***第二十一話 み吉野にて<Part2>***

『なんて素敵にジャパネスク〜二次小説』




          注)このお話は連続ものです。
            カテゴリー「二次小説」よりお入りいただき
            第一話からお読みくださいませ。



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*** 第二十一話 み吉野にて<Part?> ***




お医師の話によると、あたしは崖から落ちた時に頭を強くぶつけてしまったらしく、それが原因で記憶を失くしてしまった・・・ということだった。

どうやら胸の骨にヒビが入っているとかで、胸の痛みはそのせいらしかった。

腕と脚にはひどい擦り傷を負ってしまい、それがズキズキと痛む。

発見された時、あたしは子どもを抱きしめていたらしく、見つけてくれたのは、その子どもを探していた者たちで、身につけている衣裳からどこかの貴族の姫だろうと、この辺りの山荘に聞いて回ったそうである。

あたしの帰宅が遅いので大騒ぎになっていたところに、意識を失ったあたしが担ぎ込まれたので、家の者の中には気を失うものもいたらしい。

すぐに京に使いをやり、皆が駆けつけてきたらしいんだけど、あたしは5日間もこんこんと眠り続けていたということだった。

記憶を失くしたと言っても、日常的なことや常識的なことはわかっていて、「これは薬湯だな」とか「ここは山荘なんだ」などの判断は出来るのだけど、いかんせん、回りの人たちが知らない人ばかりなのは、どうにも落ち着かない。

当然と言えば当然なんだけど、向こうはあたしを良く知っているわけで

「姫さま」

「瑠璃姫」

と親しげに呼んでくるんだけど、あたしから見たら初対面なんだもん。

説明されて、あたしは内大臣家の瑠璃姫だと言うこともわかったし、最初に目を開けた時にいた人たちが、父上・母上・弟の融・煌姫と言う宮家の姫・女房の小萩だった・・・ということもわかったんだけど。

今、動かすことは出来ないので、とりあえずはこのまま吉野で静養し、身体の回復を待って京に連れて帰ろう、と言う話が父上と母上の間でなされたらしく、あたしはしばらくの間、吉野で過ごすことになったのだ。

父上たちはいったん、京へと帰って行き、女房の小萩だけが残った。

「ねぇ、おまえ」

「なんですの、姫さま」

声をかけると、小萩という女房がいそいそと答える。

あたしから話しかけられるのが嬉しくてたまらないと言った風情である。

あたしが意識を取り戻してから三日がたっていた。

「・・・・少し起き出しちゃ、・・・だめ?」

頭と胸の痛みは相変わらずだし、熱も出たり下がったりなので、ここんとこ、ずっと伏せっているのだ。

あたしって、身体を動かすことが好きだったんじゃないかしら。

ずっと横になっていると、退屈と言うか落ち着かないと言うか、なんだか気が滅入ってくるのよ。

記憶を失ってるのに、退屈って言うのも変だけどさ。

小萩はしばらく考えていたんだけど

「そうですわね。少し気分を変えられるのも良いかもしれませんわね」

と許してくれた。

小萩があたしを起こしてくれて、袿を着せかけてくれ、半身を起こした状態で、あたしはゆっくりと外の景色に目をやった。

芽吹いて少しばかり成長した木々の葉が風に揺れている。

どこからか鶯の鳴き声がする。

「春なのねぇ・・・」

思わずつぶやくと、小萩は

「桜もずいぶんと咲きましたのよ、姫さま。姫さまは吉野の桜をとても楽しみにしてらしたのですわ」

気を引き立てるように言う。

お医師から無理に思い出させるように仕向けるのは良くないけど、少しでも思い出すきっかけになるように、記憶を失くす前の話をするのは必要だと言われているからか、小萩はこんなふうに自然な感じで、いろんな話をしてくれるのだ。

桜かぁ。

遠くに見える吉野の山並みが、ぼうっと霞んで見える。

あたしはこの桜を見に、ここ吉野にやってきたのかしら・・・。

ぼんやりとしていると、外の方がざわざわとしてきて、どうやらそれは従者や人夫の声らしく、誰かがこの山荘に着いたらしい気配があった。

小萩が慌てたように部屋を飛び出して行き、やがて人を案内してきた。

衣擦れの音も優しく、忍びやかに現れたのは、一人の公達だった。

二藍の直衣にうす紫の指貫をはき、すっきりとした身なりのその人は、小萩が用意した円座にゆっくりと腰を下ろした。

あたしたちは、しばらくの間、見つめ合っていた。

あまりにまっすぐに見つめてくるので、なんだか目をそらしちゃった。

何か言ってくれないかな。

こんな風に吉野まで来てくれるんだから、それなりに親しくしていたんだろうけど、はっきり言って誰だか全然わからない。

まさか、京からわざわざ来てくれたお客人に向かって「あんた、誰よ」と聞くわけにもいかないし・・・。

と思っていると、小萩がつつっと寄ってきて

「姫さま。高彬さまですわ」

耳元で囁いた。

ふーん。この公達、高彬って言うの・・・・。

そうとわかれば。

「えっと・・、わざわざ来て頂いて申しわけなく思います。あの・・・高彬さまは・・」

「高彬だ」

言いかけると、ふいに強い口調でさえぎられてしまった。

何か失礼なことを言っちゃったのかしら?怒ったような怖い顔をしている。

「高彬でいい。瑠璃さんは・・・あなたは、ぼくをそう呼んでいたんだ。高彬、と」

相変わらず口調は強いのだけれど、それでも何とか表情を和らげようとしているみたい。

「えっと・・・、あの・・・高彬・・・は・・・」

立派な公達を呼び捨てにすることが何とも気がひけて、しどろもどろに切りだすと

「ぼくは・・・藤原高彬だ。右近少将を務めている。それで、あなたの・・・」

ふっと言葉を切ったかと思うと、あたしの目をまっすぐに見ながら

「瑠璃さんの・・・婚約者だ」

と言った。

「婚約者・・・・」

あたしの歳から言って、婚約者がいたって、ううん、それどころか結婚してたって不思議ではないわけだけど。

でも、全く知らない人が婚約者って、おかしな気持ちよー。

何と言って良いかわからずに黙っていると、ふと、すすり泣くような声がして、振り向くと、小萩が袖で顔を隠すように泣いている。

「えぇっと、そのう・・・」

婚約者であると言う高彬に向かっておずおずと話しかけると、「ん?」と言う風にあたしの顔を覗き込んできた。

その顔はさっきみたいに怖い顔ではなく、表情も柔らかく優しげで、何となくあたしはホッとした。

良かった、優しい人みたいだわ。

婚約者と言うからにはあたしのことに詳しいんだろうし、色々聞いてみようかな。

父上たちは、ゆっくり話す間もなく京に戻っちゃったしね。

「ぼくと瑠璃さんは幼なじみなんだ。弟の融と三人でよく遊んでいた」

何から聞こうか思いあぐねていると、まるであたしの胸の内を見透かしたように、話しだしてきた。

「石蹴りをしたり、相撲をとったり。一日中、泥だらけになって遊んだものだよ」

そう言ってあたしを見たかと思うと

「ぼくは瑠璃さんに、よく投げ飛ばされたな」

と笑った。

「投げ飛ばした・・・?あたしが・・・?」

びっくりして聞き返すと、ますます笑いながら

「池に落とされたこともあったよ」

おかしそうに言う。

「池に・・・?」

あたしってどんな姫だったのかしら。池に落とすなんて。

でも、この公達は何だか楽しそうで、わけがわからない。

「・・・・結婚は、いつ・・・・なのかしら・・?」

めんくらいながらも聞くと

「ちょうど一月後だよ」

高彬は答えた。

「一月後・・・」

一月後に結婚を控えた京の姫が、どうしてまた吉野くんだりまで来ているのかしら?

「あのぉ・・・どうして、あたしは・・・吉野に来たのかしら・・・?」

そう言った瞬間、高彬の顔つきがすぅっと真面目なものになった。

そうして、しばらくの間、じっとあたしの目を見ていたんだけど、少し笑って

「ここ吉野は、瑠璃さんが幼い頃に過ごした地なんだ」

と言った。

「・・・そうなの・・・」

「それで・・・」

高彬は一度、唇を引き結んだかと思うと

「瑠璃さんには、吉野君と言う初恋の君がいたんだ」

「初恋の君・・・」

「そう。瑠璃さんが十歳の頃に亡くなられたそうだ。・・・・これはぼくの想像だけど、瑠璃さんは結婚する前に、初恋の君と過ごした思い出の地に来たかったんじゃないかと思う」

「思い出の地・・・」

つまり、あたしには初恋の人がいて、結婚前にその人との思い出の場所、つまりはここ吉野に来た、と。

そういうことなのかしら。

なんだか・・・・ずいぶんと失礼な話だわ。自分で言うのも変だけど。

まるで、婚約者がいるのに、初恋の人が忘れられずにいるみたいじゃない。

あたしって、イヤな女だったのかしら。

黙りこくっていると、いつの間に下がっていたのか、小萩が簀子縁に現れて

「あまり長くのご語らいはお身体に悪うございますわ。高彬さま、また後刻にされては・・・」

と、控えめながらも口上を述べた。

「あぁ、そうだ。すまなかったね」

高彬はゆっくりと立ち上がり

「瑠璃さん、いったん、失礼するよ」

あたしに挨拶をすると、来た時と同様、衣擦れの音も優しげに退出していった。



           
            <第二十二話に続く> 

  


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