墨の椿 <著・蘇芳(茜)さま>

先日「白梅の君にとらわれて」を贈って下さった蘇芳(茜)さまが、また素敵なお話を贈って下さいました。

「らぶらぶ万歳サークル」さまの冬の競作大会で発表された「筒井筒なれども」の第二弾のお話です。

スクロールしてどうぞお楽しみください。




   


 『墨の椿』                                                        

<著・蘇芳(茜)さま>





先日積もった雪は思ったとおり数日のうちにとけたものの寒さはまだ身にしみて風が吹けば体が強張る。

そんな午後宮中から自邸に帰った後ぼくは融の誘いを受けて三条邸へと向かっていた。

牛車に揺られながらこの間のことを思い出す───

先日三条邸へ行ったとき雪の積もった庭に降りようとした瑠璃さんが階で転びそうになっていてたまたま出くわしたぼくが助けたんだ。そのとき図らずしも抱き抱えるかたちになってしまって・・・。

あのときの柔らかな感触や温もりを思い出すと今でも頬が熱くなり思わず手にした扇を握りしめる。

あの日は帰ってからも大変で平静を装うにもつい気が緩むと顔が赤くなるから風邪かと思われてあれこれ世話を焼かれてしまった。・・・ハァーっとため息が出る。

早く休むようにと言われても瑠璃さんとのことが思い出されて眠ることができず昼間起きていても物思いに耽ってしまって変に思った守弥に鬱陶しくされて面倒だったな。

扇を口元にあててまたため息を吐くと瞼を閉じた。

今日も瑠璃さんに会いたい───

しばらくして牛車がガタンと音をたてた後ゆっくりと止まった。

「若君、到着しました」

従者に声をかけられ降りると融の女房に出迎えられる。

宮中で融に

「昨日面白いことが起こってさ」

ニヤニヤ笑いながら言われた。なんだろうと思って聞いたら

「今日うちに来なよ。そのとき話すから」

ニヤニヤ顔はそのままでまたねと言うと去っていった。

一体何があったんだろう。

女房に先導され西の対にある部屋に着くと融は脇息にもたれて笑顔で迎えてくれた。

「やあ来たね、高彬」

「ああ」

ぼくは女房の用意した円座に座ると早速聞いてみた。

「面白いことってなんだよ」

「それがさぁ」

「もったいぶらないで言えよ」

融は扇を口元に当てながらニヤついた顔で言う。

「あの姉さんが求婚の文に興味持ったみたいでさっ」

「!?」

「あれだけ結婚しないって言ってたのにびっくりだよねぇ」

「・・・・・」

「父上もやっとその気になってくれたかってホッとしてたよ」

「・・・・・」

「それにしてもあの姉さんがだよ。笑っちゃうよね。姉さんも女だったんだなぁ」

「・・・・・」

「でもまあ弟としては安心したよ。いつまでも初恋引きずっていてもね・・・って聞いてる?」

「・・・・・」

ウソだ───

だって毎日のように結婚なんてしないって生涯独身だと言って大納言さまと言い争いしてるって言ってたじゃないか。こちらに伺うと瑠璃さんのヒステリーぎみの声だって聞こえてくることもあった。それに吉野君との初恋を引きずっているんじゃなかったのか?

融のことだから勘違いかもしれない。

「高彬?」

「・・・聞いてる。それってちゃんとした話なの?相手は?」

「えーと誰だったかな。父上がせっかくその気になった姉さんにヘソを曲げられたら大変だって言ってさ。暫くはそっとしておくようにって。そういえば誰の文か聞いてないや」

「それなら文の話も本当かどうかは・・・」

「ああ、それは本当だと思うよ。いつもは求婚の文を広げて見せてもちっとも興味がなくって姉さん文に落書きして小萩に捨てさせてたんだ。なのに昨日一つの文を捨てずに置いといてって言ったんだってさ」

本当の話・・・なのか───

融は一息つくと腕を組んで

「よっぽど目を引く恋歌なんだろうね。それとも手蹟かな。今から姉さんの所に行って探って来ようよ」

ぼくは融に促されて立ち上がるも少しでも気を抜けば崩れ落ちそうだった。

こういったことがあり得るんだということが頭ではわかっていても実際に耳にすると考えることを拒否している。

信じたくないっ!瑠璃さんが他の誰かと結婚するなんて───

ぼくとの約束を忘れているかもしれないと思っていたけどでも初恋を引きずっていたりまったく男はと言っては結婚する気なんかさっぱりなさそうでぼくはどこか安心していたのかもしれない。

瑠璃さんが他の誰とも結婚しないなんて保証何処にもないのに───

それでも嫌だっ!

悪い夢を見ているんだと思ってもこれでもかと力一杯握りしめている拳には爪が食い込んで痛い。

この痛みがぼくに今起こっていることが現実だと叩きつける───


目の前が真っ暗になりながらも融の後ろに付いて歩いていたぼくはいつの間にか東の対屋に着いていたようで話し声が耳に入ってきた。小萩が何か話してぼくたちの横をお辞儀をしながら去って行く。

「なによ二人して」

瑠璃さんの声に思わず顔を上げると御簾は巻き上げられていて文机の前に座って書き物をしている姿が目に入った。

まさか返歌を!?

自分の心臓の音が耳元で聞こえるようでやたらとうるさい。

息が苦しい───

ホントに結婚する気なの?

聞きたいのに声が出ない。

「あっそうだ。見てよこれ!」

瑠璃さんは立ち上がると嬉しそうに一枚の薄様の文を持って近付いてきた。

「へー。これが姉さんを射止めた文か」

融は文を受け取るとしげしげと眺めてぼくに寄越した。

ぼくは受け取らずに中身だけチラリと見る。

手蹟も恋歌も見事な文で隅に椿の花の絵が描いてあった。

「素敵な椿よね~。あんた達も見習いなさいよ」

いつもならこんなことを言われたらすぐに言い返すのに言葉が出ない。瑠璃さんはこの文にそんなにも心惹かれているのか。

言わないと───

ぼくとの約束思い出して。ぼくがずっと一緒にいてあげるって言ったら瑠璃さんもずっと一緒ねって言ったんだ。

ぼくと結婚してくれっ!

ギュッと拳を握り直してスッと息を吸うと融が

「高彬どうかした?びっくりしすぎて声も出ないとか」

「!あ、ああ・・・」

くっ、言いそびれた。

「具合でも悪い?」

「えっそうなの?」

瑠璃さんに覗き込まれてドクンと心臓が跳ねる。

「だっ大丈夫だよ」

「ならいいんだけど」

「いったい誰からの文なのさ」

融が話しかけると瑠璃さんは融に向き直った。

「え?」

「この文をくれた人だよ」

知りたいような知りたくないような気持ちでぐっと奥歯を噛み締める。

「うーん、なんとか中将とかいったかなぁ。あれ?中弁だっけ?」

「知らないの?」

「別に誰だっていいわよ。椿の絵が手本に欲しかったんだから」

「そうなの!?」

融と二人同時に声をあげる。融はさらに聞いていく

「結婚する気になったんじゃないの?」

「やあねー。あたしは独身主義者よ」

「この椿を見て文をくれた人に興味を持ったりしないわけ?」

「別に。本人が書いたのかどうかもわからないし」

「なぁんだ、そうなの?父上が知ったらがっかりするよ」

「ふん。勝手に勘違いする方が悪いのよ」

「なーんだつまんないなぁ。高彬行こう」

融はもう用はないとばかりに簀子縁に出て歩き出した。


良かった───!!

さっきまで全身に力が入っていたようでふーっと一気に息を吐き出す。

「高彬顔色悪いわよ。ホントに大丈夫?」

気が抜けてホッとしていたら瑠璃さんが正面に立っていた。一瞬目の前を何かが掠ったような気がしたと思ったら額に温かなぬくもりを感じる。

「なっ!?」

瑠璃さんの手がぼくの額に触れていた。

さっきまでの地獄から一転した状況についていけないでいると

「熱はないわね」

瑠璃さんはウンウンと頷いてそっと手を離した。

離された手を目で追う。もっと触れてほしいなんて心配してもらってるのになに考えてるんだよ。

自分の考えを振り払うように辺りを見渡すと文机の上に瑠璃さんが書いていたらしい椿の絵が数枚見えた。

「椿の絵を描いてたの?」

「そうなの。吉野君もとっても上手に描いてくれてねぇ」

「え?」

瑠璃さんは両手を合わせてどこか遠くを見ている。

「椿の絵を見たら思い出しちゃってあたしも描けないかなぁなんて」

また吉野君か。

瑠璃さんが思い出話にうっとりしているのを見てるとムクムクといたずらしてやりたい気持ちが湧いてきた。

「瑠璃さん顔に墨が付いてるよ」

「えっほんと?」

「うん、ここだよ」

「え?どこ?」

頬を代わる代わる触りながら聞いてくる瑠璃さんの左頬に自分の右手をそっと当て手のひらで包み込む。

あ。温かい。

何を仕様としているのかわからないでいる瑠璃さんはじっとぼくを見上げている。

───その目に吸い込まれそうだ。

ふっと短く息を吐いてもう一方の頬にも手をやり同時につまむ。

「あにふんのほ」

なにすんのよがはっきり言えないでいるのがおかしくて思わず吹き出した。

バッと両手を振りほどくと鏡に向かう瑠璃さんを後にして簀子縁へ出る。

「何も付いてないじゃないっ!高彬のバカー!おとといきやがれっ」

瑠璃さんのいつもの捨て台詞と扇か何かが激しく当たる音を聞きながら東の対の屋を後にした。

───瑠璃さんの頬柔らかかったな。

西の対に着くと自然とため息が出る。瑠璃さんは結婚しないと言ってたけど取り敢えずは良かったのか?

ふと右手を見つめる───

今日も眠れそうにないな・・・




****************************

~ 後書き ~


こんにちは。チームF7号の蘇芳です。

前回瑞月さまに贈らせていただいた話にコメントを下さった方の感想の中で筒井筒なれども(らぶらぶ万歳サークルさまに投稿したものです)のことも書いて下さっていて第二弾を書いてみようと思い作った話です。第二弾を書くきっかけをいただけて感謝しています。ありがとうございました〈m(_ _)m〉

この度も瑞月さまのご厚意で載せていただきました。瑞月さまありがとうございました〈m(_ _)m〉

今回の話は途中まで高彬がちょっと可哀想な話になってしまいました(^_^;)

瑠璃の名台詞?「おとといきやがれ」が書けて幸せでした。

これからもチームFの活動(ひたすら妄想)に邁進していきたいです(^^)

そして社会人編で春はまだ先(?)の高彬を応援しています♪

読んでいただきありがとうございました。






蘇芳(茜)さま、この度は素敵なお話をありがとうございます。

以前「白梅の君にとらわれて」を贈っていただいた時、読者の方から

『蘇芳さんがサークルで書かれた「筒井筒なれども」の第二弾が読みたい』

と言うコメントをいただきました。

それを蘇芳(茜)さんにお伝えしたところ、今回のお話を書いて下さいました。

瑠璃が結婚してしまうのではないかとドキドキしてる高彬が何とも初々しかったです。

でも、融、もうちょっとちゃんとした情報を伝えてあげてよ~って感じですよね。

まぁ、そもそも勘違いしたのは瑠璃父なんですけど・・・。

あの瑠璃が、文ひとつで結婚にその気になるわけないじゃないですか。

でも、瑠璃が気になったのは書かれていた椿だったと言うところでは、私も2人と一緒に「そうなの!?」と叫んでしまいました。

高彬、瑠璃の頬に触るなんて、何気に積極的ですね~。

恋が始まる前の2人のお話、とても楽しかったです。

蘇芳(茜)さん、本当にありがとうございました。


瑞月

(←お礼画像&SS付きです)

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Secre

非公開さま(Rさま)

Rさん、こんにちは。

いつも楽しいリクエストをありがとうございます。
「高彬の片恋日記」ですか。いいですね!
涙なくしては読めない、しかも長編になりそうなテーマですね(笑)
いろんな企画もの、考えて行きたいです。
またRさんのアイデアをお願いしますね。

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蘇芳さま

蘇芳さま、おはようございます。

文に興味を持ったら、まさか描かれていた絵に興味を持ったとは思わないでしょうね。
高彬は心底ホッとしたのでしょうが、大納言さまはぬか喜びでしたねぇ(笑)

> それにしても婚約前なのに前回に続き高彬瑠璃に触りすぎ(笑)と自分でも思いながら書いてました(笑)

でも、ほら、池に落ちた高彬を瑠璃が拭いてあげたりもしてましたし、案外、あの2人は触り合ってるんですよ(笑)

こちらこそ素敵なお話をありがとうございました。

こんにちは、蘇芳です。

瑞月さま、この度も大変お世話になりました〈m(_ _)m〉ありがとうございました(*^^*)

あれだけ結婚しないと言ってた瑠璃が結婚するかもなんて聞いたらどうだろうかと妄想して作りました。
もちろん高彬との結婚しか考えられないので興味をもったのは絵だけということで。

それにしても婚約前なのに前回に続き高彬瑠璃に触りすぎ(笑)と自分でも思いながら書いてました(笑)

瑠璃が結婚するかもと息が苦しくなるほどドキドキしてでも違ってたことにホッとしたのもつかの間吉野君の思い出にうっとりされてつい大胆な行動に出たんだと思います(^_^;)

冷静に嫌味を言う余裕がなかったということでお許し下さいませ。

楽しんでいただけて嬉しいです(^-^)


Rさま、コメントありがとうございます(*^^*)嬉しいです♪

Rさまの第二弾のお言葉で妄想が広がり出来上がりました。感謝です(≧▽≦)

書きながら高彬なんだか不憫だななんて思いつつ瑠璃が好きというところが出せればいいなと。

高彬可愛いと言ってくださり嬉しいです。ありがとうございました(^^)


あさぎさま、こちらこそ読んでいただきありがとうございます(*^^*)

高彬おもいっきり振り回されちゃってましたね(^_^;)

>心から安らげる時
そうですよね、自邸でも鬱陶しい人がいますしね。

瑠璃に触れるところは少しでもいい思いをしてもらいたいという私の願望も入ってしまいました(笑)

感想をいただけて嬉しいです♪ありがとうございました(*^^*)

あさぎさま

チームFあさぎリーダー、おはようございます!

蘇芳さんの「ざ・青春」なふたり、素敵でしたよねぇ。

>気質はとことん穏やかなはずなのに、心から安らかに過ごせている時って、ほとんど無いんじゃないかと心配してしまいます(涙)

高彬みたいな人を「苦労性」って言うんでしょうね(笑)
牛車の中で一人でいるときがきっと一番、心安らかなんですよ。
漫画の「ミステリー」で藤宮さまのことろに向う牛車の中の高彬、ヤケにくつろいでましたし(笑)

青春~♪

瑞月さん、こんばんは~。

蘇芳さんの素敵作品、わたくしめもちゃっかり、おこぼれをあずかっております~v
前回より少しは進展したのかしないのか、くらいの微妙な二人が何ともかわいらしいですねぇ。
一応(?)素肌に触れているので、前進と捉えていいんですよね(笑)

やっぱり高彬は、大納言家の皆さまに振り回される運命なんですね・・・。
気質はとことん穏やかなはずなのに、心から安らかに過ごせている時って、ほとんど無いんじゃないかと心配してしまいます(涙)

>「あにふんのほ」
瑠璃さんのふにゃんとした顔が浮かんでくるようで、とってもかわいかったですvv

蘇芳さん、素敵な妄想をお届けいただき、ありがとうございました!

非公開さま(Rさま)

Rさん、こんばんは。

こちらこそRさんのおかげで蘇芳さんの素敵なお話を読むことができました^^
ありがとうございます。
「筒井筒なれども」第二弾、初々しい2人が素敵でしたよね!
蘇芳さんのRさんのコメント、お伝えしておきますね。

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