社会人編<29>

ホテルの車寄せで、兵部家所有のリムジンに乗り込む仁菜子さんを見送ったところで、ぼくはすぐに踵を返すとホテルを後にした。

ちらりと腕時計を見ると、2時半を回っていて、思わず深いため息が出てしまう。

約束の5時には間に合うけれど、何だかずいぶんと無駄な時間を過ごしてしまったような気がする。

せっかく帰省したのだし、顔を出しておきたいところもあったと言うのに。

ぼくは足早に自宅を目指した。






─Up to you !─<第29話>






「おかえりなさいませ」

格子戸を開けると、その音を聞きつけたのか奥から守弥が現れた。

その澄ました顔を見ていたら無性に腹が立ち、返事もせずに2階の自室に向う。

「兵部家のお嬢様とはお会いできましたか」

後を付いてきた守弥に聞かれ

「お会いできましたか、も何も、どうせおまえのことだから、またどこかから見てたんだろ」

前を向いたまま言い返してやると

「はい」

悪びれもせずに言う。

頭に来て振り返ると、口元にうっすらと笑いを浮かべる守弥の顔があった。

「何度も言ってるだろう。ぼくは兵部家のお嬢さんと結婚なんかしないって」

「それは例の女性が関係しているのですか?」

「・・・おまえには関係ないだろ。ともかくこの話はきちんと終わらせておいてくれ」

「ですが若君・・」

「今は仕事も駆けだしだし、結婚なんか考えられない」

「だったらせめて婚約だけでも・・」

「しつこいぞ、守弥。・・・・・着替えるから出て行ってくれ」

スーツの上着を脱いでネクタイを外し、Yシャツのボタンに手を掛けると、さすがにその先を見ようとは思わなかったのか、守弥は黙って部屋を出て行った。

荷物をまとめ少し早いけれど、もう駅に行っておこうと階段を下りて行くと

「お兄さま」

キッチンから妹の由良が飛び出してきた。

お菓子でも作っていたのか、由良からは甘い匂いがしてきている。

「もう東京に戻られるのですか?お母さま、あと30分もしたら戻られるのに・・・」

「あぁ、お袋には由良からよろしく言っておいてくれ。ちょっと急いでるんだ」

お袋に会いたくないから早めに家を出るなんてことは、この際、由良には言わなくてもいいだろう。

「あの、お兄さま」

「なんだ」

「今度・・・・、東京に遊びに行ってもいいですか?わたし、色々行ってみたいところがあって・・」

「いつでもおいで。案内してやろう」

一瞬、瑠璃さんも一緒に回ったら楽しそうだな、なんて考えが浮かび、頬が緩みそうになる。

由良に見送られ自宅を後にすると、そのまま京都駅に向った。

時間を潰すために目に付いた空いてそうな喫茶店に入ると、昨日買った本をパラパラとめくる。

数ページのつもりが、すっかり読み耽っていたようで、ふと気が付くと約束の時間がせまってきており、慌てて店を出た。

相変わらず人でごった返す駅の構内を抜け、待ち合わせ間所に向うと、まだ瑠璃さんは来ていなくてホッとする。

これから告白しようって時に、こっちが遅れちゃマズいような気がする。

守弥の策略で思いがけないハプニングがあったけど、もちろん、昨夜からの決意に変わりはなかった。

いや、むしろ、こう言ったら仁菜子さんには悪いけど、さっきの仁菜子さんとの会話で、かえって瑠璃さんへの気持ちが固まったと言っても良いくらいだった。

さっきの2時間は、はっきり言って苦痛だったのだ。

こちろん大前提に「断る」と言うのがあるから、その場を盛り上げようと言う努力はしなかったけれど、それを差し引いてみても、話題にも困ったし、なんと言うか気疲ればがりが残ってしまった。

思えば、瑠璃さんにはそれがないのだ。

初対面から、気疲れするということがなかった。

言いたいことをポンポン言ってくれる人だから、ぼくも気兼ねなく何でも言えたし、つまりは瑠璃さんはぼくにとっては、自然体でリラックス出来る相手と言うことなのだろう。

出来れば瑠璃さんにとってもぼくがそういう相手であってくれたらいいのだけど。

あと数分で5時になろうかという頃、人混みの向こうから瑠璃さんがやってくるのが見えた。

見れば瑠璃さんは手ぶらで、荷物はどうしたのだろうと思っていると、顔はここからじゃ見えないけれど、どうやら隣を歩く男が持っているようで───






…To be continued…


(←お礼画像&SS付きです)

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