社会人編<39>

「あの女性がぼくの将来の伴侶だとか、そういうことはないんだ」

真っすぐ目を見ながら言われ、思わず目を逸らせてしまった。

何と言うか・・・・近いのよ、距離が。

普段、高彬とはデスクを並べてはいるけれど、それよりも格段に近い・・・ような気がする。

少し手を伸ばせば触れられるほどの近さで・・・・・






─Up to you !─side R <第39話>






「瑠璃さん、聞いてる?」

目を逸らしたのを何と思ったのか、高彬は気持ち身体を乗り出してあたしの顔を覗き込むようにしてきた。

「き、聞いてるわよ」

更に近づかれ、ドキっとしてシートに背中を押しつけてしまう。

だから近いんだってば!

「こんな話、本当は瑠璃さんの耳には入れたくはないんだけど・・・でも、誤解されたままじゃぼくも困るし・・・」

あたしも必死なら、高彬もまた必死みたいで、あたしの動揺にはてんで気付いていないみたいだった。

「あの女性は兵部仁菜子さんと言って、古くからうちと付き合いのある家の人なんだ。それでずっと以前から結婚を勧められていて、もちろんぼくは断り続けてるんだけど、しつこく勧めてくる者がいてね」

ひとつ息を付いてから高彬は話だし、事実を正確に伝えようとしているその話し方に、ふいに

(ドキドキなんかしてないで真面目に聞こう)

と言う気持ちになった。

聞いたのはあたしの方なんだしさ。

「しつこく勧めてきた人って、もしかしたらそれが、その守弥って人?あんたの教育係りだとか言ってたような気がするけど」

にわかに勘が働いて言うと

「うん。まぁ・・・・守弥だけじゃないけどね」

「例えば?」

「お袋とか、まぁ色々さ」

「でも、結婚を勧めるだけならまだしも、本人のいないところでまで『将来の伴侶です』なんて普通言うかしら?」

素朴な疑問を口にすると

「だろ?あいつは普通じゃないんだよ」

我が意を得たりと高彬は大きく頷きながら言い

「守弥だけじゃなく、うちは普通じゃないんだ」

「・・・・・」

「本当にみっともない話だけどね、うちは少しおかしな家なんだよ。ぼくには兄貴が3人いるんだけど、誰が家督を継ぐとか、会えばそんなことで揉めてばかりいるんだ。ぼくはそんな話うんざりだけどね」

「普通は長男が継ぐものでしょう?それで揉めるものなの?」

そう聞くと、高彬は苦笑いを浮かべ

「普通はそうなんだけどね、どう言う訳だか両親はぼくに家を継いでほしいそうなんだ。もちろん守弥もね」

「その、何とかさんって人と結婚して?」

「みたいだね」

「・・・高彬の家ってそんなにすごい家なの?家督とか教育係とか」

「すごくなんかないさ。古くから続いてるってだけの家さ。あんな家が途絶えたって誰も困りはしないさ」

高彬は肩をすくめると

「とにかくぼくは家なんか継ぐ気はないんだ。ありがたいことに、食うに困らないだけの稼ぎもあるしね」

「それはまぁ、そうでしょうね」

同じ会社に勤めてて大体の高彬の収入は判るから、あたしは素直に頷いた。

「それで・・・実は・・・・あのランチの日、守弥はぼくの後をつけてきていたらしくて、そこで瑠璃さんを見かけていたらしいんだ」

「ランチって、あの3人でのランチの時?つけてたって、尾行とかそういうこと?」

びっくりして言うと、高彬は決まり悪そうに頷き

「だから、瑠璃さんにわざと声を掛けて牽制したんだと思う。ほら、あの時、瑠璃さん、今上チーフに向って交際宣言しただろう。あたしたち付き合ってるんですって」

「・・・・」

あまりのことにあたしはあんぐりと口を開けてしまった。

それであたしを追い払うために、ホテルであんなことを言ったってわけ?

まったく、信じられないな・・・

高彬も何だか色々と苦労してるみたいだし、つんけんして悪かったかなぁ、なんて思いつつ、そういえばもうひとつ気になることがあったことを思い出した。

「ねぇ高彬、もうひとつ聞いていい?今朝の合コンのことは・・・」

高彬はあたしがそれを聞くことなんかとうに判っていたかのように大きく頷くと

「それも守弥がらみさ」

うんざりしたように言った。

「また守弥なの?」

「うん。あいつ、東京に刺客を送りこんできたんだ」

「刺客?!」

「東京でのぼくを見張るためさ。信じられないだろう?それの成功報酬が美人との合コンだったらしいんだ」

「・・・・・」

「だからぼくも一計を案じてね。目には目を、合コンには合コンを、と思ったんだ。刺客を京都に送り返さない限り、ぼくの東京での自由はない」

高彬は憎々しげに言い切り、あたしとしては尾行だの刺客だの日常生活では滅多にお目にかからない台詞の連発に、笑っていいんだか驚いたらいいんだか判らなくて呆然としてしまった。

高彬が冗談言ってあたしをからかってるのかと思った位だけど、そう言う雰囲気では全くない。

「こうして車の中で話しているのも、万が一の盗聴を恐れてのことさ」

「と、盗聴?!あたしたち、別に国家機密を話してるわけでもないし、そんないくらなんでも盗聴なんて・・・。高彬、それは少し考え過ぎなんじゃないの」

どんどん話が大きくなりそうで、それとなく反論意見を差しこむと

「いや、それくらいやりかねない奴なんだ」

堅い表情のまま高彬は言い、高彬には悪いけれど、あたしは何となくおかしくなってきてしまった。

なかなかに複雑な事情を抱えてるのも判ったし、家のことで苦労してるのも判ったけれど、高彬は少し大袈裟なんじゃないかしら?

元々が真面目な人であるわけだし。

「盗聴なんて、まるでFBI映画みたいね。待って。と言うことは・・・この車にだって盗聴器仕掛けられてる可能性だって捨てきれないわよ」

混ぜっ返すつもりで、主演女優気分で芝居掛かって言うと

「いや、この車は大丈夫だったよ。来る時に盗聴器がないか、発見器使って調べてきたから。だから安心してもらっていい」

大真面目な顔で高彬は言い、その迫力に

「し、調べてきたの。ご・・ごくろうさまでした・・」

と思わず頭を下げてしまった。

───それにしてもびっくりだわ。

高彬にそんな事情があったなんて。

ほんと、人の事情なんて聞いてみなきゃ判らないものなのねぇ・・・・

などと考えていたら、ふいに高彬が身じろぎをした。

そうして

「誤解が解けたところでさ、瑠璃さん。昨日の話しは・・・その、どうだろうか」

改まった口調で言い、じっとあたしの顔を覗きこんできた。

「昨日の話?」

何となくニヤけてくる頬を抑えつつ、とぼけて聞き返すと

「だから、その、す、好きだから・・・付き合って欲しいと言ったことだよ」

つかえながらもじれじれしたように言い、夜目にも薄っすらと頬が赤いのが判る。

「・・・・・」

ふふふ、高彬ったら必死になっちゃって可愛いの。

思えばこんな風に男の人を可愛いと思ったことなんて初めてかも知れないわねぇ・・・

「えーと、そうね。考えておくわよ」

イタズラ心と、さっきの女優気分もあり澄まして言うと、高彬は一瞬残念そうな顔をしたもののすぐに気を取り直したように

「すぐにはいい返事はもらえないのか。これはなかなか手強そうだね」

わざとらしく大きなため息を付いて見せた後、ニッコリと笑い

「じゃあ瑠璃さん。考えておくと言う約束に・・・・」

とあたしの顔を覗き込んできた。






…To be continued…


(←お礼画像&SS付きです)

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Secre

非公開さま(Nさま

Nさん、こんばんは。

解けましたよ~、誤解。
高彬、なにするんでしょうー。
何して欲しいですか~?Nさんなら(笑)

壁じゃなく床って、確か「床ドン」って言うんでしたけ?
牛車の中なら合理的だし、確かに手っ取り早いですね(笑)

非公開さま(Rさま)

Rさん、こんばんは。

「お約束」・・・さて何でしょう~?
せっかくですし(?)少し上級編でいってもらいたいものですよねぇ。
高彬のお手並み拝見といきますか(^_-)-☆

ぺんぺんさま

ぺんぺんさん、こんばんは!

> 現代版守弥ならやりかねない、いや、愛しの若君のためなら何だってやりそうだ。

そうそう、盗聴くらいやりそうですよね。
原作でも平気で融の部屋の前で立ち聞きしてたし。

> 高彬の部屋に潜入捜査とか・・・。

やりそうなんですよね~、守弥。犯罪レベルですけど(笑)
高彬を応援してあげて下さいね!

ぺんぺんさんもお元気そうで何よりです(*^_^*)

非公開さま(Yさま)

Yさん、こんばんは。

そうです。アレです、アレ(笑)
次回、Yさんのお望みのような展開になるかどうかちょっと不安ではありますが・・・頑張ります!

非公開さま(Mさま)

Mさん、こんばんは。

はい、高彬の身の潔白は無事、証明されました!
良かったねぇ、高彬・・
「考えておくと言う約束」、どこでもいいって、Mさん。
本当にどこでもいいんですね?ね?(笑)

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No title

瑞月さま、こんばんは!お久しぶりです。

高彬の盗聴発言には爆笑してしまいました(笑)
現代版守弥ならやりかねない、いや、愛しの若君のためなら何だってやりそうだ。
高彬の部屋に潜入捜査とか・・・。
高彬のためにも、あまり暴走しないでおくれよ守弥(>_<)

瑠璃さんの返事が気になります!更新が楽しみです。

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