社会人編<37>

瑠璃さんが隣にいると言うことで、いつも以上の安全運転を心掛ける。

「高速に乗るの?」

車がインターに入るのを見て瑠璃さんはハっとしたようにぼくを見てきた。

「時間、なかった?」

その声に非難の色合いを感じて慌てて聞くと

「・・・大丈夫よ、時間は。ちょっとびっくりしただけ」

そう言うと瑠璃さんは前に向き直り、再びシートに身体を預けた。






─Up to you !─<第37話>






目の前に広がる夕暮れの空の色は刻一刻と色合いを変え、高速を流れる車のテールランプが目立ち始めてくる。

「聞きたいことがある」と言っていた瑠璃さんも、「話したいことがある」と言ったぼくも、せっかく2人になったと言うのにどちらからも切り出さず、車内には沈黙が流れている。

じゃあ気まずいかと言うとそんなことはなく、むしろぼくとしては心地の良い静けさだった。

隣をチラリと窺うと、やはり瑠璃さんもリラックスしているように見え、こうしていると昨夜からの瑠璃さんの不機嫌そうな態度は全部ぼくの勘違いだったのではないか・・・と言う気がしてくる。

相変わらず瑠璃さんは可愛いし、それにいい匂いがしていて・・・

───いい匂い?

密かに首を捻る。

いや、これはいい匂いと言うより、甘い匂いだ。

見れば瑠璃さんの膝の上には大量の荷物があり、それは会社のそばにオープンしたと言うドーナツ屋の袋だった。

どうやら甘い匂いはそこが発生源らしい。

「ああこれ?ドーナツよ」

チラチラと見るぼくの視線に気づいたのか瑠璃さんは袋を掲げてみせ

「食べる?」

と聞いてきた。

「いや、いいよ。それより、ずいぶんとたくさんのドーナツだね」

袋の大きさからして2個や3個なんてものじゃないことは明らかだった。

「今晩はドーナツパーティーをする予定だったのよ」

瑠璃さんは肩をすくめ、一瞬

(ドーナツパーティーって・・・まさか今上先輩とか?)

と言う考えが頭を掠めたけれど、だけど何も言わずに置いた。

瑠璃さんもそれ以上、説明する気はなさそうだった。

やがて高速道路がベイブリッジに差しかかると、瑠璃さんは「わぁ!」と歓声を上げた。

右手にはホテルや観覧車、停泊中の巨大貨物船の夜景が広がっている。

「きれいねぇ」

ため息とともに瑠璃さんは言い、そうしてぼくを振り返るとにっこりと笑う。

「うん」

瑠璃さんの笑顔は屈託がなく、頷き返しながら心の中で小さくガッツポーズを作る。

別に狙ったわけじゃないけど、前に瑠璃さんは25階のオフィスの窓からの景色を楽しんでいたし、だからこの夜景を見せればきっと喜んでくれるんじゃないかと考えたのは確かだった。

京都の新幹線からこっち、どうしてだかぼくが瑠璃さんを怒らせてしまったのは確かみたいだし、姑息な手段と言われればそれまでだけど、だけど・・・・少しでも点数を稼ぎたいじゃないか。

やがて瑠璃さんの提案もあり、高速を下り一般道に出ると埠頭に回り込んだ。

フロントガラス越しにさっきの綺麗なイルミネーションが広がり、エンジンを切ると車内は一段と静かになった。

時は黄昏、ところはベイサイド───

車内は静けさと甘い匂いが充満し、おまけにどこからかカモメの鳴き声まで聞こえ、ムードは満点だった。

隣の瑠璃さんはと言うと、目の前の夜景に心を奪われているように放心したような顔をしており、目は心なしか潤んで見える。

これ以上こうしていたら、あらぬことを口走りそうな、いや、あらぬことをしてしまいそうな予感がしてきて、自制心を呼び起こすように小さく咳払いをする。

「瑠璃さん、話って言うのはさ・・・」

煩悩を振り払うべく、ぼくは口を開いた。






…To be continued…


今回の地震で被災された皆様には心よりお見舞い申し上げます。

もしかしたらこんなブログでも更新を楽しみにして下さる方がいて、ほんの少しの気休めにでもなれば、と思い更新します。

一日でも早く「いつもの毎日」が戻ってきますように。


(←お礼画像&SS付きです)

コメントの投稿

Secre

非公開さま(Rさま)

Rさん、こんにちは。

ベイブリッジからの夜景はかなり綺麗なので、瑠璃も随分と機嫌を直してくれたのではないかと思います(*^_^*)
私はブリッジと聞くと、両手両足を付いて背中を反らせるポーズが浮かんできます(笑)

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非公開さま(Nさま)

Nさん、おはようございます。

瑠璃は横浜の夜景でかなり良い気分になっていそうですよね。
この勢いで、ぜひ高彬にはがんばってもらいたいものです!

非公開さま(Mさま)

Mさん、おはようございます。

何気に恋愛偏差値の高そう(に見える)高彬。
いや~、見えるだけかも知れません(@_@;)
真の実力が試されるのはこれからです!

ありちゃんさま

ありちゃんさん、おはようございます。

> まさか大量のドーナツ、ヤケ食い用とは思わないですよね。しかもそれが自分のせいだとは思わないでしょうし。

そうですよね、思わないでしょうね。
自分がそこまで瑠璃に影響を与えているとは思ってないのでしょう。
そこが高彬のいいところであり、歯がゆくもあるところです。

> 誤解が解けるといいですが、そうは問屋がおろさない?

そろそろ誤解を解いてあげないと~!

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高彬 カッコいい!

瑞月さん こんばんは。
高彬 点数稼ぎ、できてますね〜。(^.^)
まさか大量のドーナツ、ヤケ食い用とは思わないですよね。しかもそれが自分のせいだとは思わないでしょうし。
誤解が解けるといいですが、そうは問屋がおろさない?
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