよ!一緒に遊ぼうよ。る、瑠璃さん、もさ・・・」

瑠璃さん、と言った途端、かぁっと顔が熱くなり、わけもなく胸が騒ぎだす。

姫呼ばわりされなかったことに満足したのか、瑠璃さんはにっこりと笑い、初めて見るその笑顔が思いがけずに可愛くて、ぼくは一瞬息をすることを忘れて瑠璃さんに見惚れてしまったのだった。






<後編へ続く>


(←お礼画像&SS付きです)

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ありちゃんさま

ありちゃんさん、こんにちは。

> 高彬、一目惚れの瞬間ですね。うふふ。

はい、そうです!

> 世間的には物好きな、って言われそうですが、高彬は瑠璃の真価を見ていたわけで…
> やっぱ、いい男だわ。(←思考が必ずそこに行く。笑)

ほんと、後年、瑠璃の世間的な評価はガタガタと落ちて行きますが、ず~っと高彬は瑠璃一筋ですもんねぇ(*^-^*)

一目惚れぇ

瑞月さん こんにちは。

お久しぶりです。
高彬、一目惚れの瞬間ですね。うふふ。
世間的には物好きな、って言われそうですが、高彬は瑠璃の真価を見ていたわけで…
やっぱ、いい男だわ。(←思考が必ずそこに行く。笑)

非公開さま(Rさま)

Rさん、おはようございます。

はい、そうです。あのシーンです(*^-^*)
融はどう思ってるんでしょうね。
物好きだなぁ、と思う事はあっても、同情はしてないかも知れませんよね(笑)
後編もぜひお付き合いくださいませ。

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