***第十九話 み吉野へ***

『なんて素敵にジャパネスク〜二次小説』




          注)このお話は連続ものです。
            カテゴリー「二次小説」よりお入りいただき
            第一話からお読みくださいませ。



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*** 第十九話 み吉野へ ***




高彬がやってきたのは、煌姫との対面から三週間後、すでに三月に入ってからだった。

季節は春爛漫、三条邸の庭の桜も満開で、時おり吹く風に花びらがひらひらと舞い散る様が何とも美しい。

脇息に寄りかかりしばらく庭を見ていたんだけど、あたりに女房がいないことを確認してから、そっと庭に下りてみた。

春の土は柔らかく、踏みしめると春の匂いが鼻をくすぐる。

小庭を横切り、灌木をかきわけて、あたしはどんどん庭の奥へと進んでいった。

やがて童の頃、よく木登りをした桜の前にでた。

懐かしいなぁ・・・

木肌に触れて見上げると、満開の桜の枝の間から青い空が透けて見える。

「瑠璃さん、木登りはだめだよ」

ふいに声をかけられて振り向くと、高彬がたっていた。

「・・・高彬。あんた、いつ来たのよ。こんなところで何してんの」

びっくりして言うと

「それはこっちのセリフだよ。貴族の姫ともあろう人が、うかつに庭なんかに下りちゃだめじゃないか」

「だって、せっかくこんなに良い天気なんだもん。部屋の中にいるなんてもったいないわ。ほらみて、この桜。満開よ」

指さすと、つられたように高彬も桜を見上げて、まぶしそうに目を細めた。

「瑠璃さんは昔、よくこの木に登っていたよね」

「あんたはドンくさくて、木登りが苦手だったわよねぇ」

「ぼくは木登りなんて、したことがなかったからね。なにしろ家の者がうるさくて、少しでも危険なことはさせてもらえなかったから。まぁ、普通の貴族の子は、木登りなんかしないと思うけど」

「貴族なんて退屈よね」

高彬は首をすくめて

「しょうがないさ。いいこともあれば悪いこともあるもんだよ」

やけに悟ったようなことを言ったかと思うと、ふと声の調子を変えて

「今は瑠璃さんより上手に木登りができると思うけどね」

「そうかしら」

「そりゃあ、瑠璃さんより背も高いし力もあるしさ」

「ふーん・・・そういや、また背が伸びたわね。なんかずるい。少し前までは、あたしの方が背が高かったのに」

隣に並ぶ高彬を見上げると、高彬は少し笑ったようだった。

二人して黙って桜を見上げていると、ふいに目の前が翳り、あらら、と思う間もなく高彬の顔が近付いてきて接吻をされてしまった。

高彬ってば、最近、なんでもないことのように接吻しちゃうのね。

唇を離すと、また何もなかったような顔をして桜を見上げたりして。

あたしがちらちらと高彬を見やると、それに気付いてるはずなのに、わざと素知らぬふりをしているみたい。

そうしてやっとこさ、あたしを見て

「今まではぼくが瑠璃さんを見てるばかりだったけど、こんな風に瑠璃さんに物言いたげに見られるのはいいもんだね」

にこっと笑った。



  
         *****************************************





部屋に戻り、小萩が用意してくれたおやつを食べ終えると

「煌姫がこちらに来られてからもう十日たつけど、煌姫のご様子はどんな感じかい?」

高彬が少し心配そうに聞いてきた。

「どんな感じもこんな感じも、すこぶる元気そうよ」

あたしは肩をすくめた。

そうなのだ。煌姫はあの対面の日から、あれよあれよと言う間に我が三条邸に移り住む手配が進み、つい十日前に乳母と女房もろとも、今は東北の対屋に住まわれているのだ。

「びっくりしたよ。瑠璃さんから手紙が来て、煌姫をお預かりすると聞いた時は」

高彬はその時の驚きを思い出したのか、しみじみと言った。

そりゃびっくりするわよね、急にそんなこと聞かされたら。

「ほら、あんたの乳母の按察使や大江と親しくなったでしょう。なんだか煌姫の窮状が他人事に思えなくてさぁ・・・。煌姫の乳母は、按察使の妹なわけだし」

煌姫がうちに女房として潜り込んだことや、あたしの微妙な心配事は、なんだか言いたくなかったから、曖昧に言うと

「今回のことは、守弥は卒倒しそうなくらい驚いていたけど、でも、煌姫にとっては案外、瑠璃さんとこの方が落ち着かれるのかも知れないね。瑠璃さんとは歳だって近いだろう。ぼくの歌の指導してるよりも、瑠璃さんと話してる方が楽しいだろうしね」

一人で納得したように頷いている。

あたしは高彬に気付かれないように、小さくため息をついた。

もう少しで煌姫の毒牙にかかってたかも知れないって言うのに、なんて鈍いのかしら。

こんな朴念仁相手じゃ、煌姫もさぞや誘惑しがいがなかっただろうと、思わず煌姫に同情しちゃうわよ。

「そういえば・・・・吉野に発つのは明後日だったね」

高彬がさりげなく切りだしてきた。

「うん・・・そう」

普通に答えようと思うのに、なぜだかぎこちなくなってしまう。

少し前、父さまと高彬の父君である右大臣が話を詰めて、改めて結婚の日取りが決まったのだ。

高彬の公務の日程などを考慮し、さらには陰陽道で占って、四月の望月(満月)の日になり、あたしも今度こそはいよいよ人妻だ・・・・と決意していた。

そうしたら、なぜだがふいに吉野のことが思い出され、思い出したらどうしても行きたくなってしまったのである。

吉野には、京に戻ってきてからは一度も行っていない。

父さまは、あたしが吉野に行くことにいい顔をしなかったのだ。

吉野の山荘は、今は亡き母方のお祖母さまのもので、父さまにとってはなじみがないだろうし、何よりもその頃の父さまは二言目には「早く姫らしくなってくれ」ばかり言っていて、吉野に行ったら、さらにあたしがはねっかえりになると思っていたんだと思う。

いくらあたしが活動的と言っても、さすがに一人で吉野に行くことはできないから、吉野はいつも思い出の中で、まぁ、それもしょうがないかな、と半ばあたしも諦めていたのだ。

結婚を真近に控えた今になって思うのは変かも知れないけど、やっぱり吉野に行ってみたい。

吉野は幼い頃を過ごした、大切な場所であるわけだし。

お祖母さまの墓前に結婚のご報告をしたいし、それにそれに・・・・・。

「瑠璃さんが吉野につく頃には、あちらの桜も咲きだすだろうね。吉野の桜は見事だと聞くし、瑠璃さんも少しゆっくりしてきたらいいよ」

普段と変わらない穏やかな声だった。

高彬は、何も聞かないのね。あたしがなぜ今になって、吉野に行くと言い出したのか。

吉野君の名前を出すだけで、前はあんなに怒ってたのに。

何も後ろめたいことなどないのに、なんで高彬の顔をまともに見られないんだろう。

高彬を好きな気持ちに変わりはないし、結婚はすごく楽しみよ。

でも、あたしにとって吉野で過ごした日々は特別なのよ。

吉野君と二人、夢のような時間を過ごしたの。

もう吉野君は死んじゃってるし、思い出を美化してるだけなのかも知れないってこともわかってる。

もし今、吉野君が目の前にいたとしても、あまりにあたしがはねっかえりな姫なもんだから、びっくりして逃げ出しちゃうかも知れないもの。

成長した吉野君は全然あたし好みの殿方じゃなくて、あたしだって幻滅しちゃうかも知れない。

きっと、思い出の地である吉野で、感傷に浸りたいだけなのよ。

だから、少しだけ我儘を許してね。

み吉野の桜を観て、お祖母さまに挨拶して、そうしてちょびっとは泣くかもしれないけど、すぐにいつもの瑠璃になって戻ってくるから。

顔をあげると、高彬と目が合い、高彬はにっこり笑いながら頷いた。




              <第二十話に続く>

〜あとがき〜


「・・・・なにしろ家の者がうるさくて、少しでも危険なことはさせてもらえなかったから」

家の者→もちろん、守弥ですよ〜(笑)

読んでいただき、ありがとうございました。


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Secre

Unknown

追記 

瑠璃姫!・・・守弥
の可能性もありました。
煌姫は三条邸に居候していたから、くっついてきたのかと思ったのですが、高彬の代わりに守
弥がきたのかも。
だって、吉野ですし(笑)

>柚月さま

>だって、吉野ですし(笑)

確かにそうでしたね(笑)
吉野と言えば守弥、ですね。

でも、今回は守弥ではなく煌姫でした。
守弥は何も知らずに白梅院でぼぉ~っとしてます。
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