社会人編<45>

店の入り口で驚いた顔でしばらく立ち尽くしていた高彬は、次に入って来たお客さんに気付くと慌ててあたしたちのテーブルに近づいてきた。

「由良が助けてもらった人って・・・瑠璃さんだったんだ・・・」

空いていたイスに腰掛けながら驚きを隠せない声で言い、そうしてあたしと若い女性を交互に見た。






─Up to you !─side R <第45話>






事態が呑み込めずにきょとんとする女性、あまりの偶然に呆然とするあたし、そして同じくなかなか驚きが収まらない高彬───

三者三様の思惑が入り乱れ、テーブルには奇妙な沈黙が流れ、それを破ったのは融の声だった。

「あのさ、助けたのは姉さんだけじゃないよ。ぼくもだよ、高彬」

唇を尖らせながら拗ねた声で言い

「あ、あぁ、融。おまえもいたのか」

ふいに話しかけられた高彬は、今初めて気が付いたと言うように融を振り返り、こんな時だけどあたしはずっこけそうになってしまった。

ほんっと、我が弟ながら影薄いんだから。

「お兄さま、この方たちとお知り合いですの?」

若い女性が高彬に聞き、高彬は大きく頷いた。

「うん。会社の・・・同僚なんだ。こちらは藤原瑠璃さん。そしてこっちが瑠璃さんの弟の融。こっちはぼくの妹の由良だ」

あたしたちを順番に手で指し示しながら紹介し

「と、融です。よ、よろしく」

融は自分の服でごしごしと拭いた右手を若い女性──由良ちゃんに差し出した。

「・・・・」

目をまん丸くした由良ちゃんは、それでも小さく笑うとおずおずと手を出して融の握手に応じてくれている。

いい子だわぁ・・・

ま、高彬が(おやおや)とでも言うように眉を上げたのをあたしは見逃さなかったけれどね。

あたしたち4人は、由良ちゃんの体調を心配しつつ、この偶然を驚き合い、しばらくは談笑を続けたのだけど、その実、あたしはじれじれしていた。

高彬に聞きたい。

会社で流れてる、結婚するって噂。

でも、この状況じゃ聞けるわけもなく、向かいに座る高彬をそっと盗み見ると、どうやら高彬にも思うところはあるらしく、あたしと目が合うと意味ありげに目交ぜしてきた。

高彬の真意を汲み取ろうと凝視していると

「お兄さま、そろそろ・・」

由良ちゃんが控えめに高彬に声を掛けてきた。

「あ、うん・・。そうだな」

高彬はどこか慌てたように頷き、帰る素振りを見せ始めると

「も、もう少し、話そうよ。その・・・、体調が良ければ、だけどさ。ゆ・・・由良ちゃんの」

融は身を乗り出して言う。

友だちである融のためなのか、それとも自分がまだ帰りたくなかったのかそれは定かではないけれど、高彬は

「どうする?由良。体調はどうだ」

と由良ちゃんを振り返った。

「体調は大丈夫ですけど・・・、でも、お兄さま、明日は・・」

小さな声で言うと、そこで言葉を切り、兄である高彬の言葉を待っている。

少し考えていた高彬は

「うん、そうだな。今日はこれで失礼することにするよ」

由良ちゃんを促しながら立ち上がり

「またな、融。それと・・・えぇっと、瑠璃さん。その・・・、また、会社で。その、色々と」

あたしに向い、やけに歯切れ悪く言った。

レジで支払いをする高彬を見ながら

「由良ちゃんに、アドレス教えてもらえば良かったな・・」

融は呟き、あたしはと言えば頭の中がぐるぐると回りっぱなしだった。

───明日?

明日、何があるって言うの?

まさか───

結婚式?──入籍?!

「そんな・・・!」

高彬たちが出て行ったドアを見ながら、あたしは思わず立ち上がっていた。

家の事情とか、タイミングとか、そういうの色々あることは判るけど。

でも。

好きだ、付き合おうって言ってくれたのに、そんなに簡単にあたしを諦めちゃうの?

あたしへの気持ちってその程度のものだったの?

あたしは───

あたしはまだ、高彬に好きだとすら伝えていないのに!

気が付いたらあたしは店を飛び出していた。

高彬がどちらに行ったのか判らず左右を見回して見ても、ものすごい人出で高彬の姿は見えない。

諦めきれずに背伸びをして見ていたら、人波の中に高彬の背中があった。

慌てて走り出そうとした途端、足を変に捻って躓いてしまい、立ち上がろうにも痛くて立ち上がれず、その場にへたり込んでしまった。

人混みの中、どんどん小さくなって行く高彬の後姿・・・

このままだと高彬が行ってしまう───

次に会った時は、もう結婚した後だったなんて、そんなのは絶対に嫌!

大きく息を吸い込むと、あたしは大声で叫んだ。

「誰かその人を止めてー!藤原高彬って言うの!あたしの好きな人なのーーーー!」






…To be continued…


瑞月です。

父は容態が安定していたので、今日、一旦退院をしました。

月曜日に再入院をして、火曜日にカテーテル検査となりました。

こんなに早くに更新出来たのなら、あんな「お知らせ」記事を上げなければ良かったと後悔しています。

ご心配をおかけしすみませんでした。

社会人編もいよいよ大詰め。最後までお付き合いいただければ嬉しいです。


(←お礼画像&SS付きです)

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Secre

非公開さま(Yさま)

Yさん、こんにちは。

その後、Yさんのお父様のご容態はいかがでしょうか。
Yさんも身体に気をつけてお過ごしくださいね。
大詰めの社会人編、お付き合いくださいませ^^

非公開さま(Mさま)

Mさん、こんにちは。

社会人編も残すところ、あと数話となりました。(かなり曖昧ですが^^;)
果たしてふたりの恋の行方はいかに!
・・・・って、ハッピーエンドに決まっていますけどね(笑)

非公開さま(Rさま)

Rさん、こんにちは。

はい、大詰めでございます。
ヤダヤダと駄々を捏ねていただき嬉しい限りです。
ほんと、連載終盤の心理は複雑で、早くゴールを決めたい気持ちと、終わってしまう寂しさに心が千々に乱れます(笑)
平安編ではありえないシーンも社会人編では書けるので、私も自由に書いています。
そして書いてて思うのは、どんな時代設定でも高彬はかっこいい!と言う事です。
氷室先生はなんて魅力的なキャラクターを作り上げたのでしょうね。

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