社会人編<44>

翌朝、実家のベッドで目を覚ましたあたしは、ずっと枕元に置いてあった携帯を手に取るとまずは高彬の携帯に電話を掛けてみた。

だけど相変わらずのアナウンスが流れるばかりでちっとも繋がらず、腹立ち紛れに携帯を壁に投げつけてやろうかと手を振り上げて───

そっと下ろす。

今はこの携帯だけが高彬と繋がれるかも知れない唯一の手段なんだもの・・・






─Up to you !─side R <第44話>






2週続けての帰省を訝しかる父さまからの質問を適当にはぐらかしながらの朝食を終え、英国式庭園に面したサンルームでひとりカフェラテを飲んでいると、ツツ、と小萩が近づいてきた。

そうして回りに誰もいないことを確かめると、小声で

「瑠璃さま、何かございましたの?もしや、この間、名入れのボールペンを買われた方とご関係があるのでは・・?」

「──何で判るの?!」

ギョッとして思わず大声が出てしまう。

「ふふふ、旦那さまの目はごまかせても、この小萩の目はごまかせんませんわよ。先日の帰省の時から瑠璃さまの言動は不自然ですもの。急にお料理に興味を持たれたり、何度も携帯を確認したり。これは瑠璃さまにも良い方が現れたのだと、小萩はピンときましたわ。何かお悩みがあるのでしたら、何なりとお話し下さいませ」

「お話し下さいませって。小萩って恋愛事情に詳しいの?ひょっとして恋愛マスターだったりする?」

「もちろんですわ、瑠璃さま。何たって愛読書はハーレクイン・ロマンスですもの」

「・・・・」

ハーレクインねぇ。

何か違うかなぁ・・と思わないではなかったけれど、溺れる者は藁をもつかむと言うことわざもあることだし、ダメ元で小萩に話してみることにした。

一通りのあらましを聞いた小萩は

「そうですわねぇ・・・、わたくしでしたらもう一度、鴨川に行ってみますわね」

「鴨川に?」

「えぇ。そこにはきっと同じように瑠璃さまをお探しになる高彬さまがいらっしゃるのですわ。そうして川岸と川岸の向こうからお互いの姿を認め、言葉にならない熱いまなざしで見つめ合い・・・」

アホらしくて途中から聞くのをやめてしまったんだけど、フム、とあたしは腕組みをした。

確かに鴨川に行って見るのもひとつの手だわね。

こうして家にいるよりかは何倍もいいわ。

さっそく家を飛び出し鴨川の川原沿いを歩いてみたものの、高彬らしい人影はなく、すごすごと引き返すしかなかった。

「あれ、姉さん、来てたんだ。最近、よく来るね」

家に戻ると、今起きだしたばかりなのか大きなあくびをしながら融がリビングに入ってきた。

昨夜、あたしが家に着いたのは夜中だったから、融はあたしが来たことを今の今まで知らなかったらしい。

だけどいくら着いたのが夜中だったとは言え同じ家に住んでるんだから気配くらいわかりそうなものなのに、そこがやっぱりぼんやりしてると言うかのんびりしてると言うか、融が融たる所以なのだった。

もう少ししっかりしてもらわなきゃ・・・、と久しぶりに説教でもしてやろうかと口を開きかけ、ふと、閃くことがあった。

「そう言えば融、高彬と連絡先交換してなかったっけ?」

「高彬と?うん、してるよ」

「実家の電話番号は?」

「知らないよ。交換したのはアドレスだけだもん」

「そう・・・」

まぁ、そうよね。今日び、友だちに連絡するのに、家の電話に掛けることなんてよっぽどじゃなきゃしないもの。

「高彬がどうかしたの?姉さん、会社で毎日、会ってるんでしょ」

「ここんとこ来てないのよ。家の事情らしくてね。それで連絡が付かなくて困ってるの。ちょっと・・・、その・・急ぎの仕事があって」

姉としてのプライドや照れくささががあって、肝心なところを大幅にカットして言うと、それでも融は何も疑わない様子で

「ふぅん、それは困ったね」

と眉尻を下げた。

融のぼんやりもこういう時は助かるわ。

「それでね、街をぶらぶらしながら高彬を探そうと思ってるの。融、あんたも付き合ってよ」

「えぇ?ぼくも?今、起きたばかりだよ。朝ごはんもまだだし」

「向こうで何か食べればいいじゃない。姉さんが奢ってあげるから」

果たして「奢る」の一言が効いたのか、融は準備をするために大急ぎで2階に上がっていった。

高彬を探すには1人より2人、少しでも多いほうがいいはずよ。

小萩は高彬の顔を知らないし、そうなるとやっぱり頼めるのは融しかいない。

これだけ人の多い京都の、しかも繁華街で、高彬に会える確率はかなり低いけど、でも、何もしないよりはいいもの。

東京から遠く離れた鴨川でばったり会った、あの日のあの確率をあたしは信じるわ!

融と2人、さっそく繰り出してみると、案の定、京都の市街地は土曜日の昼前と言うこともありものすごい人出だった。

「これだけの人混みの中で高彬を探すのなんて無理だよ、姉さん。どうせ月曜には会社で会うんでしょ?その時まで待てばいいじゃないか。ぼく、お腹すいちゃったよ」

さっそく根を上げる融を叱りつけながら、精力的に歩き回るうち足が痛くなってきてしまった。

たった3センチとは言えヒールのある靴を履いてきてしまったことが悔やまれる。

「融、そろそろ何か食べる?姉さんも少し疲れたわ」

「食べる、食べる」

二つ返事の融と、少し先に見えるお店に入ろうと歩いていると、向かいから歩いてきた若い女性とすれ違い、次の瞬間、女性の身体がぐらりと傾ぎ、そのまましゃがみこんでしまった。

「あ、ごめんなさい」

肩でもぶつかってしまったかと反射的に謝り、振り返ると、女性は片手を地面に付き俯いている。

「あの・・・、大丈夫?」

しゃがんで顔を覗き込むと、女性は

「すみません・・。大丈夫・・です・・」

辛そうに目を瞑りながら言い、その顔色は真っ青で、とてものこと大丈夫そうには見えなかった。

貧血や立ちくらみとかかも知れない。

「とりあえず少し休んだ方がいいわ。少し歩ける?あたしに掴まって」

融にバッグを預け、女性の肩を抱くようにして店に入り、取りあえずイスに座らせる。

水を口に含み、少し休んだのが良かったのか、段々と女性の顔色が良くなってきた。

「本当にすみません。もう大丈夫そうです。ご迷惑をお掛けしました」

「いいのよ、そんなこと。良くなったのから良かったわ。ねぇ、余計なおせっかいかも知れないけど、ちゃんと食べてるの?」

「はい。普段はこんなことないんです。ただ、ちょっと最近、家のことで色々と忙しくて・・・」

「そう。まぁ、色々あるものね。・・・ところで、一人で帰れる?自宅は近いの?」

「はい。でも、家に電話して迎えに来てもらおうかと思います。また倒れたら困るし・・」

「そうね、ご家族がいるのならそれがいいわ。ねぇ、融・・」

相槌を求めるために融の顔を見たあたしは、思わず口をつぐんでしまった。

融と来たら、ほんのりと頬を染め、心なし潤んだ目で前に座る女性を見つめているのだ。

何てわかりやすい態度なの!

ハーレクインなんて読んだことのないあたしでも、一目で融が恋に落ちたことが丸わかりだった。

そりゃあ、可愛い子だけどさぁ・・

可愛いだけじゃなく清楚だし、その上、何かこう人懐っこいと言うか、初めて会った気がしないと言うか。

それにしても恋に落ちるの早すぎない?!

バッグから取り出した携帯で自宅に電話する女性を融はぼぅっと見つめ、我が弟の惚れっぽさに密かにため息がでてしまう。

「すぐに兄が迎えに来てくれるそうです」

「そう、良かったわ」

この子を見送ったら腹ごしらえをして、また高彬の捜索開始だわ、なんて考えていたら、店のドアが開きカウベルが店内に響いた。

「お兄さま!」

振り向いた女性の顔がパッと明るくなり、釣られて視線をやったあたしはびっくりして思わず立ち上がってしまった。

「高彬!」

「る、瑠璃さん!」

そこには、誰あろう、高彬その人が立っていたのだった。






…To be continued…


(←お礼画像&SS付きです)

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Secre

非公開さま(Mさま)

Mさん、こんばんは。

はい、出会う運命なんです(*^^)v
瑠璃vs守弥のround2は・・、どうしましょうか?
それを入れるとまた話が長くなってしまいますが・・(^^;
ちょっと更新が先になってしまうかも知れませんが、よろしくお願いいたします!

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