社会人編<40>

「すぐにはいい返事はもらえないのか。これはなかなか手強そうだね」

高彬はわざとらしく大きなため息を付いて見せた後、ニッコリと笑い

「じゃあ瑠璃さん。考えておくと言う約束に・・・・」

とあたしの顔を覗き込んできた。

その顔の近さにまたしてもドキっとする。

───約束に・・・・何?

何を言い出すのかしら・・・

「握手しようよ」

高彬は右手を差し出してきた。

「握手?」

「うん。最初に自己紹介した時、瑠璃さん、握手してくれなかっただろう。ほら、ミーティングルームでさ」

あぁ、そういえば・・・、そんなこともあったっけ。

「いいわよ」

なまじドキドキしていただけに、肩透かしを喰った気持ちで素っ気なく右手を差し出すと高彬は小さく笑い、あたしの手を握って来た。

と思った次の瞬間、ぐっと引き寄せられてしまい───

気が付いたらあたしは高彬の腕の中にいた。






─Up to you !─side R <第40話>






思いもよらない高彬の突然の行動にびっくりして言葉を失ってしまう。

開いた目に飛び込んでくるのは高彬のスーツの生地ばかりで、こんな時なのに

(ずいぶんと仕立てのよさそうなスーツ着てるのねぇ・・・)

なんて思ってしまった。

逆に言うと、そんなことでも考えてないと、この状況に付いていけないって言うのもあるんだけど。

抱き寄せられてるんだから当たり前と言えば当たり前なんだけど、高彬との距離は0センチで、普段感じたことのない「匂い」みたいなものまで感じてしまい、ドキドキを通り越していっそクラクラするほどだった。

高彬は普段、整髪料やオーデコロンの匂いを盛大に漂わせているような人ではなく、その点「無害」と言うか「無味無臭」と言うのか、ともかくそういうイメージだったんだけど・・・・

ここまで接近してみると、やっぱり何かの匂いがする気がして、もしかしたらこれがよく聞く「男の匂い」と言うものなのかしら・・?

「・・・・・」

男の匂い、と思った瞬間、更に鼓動が跳ね上がる。

こ、こういうのは心臓に良くないわよ・・・

あぁ、もう!

やっぱり男の人を「可愛い」なんて思っちゃダメなのよ。

どこに武器を隠し持ってるか判らないんだから。

ずいぶんと時間がたった頃───でも、実際には数回息をするくらいの時間しかたっていないのだろうけど───高彬が腕の力を緩めてきた。

そうして至近距離から

「本当に約束だよ、瑠璃さん。ちゃんと考えておいてね」

と、再度あたしの顔を覗き込んでくる。

高彬の肩越しにはイルミネーションが見え、あたしはその夜景を片目で捉えながらも必死にコクコクと頷いた。

さっきみたいなイタズラ心や余裕はどこにもなく、それよりもこのわけのわからないドキドキから解放されたい一心だった。

高彬はあたしが頷くのを見ると安心したように頷き、やれやれ、やっと解放される・・と思ったら、その距離のまま

「瑠璃さん。今だから言うけどさ」

と新たな話題を持ち出してきた。

「な、何かしら」

一応、年上のメンツを保とうと平静を装って聞き返すと

「実を言うと、瑠璃さんが東京支店に配属になる前から、瑠璃さんのこと知ってたんだ」

どこかしみじみとした口調で言い

「どうせ、良くない噂でしょ?NY支店に気の強いオンナがいるとか」

あたしは肩をすくめた。

あたしの噂なんて、どうせそんなものなのよ。

「いいや、そんなんじゃないよ。さっきのカフェでさ。瑠璃さん、毎朝、寄ってるだろ、あのカフェ」

「え・・・・・」

「瑠璃さんが東京支店に配属になるそのずっと前から、気になって見てたんだよ。・・・・瑠璃さんのこと」

「・・・・・」

「毎朝、窓際に座る可愛い子がいるなぁってね。実はさ・・・会社が休みの日曜日にまで、わざわざ行ったことがあるほどなんだ。今日もいるかもって。残念ながらその日、瑠璃さんは来てなくて、大人しくコーヒーを飲んで帰ってきたけどね」

「・・・・」

高彬の告白に驚き過ぎて返事も出来ないでいると、その沈黙をどう受け取ったのか、高彬はふと心配そうな表情になった。

「ごめん、こういうの嫌だった?」

「ううん」

あたしは慌てて頭を振った。

「嫌なわけじゃなくて、驚いただけ。実は・・・・あたしも高彬のことカフェで見てたの」

「え」

「毎朝、同じ時間に見かける人がいるなぁって。だから、配属された時、驚いた。カフェで毎朝見てる人がいて」

しみじみ言うと、高彬は驚いたように目を見張り、やがてくすくすと笑いだした。

「そうか。じゃあぼくたちはお互いに見てたってわけなのか」

「そういうことみたいね」

頷き返しながら、あたしは

(そっかー、だから高彬はあたしが朝はカフェラテを飲んでるって知ってたってわけね)

なんて深く納得してしまった。

高彬の部屋で朝食を食べた時から疑問だったのよ。

大したことじゃないからいいと言えばいいんだけど、こうして判ればスッキリだわ。

ささいな疑問とは言え、やっぱりミステリーは解けるに限るしね。

「いつだったか瑠璃さんがカフェラテの泡を付けたまま店を出て行ったことがあってさ」

あれこれ考えていたら、高彬はくすくす笑いのままに話しだした。

「あの時は声をかけるべきかどうか迷ったよ。判ってて泡を付けたまま外に行かせるのも悪いしさ、かと言って、見知らぬ男から『白いひげがありますよ』なんて指摘されるのも嫌だろう?」

言いながら、あたしの唇の上の辺りをひげを書くように指でさし、そうして───ふいに真顔になった。

言葉の綾だったとは言え、自分の言葉に触発されたようにあたしの唇をじっと見ている。

な、な、何かしら・・・、この間合いは・・・。

と思っていたら、高彬の顔が近づいてきた。

──え?

───えぇ?

────えぇっ?!ま、まさか──!

もう少しで唇が触れそうになり、思わず目をギュッと閉じた次の瞬間───

携帯の着信音が鳴り響いた。



 


…To be continued…


***パスワードについてのご連絡***

4月29日にコメント欄よりパスワード申請をしてくださったYさま。(高校時代に漫画部で・・・、と書いていらした方です)
アドレスが判らなくてメールを送れずにいます。
コメントをいただいた記事(「別館パスワードについて」 )に返信をつけておりますので、そちらをお読みの上、再度のご連絡をお願いいたします。


(←お礼画像&SS付きです)

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Secre

非公開さま(Nさま)

Nさん、おはようございます。

指切りもかなり色っぽいですよね。
絡めた指に、高彬がキスでもしてくれたら更に完璧です!

日曜日のカフェはもちろんいただいたお話の設定ですよ~。
使わせていただいちゃいました!
ありがとうございます(*^_^*)

ありちゃんさま

ありちゃんさん、おはようございます。

> ちっ!余計なことを!
> と言うのが、私の感想でございます。(笑)

↑(笑)

> 高彬、携帯はマナーモードにしておけば良かったねぇ。
> ああ、でもヴーヴ―鳴られても気になるか・・・。

初キスのBGMが携帯のヴーヴ―じゃ、ちょっと落ちつかないかも知れませんしねぇ。
先に進めるものも進まない(笑)

> この際ですから、どっちの電話への着信でも無視してほしいですけど・・・

確かにバッドタイミングな電話ではありますが、これが案外、重要な電話なのですよ。
これにより、2人の運命は大きく動き出すのです!(と言うのはオーバーですが^^;)

高彬の誤解も解け、このまますんなりまとめてあげたいし、もしかしたら読者の皆さんもそろそろゴールか?と思われているかも知れませんが、実はもう一波乱きてしまうのです(-"-)

>高彬!がんばれ!!

おっしゃる通り、高彬にはもう一頑張りしてもらうことになりそうです(笑)

非公開さま(Rさま)

Rさん、おはようございます。

この回の高彬ver.をご希望ですか!
書けそうだったら番外編or拍手お礼辺りで書いてみますね~。
上手くいきそうで焦らされてるような、何となくいい雰囲気のこの時、高彬の心情はいかに?!ですね。

非公開さま(Mさま)

Mさん、おはようございます。

はい、やはり「すんどめ」「お預け」は、これはもうそれこそ「お約束」ですので~(笑)
着信の相手、誰だと思います?!
案外、意外な人かも知れません!

管理人のみ閲覧できます

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誰?電話したのはっ!!

瑞月さん、こんにちは。

ちっ!余計なことを!
と言うのが、私の感想でございます。(笑)

高彬、携帯はマナーモードにしておけば良かったねぇ。
ああ、でもヴーヴ―鳴られても気になるか・・・。

ん?どっちの携帯電話とも書かれてない、ですよね・・・。
この際ですから、どっちの電話への着信でも無視してほしいですけど・・・
瑠璃はそうはいかないのかな?

高彬!がんばれ!!

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