<原作オマージュ>2~原作一巻より

『なんて素敵にジャパネスク〜二次小説』




注)このお話は一話完結です。
原作のあるシーンを高彬目線で書いていますのでネタバレとなっています。
原作未読の方はご注意ください。
          
          




***<原作オマージュ>2~原作一巻より***








またか───

また吉野君の話か、とぼくは隣の融に気付かれないようにため息をついた。

瑠璃さんの口から「吉野君」の名を聞くのは、これで何度目だろう。

瑠璃さんが吉野から帰ってきてからと考えるとかれこれ6年近くも前からだから、おそらく数えきれないくらい聞いたはずだ。

初めのうちは良かった。

瑠璃さんの口から語られる吉野君と言う童は、ぼくが聞いても「いい人」に思えて

(ふーん。瑠璃さんは吉野で楽しかったんだな)

くらいにしか思わなくて、ぼくもニコニコと聞いていたように思う。

それがいつからかはっきりとは覚えていないけど、瑠璃さんが吉野君のことを話すときには、ある意志が込められていることに気が付いたのだ。

それは簡単に言ってしまえば、ぼくや融をけなす時だ。

いわく

「あんたたちと比べて吉野君は───」

「そこいくと吉野君は───」

そんな感じで、まるでぼくたちをけなすときの枕詞のように吉野君の名前を出してくる。

「あたしが言いたいのは人間の品性よ、吉野君は・・・」

またしても吉野君賞賛が始まりそうな成り行きに、ぼくはすかさず口をはさんだ。

「また吉野君か。何かと言うと瑠璃さんはすぐそれだ。吉野君と比べられたって・・・」

「誰もあんたとなんて比べてないわよ」

御簾越しに瑠璃さんが睨んでいるのを感じる。

「比べものにもならないわ」

「・・・・」

何なんだよ、その言い草は。

きついその物言いにムッとして言い返そうとしたところで、融が仲裁に入ってきた。

瑠璃さんを取りなし

「高彬、部屋で演奏の練習をしようよ」

と小声で言ってくる。

不承不承頷きながら立ち上がっては見たものの気持ちは収まらない。

本当に何なんだよ、瑠璃さんは!

大切な約束をすっかり忘れて、それだけでもひどいのに、更に追い打ちをかけるように「人間の品性」が「比べものにならない」だなんて。

いっそ、ここで

「瑠璃さんはぼくの婚約者じゃないか!忘れたのか!」

とでもわめいてやろうか。

どのみち「比べものにならない」「品性」と思われているのなら、いっそ、とことんそう振る舞ってしまおうか・・・なんて自虐的な気持ちにもなってくる。

何か言ってやろうと口を開きかけると、ぼくが何か言うより先に瑠璃さんの言葉が飛んできた。

「高彬は琵琶しか取り柄がないんだから、せいぜい練習してちょうだい」

嫌味たらしい口ぶりにまたしてもムッとくる。

「瑠璃さんこそ筝の琴の練習をやった方がいいよ。現代は女たるもの、琴も満足に弾けないようじゃ『結婚しない』じゃなく、できないんだからね。行こう、融」

融を促し退席しかけると

「おととい来やがれ、礼儀知らず!」

後ろから瑠璃さんの怒鳴り声が聞こえ、融はと言うと、瑠璃さんから見えない角度で口をへの字に曲げ、両手で耳を塞いでいる。

瑠璃さんの怒鳴り声に負けないようにとヤケクソで大声で笑いながら歩き出す。

あぁ、ちくしょう!

こんなことが言いたいわけじゃないのに。

渡殿を歩きながら融は盛大にため息を付き

「本当に姉さんて気が強いよなぁ。あれじゃあ結婚しなくて正解だよ。したら相手が可哀想だよ」

ちょうど向こうからやってきた小萩に向かい

「あ、姉さんとこ行くんだったら白湯でも持ってってあげてよ」

「白湯、でございますか」

「うん。怒鳴り散らしてきっと喉が渇いてるだろうからさ」

「はぁ・・」

首を捻りながら行く小萩を見送ると

「ぼくたちは、大人しくて可愛い人と結婚しようよね。姉さんと真逆のさ」

またすれ違った、今度は自分付きの女房に

「あ、おやつ持って来て」

なんて言っている。

連れ立って融の部屋に入ると思い思いに着座する。

宮廷では座る場所一つとっても大それた決まり事があるから何かと気が抜けないのだけど、融とぼくだと上座も下座もないから気楽だった。

「兵部卿宮の二の姫なんかいいよなぁ。姉さんもあの十分の一でもいいから見習ってくれないかなぁ」

ごろんと横になりながら融が言い、ぼくは複雑な気持ちで融を眺めた。

瑠璃さんに本気で腹を立てながらも、でも融と一緒になって瑠璃さんを悪く言う気にはなれないのだ。

おとなしくて可愛い姫がいいよなぁ、とはどうしても思えない。

二の姫との縁談を断ったなんて言ったら融は驚くかもしれないな。

それにしても。

瑠璃さんも呑気なものだ。

十日後の管弦の宴が、本当は権少将と引き合わせるために用意されたものだと知りもしないで・・・

権少将、か。

名前が浮かんだだけで苦々しい気持ちになってしまう。

調べてみたら、スキャンダルが出るわ出るわの人物で、そんなのが瑠璃さんの結婚相手だなんて冗談じゃない。

一体、どうしたらいいんだろう。

ぼく一人の力で大納言さま主催の宴を止めることなんて出来るわけがないし。

いっそ、天変地異でも起こってくれないかとさえ思ってしまう。

父上に泣きつけばまだ何とかなるかも知れないけど、そんなことは男としてのプライドが許さない。

かと言ってこのまま手をこまねいて見ているわけにもいかないし・・・

この十日ほど続いている思考のループにまたしても陥ってしまい、ぼくは持ってきた琵琶を勢いよく引き寄せた。

ヤケクソも手伝って琵琶をジャカジャカと掻き鳴らすと融が驚いたように身体を起こした。

「何、その音」

「新手の弾き方だ」

「へぇ、そうなんだ」

感心したように融は頷いた。

そんなことあるわけないだろ、馬鹿。




*************




十日後はすぐにやってきた。

期待した天変地異も起こらず、それどころか雨さえ降らずに絶好の宴日和だった。

案の定、面白くない。

いや、もっと言ってしまえば腹立だしい。

どうしてぼくが瑠璃さんと権少将の出会いの場に、華を添えなければならないんだ。

しかも、さっきちらりと瑠璃さんと言葉を交わしたところによると、もうすでに権少将は瑠璃さんに来訪の算段を取り付けているというところが気に食わない。

思ってた以上の急展開だ。

居てもたってもいられない気持ちで、適当なところで宴を抜け出し融の部屋に向かう。

一体、どうしたら───

脇息に寄りかかり思案していたら、遠くからやけに乱れた足音が近づいてきた。

まさか、琵琶の演奏の催促か・・?それにしちゃ随分としつけのなっていない女房だな、などと思っていたら、すごい勢いで妻戸が開き人が転がり込んできた。

そうしてそのままぼくにしがみついてきたかと思ったら

「融、融、助けて!姉さんの貞操の危機よ!」

喉も裂けよと叫んでいる。

───る、る、瑠璃さんっ?!





<原作オマージュ3へ続く>


(←お礼画像&SS付きです)

コメントの投稿

Secre

非公開さま(Rさま)

Rさん。

この時期の高彬は、絶望と希望のはざまに揺れていた・・・って感じでしょうか。
ほんと、報われてよかったですよねぇ、高彬。
オマージュ3に続きま~す(^^)

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非公開さま(Uさま)

uさん、こんばんは。

別館もご覧いただけたようで嬉しいです(*^-^*)
そして原作オマージュもお楽しみいただけたようで良かったです。
何度も読み返しているだなんて、最高に嬉しいお言葉です。
ありがとうございます。
続き、なるべく早めにアップするようにしますので、またよろしくお願いいたします<m(__)m>

非公開さま(Yさま)

Yさん、こんばんは。

この後の高彬はかっこいいですよねぇ~。
「高彬版・なんて素敵にジャパネスク<全8巻>」が書けるかどうかは判りませんが(書くとしたら一生掛かりそう・・(^^;)ところどころの気になるシーンは書けたらいいなぁ~と夢見ております。(夢で終わるかも知れませんが・・)

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