<原作オマージュ>3~原作一巻より 

『なんて素敵にジャパネスク〜二次小説』




注)このお話は一話完結です。
原作のあるシーンを高彬目線で書いていますのでネタバレとなっています。
原作未読の方はご注意ください。
          
          




***<原作オマージュ>3~原作一巻より***








「融、融、助けて!姉さんの貞操の危機よ!」

突然抱き付かれ更には胸元で叫ばれて、言葉も出ない程に驚いていると、瑠璃さんがくいっと顔を上げた。

至近距離で目が合うこと、しばし───

「た、高彬!あんた、なんでこんなとこに・・!」

ガバっと身体を離し、驚愕の表情を浮かべている。

だけど、驚愕の表情を浮かべたいのはぼくの方で、なぜなら瑠璃さんの恰好はとてものこと尋常な姿ではなかったのだ。

髪は乱れ、白粉は剥げ落ち、装束もおかしな具合に着崩れている。

「あなたの見合いに席にいたって面白くないし、ここで休んでいたんだよ。・・それより、その恰好はどうしたのさ」

まさか、木登りでもして一汗かいてきたってことはないだろうけど。

いや、瑠璃さんならそれもあり得るか。

「権少将にやられたのよ!父さまは既成事実を作らせ、一気に結婚に持っていくつもりなのよ」

「───既成事実?!」

さすがに驚いて大声が出ると、瑠璃さんがわっと泣き出した。

「ああ、もういや!親に夜這いの手引きをされるなんて世も末だわ、このまま尼になってやる!尼になって吉野君のご位牌を胸に鴨川に飛びこんでやる!」

わんわんと泣きながら興奮して捲し立て、だけどこんな時にも<吉野君>なのか、と全くもってやりきれない。

「尼になって自殺したら浄土に行けないよ」

「何、呑気なこと言ってんのよ。あたしが権少将と結婚した方がいいって言うの?」

そんなことは一言も言ってないじゃないか。まったく瑠璃さんは短絡的なんだから。

鴨川に飛び込むか、権少将と結婚するか、どうしてその二択で考えるんだよ。

もっとこう建設的にと言うのか、現実を見ると言うのか、もしくは昔の約束を思い出すと言うのか・・・

だけど、そんなことをのんびりと考えてる場合じゃないと言う事に気が付いたのは

「瑠璃姫、瑠璃姫はどこにおられる。瑠璃姫!」

と、瑠璃さんの名を連呼しながら近づいてくる、権少将の足音が聞こえたからだった。

その声は当然、瑠璃さんにも聞こえているはずで

「お、追ってきたんだわ。どうしよう・・・!」

ぼくにしがみつきながらがたがたと震えている。

ちらりと瑠璃さんを見ると、夜目にもわかるほどに顔面蒼白で本気で怖がっているようだった。

「・・・・・・」

非常事態に恐れおののいている瑠璃さんには悪いけど、(そうだろう、そうだろう)と言う何とも言えない満足感みたいなものが広がって行く。

瑠璃さんが諾々と親の言いなりに結婚なんかするわけがない。

いや、そもそも権少将なんかを気に入るわけがないのだ。

他の男から逃れるためにぼくを頼ってくれていると言うこの状況は、何ともいい気分だった。

「高彬、あんた、腕に覚えはあるの?」

顔を上げ、ふと思い出したように瑠璃さんが聞いてきた。

「衛門佐だから多少はね」

ホッとしたように瑠璃さんが息を付いて、ぼくの腕をつかんでいる力が弱まる。

「だけど・・・大納言さまを向こうに回してまで瑠璃さんを守る義理はないしな」

とぼけて言ってやると、またしても力が加わった。

「こんな時にそんないじわる言わないでよ。小さい頃にお世話してやったこと忘れたの?本当に男って薄情ね。なんでも忘れてしまうんだから」

「・・・・」

良く言うよ。

こうまですっぱり忘れ去られているのかと思うと、ため息すら出てこない。

「忘れてるのはどっちなんだろうね」

肩をすくめると

「何をわけのわかないことを・・・・って、近づいてきたわ!ねぇ、後生よ。恩にきるから。ほら、もう来るわ!いやだ、ねぇったら!」

ぎゅうとぼくの腕にしがみつき、と同時にものすごい音をたてて妻戸が開いた。

案の定、そこに立っていたのは権少将で、さっと室内を一瞥するとズカズカと入り込んできた。

「瑠璃姫、こんなところで衛門佐と一緒とはどうしたことか。瑠璃姫はわたしの妻となる身ですよ」

横柄な物言いもさることながら、その内容に腹が立つ。

誰がおまえの妻だ、誰が。

「妙なことを言われます。権少将どの」

瑠璃さんを後ろ手に隠しながら一歩前に出る。

ぼくが何を言うのか、瑠璃さんが息を潜めているような気配が伝わってくる。

「瑠璃姫とわたくしは行く末を固く契った、振り分け髪の頃からの筒井筒の仲なのですよ」

「ち、契った?!ちょっと、高彬・・・!」

ぎょっとしたような瑠璃さんの声が後ろから聞こえ、だけど権少将には聞こえなかったようで

「そのようなたわ言、真に受けると思うか。瑠璃姫の筒井筒の君は吉野で過ごした童だと伺っている」

ぼくを睨みつけてくる。

「吉野君を亡くされて悲しんでおられた姫をお慰めしたのがわたくしです、その時に誓い合ったのですよ」

瑠璃さんに向き直り

「そうでしたね、瑠璃さん」

そうだったよね、瑠璃さん。思い出してくれ!

必死に目配せを送ると、瑠璃さんはぼくの顔半分、権少将の顔半分と言った感じで視線を泳がせ、口をぱくぱくさせたかと思ったら、ごくりと唾を飲み込み息を整えると

「そうよ!絶対、そうよ!あたしと高彬はぶっりぎりの仲なんだから!」

だん、と足を踏み鳴らしながら、すごい勢いで叫んだ。

権少将はと言うと、目を剥いて怒りのためなのかわなわなと震えながら

「すでに通っている男がありながら、おれとの結婚の話を進めるとは大納言どのも恥知らずな・・・!」

呻くように言い、ぼくは(ふん)と鼻を鳴らした。

「恥知らずはお互いさまでしょう。つい先日、左馬頭どのの北の方と昵懇なのが発覚して大立ち回りを演じられたばかりのはず」

恥知らずが聞いて呆れる、と言う物だ。

ぼくが十日かけてリサーチして得た情報を見くびるなよ。

図星を指されたのが悔しいのか権少将は更に目を剥き、一瞬だけ臨戦態勢を取ったものの、おそらくは自分の腕に自信がないのか

「覚えていろ!」

と負け犬の遠吠えよろしく一言吐き捨てると、そのまま部屋を出て行った。

嵐の後の静けさとでも言えるような静寂が流れ、ややあって瑠璃さんが全身で息を付きながら両手で胸を押さえた。

安堵の表情を浮かべる瑠璃さんを見ているうち、知らずに笑いがこみあげてくる。

ぶっちぎりの仲、とはね。

「何がおかしいのよ、人が生死の境をさまよっていたって言うのに」

「いや、ぶっちぎりの仲だと怒鳴る辺り、いかにも瑠璃さんらしいと思ってさ」

「あれはあんたと口裏を合わせただけよ。ああでも言わなきゃどうにもならなかったもの」

「・・・・・」

なんだ。

「ふーん。思い出したわけじゃなかったのか・・・」

そうか、そうだよな。

今まで何年も忘れた人が、そう都合よく思い出してくれるわけないよな。

「思い出すって何をよ」

「別にいいよ。忘れてるんなら無理に思い出すことはないさ。昔の・・・約束なんだし」

そっぽを向くと、瑠璃さんが顔を覗き込んできた。

「何よ、嫌味な言い方ね。気になるじゃない。昔の約束って言ったって、あたしは別に・・・」

そこまで言って、ふいに瑠璃さんの表情が止まった。

自信なさそうなあやふやな顔になり、目を瞬かせている。

そうして次の瞬間

「あらー」

と何とも気の抜けた声が発せられた。

「やだわ。今、思い出したわよ、高彬。今の今までころっと忘れてたわよ。あはは・・」

「ころっとね」

そんなことだろうと察しはつけていたけど、こうして本人の口から改めて言われると妙な脱力感がある。

「何よ、あんたずっと覚えてたの?」

「まぁね。瑠璃さんは忘れてるんだろうな、と思ってはいたけどね」

「・・・・」

「で、どうするの、瑠璃さん。昔の約束を思い出したところで、やっぱり尼さんになって鴨川に飛び込むの?」

反対に今度はぼくが顔を覗き込むと、瑠璃さんは「えぇっと・・」「その・・」と言葉を濁らせた後

「そ、そうね、考えておくわよ」

取って付けたような咳払いをした。

「じゃあさ、瑠璃さん。考えておくと言う約束に手を出してよ」

また約束を忘れられたりしたら堪らない。

ばっちり瑠璃さんの記憶に残るようなことと言ったら───

「手・・・?」

ぶっきらぼうに差し出された手を取り、すばやく手の平に接吻をすると

「なっ・・・!」

手が振り払われ、瑠璃さんの顔が茹蛸みたいに真っ赤になった。

何かを言おうと口が縦に開かれて

「お」

と言う言葉が聞こえた、気がした。

お?

おととい来やがれ──?

だけど瑠璃さんは小さくコホンと咳をすると

「ま、そのぅ・・明日、おいでよね」

聞き取れないほどの小さな声でぼそぼそと言い、恥ずかしいのかそっぽを向いたまま部屋を出て行こうとする。

「どこ行くの」

「部屋に戻るわ」

「送るよ」

「平気」

振り返らずに行こうとするので

「もしかしたら権少将が待ち伏せしてるかもしれないよ、瑠璃さん」

そう言うと、瑠璃さんの肩がびくっと震え、気味悪そうに妻戸の向こうに目をやっている。

「権少将以外にも今夜は色んな公達が出入りしてるからね。どこに潜んでいるかも判らないし危険だよ」

眉が下がり、困ったような、今にも泣きだしそうな顔になった。

「さぁ、行こう」

妻戸を開けて声を掛けると、今度は瑠璃さんは「平気」とは言わなかった。

ピタッとぼくにくっつくようにして歩いており、珍しいことに扇で顔を隠したりしている。

威勢がいいわりに臆病なところがある瑠璃さんは、きっと本当に怖いんだろうと思う。

もう少しで権少将に襲われていたんだから、それも無理はないだろう。

がさっと茂みが揺れ、瑠璃さんが「あっ」と小さく叫び、とっさにぼくの腕を強く掴んできた。

「きっと犬か猫だよ、瑠璃さん」

「う、うん・・。そうよね」

部屋の前に来たところで、妻戸に手を掛けながら瑠璃さんは「ありがと」と小さな声で言った。

「小萩が来るまで、ここで見張ってるから」

瑠璃さんの顔が一瞬ほっとしたように緩み、だけどすぐに

「でも、高彬、宴はいいの?琵琶の演奏は?」

心配そうに聞いてきた。

「今さらいいよ」

肩をすくめ笑ってみせると、「うん」と瑠璃さんも笑い返してきた。

「おやすみ」

部屋に入って行こうとする瑠璃さんの背中に向かい

「瑠璃さん、さっき言ったこと本当だよね」

「・・・・」

「明日おいでよね、って。・・・ぼく、明日も来るよ。あさっても、しあさっても」

勢い込んで言うと、瑠璃さんがゆっくりと振り向いた。

さっきまでの怖がっていた時とは違う、いつもの瑠璃さんの顔だった。

小首を傾げながらしばらくまじまじとぼくの顔を見ていたかと思ったら

「いいわよ」

真面目な声で言い、照れくさそうに目を逸らすと、部屋に入って行った。

パタンと妻戸の閉まる音が消えると、辺りは急に静かになり、遠くかすかに宴の音が聞こえてくるばかりとなった。

室内の気配に耳を澄ませると、しんと静まり返っており物音ひとつ聞こえない。

早や横になったのか、それとも脇息にでも寄りかかり小萩が来るのをまんじりともせずに待っているのか───

簀子縁に腰を下ろして空を見上げると、春の夜空には丸い月が浮かんでおり、おそらく数日後には望月となるのだろう。

回りに浮かんだ雲には、月明かりが陰影を作っている。

明日も来よう。

あさっても、しあさっても。

新緑の匂いを含んだ春の夜風が渡殿を吹き抜けて行く。

やけに胸が高鳴って仕方のない、春の夜なのだった。






<終>



瑞月です。

いつもご訪問いただきありがとうございます。

連載の投票もありがとうございました。

新連載につきましては、次回の記事で改めてお知らせ致します。

次回の記事は久しぶりに高彬の「考察」を書きたいと思っています。

「考察」と言うか、いつものことながら「高彬大好きだー」と言うだけの記事になると思うのですが。

今回の話を書きながら、高彬と瑠璃の「純情さ」「可愛いさ」にまさしく「胸が高鳴って」しまいました。

この時期の二人もやっぱりいいですね。

お読みいただきありがとうございました。


(←お礼画像&SS付きです)

コメントの投稿

Secre

非公開さま(Uさま)

Uさん、こんにちは。

高彬のシーン、どれも気になるシーンばかりですね(*^-^*)
こちらのシーンは順を追って書いていきたいと思います。
かなりのシリーズは細く長く続くシリーズになるような気がしますので、よろしければ気長にお付き合いいただければ嬉しいです!
リクエストありがとうございました。

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非公開さま(Yさま)

Yさん、こんにちは。

了解いたしました(*^-^*)
確かにそのシーンの高彬の心情と言うのも気になりますよね~。

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非公開さま(Yさま)

Yさん、こんにちは。

オマージュ3の高彬、Yさんのご期待に添えたようで良かったです(*^^*)
あの手の平への接吻は、やっぱり菫の花への対抗心みたいなものはあったと思います。
約束に接吻していいですか?と聞いて、結局は菫の花を渡した吉野君。
約束に記念の品をあげるよ、と言っておいて、接吻をした高彬。
瑠璃の記憶に強烈に刻み込まれそうですもんね!

前の方への返信にも書きましたが、次のシーンで何かリクエストがありましたらお聞かせ頂ければと思います。

非公開さま(uさま)

Uさん、こんにちは。

オマージュ3、楽しんで頂けたようで嬉しいです!
主要場面を高彬目線で少しずつ書いて行きたいと思っています。
ちなみにですが、次のシーンのご希望とかありますか?
ざっくりのシーン(例えば「二の姫のシーン」とか)ピンポイントのシーンでも良いので、もしありましたらお聞かせ頂ければと思います(*^^*)
(一応、物語にそって進めるので、そのシーンを抜かしたら、多分もう書かないと思いますので)

高彬の「あさっても、しあさっても来る」の台詞は、「明日おいでよね」に掛けているのはもちろんですが、原作2話の「~前にも増して来るようになった」から(きっと毎日の様に行ったんだろうなー)と思ったんです。
律儀なところのある高彬なら、あんな風に宣言したんじゃないかな?と。
本当に色々と妄想が広がってしまいます!

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非公開さま(Nさま)

Nさん、こんにちは。

オマージュ3、お楽しみいただけたようで嬉しいです(*^-^*)
部屋まで送った高彬、案外、そのままそこで朝を迎えていたりして!

非公開さま(Rさま)

Rさん、こんにちは。

本当にそうですよねぇ。
「夜這い」「強硬突破」「契る」なんて言葉が飛びかってる少女小説なんてなかったですもんね(笑)
1話を読んだ限りだと、普通のラブコメでしたよね。
それが3話ではすっかり陰謀事件に突入していて。
でもラブコメ要素もあったりで、本当に引き込まれたものです(*^-^*)

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非公開さま(Mさま)

Mさん、おはようございます。

高彬って案外「男くさい」言葉を言う人なんですよね~。
正真正銘の「お坊ちゃま」でありながら、案外、言葉遣いが悪いってちょっといいですよね。
(もちろん、きちんとした言葉を普段は遣っている、と言うのが前提ですが)

確かに夫婦でもないのに「顔を覗き込む」ってあの時代では異例(?)ですよね。
2人の特別な感じって本当にいいですよね!

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