社会人編<46>

あたしの叫び声に、道行く人は皆、何事かと足を止めた。

わざわざ振り返る人もいる。

あたしの視線がまるで一本の道を作るみたいに、人の波が面白いように引けて行った。

その先にいる高彬にもあたしの声は届いたようで、驚いたように振り返った高彬は、少しの間立ち尽くし、そうしてあたしに向かって走り寄って来て────







─Up to you !─side R <第46話>






一気にあたしのところまで来た高彬は、さっきの驚いた顔とは比べ物にならないくらいもっと驚いた顔をしていた。

すぐには頭が回らないようで、それでもへたり込んでいるあたしをどうにかしなければと思ったのか、無意識のように手を差し出しながら

「瑠璃さん、あなたと言う人は・・・」

瞬きもせず、呟くように言う。

差し出された高彬の手を両手で掴みながら

「あたし、高彬のことが好きよ。あんたが結婚するって聞いてやっと気付いたの」

あたしは口早に言った。

普段のあたしだったら口が裂けても言わないような素直な告白の言葉がすんなりと出てきた。

舌がもつれそうだったけど必死だった。

「だからお願い。あの人と結婚しないで」

言いながらしゃがみこんだ高彬の首に腕を回ししがみつくと、回りからどよめきが上がった。

「何なに、映画の撮影か何か?」

「男の方、見たことあるかも」

「撮影クルーどこよ」

てんでに話す声が聞こえて来たけど構ってなんかいられなかった。

「る、瑠璃さんっ」

耳元で狼狽したような声が聞こえ、両肩に遠慮がちに高彬の手が置かれた。

引き離される──と思った次の瞬間、強い力であたしは抱きしめられていた。

「瑠璃さん」

言いながらぎゅうぎゅうと抱きしめてくる。

「高彬ぁぁぁ」

負けじとあたしも抱きついた。

家のため好きな人を諦めようとする男と、思いを遂げようと思う女。

引き裂かれそうな運命に逆らうように、人目も憚らずに抱き合うふたり───

こんなにロマンチックでいいのかしら・・・・




*****************




「え・・・・?高彬が結婚するんじゃないの?」

アイスティーをストローでかき回していた手が止まり、向かいに座る高彬をあたしはぼんやりと見返した。

あの後、すぐに冷静に戻った高彬は、あたしが足を挫いてることに気付くとあたしを抱き上げ、観衆のどよめきの中、一番近いこのカフェへと連れて来たのだ。

これだけの人混みの中をお姫さま抱っこで歩いたりしたもんだから、そりゃあもう目立って仕方なかった。

だけどねぇ、お姫さま抱っこって言ったってロマンチックの延長でも何でもないのよ。

救助活動の一環と言うか。

それが証拠に、店に入ったとたん、お店の人にビニールに氷を入れたものをお願いして、テキパキと足を冷やしてくれたしさ。

それでようやく落ち着いて、こうして向かい合ってお茶を飲んでると言う訳なんだけど・・・

結婚するって・・・高彬じゃなかったの?

「うん。第2マーケティング部の藤原さんだよ。瑠璃さん、知らない?ほら、30ちょい過ぎでメガネをかけたさ」

「・・・・・・あぁ」

そういやそんな人いたっけ。

中肉中背でメガネかけてて、お給料の大半をアイドルの追っかけに費やしてるってもっぱらの噂の・・・

「藤原さん、実家が造り酒屋でさ。何でも親族会議で、親父さんが引退を発表したらしいんだ。足腰が丈夫なうちに世界中を旅したいって理由で。それで急遽、長男である藤原さんにお鉢が回ってきたらしい。まぁ、藤原さんとしてもゆくゆくは家業を継ぐつもりだったみたいだから何の異論もないらしいけどね」

「・・・・・」

「それで、家業を継ぐに当たって藤原さんにも思うところがあったみたいでさ、学生時代から付かず離れずの関係のあった人と結婚することにしたらしいよ」

「何でそんなに詳しいのよ、会社来てなかったくせに」

「そりゃ詳しいよ、本人から聞いたんだから」

「本人から?」

「うん、一昨日だったかな、藤原さんから実家に電話があったんだよ、来月の結婚式に出てもらえないかって」

「高彬、2マケの藤原さんとそんなに親しいの?」

「親しいってほどじゃないけど、いつだったか研修で一緒になったことがあってさ。まぁ、それ以来、会えば立ち話するくらいには親しいかな。実家の連絡先も教えていたのかも知れないね、よく覚えてないけど」

「・・・・・・」

「そんなことよりさ。どうして瑠璃さんは、ぼくが結婚するって思ったのさ」

ふと思い出したように高彬は言い、あたしはしばらく高彬を見た後、ふぅと大きく息を吐き出した。

「お祖母さまにもし何かあったのなら、突然の結婚も有り得るのかなって思ったのよ。携帯にかけても全然、繋がらないし、会社はずっと休んでるし・・・・」

「あぁ、携帯か。充電切れだよ。ほら、あの日、そのまま実家に向っただろう。実家に充電器なくってさ。元々、うちはアナログな家だから、実家で携帯持ってるの由良だけだし。由良とは機種が違ったんだ」

「・・・・・・」

「まさか瑠璃さんが連絡くれるなんて思ってなくてさ。悪かったね」

「あの・・・、それで、お祖母さまは・・・?」

「うん。お蔭様で持ち直して、昨日、退院したよ。だけど、さすがだね、瑠璃さん。瑠璃さんの推察は当たらずとも遠からず、だよ」

「え」

「実はさ、実際そういう話が出たんだよ、ぼくに身を固めて藤原家を継いで欲しいって」

「・・・・」

「でなければ由良に婿取りをさせるって言われてさ。いいのをあてがうって言うんだよ」

「由良ちゃんに?」

「うん。そんなことさせるわけに行かないだろう?それで、久しぶりにそのことで親父と揉めたんだ。まぁ、後ろで手を引いてるのは守弥とお袋だけどね」

「・・・・」

「それでぼくもついつい声を荒げてしまってね、その声を聞きつけた由良がやってきて、自分は家を継いでも構わないって言い出したんだ」

「でも、それは・・・」

「うん。ぼくを気遣ってのことかと思ってたらさ、どうやら本心みたいなんだよ。確かに由良は、見た目はあんな感じだけどなかなかに芯の強いところもあるし、まぁ、ある意味、過激なところもある子でさ。案外、適任かも知れないなぁ・・、なんてぼくも思い始めてさ。ただし、ひとつだけ条件があるらしくてね。結婚相手は自分で見つけると言う事なんだ。親の決めた相手とだけは絶対に嫌だと。まぁ、男のぼくだってそう思うんだから、由良がそう考えるのは当たり前と言えば当たり前だけどね」

「それはまぁ、そうでしょうね」

あたしは大きく頷いた。

由良ちゃんかぁ。

しっかりした子みたいだし、何も家を継ぐのは男だけと決まったわけじゃないし、本人が良い人見つけてきて、それでいいと言うのなら、いいのかも知れないわねぇ。

ま、そうなると融の失恋、確定って気がするけど。

「そういえば高彬。時間は平気なの?明日、何かあるんじゃないの?」

こうなった以上、それが入籍とか結婚式とかそれは有り得ないのは判るんだけど、だけど何か予定があるんだとしたら長く引き止めてしまうのも悪いと思って言うと

「あぁ、明日はね、リフォーム業者が来るんだよ」

「リフォーム?」

「うん。お祖母さまは今まで離れに居たんだけど、皆と一緒の方がいいだろうと言う事になってさ。古い家だから段差やら何やら多くて。この際だからバリアフリーにしようってことになったんだ。それにぼくも立ち会うというか、まぁ、ぼくが実質の担当窓口みたいなものかな。有給もたまってることだし、これもお祖母さま孝行だと思ってさ」

言い終えた高彬はコーヒーをゴクリと飲み、あたしはと言うと深い深いため息を付いてしまった。

こうして高彬から説明を聞けば全てが納得で───

あぁもう!あたしったら何をどう勘違いして、高彬が結婚するなんて思っちゃったんだろう?!

早とちりにも程があるわよ・・・

公衆の面前であんなこと、わーわー喚いちゃって。

穴があったら入りたいほどの後悔に身悶えしていると、コホンと言う小さな咳払いが聞こえた。

顔を上げると、カップを置いた高彬が居住まいを正したところだった。

「その・・・、瑠璃さんさ。さっきの・・・話・・・なんだけど」

今までの饒舌さがウソみたいにしどろもどろに言い、よく見ると薄っすらと顔が赤い。

「・・・・・」

そっか。

テキパキも、饒舌も、高彬なりの照れ隠しだったのね・・・

そう思った途端、にわかに動悸がしてきて、あたしまで顔が火照ってしまうのだった。






…To be continued…


(←お礼画像&SS付きです)

コメントの投稿

Secre

非公開さま(Nさま)

Nさん、こんばんは。

ようやく両思いの2人です^^
Nさんは高彬の婚約だと思っていたのですね。
実は全く別人のアイドルヲタクの藤原さんでした(笑)

社会人編も終わりが見えてきて、私も一抹の寂しさを感じています。
連載が終わる時はいつもいつも感じます。
多分、その設定の2人が好きになりすぎて、ず~っとこの設定での2人を書いていたいと思うんだと思います!

非公開さま(Mさま)

Mさん、こんばんは。

そうそう、原作でも小萩のいる前で盛り上がってましたしね(笑)

瑠璃「波乱はナシ、よ」
高彬「ほんと?瑠璃さん」
瑠璃「どーんとまかせない」

と言う感じで、この先はラブラブ満載でお届けする予定です!

非公開さま(Yさま)

Yさん、こんばんは。

お父様、退院の目処がたって良かったですね。
車の運転は本当に心配ですよね・・

あとはラブラブ、です!(笑)

非公開さま(Rさま)

Rさん、こんばんは。

ゴールまではもうず~っとラブラブですよ!ご安心ください(笑)
高彬のお姫さま抱っこ、絶対に決まってましたよね^^

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