**特別編***ジャパネスク・ブライダル~6月の花嫁~***

『なんて素敵にジャパネスク~二次小説*特別編』



注)このお話は特別編です。
時は平安、今宵は結婚披露宴・・・・
「妄想もここに極まれり」のスペシャル・バージョン第六弾です。
はちゃめちゃな設定がお好きでない方は読むのをお控えください。
どんな妄想もウェルカム!の方は、どうぞご覧くださいませ。





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ジャパネスク・ブライダル~6月の花嫁~










高彬が帰って来たのは、もうじき亥の刻にもなろうかと言う時刻だった。

円座に腰を下ろし、ふぅと大きく息を付きながら襟元を緩めて、そのまま脇息にもたれかかると、ふわりのお酒の匂いが漂ってくる。

「お疲れのようね」

白湯を差し出しながら言うと

「さすがにこう続くとね」

ごくりと一口、白湯を飲み

「何もこう、判で押したように、皆、6月に結婚しなくても・・・。5月でも7月でも、1年は12か月あるんだからさ」

出掛けにも言ったようなことを繰り返し言う。

「だから言ったでしょ。ヨーロッパでは6月の花嫁は幸せになるって言い伝えが・・・」

「それは聞いたよ、だけどここはヨーロッパじゃなく京じゃないか。言い伝えも何もないと思うんだけど」

高彬はうんざりしたように呟き、もう一口、白湯を飲んで、疲れたように首を回している。

まぁね、高彬のお疲れも判らなくはないのよ。

6月に入ってから、宮中では結婚ラッシュが続いていて、新婦である女官も、新郎である公達も、つまりは高彬の同僚なわけだから、高彬は結婚式及び披露宴に呼ばれまくっているのだ。

ひどい時なんかは一日に3組の結婚式に掛け持ちで出席した時もある。

平日は激務で、やっときた週末は披露宴続きともなれば、疲れもたまろうってものよね。

どうして梅雨のこの時期にこんなにも結婚式を挙げるカップルが多いのかと言えば、それは数年前に、ある雑誌が「ジューンブライド」なるものを取りあげたからなのだ。

いわく、6月に結婚した花嫁は幸せになれる───

この言葉に、流行に敏感な女官たちが飛びついた。

ちょうど宮中の年中行事も一段落つく時期だったことも重なって、こぞって6月に式を挙げはじめたのだ。

おかげで披露宴会場となる豊楽院は半年以上も前から予約がいっぱいだそうで、中にはまだお相手も決まってないうちから取りあえず予約だけはしておく・・・なんて強者もいるらしい。

半年のうちに誰かめぼしい公達を引っ掛けるってことらしいんだけど・・・

こういう風潮に眉をひそめる年長者も当然いて、確かにあたしもさすがにそれはやり過ぎだと思うけど、でも、6月に結婚したいと思う女官たちの気持ちは良く判る。

「ジューンブライドって語感からして素敵じゃない。ヨーロッパに古くからある言い伝え、なんて言うのもおしゃれだし。こういうのってムードが大切なのよ」

「ムード・・・」

「そう。ムードよ。6月に結婚したからって必ず幸せになれるなんて誰も思っちゃいないはずよ。だけど、こう、何ていうか・・・夢があるじゃない」

「夢ねぇ・・・」

どこまでも、納得しかねると言う感じで高彬は呟き

「女の人ってほんと、そういうの好きだよね。ムードだとか、夢とかさ」

「・・・・」

あたしは肩をすくめた。

「まぁ、女はごちそうで、後朝の歌はそのお礼状と思ってるような人には、こういう気持ち、判らないでしょうけどね」

怒った素振りでわざとツンと言ってやると

「いや、それは・・」

なんて途端に気まずそうに口ごもっている。

なーにが、女の人ってムードが好きだよね、よ。

高彬がムードとかに一切、気を配んないだけじゃない。あんたが特別なのよ。

自分を基準に世の中を測らないで欲しいわ・・・

果たして、あたしの機嫌が下降線をたどっているのを見抜いたのか

「それはそうとさ、瑠璃さん。姉上付きの女官の伊勢って覚えているだろう?ほら、吉野で会った。その伊勢も結婚することになってね。来週の結婚式にはぜひ瑠璃姫もって誘われてるんだけど、行くかい?」

とっておきの隠し玉を投げ込んできた。

「伊勢が結婚?もちろんよ!」

結婚披露宴なんて、考えただけでワクワクする。

あの五つ衣に、春先に誂えたばかりの襲の色目の唐衣を合わせて───

確か、高彬も同じような色目の直衣を持っていたはずだし・・・

檜扇はどれを持とうかしら?

頭の中で、早や何を着て行くかを考えてしまう。



*********



一週間後は梅雨の晴れ間の晴天で、まずは宴の松原の一角に作られたチャペルで式が行われた。

伊勢が、下級役人である父親と腕を組みながらバージンロードに現れると周りから拍手が沸き上がる。

「綺麗ね」

「うん」

隣の高彬に耳打ちをする。

実際、正装をした伊勢は綺麗だった。

白いレースのベールが裳裾の上を波打っており、伊勢が歩くたび、初夏を思わせる風にふわりとレースが膨らむ。

伊勢のお相手は従六位の衛門大尉で、そんなに高い位階ではないけれど、だけど、とても優しそうな人だった。

「健やかなるときも、病めるときも、悲しみのときも、富めるときも、貧しいときも・・・」

神父さまの声が柔らかく語りかける。

「これを愛し、これを敬い、これを慰め、これを助け。その命ある限り真心を尽くすことを誓いますか?」

新郎新婦が誓いの言葉を口にして指輪の交換をした時は、何だかあたしまで緊張してしまった。

ベールを上げて、新郎がそっとキスをすると───

伊勢の目に光るものがあるのが遠目にも判ったし、最前列にいらっしゃる女御さまも涙ぐんでいるのか、そっと目を押さえている。

豊楽院に場所を移しての披露宴も、伊勢の人柄を現すかのように、温かみのあるものだった。

中でも伊勢の友人である女官たちがアイドルグループの衣装を身にまとって登場してきた時の盛り上がりようと言ったらなかった。

音楽に合わせて歌ったり踊ったりで会場を沸かせている。

女官のことを、男と肩を並べて仕事をするなんてはしたないとか、色々と悪く言う人もいるけれど、だけど、こんな風に場を盛り上げることが出来るなんてすごいなぁ、と思う。

友だちである伊勢のためっていうのがもちろん一番なんだろうけど、でも、自分たちも楽しんでるって言うのが伝わってきて、見てるこっちまで楽しくなってくる。

伊勢もいい友人に囲まれているのね・・・

と思っていたら、よく見たら大江もいるではないの。

しかもセンターでノリノリで踊っている。

そっか、右大臣邸繋がりってわけね。

ちらりと高彬を見ると、とうに気付いていたのか苦笑いを浮かべている。

「大江、なかなかやるわね」

そっと言うと

「やり過ぎだよ」

同じようにそっと言い返してきて、2人でこっそりと笑い合う。

キャンドルサービス、花束贈呈と続き、やがて披露宴はお開きとなった。

豊楽院を後にしようと、高彬と連れ立って歩いていると

「高彬さま、瑠璃姫さま」

と後ろから声を掛けられた。

振り返ると立っていたのは伊勢で、走って来たのか頬が上気している。

「今日はわたくしどものために足をお運びいただきましてありがとうございました」

「こちらこそお招きありがとう。幸せのお裾分けをいただいちゃったわ。お幸せにね」

隣の高彬も大きく頷く。

「瑠璃姫さまに、これを受け取っていただきたくて・・・」

そう言ってウエディングベールを差し出してくる。

「これをあたしに?こんな大切なもの・・・」

「お礼の気持ちなんです。本当はブーケをお渡ししようかと思ってたんですけど、瑠璃姫さまはもうご結婚されているし、それにさっきのブーケトスで大江ちゃんの手に渡ってしまったし」

「お礼って何の?あたしは別に伊勢には何も・・」

「実は・・・、ずっと長いこと、結婚を迷っていたんです。仕事も面白くなってきたところだし、同僚からは結婚生活の愚痴もたくさん聞かされていましたし。でも、高彬さまが勧めて下さったんです。好きな人がいるのなら結婚したらいいよ、って。自分は結婚をして本当に幸せだって。それで踏ん切りがついたんです」

「・・・・」

伊勢が何を言いだすのか察したのか、高彬は離れた場所で(何も聞こえていませんよ)なんて感じで景色を見てる振りを装っているけれど、でも耳のあたりがほんのりと赤くなっている。

「だから、これ、瑠璃姫さまに受け取っていただきたくて」

差し出されたブーケを受け取る。

「判ったわ。いただくわ。大切にする」

伊勢は嬉しそうに笑うと深々と頭を下げ、また来た時と同じように走って行った。

牛車の中で、あたしは何とはなしに無口だった。

そっかー、高彬、結婚して幸せだ、なんて言ってくれてたんだ・・・

そんなこと、あたしの前では一言も言わないくせに。

三条邸の東門をくぐった辺りで

「瑠璃さん。そのベール冠ってごらんよ」

ふいに高彬が言った。

「これを?」

「うん」

言われるがままに伊勢がしていたみたいに頭に載せると、高彬は正面からあたしの顔を見てくる。

「へへ、何か、照れくさいわね・・」

カタンと音がして牛車が止まり簾が上がると、先に立ち上がった高彬にふいに抱き上げられてしまった。

「な、何?」

驚くあたしを尻目に、高彬はあたしを抱っこしたままスタスタと渡殿を歩き出し

「ヨーロッパでは、花嫁は花婿に抱き上げられて新居に入るらしいからね」

「・・・・・・」

気のせいか高彬の顔がほんのりと赤い。

「何よ、わざわざ調べたの?」

「・・・うん。少し」

今度こそは、夜目にも判るほどにはっきりと赤くなった。

何よ、ここはヨーロッパじゃなくて京だ、なんて言ってたくせに・・・

あたしを抱き上げたまま、高彬は器用に妻戸を開け室内に入ると、几帳の前のいつもの場所にあたしをそっと下ろした。

向かい合うように高彬も座る。

灯台の明かりがベール越しにチラチラと揺れて、高彬の顔に小さな陰影を作っている。

「健やかなるときも、病めるときも・・・・」

そこまで言って、困ったように高彬は笑った。

「ごめん、その先は覚えてないや。瑠璃さんのことばかり考えていたから・・」

「うん・・・」

高彬の手でウエディングベールが上げられ、二人見つめ合って、誓いのキスを───

こうしてあたしは<6月の花嫁>になったのだった。






<Fin>


前回の記事で「次回は高彬の考察です」と書きましたが、ふいにこの話が浮かんできて、どうせなら6月中に!と思い先にアップしました。

次回は、高彬の考察(の予定)です。

「ジャパネスク・ブライダル」の、ほんの短い「おまけの話」、下の拍手お礼に置いてあります。


(←お礼画像&SS付きです)

コメントの投稿

Secre

非公開さま(Rさま)

Rさん、こんばんは。

そうそう。「テンプテーション」に出てきたあの伊勢です(*^-^*)
大江なら、瑠璃たちが世話を焼かなくても自力で見つけてきそうですよね(笑)
小萩は後押しが必要そうな気が・・・。

非公開さま(Yさま)

Yさん、こんばんは。

「ぼくだけの~」発言、高彬の瑠璃への思いの深さが現れてますよねぇ。
幸せを感じていただいたなんて嬉しいです(*^-^*)

非公開さま(Mさま)

Mさん、こんばんは。

幸せな気分になっていただいたなんて嬉しいです(*^-^*)
高彬って何だかんだ言いながら、いつも瑠璃が喜ぶことを考えてそうですよね!
「ぼくだけの~」と無意識に(?)言っちゃうくらい、瑠璃のことが大好きな高彬なのでした。

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