社会人編<32>

出発した新幹線は、一度走り出したら後戻りすることなく目的地に向うように、一度、口に出してしまった言葉はもう取り消すことが出来ないのだ。

だとしたら、前進あるのみ───だ。






─Up to you !─<第32話>






「ねぇ、高彬・・」

低い声で切り出した瑠璃さんは、もう一度、聞えよがしのようなわざとらしいため息をつくとカバンから財布を取り出し

「昨日のランチ代、返すわ」

とテーブルに数枚の千円札を置いた。

「え、いいよ。あれはぼくが・・・」

「奢ってもらう理由がないもの」

そういうと瑠璃さんは猛然と弁当を食べだし、心なし身体を窓の方に向け、ぼくを避けているようにも見える。

「・・・・」

何だかわからないけれど瑠璃さんが怒っているのは明白で、ぼくは混乱する頭にカツを入れ、懸命にフル稼働させた。

昨日からこっち、告白するシーンは何度も頭に思い描いていた。

もちろん、振られることも、気まずくなることも想像はしていたけれど、だけど、よもや瑠璃さんが怒りだすなんてことは考えてもいなかった。

告白されて怒りだす人なんているのだろうか・・・

そりゃあ、ぼくのことが大嫌いならばそういうこともあるかも知れないけど、でも、昨日からのやり取りを思えば、瑠璃さんにそう嫌われているとは思えない。

ランチのお礼を今度させてくれ、と瑠璃さんがメールで言ってきたのは、つい昨夜のことじゃないか。

一体、何が瑠璃さんの逆鱗に触れたのだろう・・・

思いつくことと言ったら───

もしや、と言う思いで、一心不乱に弁当と向き合う瑠璃さんに横からそっと声を掛けてみる。

「瑠璃さん。これ、良かったら・・・」

そっと唐揚げを瑠璃さんの弁当に乗せると、ものすごい勢いで返されてしまった。

「いらないわよ」

憤然と瑠璃さんは言い

「おかずの交換なんて、子どもじゃないんだし」

なんてブツブツ言っている。

「さっき交換してくれって瑠璃さんが・・・」

じろりと睨まれて、言い掛けた言葉を飲み込む。

・・・・唐揚げじゃないとしたら、瑠璃さんが怒りだした原因は何だろう?

遅刻だってしていないし、そもそも今日は会ってから会話らしい会話をしていないのだ。

ちらりと腕時計に目をやると、京都を出てからまだ40分ほどしか経っておらず、つまりは東京に着くまではあと1時間半近くかかるのだった。

怒りまくってる瑠璃さんと、隣の席で1時間半・・・・・

一瞬、告白したことを後悔したけれど、今になって悔やんで見たところで始まらない。

出発した新幹線は、一度走り出したら後戻りすることなく目的地に向うように、一度、口に出してしまった言葉はもう取り消すことが出来ないのだ。

だとしたら、前進あるのみ───だ。

ぼくはこの状況を少しでも打破すべく、足元のカバンから昨日買った本を取り出した。

「これ、昨日、買った本なんだけどさ、瑠璃さんって本は読む?」

パラパラとめくって見せると、箸を止めずにそれでも瑠璃さんがちらりと本を見ていて

「好きな作家の最新刊が出たんだよ。前に読んだこの人の話が面白くてさ。死刑囚として投獄されてる人がいるんだけど、実は冤罪なんだ。それで、その人の無実を証明するために仮釈放中の青年と定年間近の刑務官が10年前の殺人事件の謎を負うってミステリーで・・・・」

ふと言葉を切ったのは、隣から瑠璃さんのヤケに冷え冷えとした視線を感じたからだった。

恐る恐る目を合わせると、瑠璃さんはフンと鼻を鳴らし、そうして

「へぇ、ミステリーねぇ・・。あたしにとっては高彬こそがミステリーだわよ」

と皮肉たっぷりに肩をすくめてみせ、今度こそは本当にそっぽを向いてしまった。

それきり瑠璃さんが窓から目を戻すことはなく、少し経ってそっと横目で窺うと、とっぷりと日も暮れた後は、窓からの景色は何も見えず、窓ガラスには目を閉じる瑠璃さんの顔が映るばかりだった。

パラパラと本をめくってみたところで内容が頭に入ってくるわけもなく、ぼくも目を瞑った。

「・・・着いたわよ」

瑠璃さんの声でハッと目を覚まし、どうやらウトウトとしてしまっていたらしい。

さっさとホームに下りた瑠璃さんは「じゃあね」と言い残しそのまま足早に行ってしまい、ぼくはと言うと情けないと思いつつ、ベンチに座りこんでしまった。

一体全体、どうしたって言うんだ。

告白が失敗に終わったどころか、鷹男チーフの「婚約者発言」の真相も聞けずじまいだった。

しかも明日には、当然ながらまた会社で瑠璃さんと顔を合わせるわけで・・・

一晩たって少しは態度を軟化させてくれればいいけれど、もし、こんな感じで会社でも振る舞われたりしたら、仕事だってやりづらいし、何よりもやりきれない。

まぁ、ここでいつまでも嘆いていても仕方ないと立ち上がりかけたところで、ふと視界に、ぼくの様子を窺う見知った顔を見つけた。

何食わぬ顔をして歩き出し、改札を抜ける。

多くの人が行きかう東京駅のコンコースを歩きながら、途中、土産物屋や飲食店の鏡やガラスで確認すると、どうやらしっかりと後を付けてきているようだった。

頃合いを見計らって、コンコースの所々にある大きな柱の一つの陰にひょいと身体を隠すと、急にぼくを見失ったことに焦ったのか、そいつは一瞬走り、ぼくが後ろで見ていることも気付かずにきょろきょろと辺りを見渡しており───

「・・誰を探してるんだよ」

声を掛けると、ぎょっとしたように振りかえった。

「何してんだ、こんなところで。・・・・・政文」

「わ、わ、若君」

藤原家のお抱え運転手、兼、秘書の一人である政文はうろたえたように目を見開いた。






…To be continued…


(←お礼画像&SS付きです)

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Secre

非公開さま(Mさま)

Mさん、おはようございます。。

兼助!(笑)
私も気になっています。
名前しか出てきてないですよね。
何か守弥に嫌われて、消された・・とか・・?あわわ(笑)

非公開さま(Nさま)

Nさん、おはようございます。

娘さんの高校受験、お疲れ様でした<m(__)m>
今日が卒業式ですか!おめでとうございます。
昨日とは打って変わっての晴天ですね。

高彬の春は・・・もう少し先になりそうです(笑)

非公開さま(Kさま)

Kさん、おはようございます。

なるほど!
政文が高彬にばらしてしまうと言う展開もアリですね~。
守弥、高彬にボコボコにされちゃいえばいいのに(笑)

非公開さま(Rさま)

Rさん、おはようございます。

もっちろん、守弥の差し金でしょうね・・・。恐るべし、守弥の高彬への執念(笑)

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