***第二十二話 優しい人***

『なんて素敵にジャパネスク〜二次小説』




          注)このお話は連続ものです。
            カテゴリー「二次小説」よりお入りいただき
            第一話からお読みくださいませ。



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*** 第二十二話 優しい人 ***




高彬との対面のあと、あたしはまた熱がぶり返してしまった。

ちょっと疲れてしまったみたい。

すぐに薬湯を飲ませられ、横になり目を瞑ったのだけど、何だか頭の一部だけがものすごく冴えているようで眠れない。

さっきの高彬の言葉がよみがえる。

「・・・・結婚する前に、初恋の君と過ごした思い出の地に来たかったんじゃないかと思う」

そうなのかしら。

あたしは婚約者がいるのに、今でも初恋の人が忘れられずにいるのかしら。

じゃあ、なんで結婚なんかするの・・・。あたしってどんな姫だったの・・・。

庭に目をやると、春の夕闇が広がり始めていた。

あたしは頭を振った。

あまり考えすぎないほうがいいわ。

疲れてる頭であれこれ考えたって、思い出すわけないもの。

目を瞑り深呼吸をする。

まだまだ胸は痛むし、傷もズキズキする。まずは身体を元通りにすることが先よ。

それからゆっくりと・・・・。

遠くカラスの鳴き声が聞こえ、その音を子守唄代わりに、あたしは眠りに落ちていった。





         *************************************





どれくらい眠っていたのか、あたしはふと人の気配を感じた。

衣擦れの音、柔らかい匂い・・・

あぁ、この匂い・・・さっきの人だわ。高彬という公達よ。

熱のせいかしら、うすぎぬ一枚をへだてたようなような感覚で、意識の一部ははっきりしているのに、目が開けられない。

「瑠璃さん・・・」

高彬はどうやらあたしの枕元に座ったらしく、髪をなぜているようだった。

しばらくそうしていたのだけれど、今度は両手であたしの手を取り、優しい声で話しかけてきた。

「瑠璃さん、ぼくだよ。高彬だ」

あたしの手を自分の唇に押し当てているのか、柔らかい感触が伝わってくる。

話したいのに、言葉が出ない。身体が金縛りにでもあったかのように動かない。

「・・・瑠璃さん。こんなのは嫌だよ。ぼくを忘れるなんて・・・嫌だよ。思い出しておくれよ、瑠璃さん」

あたしの手をぎゅうぎゅうと握りしめてくる。

その声は、さっきの落ち着いた公達ぶりからは想像もできない、辛そうなすがるような声だった。

この人は、本当にあたしのことを想っていてくれているのかも知れない・・・。

やがて

「本当に・・・本当に瑠璃さんは忘れっぽいんだから・・・」

そう言ったかと思うと絶句し、次の瞬間、嗚咽する声が聞こえてきた。

手に涙が伝い落ちてくる。

温かい涙が、あとからあとから伝ってくる。

ごめんなさい、ごめんなさい・・・。

思い出せずにいることが申しわけなくて、こんなに優しい人を哀しませていることが申しわけなくて、いろいろ申しわけなくて、あたしは心の中であやまった。

高彬の嗚咽する声が、静かな部屋にいつまでも響いていた・・・・。





        *********************************************





翌朝、目が覚めたときには、すっかり熱が下がっていた。

ここ数日の中では一番、体調が良いみたいで、あたしは何だか嬉しくなっちゃった。

体調が良ければ気分も前向きになるし、この分だと案外、早くに記憶が戻るんじゃないかしら。

小萩に手伝ってもらって、久しぶりに着替えて起き出してみることにした。

すっかり着替えて、脇息に寄りかかっていると、高彬が現れた。

「顔色が良いようだね、瑠璃さん」

にっこり言って、あたしの前に座る。

やっぱり、どこからどう見ても落ち着いた公達ぶりで、昨夜のことは夢か幻だったんじゃないかしら・・・と思えてくる。

ちらちらと高彬を見ていると

「ぼくの顔に何か付いてる?」

なんて笑いながら顔を近づけてきた。

「う、ううん。そんなんじゃないのよ・・・」

慌てて笑って見せたんだけど、急に顔を近づけられてどきまぎしちゃった。

本当に優しげな笑顔なんだもん。

「あの・・・」

「なんだい」

身を乗り出すように聞いてきた。

「気分も良いし、外に出てみたいんだけど・・・。こんなに天気も良いし・・・」

言外に、一緒に付き合ってもらえないか、と含ませると

「いいね。桜も満開だ。一緒に見に行こう。連れてってあげるよ」

嬉しそうに返事をした。

婚約者だって言うんだし、これくらいの我儘、良いわよね。

後ろに控えていた小萩は

「外に行きたいだなんて・・・やっぱり姫さまは姫さまですのね」

そう言って泣き笑いしている。

小萩に見送られて山荘を出ると、だらだらとした下り坂が続いていた。

「重くない?」

抱きあげられているのでそう聞くと、高彬はクスッと笑って

「ぼくは瑠璃さんより背も高いし力もあるからね。これくらいなんてことないよ」

そう言って、片目をつむって見せた。

背も高いし力もある・・・・

なにかがひっかるんだけど、形にならない。

こうして肌を密着させていることに違和感がないのも不思議なのよね。

だって、あたしにとっては、昨日、会ったばかりの人なんだもん。

落ち着くと言うか懐かしいと言うか、そんな気がする。

こもごもと考えていると、やがて野原に出た。

桜の木の下に頃あいの岩があり、そこにあたしを下ろしてくれたので、辺りを見回すと、野の花が咲きみだれ、どこからか鳥のさえずりが聞こえ、桜の花びらが春の風に吹かれ、はらはらと舞い散っている。

あまりの綺麗な景色にあたしはため息をついた。

「瑠璃さんは幼い頃、この野原で毎日、遊んでいたらしいよ」

「その、吉野君とか言う人と・・・・?」

「そうだと思う」

それで、あたしは吉野君との思い出を振り返るために吉野に来た、と。

「あのさ・・・」

「うん」

「その・・・いやではないの・・?婚約者が・・・あたしが初恋の人との思い出の場所に行くことが・・・」

真の抜けた質問だなーとは思うんだけど、昨日から気になってたことだったから、聞いちゃった。

だって、あたしだったら、やっぱりヤだもん。

高彬は、何事かを考えてるような顔で空を仰いでから

「うーん・・そうだなぁ。全くいやじゃないと言ったら嘘になるかな」

おどけた声で言った。

「うん・・・」

そうだよね、やっぱり。

「でも」

そう言ってあたしを見ると、今度は真面目な声で

「瑠璃さんを好きな気持ちは、誰にも負けない自信があるし、たとえ相手が亡くなった童だろうと、他の誰にだって、瑠璃さんを譲る気はないんだ」

きっぱりと言った。

「だから、瑠璃さんが吉野に行きたいのならば行ってきたらいい、気の済むようにすればいいと思えたんだろうな」

そう言って納得したように自分で頷いている。

そうして、あたしの隣に座りながら、ふとおかしそうに

「記憶を失くす前の瑠璃さんだったら、今みたいなこと聞いてこないだろうし、ぼくだって、こんなこと言わなかっただろうな。なにしろ瑠璃さんはとんでもないはねっかえりの姫だし、ぼくはぼくで、堅物の朴念仁だからね」

と笑った。

「あたしって、そんなにはねっかえりだったの?」

思わず聞き返すと

「昨日、言っただろ。ぼくは投げ飛ばされたり、池に落とされたって」

「ふぅん。なんだか・・・悪かったわね・・・」

他に言いようがなくてそう言うと

「今みたいに、おしとやかな瑠璃さんって言うのも、なかなか良いものだね」

なんてからかうように言われてしまった。

「普段がよっぽど、ひどいみたいな言い方ね」

ムクれて言うと、高彬は声を上げて笑った。

ひとしきり笑うと

「そうだ。今の瑠璃さんにもプロポーズしておこうかな。おしとやかな瑠璃さんを見て、他の公達が瑠璃さんに心動かされないとも限らないからね」

そう言って、あたしの片手を取り

「瑠璃姫、ぼくと結婚してくださいますか」

と真面目な顔で言った。

「・・え?えぇっと・・・記憶が戻ったら、おしとやかじゃなくなっちゃうと思うけど・・・」

「それには慣れてる」

「もしかしたら記憶が戻らないかも知れないけど・・・」

「そうしたら、おしとやかなままの瑠璃さんと暮らせる。投げ飛ばされる心配がない」

「ひどい!まるで今の方がいいみたいに聞こえるわ」

「そんなことないさ。どっちの瑠璃さんも好きだよ。どっちでもいいんだ、瑠璃さんなら」

「・・・・・」

目があった。

高彬の顔が近づいてくる。

息がかかるほどに近づいたところで、高彬は小さく笑い、あたしの額に軽く唇を付け、そのまま前を向いて遠くを見ている。

今・・・・接吻しようとして、思いとどまったんじゃないかしら。

あたし、この人が・・・。

「あの・・・」

あたしは高彬の袖を引っ張った。

振り向いた高彬と目があい、あたしはゆっくりと目を閉じた。

少しの間があり、やがて高彬の唇が優しく合わさっってきた。

あたしは、優しいこの人と、み吉野の桜舞う木の下で、初めての、だけど懐かしい接吻をしたのだった。




               <第二十三話に続く>

〜あとがき〜

こんにちは!瑞月です。

瑠璃にはもう一度、と言うか、初めから恋をし直してもらっちゃいました。

氷室先生の作品より、かなり積極的な高彬ですが、とうとうプロポーズまで!

後はおやや誕生を待つばかり・・・・(笑)

あと一息だ!高彬。

読んでいただき、ありがとうございました。



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