社会人編<43>

「・・・ねぇ、聞いた?藤原くん、結婚するんだって」

オフィスビルの27階。

見晴らしのいい社員食堂でランチを食べていると、後ろのテーブルで話す違う部の女性社員の声が聞こえてきた。

思わず箸が止まってしまう。

高彬が結婚?!

───まさか!

────ウソでしょ!






─Up to you !─side R <第43話>






「聞いた、聞いた。びっくりよねぇ。彼女いるなんて噂もなかったのに、いきなり結婚だなんて」

「もしかしてデキ婚だったりして」

「ううん、そういうわけではないみたい。何でも家の事情とかで急遽、結婚することになったみたいよ」

女性社員たちのおしゃべりは続き、あたしはと言うと、気持ち上体を後ろに傾けて耳をそばだててしまった。

「どうしたの?瑠璃ちゃん。エビチリ、冷めちゃうわよ」

「あ、はい・・・」

向かいに座る藤宮先輩に声を掛けられて、慌てて笑顔を作る。

何とかエビチリを詰め込むと、「食後のコーヒーでも」と言う誘いを仕事を口実に断り、先に席を立った。

席を立ったところでこれと言って行くあてもなく、しばらくウロウロしていたんだけど、結局、自分のデスクに戻ることにした。

昼時のオフィスは閑散としていて、イスに座るとそっと隣の高彬のデスクに目をやる。

綺麗に片づけられたままの机。

高彬は、あの日───お祖母さまが危篤と言う知らせを受けてから、もう4日も出社していないのだ。

翌日、気になってメールを送ってみたものの返信はナシ。

2日目には意を決して高彬の携帯に電話をしてみたら、あのお決まりのアナウンス『お掛けになった電話は──』が流れるばかりで繋がらなかった。

会社には連絡が行ってるかと思い部長にそれとなく聞いてみたら

「あぁ、藤原か。家の事情で少し休むと言うことだ」

だけで終わってしまい、それ以上、突っ込んで聞けるような雰囲気でもなく

「はぁ、そうですか」

と引き下がるしかなかった。

もしかしたらお祖母さまが・・・・、と思うとズケズケと聞けるものでもないしさ。

高彬のあの時の慌てぶりを考えたら、お祖母さまの身に何かあったとしたら相当、ダメージを受けていそうだし・・・

何かあったとしても休み明けには出社してくるのかな、その時にはどんなお悔やみの言葉を言ったらいいのかしら、なんて思っていたんだけど、だけど、まさかいきなり<結婚>だなんて。

そんな馬鹿な、と思うけど、でも高彬の家はなかなか複雑そうだったし、あの守弥とかいう男が強引に結婚を勧めて来てることを思うと、それもあり得なくもないのかなぁ・・・なんて思えてくる。

そわそわと落ち着かない気持ちで午後の仕事をこなし、結局、終業近くに飛び込んできた急ぎの案件のせいで2時間半の残業を余儀なくされてしまった。

金曜日と言う事で、皆、いつもよりも退社が早く、オフィスにはあたし一人になってしまう。

「・・・・」

静かになったオフィスであたしは小さな吐息をもらした。

思えば高彬はあたしが残業をしていると「いい」と言うのに必ず手伝ってくれ、あたしがオフィスで一人になるということはなかった。

あたしはそれを、どこかで当たり前と思っていたわけで───

だけど当たり前じゃなかったんだ。

高彬はきっとあの人と結婚をして、そうして高彬の優しさや、高彬の良さみたいなものは、全部あの人に向けられるようになる・・・

そう思ったらズキリと心が痛んだ。

あたしは高彬の恋人でも何でもない。

だってあたしは何の返事もしていないもの。

──嗚呼、あたしの馬鹿!

どうして「考えておくわ」なんてはぐらかしちゃったんだろう。

もしかしたらあたしはすごく大切な人を失ってしまうのかも知れない・・・

居ても立っても居られない気持ちで、慌てて立ち上がった。

何をしたらいいのか判らないけど、でも、こうしちゃいられない。

ドアを閉める前、パチンと全ての電気を消すと、オフィスの中央にある水槽だけが暗闇の中、ぼぉと浮かび上がり、中を泳ぐ熱帯魚が良く見えた。

その後ろには窓ガラス越しにビル群の夜景が広がっていて、まるで、熱帯魚が夜景の中を泳いでいるみたいだった。

初めての光景に数秒見惚れて、あたしはパタンとドアを閉めた。

ビルを出たところでタクシーを停める。

エレベーターの中で高彬のマンションに行ってみようと思いついたのだ。

もしかしたら帰宅していると言うこともあるんじゃないかしら?

だけど、記憶を頼りにたどり着き、インターホンを押して見たものの反応はなかった。

予想はしていたから落胆はなかったけど、それでも少しがっかりした。

気を取り直して待たせておいたタクシーに再度乗り込み

「品川駅に」

と告げる。

こうなったら京都に行くしかないわ。

行ったところで高彬の実家の場所はおろか、電話番号さえ知らないんだけど。

ほんと、あたしが高彬のことで知ってることなんて、携帯の番号とアドレスくらいなのよ。

高彬を見送ったのと同じ改札を通り、タイミング良くやってきた新幹線「のぞみ」に飛び乗った。

窓に映る自分の顔を見ながらあたしは確信していた。

あたしは───

高彬が好き。






…To be continued…


(←お礼画像&SS付きです)

コメントの投稿

Secre

非公開さま(Rさま)

Rさん、おはようございます。

あわわわ・・・。Rさん、その予想、ドンピシャリ!ですよ(笑)
ぜひぜひご内密に・・・<(_ _)>
京都、私も行きたいですー!

非公開さま(Mさま)

Mさん、おはようございます。

はい、そろそろ物語も終わりが見えてきました(*^^)v
自分の気持ちをはっきりと自覚した瑠璃は、一体どんな行動を取るのでしょうか!
もうしばらくのお付き合いをお願いいたします~<(_ _)>

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